新型コロナウイルスがパンデミック状態になり、企業活動に様々な影響が出ています。2020年3月末からは、東京をはじめ首都圏などで、不要不急の外出を自粛するよう要請する自治体が相次いでいます。影響は長期化する可能性もあり、今後も新型コロナウイルスへの影響を考えて対応をしていく必要があるかもしれません。
このような状況で、自社のアルバイトを守るために取り組みたいことをご紹介します。健康面や職場でのトラブルへの配慮もそうですが、賃金の取り扱いについても知っておきましょう。
目次
国内で相次ぐ混乱
コロナウイルスに関して、最初に国内で大きな騒動が起きたのは2月末です。トイレットペーパーに関するデマが流れ、全国で一斉に「パニック買い」が始まりました。
紙類を購入しようと買い物客が連日殺到し、「在庫がなく見通しも立っていない」という状況を何度伝えても質問責めにあう、店舗での問題行動や暴言などといったトラブルが小売店で相次ぎました。
接客にあたるアルバイト・パートにとっては忙しさという体力面ではなく、精神的な疲労の方が大ききかったのではないでしょうか。
このような状況では、正社員だけでなく、アルバイト・パートもいかに安心して働ける環境を確保するのかが、最重要課題となるでしょう。
世間に緊張した空気が流れている中で、精神的なサポートは必要不可欠です。
今後も何がきっかけでパニックが起きるかわかりませんし、どのような所に飛び火するかもわかりません。
なるべく早く、現場からいつでも責任者に連絡がつく体制を整えておくことは、最低限の仕組みとして整備しましょう。
ベテランと若者バイトをバランスよく配置するのも一つの手段でしょう。特に外国人アルバイトには配慮が必要です。現在のようなピリピリとした空気の中では、差別的な行為や発言が生じる可能性も高まります。
頼れる人を近くに起き、少しでも安心感を与えられる環境づくりが必要です。
もちろん、一時的であれ勤務地を変えるときは、事前にアルバイトとの合意を得なければなりません。雇用時の契約内容に記載していない限り、勤務地変更に応じないことを理由に解雇することは不当行為に当たる可能性が高いので注意が必要です。
なお、これは筆者個人の経験ですが、対応の一つとして参考にしてみてください。
放送局に勤務していると、放送内容についてのクレーム電話がかかってくるのは珍しいことではありません。
中にはいわゆる「クレーマー」からの電話もあり、苦情の内容が本筋をどんどん外れていき話が長引くこともあります。
このような場合、一呼吸置いて上司にかわり、「下の者の対応が不十分で申し訳ございませんでした」と言うだけで、相手が冷静になるということもあります。
このような「一呼吸」も、有効なスキルとして活用してみてください。
手洗いを軽く見てはいけない理由と、品薄な消毒液の代替方法
次に衛生や健康面の管理です。
アルバイト自身の普段の生活もありますから、勤務中の管理だけで感染を100%防ぐことはできません。
しかしウイルスが持ち込まれると人材だけでなく企業としても痛手になるので、できる限りの対策はしておきたいものです。
まず、見逃されがちなのが「正しい手洗い」の重要性です。これは、子供に言い含めるくらいに徹底しなければなりません。出勤前後に正しい手洗いをするように指導しましょう。
厚生労働省が示す正しい手洗いの方法はこのようなものです(図1)。
図1 正しい手の洗い方(出典:厚生労働省パンフレット)
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000593494.pdf
「面倒臭い」「時間がかかる」と思われがちかもしれませんが、筆者が先日ある所で目にした動画では、その必要性はわかりやすいものでした。色のついた液体で手洗いをしてみたものです。この手順を全て踏まなければ、手の全体に色がつかないのです。
指先や親指の付け根は意外に盲点で、正しくやらなければ「洗った意味がない」とまで感じさせるものでした。
なお、ハンドソープが品薄になっている地域では、固形石鹸を使うのが良いでしょう。こちらは比較的店頭に残っています。
また、ドアノブなどの消毒を怠らないようにしたい所です。
消毒液やスプレーが手に入りにくくなっている場合もあるかと思いますが、これは他のもので代用が可能です。
厚生労働省が紹介しているのが「次亜塩素酸ナトリウム」です。
ドアノブや電話機、テーブル、照明スイッチなど、人の手が触れる場所は次亜塩素酸ナトリウムを使って消毒するようにしましょう。
詳しくはこちらをご覧ください。
・新型コロナウイルス感染症に関する清掃・消毒について(東京都感染症防止センター)
http://idsc.tokyo-eiken.go.jp/assets/diseases/respiratory/ncov/disin.pdf
次亜塩素酸ナトリウムはそれ自体が薬品として販売されているほか、市販の漂白剤などに含まれています。
ただ、漂白作用があるのと、金属には使えないなどの注意点がありますので、商品の注意書きをよく確認してください。また、皮膚を傷めるおそれがあるので手指消毒には向きません。あくまで「モノ」の表面に使用するものです。
なお、次亜塩素酸ナトリウムを使用する場合は、濃度を調整する必要があります。
一般的に販売されているのは濃度6%のものです。厚生労働省によると「0.05%次亜塩素酸ナトリウムで拭いた後、水拭きするか、アルコールで拭く*1」のですが、6%の製品を0.05%にするためには、2リットルのペットボトル1本分の水に対してペットボトルのキャップ約3~4杯(約17ml)を混ぜます。
次亜塩素酸の扱いについては、こちらを参照してください。
・厚生労働省「新型コロナウイルスの感染が疑われる人がいる場合の家庭内での注意事項」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/newpage_00009.html
また、アルバイトの健康面への配慮についてです。体調に異変があったらすぐに、積極的に申し出るよう周知しておきましょう。
先日、あるコンビニエンスストアの店員が発熱後も勤務を続けていたというニュースがありました。その後、実際に陽性が確認されたのですが、店員が症状をオーナーにすぐ伝えなかった理由は、「コンビニで副業していることがばれるのが怖かった」というものです。
このニュースから考えさせられるのは、同じような事情のアルバイトがいてもおかしくないということです。
経済的な理由がある人や、また学生の場合には、忙しそうなのを目の当たりにして「休みづらい」「言いづらい」と感じるアルバイトがいる可能性は高いでしょう。体調に異変があったら勤務日でなくてもすぐに連絡するように徹底したい所です。また、そのための管理担当者を決めておきましょう。
体調の異変を申し出ないことの方が会社にとってデメリットであるという認識を共有する必要があります。
売り上げ減少中に給料を支払うための助成金について
今回の新型コロナウイルスの影響を受けて、「雇用調整助成金」の特例が追加実施されています。事業所に感染者が出たり、行政からの要請で休業や事業の大幅な縮小を余儀なくされた事業主に対して、休業手当や賃金の一部を助成するものです。
特例措置の内容はこのようなものです(図2)。
図2 雇用調整助成金の特例措置(出典:厚生労働省パンフレット)
https://www.mhlw.go.jp/content/11603000/000606456.pdf
詳しい要件は以下を参照の上、早めに相談するのも良いでしょう。
・厚生労働省「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ雇用調整助成金の特例を追加実施します」
https://www.mhlw.go.jp/content/11603000/000606456.pdf
・厚生労働省「新型コロナウイルス感染症の影響に伴う雇用調整助成金の特例措置に関するQ&A」令和2年3月 13 日版
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000611487.pdf
なお、相談窓口は都道府県労働局またはハローワークです。
まとめ
新型コロナウイルスの影響は、当初は「自粛ムード」による企業への影響が大きくなっていましたが、今後は行動制限の要請といった、より厳しい状況に置かれる可能性があるでしょう。かつ、労働基準法に照らすと一方的な減給は不当になり、シフト変更についても労使双方の合意が必要であるなど、制約も多いのが現実的な所です。
また、中小事業者への休業補填が具体化していないほか、休業そのものが「不可抗力によるもの」なのか「自主判断によるもの」なのかの判断がいまだに曖昧な部分もあります。
何より「見通しが立っていない」ことが最大の課題でしょう。出来るだけ先回りで自己防衛しておきたい所です。
誰が感染していてもおかしくないという危機感が必要です。
また、アルバイトの経済的事情を考えると、例えば合意を得た上で「半日ずつ勤務してもらう」など、少しでも収入に繋がるような策を考えるのも良いかもしれません。
長引いた場合のことについてヒアリングしておくことも必要ですので、それぞれの現場で、先行きの見えたない中でも準備を始めてみては、いかがでしょうか。
*1 厚生労働省「新型コロナウイルスの感染が疑われる人がいる場合の家庭内での注意事項」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/newpage_00009.html
※この記事の情報は2020/4/24時点の情報を掲載しております。関連の制度、法律は日々更新されていきますので最新情報は各参考URLよりご確認ください。
<清水 沙矢香>
2002年京都大学理学部卒業後、TBS報道記者として勤務。
社会部記者として事件・事故、科学・教育行政を担当、その後、経済部記者として主に世界情勢とマーケットの関係を研究。海外でも欧米、アジアなどでの取材にあたる。
Webライターに転向して以降は、各種統計の分析、業界関係者へのヒアリングを通じて、多岐に渡る分野を横断的に見渡す視点からの社会調査を行なっている。