セミナー情報
/

「社蓄予備軍になってたまるか!」店長とケンカし続けたアルバイトの思い出

わたしは、筋の通らないことが大嫌いだ。
納得がいかないことに対してことごとく頑固で、「こうあるべき」に対してちょっと潔癖。

そんなわたしは、学生時代のアルバイトで、数々のトラブルを経験した。
……というか、わたしが数々のトラブルを起こした。

でもいまだに、それを「まちがっていた」とは思わない。
だって、「社蓄予備軍にされてたまるか!」と思っていたから。

店長に「お前」と呼ばれ、堪忍袋の緒が切れた

駅ビルにレストランがオープンするのを知り、大学生になったわたしは、オープニングスタッフとして働くことになった。しかしそこで、店長とケンカすることとなる。

最初そのレストランは大繁盛で、請われるまま週5日、ときには週6日働いた。しかしオープンラッシュが落ち着くと客足は遠のき、「生計がかかっているフリーターを優先するから学生バイトはシフトを減らす」と、バイトの掛け持ちを勧められた。

それでは稼げないので「じゃあ辞めます」と店長に伝えたところ、その日から無視されるようになり、ほかの掛け持ち学生バイトよりシフトが明らかに少なくなった。

月に1日しか入っていないシフトについて聞いても、「どうせ辞めるんだろ」と目も合わせずに言い捨てられる始末。

そのタイミングで店長は降格し、新たな店長がやってきた。で、ある日シフトを聞くために店に電話をかけたところ、元店長が「店長はいま葬式行ってんだよ! それなのにシフト聞いてくるとかなに考えてるんだお前!」と唐突に怒鳴ってきた。その後、一方的にがちゃん、ツーツーという音が。

人生で「お前」だなんて言われたことがないわたしはカチーン……を通り越して、ブチッと切れた。店長がお葬式行ってるなんて知らないし、「お前」って何様だ!

腹の虫が収まらないわたしは、いままでの店長の数々の暴挙や不平等なシフト状況への不満を書き記したA4の紙を店のキッチンのど真ん中に貼り、さらに本社にも連絡。

オープン時、本社からはヘルプとして多くの社員が来ており、そのなかには営業本部長もいた。本部長から直接わたしの携帯に連絡があり、「いつも元気よく働いてくれた子ってことでよく覚えてるよ。嫌な思いをさせてすまなかったね」と代わりに謝ってくださった。

「まちがっているのは店長なのに、なにも悪くない本部長が学生バイトに頭を下げるのか……」と、社会の仕組みに衝撃を受けた。そこでわたしは、「自分もちょっとは大人にならないとなぁ」と学んだのだ。

無給労働を強いる店長たちとの確執

しかし店長との戦いは、次の居酒屋バイトでも勃発することとなる。

その居酒屋には、「待機出勤」というバカげた制度があった。たとえば18時から出勤だとしたら、タイムカードを押す直前に「今日は待機」と言われる。待機を命じられたら、制服を着て、いつでも働ける状態のままで、出勤命令が出るまで店で待機。

19時ごろ混んできたら出勤になるし、客入りが悪ければそのまま帰宅。待機時間はもちろん、時給が発生しない。

……は?

店の混み具合で多少シフトが変わるのは理解できるとはいえ、出勤待機として拘束するなら、もう勤務時間じゃん。待機させといて帰宅ってなんだよ、だったら早く帰らせてくれよ。

納得がいかないわたしは、待機を拒否。時間通り出勤させるか、そのまま帰ることを許可するか、店長に選択を迫った。

すると、「みんなやってること」「ごちゃごちゃ面倒くせぇ」「自分のことしか考えてねぇのか」などと言われ、「給料を払わないのに拘束するほうがおかしいです」と反論したところ、「お前だけわがまま言うなよ、うぜぇな」と言われカッチーン!

猛然と抗議したところ、以後、わたし「だけ」は待機出勤免除されることになった。まぁなんやかんやいって、結局ドイツ留学までの2年以上、この居酒屋で楽しく働いていたんだけど。

さてさて、ドイツ留学から帰国したわたしは、週2日大学に行きつつ、週5日は家具屋でアルバイトをしていた。しかし、ここでもトラブルが……。

そこはタイムカードが30分刻みで、毎週月曜日は掃除のために「15分前出勤」を求められた。もちろんその15分ぶんの給料は発生しないが、店長がじきじきに、「月曜は早く来てね」と言うのだ。

「9時30分出勤ってことですか」と聞けば、「シフト自体は10時からだよ。でも9時45分には来てね」とのこと。9時半前に来ると時給が発生してしまうから、9時半「すぎ」から働け、と言うのだ。

「シフトが10時からなら10時前に来ます」と言ったら、「みんなと足並みそろえてくれなきゃ困るよ」とやんわり注意されたので、「じゃあ9時半シフトにしてくれますか?」と聞いたところ、毎週月曜日、わたしは休みになった。

また、有給休暇取得条件を満たしていたので、マネージャーに有給を申請してみたところ、「社員ですら病欠以外で有給使わないからなぁ……」と困った顔をされた。

「ダメですか?」と聞いても、「うーん……ちょっとむずかしいかも」と煮え切らない態度。埒が明かないので店長に聞いたところ、「うちではやってないから」の一点張り。どうやらそこは、法律が適応されない治外法権の店らしい。

「本社に確認させてください」と受話器をもったら、店長はあからさまにため息をついて、有給休暇をくれた。やっぱり取得できるじゃん!

理不尽を我慢しないと「トラブルメーカー」になってしまう

わたしが「和を乱す面倒くさいやつ」なのは、重々承知している。みんなと同じように「そういうものだよね」と言えば起こらないトラブルだった、ということも。

でも、どーしても納得がいかなかったんだ。だって、おかしいじゃないか。

いくら店長だからって、なんで「お前」なんて呼ばれなきゃいけないの?
シフトに入ってるから行ったのに、なんで給料が発生しない待機を強要されるの?
法律で定められた有給休暇を取得したいだけなのに、なんで「協調性のないやつ」って言われるの?

それらの理不尽に、腹が立ってしょうがなかった。
全部が全部、許せなかった。

とはいえ当時のわたしは、「わたしは悪くない!」と、相手の立場を少しも考えずひたすら自分の意見を押し付けてしまった。そこは反省している。

でも、「まちがったことを言った」とは、いまでも思っていない。

それでも、わたしが「まちがっている」ことになるのだ。まわりのように我慢しないから。

みんな、なんで平気なんだろう。こんな理不尽な扱いを受けているのに。

あぁそうか。
みんな、「社蓄」なんだ。

理不尽を受け入れる大人たちの背中を見る学生アルバイト

ここでいう「社蓄」とは、
・法律や一般的な社会道徳、モラルより、その企業内のみで通じる村ルールが優先される
・そのルールをもとに運営されることに違和感を覚えない、もしくは「おかしい」と思いつつだれもなにも言わない
・家族や趣味の時間などのプライベートより、仕事を優先することを強要される

この3つが当てはまる環境で働いている人のことを指す。

日本にはこの「社蓄」がすこぶる多く、「過労死」が「Karoshi」として海外でも大きく報じられるくらいだ。

いったい、なぜこんなことになっているのだろう。

日本人の気性、高度経済成長期の伝統などさまざまな要因があるにせよ、結局のところ、上の立場の人間が下の人たちを「社蓄」に育成するから、いまだにこの状況のままなのだと思う。

冒頭で数人の店長に対する恨みつらみを書き綴ったが、そもそも店長自身、毎日何時間もサービス労働をし、休日出勤もしていた。ゴールデンウィークなんて、居酒屋の店長は12-5時の5連勤という鬼シフトをこなしていたくらいだ。

それを見ていたら、アルバイトも当然、「残業しますよ」と言う。だって、店長がかわいそうだもん。店長も「俺はこんだけやってるんだから」と、バイトに期待しちゃう。

で、それが恒常的になると、いつしか「定時に帰るなんてありえない」「忙しければ無給で働いて当然」という空気になる。そして新しく入ってきたアルバイトにも、「ちょっと残ってこれやって」と平気で言うようになってしまうのだ。

社蓄文化に疑問をもたなくなった人たちが、新たな社蓄を育てていく。
だから令和になっても、いまだに多くの理不尽がまかり通るのだ。

脈々と受け継がれる「社蓄」という文化

わたしたちゆとり世代が社会に出たとき、「定時で帰るゆとり。管理職の苦悩」だなんてネガキャン記事をいっぱい目にした。

そこには、「ゆとり世代は自分の時間を大事にすることを理解しよう」「時代背景がちがうから強制すると辞めてしまうので注意」などと書かれていた。

定時帰宅するゆとり世代に怒る人たちの気持ちに寄り添うばかりで、「本来定時退社が当たり前なんだぞ」と主張する記事は、ほとんどない。

ああ、これが「社蓄」の思考回路なのか。
ゆとり世代のネガキャン記事を読むたびに、その裏にひそむ根強い社蓄文化を感じ、背筋がぞっとした。

最初はみんな、違和感があったはずなんだ。
「なんで病欠なのに有給を使わないといけないんだろう」「なんでサービス残業前提で仕事を割り振ってくるんだろう」「なんで人格を否定されなきゃいけないんだろう」と。

でもそれが「ふつう」の環境に身を置き続けることで、少しずつ少しずつ社蓄文化に染まり、馴染んでいく。

「これが大人になるってことなんだ」と自分に言い聞かせ、いつしか違和感すら持たなくなり、後輩にも同じように圧をかけていく。

そうやって、「社蓄」という血が、脈々と受け継がれていくのだ。

結局のところ、上が変わらないかぎり、世の中はなかなか変わっていかない。
だって下の世代は、上の人たちの背中を見て、無難に生きるためにその足跡をなぞるのだから。

学生が社蓄予備軍にならずに済む社会は来るのか

社蓄文化に馴染めない人は、わたしのように海外に出たり、起業したり、フリーランスになったり、組織に所属せずにその文化から距離を置くだろう。

社蓄文化が根付いた企業にはそれに適応できる人しか残らないので、いつまでたっても理不尽は減らないし、変わらない。

もちろん、「24時間働けますか」の時代に比べたら、ずいぶん変わったのだろうとは思う。一生懸命仕事をすること自体は素晴らしいことだから、「社蓄」とは言いつつもそれをバカにするつもりもない。

でも、社蓄文化に染まった大人たちが学生バイトにその価値観を刷り込み、かれらが社会人になるときにはすでに「社蓄予備軍」として育成されてしまっていることには、強い危機感を覚える。

偉い人たちが、「おい、なに残ってるんだ。さっさと帰るぞ」と帰り支度をして、オフィスの電気を消してくれればいいのに。「社員みんな有給取ったから、有給を取得できるバイトも申請しとけよー」と申請書を配ればいいのに。

だれかが「社蓄文化」継承のストッパーにならないと、ずっとずっと、この状態のままなんだ。

社会全体の価値観が大きく変わりつつあるいま、まっさらな学生アルバイトが、大人たちによって「社蓄色」に染められないことを、祈るばかりである。

 

 


著者:雨宮紫苑

ドイツ在住フリーライター。Yahoo!ニュースや東洋経済オンライン、現代ビジネス、ハフィントンポストなどに寄稿。著書に『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)がある。twitter→@amamiya9901

あなたにおすすめ記事


アルバイト採用のことなら、マイナビバイトにご相談ください。

0120-887-515

受付時間/平日9:30~18:00

当サイトの記事や画像の無断転載・転用はご遠慮ください。転載・転用についてはお問い合わせください。

掲載料金・求人掲載のお問い合わせ