人材育成・マネジメント
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頑張っている人が、その頑張りを正当に評価される仕組みづくり

有効求人倍率が1.5を上回る水準で推移している昨今、人手不足はもはや経営課題そのものです。*1
この状況は容易に改善せず、今後も長く続いていくことは間違いないでしょう。

そのような中、企業が力を入れている施策の一つが、「パート・アルバイトの戦力化と正社員への登用」ではないでしょうか。
現状の採用環境は優秀な人材の奪い合いであり、即戦力の雇用は運の要素もあり、あてにできるものではありません。
それであれば、時間とコストはかかっても、パートやアルバイトにも十分な教育とインセンティブを出して、さらに離職を防止することこそ、人事担当者の取り組むべき重要な仕事の一つであるのは間違いないでしょう。

実例を見てみましょう。
高級スーパーで知られる成城石井は、従業員約4,000名のうち、およそ80%にあたる3,100名がパート・アルバイトです。
逆に言えば、最前線で接客に立ち顧客をおもてなしするほとんどの社員が、正社員ではありません。
これらパート・アルバイト社員のやる気を引き出すことができなければ、どれほど魅力的な商材を揃えてもうまくいくものではありません。
そして成城石井は長く顧客の心をつかみ、その高級スーパーとしての地位を不動のものにしてきました。
パートやアルバイトの能力を引き出す人事評価制度を機能させているからであると言ってよいでしょう。

一例を上げると、

・他のパート社員・アルバイト社員を指導する立場にある者に対しては一定の職位給を加算
・鮮魚加工能力が特に高いなど、特別な技能を持つ者に対しては技能給として基本給に加算

といったものですが、他にも多くのインセンティブがあります。(成城石井引用*2*3)

また、豚まんや中華料理の販売で知られる大阪の蓬莱は、従業員およそ1,100名のうち400名がパート・アルバイトですが、準社員、社員への登用制度を充実させ、やる気を引き出すことに成功しました。
そのポイントはいくつもありますが、肝になるのは、「モチベーション向上のための公正な人事評価制度の実施」であったと言います。*4

これらの例から見える事実は、「自己評価と会社評価の一致」「公正で透明性の高い評価制度」という事になりそうですが、理屈ではわかっても、なかなか難しいものです。
では、このような機能している事例を少しでも自社に取り入れるためには、どのようなことから着手をすればよいのでしょうか。

 

まずは事実をもとにした正確な現状把握

「どうやっても、これ以上労務費を減らすことができへんねん・・・」
話はかつて、私が大阪の中堅メーカーで取締役経営企画部長を務めていた時のことです。
経営会議でこっぴどく怒られた工場長が、会議が終わったその場で私に、恨めしそうに話しかけてきました。
当時の私は、経営計画を立て、予実(予算と実績)を管理する立場にあったので、言ってみれば(こんな数字、どうやって達成せぇって言うねん・・・)という静かな怒りが、工場長の言葉には込められています。
勤続30年のベテランで人望も厚く、弱音を聞いたのもこれが初めてでした。

「今期に入ってから、どんな施策を実施されましたか?」
工場長は、軽々に「できない」を口にするような人ではありません。
であれば、経営目標の数字が間違っているか、工場長一人ではこれ以上の対策は難しいと言うことです。
危機意識を感じいろいろと質問を重ねると、工場長からはこんな話が出てきました。

「忙しい時でも、パートやアルバイトの出勤をできるだけ減らしてるんや」
「言い辛いんやけど、社員の残業代も一定以上は我慢してもらってるねん」
「最近は、辞めたいって言い出した社員もいて、今のままじゃホンマにキツイわ」

工場長が任されているのは、正社員80名にパート・アルバイトがおよそ200名の規模感の工場でした。
手段を選ばない無茶をしている事実にも驚きましたが、それでもなお、工場長を悪く言う社員やアルバイトが一人もいないのは、工場長の人望という他ありません。
改めて工場長への深い敬意を感じる一方で、話を聞きながら一つの違和感が積み上がっていきます。
(数字の話が出てこないな・・・)

そこで方向を変えて、こんな質問を投げてみました。
「工場長、忙しさには波がありますか?例えば月末月初とか週末とか。」
「忙しいのはだいたい、月曜日と金曜日やな。」
「忙しい日は、生産数量が多いのでしょうか。それとも、手間がかかるオーダーが多いのでしょうか。」
「そりゃあオーダー数がぜんぜん違うから、数量やで。」
「どれくらいですか?それに対して、何時間くらい、アルバイトやパートの時間を増やしていますか?」
「細かい数字はわからんけど、だいぶ多いんちゃうんかな。その忙しい時に、パートやアルバイトの出勤を減らしてるから、辛いねん。」

(やはり、数字で工場を把握できていない)
そう確信した私は、話を切り上げてすぐに一緒に工場に行き、詳しく状況を教えてもらうことにしました。
すると、その工場はパート・アルバイト併せて300名近い規模であるにも関わらず、タイムカードは昔ながらの印字式で、その目的は給与計算だけであることが判明します。
CSVデータとして取り出せないのだから、投入労働時間も把握できないのは当たり前で、経営状況が把握できるわけもありません。
なおかつ一部のパートについて、1ヶ月間ほぼ毎日出勤している印字があるなど、どうやら一人が出勤した日に仲間全員のタイムカードを“互助会”で押しているであろう形跡すら、見つかりました。

工場長はこの事実に怒り狂いましたが何とか押し留め、更に詳しく状況を聞きます。
すると工場長は、
「カンに頼って色々してるんやけど、数字が全然わからへんねん・・・」
と、力なく本音を話してくれました。
そして、毎月の経営会議がストレスで仕方がないことも、PLやBSが何を意味しているのかを全く理解できていないことも。

言うまでもなくこれは、工場長のせいではありません。
さらに言えば、不正な行為をしているパート・アルバイトも悪いかも知れませんが、「一番悪い」のは私であり、経営トップです。
実情を理解すること無く「これが経営計画です」と、何か仕事をしたつもりになって現場に指示をしていたこと。
やろうと思えば簡単に不正ができるような環境で、社員に仕事をさせていたこと。
さらに言えば、「ずるい人間だけが得をする」不公平極まりない状況を放置し、誠実で真面目な人間ほど、やる気を失う仕組みを許していたこと。これは経営トップと、数字をグリップするべき責任者たる私の恥ずべき怠慢そのものです。

 

主張と実態の乖離。何が課題になっているかを特定する

私はすぐに工場長にお詫びし、過去半年ほどの社員・パートのタイムカードを集計して、工場の経営状況を定量的に明らかにする作業に入りましたが、さらに驚きの状況が明らかになりました。
それは、生産数量と投入労働時間が全く比例の関係になっていないどころか、日々の推移で見ると、工場長が忙しいと感じている月曜日や金曜日にはパート・アルバイトの総労働時間が減り、比較的暇だと感じている水曜日には、増えているという現実です。
そしてそれを埋め合わせるように正社員の残業手当が増え、コストが上がっていました。
グラフに表すと、過去半年間の曜日別の集計は、以下のようなイメージです。

この結果から見えてくる事実は明らかです。

(1)アルバイト・パートは、生産数量が多く仕事がきつい月曜日と金曜日を避けていること
(2)比較的仕事が楽な水曜日に、好んで入りたがっていること
(3)アルバイト・パートの労働力が不足する曜日を、正社員が単価の高い残業代を使い埋めていること

当たり前といえば当たり前です。
パート・アルバイトの立場からすれば忙しくても時給は変わらず、「頑張りが評価されない」のです。
であれば、頑張る理由もなく楽な曜日に入りたがるに決まっています。
そして工場長は、「忙しい時に、パートやアルバイトの出勤を減らしてるから、辛いねん。」と言いましたが実態は完全に逆でした。
社員やパート・アルバイトにヒアリングした結果も、これら曜日にはパート・アルバイトが集まり辛いので、正社員が残業をしながら仕事をこなしている実態が裏付けられたのです。

 

頑張っている人が、その頑張りを正当に評価される仕組みづくり

実態が数字で理解できれば、後は私の仕事です。私はとりあえずの措置として、生産数量の多い曜日に出勤してくれるパート・アルバイトの時給を加算することにしましたが、それだけでパート・アルバイトの出勤希望の波は月・金に移り、波形は完全に逆転しました。それでもなお、正社員の残業代や休日出勤が減ったことで、労務費の大きな削減を達成します。
いうまでもなく、制度の端境期には人望の厚い工場長が曜日ごとの人の振り分けで本来の力を発揮してくれたことも、この結果に繋がりました。

この結果からは、とても多くのことを学びましたが、一番の学びは、冒頭、蓬莱の事例で挙がっている「モチベーション向上のための公正な人事評価制度の実施」に尽きるでしょう。
つまり、頑張っている人が、その頑張りを正当に評価されるということです。
裏を返せば、ずるい人が、あるいは楽をしている人が評価されるような組織はそれだけで、経営が危うくなると考えなければなりません。

私が経験した事例は単純なので解決が容易でしたが、例えば居酒屋さんであれば揚げ場を担当するアルバイトがもっとも過酷なポジションの一つでしょう。
とはいえ、フロア担当者も決して楽とは、とても言えません。人は周りとの比較で、自分の頑張りを認めてもらいたいモノサシがどうしても変化します。
万能な処方箋など存在するものではありませんが、少なくとも、「ずるい人だけが得をする仕組み」の排除は、比較的取り組みやすいのではないでしょうか。
万が一にも、自社にこのような仕組みがどこかに隠れていないか、一度チェックをしてみてはいかがでしょう。

 

 

引用:参照
*1
独立行政法人 労働政策研究・研修機構 「職業紹介-都道府県別有効求人倍率」
https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/shuyo/0210.html

*2
厚生労働省 「パートタイム労働者の雇用管理のポイント」40P
https://part-tanjikan.mhlw.go.jp/koujirei-bank/wp-content/uploads/2016/03/h27_manual_05.pdf

*3
厚生労働省「パート労働者活躍企業好事例バンク」
https://part-tanjikan.mhlw.go.jp/koujirei-bank/list/1589

*4
厚生労働省「パート労働者活躍企業好事例バンク」
https://part-tanjikan.mhlw.go.jp/koujirei-bank/list/565

 

【著者】
桃野泰徳(ももの・やすのり)                                
1973年滋賀県生まれ。
大和証券を経て、いくつかのベンチャー企業でCFOを歴任し独立。
個人ブログでは月間80万PVの読者を持つなど、経営者層を中心に人気を集める。

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