編集部コラム
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低賃金でパワハラが横行しているのに、人が辞めない会社。一体なぜ?

コンサルタントをやっていたころ、日本全国の、大きな会社から小さな会社まで、
本当に様々な会社を見ました。

国内の大手で、非常にのんびりしたカルチャーを持つ会社。
トップがころころ変わる、高給だが、激務の外資系企業。
社内で派閥闘争が激化しているスタートアップ。
社長一族が牛耳る地方の老舗企業。

「ここで働きたいなー」と思える会社も多かったですが、「ここは絶対に嫌だ」という会社も、それ以上にたくさんありました。

もちろん、企業の良しあしの基準は人それぞれなので、私がとやかく言う話ではありません。

ただ、一般的な傾向として「低賃金」「長時間労働」「パワハラ横行」というキーワードが並ぶ会社で働きたいと思う人は、あまりいないでしょう。

もちろん、私もそういう会社は嫌です。
すぐに辞めると思います。

 

「低賃金」「長時間労働」「パワハラ横行」だけど人は辞めない

そして、読者の皆様は、そういう会社は、さぞかし離職率が高いのだろう、と思われるのではないでしょうか。

ところが、実態は、必ずしもそうではないのです。

「低賃金」「長時間労働」「パワハラ横行」の企業でも、離職率はさほど高くないことが往々にしてあります。

例えば、あるソフト開発会社はパワハラがひどく、長時間労働が常態化していたのですが、離職率は、全国平均よりもかなり低い値でした。

優秀な方も少なからずいて、
「この人のスキルなら、もっと高給が取れて、人間関係もいい会社に転職できるのになあ」
と、何度も思うことがありました。

もちろん私は当時、外部の人間として会社に訪問していたので、
「転職したらどうです?」
といった話はもちろん、できません。

むしろ、離職率の低さからして、社員の方々は現状にそれほど不満を持っていないのかもしれない、この会社には、何か良いところもあるのだろう、と思っていました。

しかし、待遇、という話になれば、転職活動の一つでもしてみれば、すぐに他の会社の条件の良さには気づくでしょう。

給与が安い、とこぼす人ももちろん、いましたので、
「一体なぜ、この人は、さっさと辞めないのか」
という疑問は、常に付きまとっていました。

そこで、私はそういった会社を観察しました。

そして、知りました。
そうした会社の人たちは、そもそも「辞める」という選択肢がないのです。

 

彼らはそもそも「辞めようと思わない」

辞める、辞めないの話になると、「スキルが低くて辞めたくても辞められないんでしょう?」と言う方がいますが、スキルが理由で辞めない人は、あまりいませんでした。

そもそも「辞めようと思わない」というのが正確なところです。

一体なぜ、そんなことになっているのか。
実は、「待遇が悪くても、人が辞めない会社」には、ある程度共通項があるのです。

 

1.新卒を中心に採用する

新卒は入社3年以内に1/3が辞めてしまう、という話を聞いたことはないでしょうか。
厚生労働省のデータ*1によると、事業所の規模別に20%~50%と、かなり開きがありますが、
全体として3割程度、というのは間違っていないでしょう。

逆に言えば、7割近くの人は、新卒採用された会社に3年以上とどまっている。
これが新卒採用を行っている全企業の平均であることを考えれば、恐ろしく高い数値です。

ちなみに、個人的には、私が新卒で入社した会社は、低賃金ではありませんでしたが、毎日帰宅は夜中という長時間労働で、何よりパワハラがひどい会社でした。

例えば、勉強会で回答を間違えると「罰金」が課される。
顧客アンケートの結果が少しでも悪いと、全体会議でつるし上げ。
売上未達は怒号が飛び交う会議で詰められる

など、極端なことも行われていました。

もちろん、それはトップの熱心さゆえだったのですが、今ではそんな会社があること自体、考えられません。

ただ、私は「コンサルティング会社なら、こんなものなのだろう」と思い、辞めようとおもわなかったのです。

後からその話を人にしたところ、「すぐに辞めたほうがいい」と引かれましたが、わたしは新卒の当時、「何処へ行っても同じだろう」と思っていました。

つまり、「転職」のハードルが高い、というよりは、他社を知らない新卒は、自分の環境が
劣悪であることに気づかない。

「最初の会社のカルチャーは、その後の仕事人生に大きな影響を与える」
という話を、コンサルタントの先輩に聞きましたが、まさに「最初のカルチャー」が
その人の仕事の標準になるのは間違いありません。

言ってしまえば、新卒採用を中心にすると、「酷い会社」なのに、「酷い」と思わない人が増えるのです。

これは経営サイドにとってみれば、「劣悪な環境でも、従順でやめにくい社員」として、使えるので、いい話ではあります。

実際、あるブラック企業の社長は、「中途はこらえ性がなくてダメだね。やっぱり新卒だね。」と繰り返し言っていました。

2.保守的な人を採用している

もう一つの特徴は、保守的な人を採用している、ということです。
保守的、というのは言い換えると、「現状を変えることに消極的な人」と言ってもよいでしょう。

前述したソフト開発会社の経営者は、「どこでも通用しそうなヤツは採用しない」と言っていました。

「重要なのは、我慢強いかどうか。関心があちこちにあって、優秀で、弁が立つヤツはダメ。」とも。

要するにこれは、「能力が高いかどうかではなく、辞めないかどうかを優先して採用している」ということです。

 

3.昇給は毎年必ず、ほんの少しずつ

さらに、こういう会社は低賃金ではありますが、「昇給」はきちんとやります。

彼らはほんの僅かであっても、「昇給している」という事実が、人の定着にかなりの影響があることを、知っているからです。

前述した会社では、「全員」が「必ず昇給」していました。
いわゆる、年功型の賃金です。

それだけ聞くと、非常に良い会社だと思うかもしれませんが、
年間の昇給額は、せいぜい数千円でした。

勤続10年でも、年収は数万円あがるくらい。
薄給は変わりません。

彼らは、どれほど優秀な社員であっても「思い切って給料を上げる」ことは絶対にしません。
コストパフォーマンスが悪いからです。

実はこれには根拠があります。

幸福経済学を専門とする行動経済学者、ニック・ポータヴィーは、お金がもたらす「幸福」の持続時間について、「世帯収入の50パーセント増に人々が完全に慣れるまでにはたった4年しかかからない」と言っています。*2

年収が1.5倍になっても、幸福は4年しか続かない。
年収300万円から450万円に大きく引き上げても、効果はたかが知れている。

だったら、大きく給与の額を上げるよりも、少しずつ、できるだけ小刻みに昇給させ、幸福が持続する期間を長くすることが合理的です。

このように言うと、「パフォーマンスの高い社員ほど、報われないと感じるのでは?」という疑問が浮かぶのではないでしょうか。

大丈夫です。
その点も彼らはぬかりありませんでした。

そういう会社では、パフォーマンスの高い人には、「肩書」を乱発します。
「マネジャー」「リーダー」「サブリーダー」
という肩書を持つ人が、社内にあふれていました。

そして、昇給額もほんの少しだけ、大きくする。

そうすることで、「社内の序列」が、優秀な人たちの優越感を生み出すのです。
これは、定着率の上昇に大きく寄与していました。

 

つまり「昭和型」の会社

ここまで来て、読者の皆様ももう、お気づきでしょう。

新卒採用中心、保守的な人、そして横並びの年功型賃金と肩書乱発。
これらはすべて、「昭和型」の会社の典型です。

実際、昭和の時代には、「低賃金」「長時間労働」「パワハラ横行」は、ほとんどすべての会社に当たり前のように行われていました。

それでも多くの人々は、転職を良しとせず、一つの会社に勤めあげたのです。
「今はもう、そんな時代ではない」と主張する方がいるかもしれません。

しかし、経営者が「昭和型の経営」を未だに引き継いでいる会社は、それほど珍しいものではありません。

低賃金でパワハラが横行しているのに、人が辞めない会社は、まだ世の中にたくさんあります。
そして、中の人々は「別の選択肢がある」ということにすら気づいていないことも多いのです。

 

*1 厚生労働省「新規学卒者の離職状況」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000137940.html

*2 ニック・ポータヴィー
幸福の計算式 結婚初年度の「幸福」の値段は2500万円!?
CCCメディアハウス

【著者プロフィール】

◯Twitterアカウント▶安達裕哉
https://twitter.com/Books_Apps

元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者(http://tinect.jp)/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。

 

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