編集部コラム
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アルバイトから社長になった私の友人は、何が人生の転機になったのか

幼馴染の圭一は、30歳になるまで定職に就かなかった。
いや、一度は就いたのだが、わずか1年足らずで辞めている。せっかく就職氷河期に公務員になれたのに勿体無いと思うが、本人は初めから1年限りでやめるつもりだったそうだ。

一時的に公務員になったのは、不動産投資のためだったという。
新卒の若造が銀行から多額のお金を借りるためには、簡単にローンが組める堅い職業に就く必要があった。そして首尾よく投資用マンションを手に入れてしまえば、もう公務員の身分には用はなかったらしい。

「賃貸に出したマンションからはちゃんと利益が出ていたし、投資してあくせく働かずにいる自分は頭がいい。就職して真面目に働く奴らはみんなバカだと思っていた」

だなんて、随分と不真面目なことだ。

とはいえ、そもそも圭一は真面目な人間ではなかったので、公務員としてきちんと勤めていたとしたら、そちらの方がよほど私を驚かせただろう。

 

圭一は幼い頃から自然と目立ち、いつもクラスの中心に居る男の子だった。
だが思春期に入ると悪友とつるみ、やんちゃが過ぎて通っていた進学校を退学処分になったのだ。

それでも地頭は良いので大検を突破し、関西の難関大学へ進学して地元を離れた。
大学では自らイベントサークルを立ち上げて多数の会員を集め、イベントの企画と運営を通して多額のお金を稼いだそうだ。
儲けた金は寄ってくる女の子たちと遊ぶために気前よく使っていたと懐かしそうに目を細める様子を見ると、さぞかし面白おかしいキャンパスライフだったのだろう。

不動産投資で生きていけるだけの収入があった彼は、公務員を辞めた後は何もせずブラブラしていたらしいが、26歳で父親が倒れたことを機に地元に呼び戻された。 
と言っても、地元に継ぐべき家業や家屋があったわけではない。

親としては、働きもせず都会で遊び暮らす息子を心配して、帰ってくるよう促したのだろう。
そんな親の心配をよそに、都会から引き上げても彼の生活態度に変化はなかった。

 

「とにかく就職するつもりは一切なかったから、家に仲間を集めて、ゲームして、酒飲んで、バイクで走って、あとはたまにバイトしながら暮らしてたよ。

海水浴場の屋台で焼きそばを焼くバイトは、すげぇ楽しかったなぁ。料理できない俺が焼いた焼きそばなんて美味いわけないだろ。(笑)だからさ、『占い焼きそば』って看板たてるんだよ。それで、焼きそばを入れるプラスチックトレイの裏に「大吉」とか「大当たり」だとか、マジックで適当なこと書いとくの。

面白がって買う客が居たらトレイの裏を見るように言って、『おおー。お姉ちゃん、すごいな!大吉だよ!今日は最高にいい日になるよっ』って、からかって遊んでたらさ、評判になって飛ぶように売れたよ。(笑)」

 

感心したが、焼きそばに占いを組み合わせるアイデアの勝利と言うよりは、人あしらいの上手い圭一が売ればこその繁盛だったのだろう。
圭一はハンサムではないが、生まれながらにして他人を惹きつけ、愛される才能を持つ人間だった。

けれど、何の目的も持たずに生きていた20代の間は、せっかくの才能も地頭の良さも宝の持ち腐れだったようだ。

「あんときゃ働かないことが偉いと思ってたからな。自由に生きてる俺って最強!って考えだったんだよ。でも、そのせいで、だんだん彼女と喧嘩が増えていってさ…」

青春はいつか必ず終わるものだ。圭一の長かった青春は、学生時代からの彼女の裏切りを機にして終わった。

 

20歳から同棲を始め、圭一の実家にもついてきた彼女とは事実婚の状態だった。
圭一にもいつかきちんとしなければという考えはあったそうだが、ぐずぐずと引き伸ばしているうちに彼女の方が痺れを切らした。
一体いつになれば真面目に働くのか、自分とはいつ入籍するつもりかと、圭一を厳しく責め始めたのだ。

彼女にしてみれば、20代の貴重な10年間を捧げた圭一とは当然結婚するつもりだったろうし、年齢を考えれば出産への焦りもあったのだろう。
生まれてくる子供のことを考えれば、父親が無職ではいかにも頼りない。責めて当然である。

「その彼女がさ、どういうつもりか知らないけど、俺んちに入り浸ってた俺のツレと付き合い始めてしまったんだよ」

どう考えても圭一に対する当てつけだろう。
浮気相手に彼氏の友人を選ぶのはどうかと思うが、それほどまでに苛立ちが高じていた彼女に私は同情してしまう。

そんな女心の機微など分からない圭一は、即刻家から出ていけと彼女に言い渡した。
しかし、彼女は心変わりをしたのではない。不満を訴える方法が間違っていたとはいえ、圭一に惚れ抜いていたからこその過ちだったのだ。

 

そのことを懸命に訴え、冷たく別れを告げられても泣き叫び、彼女は家に居座り続けた。
ことの成り行きを見ていた圭一の母親も彼女を庇うので、諦めた彼はついに就職を決意した。彼女が出ていかないのなら、自分の方が家を出ることにしたのだ。

働いて心身くたびれ果てれば腹立ちも紛れるし、忙しくなって家を留守にすれば彼女の顔を見なくても済む。

「俺はもう30歳になってたからな。できることもないし、働くなら体を使ってがむしゃらに働きたいと思ったんで、建設会社に入ったんだ。

そしたらさ、建設業の現場って、若い頃からその世界で仕事してきたって奴らばっかじゃん。こっちは30歳過ぎてるけど新人で、何にも分からないから毎日バカにされるんだよ。

『そんなことも知らないのか』『大学出てるくせに使えないな』って。

こっちもプライドがあるから、『すいません。分かりません。教えてください』が素直に言えないし、頭を下げられない。

だから、俺は小さなメモ帳とえんぴつをいつも胸ポケットに忍ばせておくことにした。
仕事中は常に全方位に聞き耳を立てて、上司の言葉、同僚の立ち話、営業の電話、みんなが話すことを聞いていないふりをしながら注意深く聞いて、分からないことはこっそりメモを取った。
そして、仕事を終えて家に帰ってから、その日1日分の分からなかったことを検索して調べるんだ。そうやって俺は業界の知識を身につけていった。

皆が話している内容が分かるようになれば、人の輪にも加われるようになる。会話に混ざって意見できるようになれば、一目置かれるようにもなる」

そうやって小さな努力を積み重ね、圭一は仕事を覚え、資格を取り、自分の居場所を作っていった。
元々能力が高く、プライドは高いが気取り屋ではない圭一が仕事仲間から慕われるのに、長い時間はかからない。

フリーター時代の遊び仲間とは疎遠になり、職場で新しい仲間たちと絆ができる頃には、働くこと自体が楽しくなり、仕事にやりがいを感じるようになっていた。

生き生きと働く年頃の男を女が放っておくはずはない。圭一は仕事を通じて知り合った女性と親密になると、さっさとその女性宅に転がり込んで籍を入れてしまった。

まだヨリが戻ると信じて家に居座り続ける元カノから一刻も早く逃げたかったのだろうが、元カノとは10年付き合っても結婚しなかったのに、新しい彼女とは交際を始めてすぐに結婚したのだ。結婚とはタイミングである。

驚いたことに、圭一が出ていった後もなお彼女は圭一の母親と彼の実家で暮らし続けた。
そして、戻らない圭一を待ち続けて1年が過ぎるころ、ようやく気持ちの整理をつけて荷物をまとめた。長過ぎた彼女の青春も遂に終わったのだ。

 

身を固めた圭一は、その後30代半ばで仲間数人と起業し、今では建設会社の代表取締役として、一層仕事に身を入れている。

「俺さ、30代になるまで真面目に働いたことがなかっただろ。ちゃんと仕事をし始めたのが30歳を過ぎてからだから、若い時に就職した奴らと違って、まだ働くことに飽きてないんだよ。俺は今、仕事してる時が一番楽しいな。

ブラブラ遊んでた期間が長かったからこそ思うんだ。働かずに金が入ってきたとしても、やっぱり頭使って体も動かして、他者と関わりながら仕事をしていなくちゃ、人間はダメになる」

妻との間に二人の子をもうけ、会社の業績と自身の収入は右肩上がり。
公私共に充実した圭一は自信をつけ、お金にも不自由しなくなったからこそ、こうして私のような昔馴染みにも胸を張って会えると言う。
申し分ない男盛りを迎えた圭一にとって、これまでの人生で唯一の心残りは、長く付き合ったのにひどい別れ方をした元カノのことだそうだ。

「仕事と家庭がある程度落ち着いて、俺の方はすっかり心のケジメもついてから、こっちから声かけて会ったんだよ。彼女が幸せにしてくれていたら、俺も気が楽になるからさ。

でも、あいつ、幸せじゃないんだよな…。まだ結婚もしてないし」

身勝手な話だ。

「それから毎年、年に一回ほど彼女に呼び出されて二人で飲むようになったんだ。
あいつには早く幸せになってほしいし、どうしてるか気になるから俺も会いに行くけど、いつも酔いが回ると過去の恨みつらみを延々聞かされる羽目になるから、気が重くなってくるよ。

おい、待て!俺たちが別れたのはお前のせいだろ!裏切られて傷つけられたのは俺の方だぞ!って、こっちは思うんだけど、彼女から見れば悪いのは俺で、自分が被害者なんだよなぁ」

それは、そういうものだろう。
圭一と認識は違っても、彼女には彼女の真実があるのだから。

「いいじゃないの。その元カノに呼び出されるのは年に一度なんでしょう?
じゃあ、彼女との飲み会はお盆だと思って付き合ってあげたら?
とっくに過去に葬られた恋でも、彼女の想いはまだ成仏しきれていないから、年に一度はあなたのところへ帰ってくるんじゃないかしら。ちゃんと供養してあげて」

つい彼女の肩を持ってしまう。
私にその元カノの気持ちは推し量りきれないが、彼女の方でも今さら焼けぼっくいに火がつくことを願っているわけでもないだろう。
ただ、年に一度はどうにもやりきれない気持ちに襲われ、青春を捧げた恋人を呼び出して、取り戻せない過去を嘆きたくなるのではないだろうか。

能力が高くても、人生を無為に過ごして台無しにしてしまう人間なんて世の中には山ほど居るのだ。
圭一も、もしその元カノがきっかけを作ってくれなければ、今でもフリーターをしながらその日暮らしの生活を続けていたのかもしれない。

ならば、それくらいの罪滅ぼしは、したっていいじゃないかと思う。

Author:マダムユキ

ネットウォッチャー。最高月間PV40万のブログ「Flat 9 〜マダムユキの部屋」管理人。
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