新型コロナウイルス感染症が世界的に大流行し、日本国内の感染者数は17,000人、死亡者数は900人を超えました(令和2年6月8日現在)。*1
ウイルス感染のリスクと隣り合わせの今、感染症が重症化するひとつの要因として「基礎疾患」が注目されています。
新型コロナウイルス感染による重症者の中には、基礎疾患のある若者も含まれています。一見健康そうな方が基礎疾患を抱えていることもあり、決して油断はできないのです。
今回は、
「重症化しやすい『基礎疾患』とはどのような病気を指すのか?」
「基礎疾患のある人はなぜ重症化しやすいのか?」
「持病を抱えた従業員に対して、企業として何ができるか?」
という疑問にお答えします。
目次
新型コロナウイルスで重症化しやすい「基礎疾患」とは?
新型コロナウイルス感染症では、
「感染者の8割は軽症、残りの2割が重症化しやすい」
ことがわかっています。*2
そして、この2割の中に「基礎疾患」を持つ方が多く含まれていることも明らかになりました。
厚生労働省は、次のような方はとくに重症化しやすい傾向にあるとして注意を促しています。
◯高齢者
◯基礎疾患(糖尿病・心不全・慢性呼吸器疾患・高血圧・がん)
◯喫煙歴のある方
*3
糖尿病や高血圧などの基礎疾患、いわゆる「持病」があると重症化しやすいことを裏付けるものに、国立感染症研究所が発表した調査報告があります。
【重症例の基礎疾患の有無について】
◯ICU(集中治療室)に入室した35名のうち、17名が基礎疾患あり
◯侵襲的換気(気管挿管による人工呼吸)を必要とした49名のうち、29名が基礎疾患あり
◯ECMO(体外式人工肺)を必要とした18名のうち、11名が基礎疾患あり
◯基礎疾患として、糖尿病・高血圧・脂質異常症の割合が高かった
(報告書の内容を一部抜粋、筆者により要約)
*4
参考)国立感染症研究所「感染症発生動向調査及び積極的疫学調査により報告された新型コロナウイル」を参考に筆者作成
https://www.niid.go.jp/niid/ja/covid-19/9533-covid19-14-200323.html
このように、新型コロナウイルス感染症によって重症化した方の中で、基礎疾患患者の占める割合は非常に高いことがわかります。
ここで、厚労省が注意を促す「基礎疾患」について要点を理解しておきましょう。
◯糖尿病
「インスリン」と呼ばれる血糖値を下げるホルモンの分泌低下、もしくは働きが悪くなる(インスリンが作用しなくなる)ことで発症する病気です。
血糖値が高い状態が続くと、血管が傷ついて動脈硬化が進み、脳梗塞や心筋梗塞の原因になります。
代表的な生活習慣病のひとつで、過食・アルコール・運動不足・肥満・喫煙などが原因です。
◯心不全
心臓のポンプ機能が低下し、全身に十分な血液が届かなくなる状態です。
心筋梗塞や心臓弁膜症によって発症するほか、心臓とは直接関係のなさそうな糖尿病や高血圧が原因で発症することもあります。
感染症による発熱などで心臓に負担がかかると、急激な心機能の悪化を招き命に関わることもあります。
◯慢性呼吸器疾患
気管支喘息・慢性気管支炎・肺気腫など、気管支・肺の炎症性疾患の総称です。
気道の慢性的な炎症によって、気管支が狭くなる・分泌物(たん)が増えるなどの症状があり、酸素と二酸化炭素の交換が十分に行えません。
そのため、インフルエンザや肺炎などの感染症にかかると命に関わることもあります。
◯高血圧
血圧とは、心臓から出された血液が血管を通るときにかかる圧力のことです。
この圧力が慢性的に高い状態が高血圧で、収縮期血圧140mmhg以上・拡張期血圧90mmhg以上(いずれか、もしくは両方)で高血圧と診断されます。
塩分やアルコールの過剰摂取・肥満・糖尿病・脂質異常症などが原因です。
◯がん(悪性新生物)
何らかの原因で遺伝子に傷がつき、異常な細胞が増殖した状態です。
周囲の組織に浸潤したり、血液を介して全身に広がったりしながら増殖を続け、正常な細胞に必要な栄養まで奪ってしまうため全身の衰弱を招きます。
喫煙・アルコール・偏った食生活など、生活習慣が大きく影響します。
すでにお気づきのように、基礎疾患のほとんどは「生活習慣病」です。
後ほど詳しく説明しますが、生活習慣病の多くは免疫力を低下させ、ウイルスや細菌への抵抗力を弱らせます。
厚労省の示す「基礎疾患」の病名に当てはまらなくても、脂質異常症・肥満症・慢性腎臓病などの生活習慣病を患っている方は
「感染症にかかりやすく重症化しやすい」
と考え、危機感を持って対応する必要があるでしょう。
基礎疾患があると重症化しやすい理由
では、基礎疾患のある方はなぜ重症化しやすいのでしょうか?
糖尿病の場合、血糖が高くなることで免疫機能が低下します。
さらに、糖尿病性の神経障害や血流障害を合併している場合、炎症反応に気づきにくく、血行不良によって十分な酸素供給ができないことも病状を悪化させる原因です。
*5
また、感染症によって心不全が急激に悪化したり、がん治療中の方は薬の副作用で免疫力が低下したりすることも重症化を招く原因となります。
感染症の重症化リスク因子である「基礎疾患」は、そのほとんどが生活習慣病やその合併症です。
年齢や生活習慣の積み重ねによって発症する生活習慣病は、高齢化の進む日本では今後さらに増加するといわれています。
企業においては、基礎疾患を抱える従業員が増加することを見越して、従業員の健康を守り、リスクに備えるためにはどうすべきか考える必要があります。
従業員の健康を守るために企業としてできること
従業員の健康を守り、安全に働いてもらうことは企業の重要な責務です。
責務を果たすための方法として、従業員ひとりひとりの健康状態・基礎疾患の有無を把握するのもひとつでしょう。
しかし、中には
「採用に不利になるのでは」
「周囲に心配をかけたくない」
と持病を伏せて働く従業員もおり、十分に把握できないのも事実です。
結果として健康面を配慮した人員配置ができず、無理がたたって体調を崩す・感染症にかかって重症化するなど、管理者・従業員ともに不幸な状況を招いてしまいます。
ここで、従業員の安全と健康を守るために、企業としてどのような対策をすべきか考えてみましょう。
◯定期健康診断
従業員の健康状態を把握するのに、もっとも効率的な方法が健康診断です。
常時雇用者に対しては、年1回以上の健康診断が法律で義務付けられていますが、「健康診断をして終わり」ではなく、異常値のある従業員には医療機関の受診や治療を促す、生活習慣改善のための啓蒙活動を企業全体の取り組みとして行うなど、「次の行動」につなげることが大切です。*6
◯日常的な健康チェック
感染症の流行に関わらず、その日の健康状態について日常的に確認し合うことは、体調の変化をいち早く察知する上で重要です。
出勤前に体温を測って申告する、発熱や風邪症状がある場合は出勤を禁止するなど、職場でルール化しておくと良いでしょう。
◯日常的な感染対策と職場環境の整備
新型コロナウイルスの大流行により、多くの方が
「感染症の流行期だけでなく、日頃から感染対策を意識すべき」
と痛感したのではないでしょうか。
見えないウイルスや細菌から身を守り、感染の拡大を防ぐためには、基本的な感染対策を社会のひとりひとりが「標準装備」しておく必要があります。
厚生労働省が発表した「新しい生活様式」では、ソーシャルディスタンス・手洗い・うがい・咳エチケットなどの日常的な感染対策のほか、リモートワーク・時差通勤・オンライン会議など新しいスタイルの働き方推奨しています。*7
基礎疾患を有する従業員についてはとくに感染対策を意識し、対面での接客や外出の多い部署への配置は極力控える・接客の際はマスクの着用を徹底する・満員電車を避けるために自動車(自転車)通勤や時差通勤を認めるなどの配慮が必要でしょう。
これらの感染対策や職場環境の整備を行うことは、将来的に再び感染症が大流行した際、職場内での感染拡大の抑制に大きく貢献すると考えられます。
引用)厚生労働省 「新しい生活様式」の実践例 https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000635643.pdf
◯健康状態を相談できる・休める職場風土の醸成
基礎疾患を有する従業員にとって、
「持病について上司や同僚が理解を示してくれるかどうか」
は、勤務の継続やモチベーションに影響するといっても過言ではありません。
従業員にとって、体調について相談できる人間関係や、つらいときに休める職場風土は、職場への信頼だけでなく仕事への意欲・集中力を高めることにつながります。
従業員と良好な関係性を築くことは、健康状態の把握や、体調に配慮した人員配置・シフト編成が可能になるなど、マネジメントを行う上でも大きなメリットとなるでしょう。
このような職場風土を育むためには、管理者だけでなく、従業員全員が「無理をしない・させない」「体調が悪いときは休む・休ませる」と共通認識を持つことが重要です。
ウイルスや細菌に対する免疫力が低く、感染症が重症化しやすいという点で、基礎疾患のある従業員の働き方に配慮することは管理者として当然行うべきです。
しかし、もっとも大切なのは基礎疾患がある・ないに関わらず、すべての従業員が
「日常的な健康チェック」
「基本的な感染対策」
「新しい働き方の推進」
「無理をしない・させない職場風土」
について理解し、実践することではないでしょうか。
まとめ
これまでの生活や常識が大きく変化したアフターコロナの社会では、新しい生活様式や、従来とはまったく異なる働き方を柔軟に受け入れる必要があります。
企業として従業員の健康を守るためには、ひとりひとりの健康状態の把握や、職場環境の改善・整備が不可欠となるでしょう。
感染症や災害などの危機に直面したとき、従業員の健康を守り安全な労働を確保するためにも、日頃からリスクに備え対策を講じることが重要です。
【出典元】
*1
参考)新型コロナウイルス感染症の現在の状況と厚生労働省の対応について(令和2年6月8日版)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_11749.html
*2
参考)新型コロナウイルス感染症対策専門家会議 1.この一両日で明らかになったこと(3)重症化する患者さんについて-厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/newpage_00011.html
*3
参考)新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 診療の手引き・第2版 -厚生労働省 p.7
https://www.mhlw.go.jp/content/000631552.pdf
*4
参考)感染症発生動向調査及び積極的疫学調査により報告された新型コロナウイルス感染症確定症例516例の記述疫学(2020年3月23日現在)-国立感染症研究所
https://www.niid.go.jp/niid/ja/covid-19/9533-covid19-14-200323.html
*5
参考)糖尿病と感染症のはなし-国立国際医療研究センター 糖尿病情報センター
http://dmic.ncgm.go.jp/general/about-dm/070/070/01.html#03
*6
参考)社員の健康管理、どんな対策がある? 中途採用サポネット-マイナビ
https://careerlab.tenshoku.mynavi.jp/column/column-1342/
*7
参考)「新しい生活様式」の実践例-厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_newlifestyle.html
【ライタープロフィール】
遠藤愛
看護師として約13年間病院勤務。外科・内科病棟、地域連携室、介護老人保健施設、訪問看護に従事。現在は看護師の知識と経験を活かしライターとして活動中。
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