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石神井公園『PIZZERIA GTALIA DA FILIPPO』が示した、真の地域連携のカタチ。これからの飲食店が提供すべきものとは

飲食業界に大きなダメージを与えた新型コロナ。
とくに、東京都は自粛要請もあり、多くの飲食店が経営難に追い詰められました。
しかしその中でも、新たな方向性を見出しはじめた店も現れています。

「新型コロナはきっかけにすぎません。これまで地道に続けてきた取り組みが、ここへ来て芽を出したと感じています」

そう語るのは『PIZZERIA GTALIA DA FILIPPO(ピッツェリア ジターリア ダ フィリッポ)』(以下、フィリッポ)のオーナー・ピッツァイオーロ(ピザ職人)である、岩澤正和さん。

岩澤さんのピッツェリアは、東京23区で最大の農地面積を有する練馬区にあります。
地元の農家で生産される、新鮮で安全な農作物を使ったピッツァや料理が人気で、店内はいつも活気にあふれています。

「日本では、ナポリピッツァと聞くと、なにか特別なピッツァだと思いがちです。しかしナポリでは、これが普段の食事なんです。むこうの人たちは、特別な具材など使いません。地元でとれた魚介類や野菜、肉を使ってピッツァを焼くんです」

薄く伸ばしたピッツァの生地に、各々好きな具材を乗せてオーブンへ入れる。
家庭でも楽しめる食事こそ、本場ナポリの伝統である「ナポリピッツァ」の本質なのだそう。

「スローフード」という言葉・考え方の発祥はイタリアです。
手軽にすぐ食べられる「ファストフード」の対義語として生まれました。

スローフードが掲げる理念は、単に、食生活を見直すことではありません。
質の高い食材や食品を守ること、それらを提供する生産者を守ること、さらには子供を含めた消費者全体に「味の教育」を普及させることを目的としています。

岩澤さんは、真のスローフードを達成しようと、緑豊かな練馬区にピッツェリアをオープンさせました。
そして当初から一貫して、地元農家の野菜や果物を使ったメニューを考案し続けています。

このように地域に根差した活動が、新型コロナによって飲食店が被るダメージを、大幅に緩和してくれました。

――そう、コロナ禍で店を支えたのは「地元住民」だったのです。

 

目に見えるカタチで示した、地域連携とは

都心の飲食店が相次いでクローズするなか、フィリッポは細心の注意を払いつつ営業を続けました。
予約はほぼキャンセルとなるなか、店内の客席数を従来の半分にし、オープンテラスを増やすなど、「密」の回避を徹底します。

営業を続けることが正解なのかどうか、不安を抱えつつも来店客を待つ日々でした。

西武池袋線の石神井公園駅から徒歩3分にあるこの店は、地元住民の「帰宅途中」にあります。
そのため、仕事帰りや買い物帰りの人が、フィリッポに顔を出してくれます。

「お客さんの数は減りましたが、これまで来てくれていた地元の常連さんに加えて、新たな地元の人々が足を運んでくれるようになりました。まずは地元から、元気にしていきたいと思うようになりました」

遠くからわざわざ訪れる人は減りました。
その反面、地元で暮らす人の来店が少しずつ増えたそうです。
緊急事態宣言が発令された4月は、オンラインフードデリバリーサービスでの注文が大半でしたが、それでも近所の人は、店内で食事を楽しんでくれたそうです。

「練馬区には、大学病院や総合病院、クリニックがたくさんあります。そこで働く医療従事者の方々もお店へ足を運んでくださいました。お話しするなかで、医療現場が壮絶であることを知り、彼らをなんとかを支えられないかと考えた末、美味しいランチを提供することを思いつきました」

地元の人たちに支えられながら営業を続けるいま、飲食店として何ができるのか――。
今こそ「カタチ」で示そう、と岩澤さんは決意しました。
先の見えない新型コロナとの戦いにおいて、その最前線で奮闘する医療従事者の人々。
彼らの心が折れないために、また、飲食店としての誇りと役割を再確認するために、
「医療従事者応援プロジェクト~食の力でエールを送る~」
を立ち上げるのです。

店頭での募金や寄付を食材の原価に充て、地元農家や商店街の有志らで協力しあい、トータル500食のランチを練馬区で働く医療従事者へ届けました。
この活動は、練馬区のタウン誌でも取り上げられ、さらに大きなムーブメントのきっかけとなりました。

 

一方通行ではないからこその、地域連携

長期化するであろう新型コロナの影響を見据えた岩澤さんは、さらなる感染症対策に頭を悩ませていました。

「店内での感染症対策で、もっと何かできることがないかと毎日考えていました。そんな相談を、ランチ提供で知り合ったドクターにしたところ、『マスクケース』についてアドバイスをいただいたんです」

「マスクケース」は、着用していたマスクを一時保管するためのケースです。
食事の間にマスクを外したとき、そのままカバンやポケットに入れてしまうと、汚れやウイルスが付着する可能性があります。
そこで、一時的にマスクをしまうためのケースを作り、各テーブルに配置しよう、と考えました。

ドクターからは、
「繰り返し使ってしまうと感染症対策にはならない。つまり、使い捨てのケースにする必要がある」
と言われました。

そうはいうものの、マスクケースを作るための金銭的な余裕など、ありませんでした。
断念せざるをえない、と岩澤さんが諦めかけたそのとき、思いもよらぬ言葉が返ってきました。

「美味しいランチを届けてもらったお礼に、マスクケースを提供させてほしい」

なんと、病院側からマスクケースについての申し出があったのです。

こうして、フィリッポに大量のマスクケースが到着しました。
来店客は、初めて見るマスクケースを珍しがりながらも、安心して食事を楽しめるようになりました。

ギブアンドテイクとは、まさにこのことを指すのでしょう。
一方通行ではない地域連携を目に見えるカタチで示した、心温まるエピソードです。

 

テイクアウトの強化

新型コロナにより、オンラインフードデリバリーサービスの需要が劇的に増えました。
しかし、配送料や手数料がネックとなり、
「フィリッポのピッツァは食べたいけれど、なかなか手が出ない」
という声もありました。

そこで岩澤さんは、「テイクアウトの強化」に力を入れました。
これまでフィリッポでは、テイクアウトは「おまけ」の存在でした。
そのため、テイクアウトのメニューはA4サイズの紙に手書き、料理の写真もありません。
これでは、どんな料理がどのくらいのボリュームで出てくるのかわかりませんでした。

そこで今回、手に取って選びたくなるような、オシャレなデザインのテイクアウトメニューを作成しました。

――店で食べるプロの味を、自宅でも再現してもらいたい。

そう願う岩澤さんは、テイクアウトの料理とサービスに、さらにひと手間加えました。

「肉料理は出来立てを真空パックし、うま味を逃がさないように工夫しました。
あとは『自宅でさらにおいしく食べるワザ』として、ピッツァの温め直しの方法を、メニューの裏面にイラスト入りで紹介しました。それだけでも、みなさんとても喜んでくれます」

テイクアウトは、最適な温度や状態で食べることが難しいと思われがち。
しかし、やり方によっては店の味をそのまま再現することができます。
いつでも、どこでも、美味しピッツァを食べてもらえるよう、テイクアウト時の「ヒント」を伝授することで、一般家庭でもプロの味を楽しんでもらおうと考えたのです。

また、「GTALIA MARKET」と称した、こだわり食材の物販にも力を入れました。
北海道産のピッツァ専用小麦粉、地元でとれたこだわりミニトマト、カラブリア産の島とうがらしなど、店で使用している食材をそのまま自宅で使えるように揃えました。

これらの「改革」について、岩澤さんの本音は意外なものでした。

「じつは、どれも今まで疎かにしてきたことばかりです。それが今、ようやく向き合うことができました。何が真のサービスなのか、お客さんが求めているものは何なのか。
コロナをきっかけに、ようやく、カタチにすることができました」

新型コロナだから何か特別なことをするのではなく、「本来すべきことは何か」があぶり出されたことで、自ずと方向性が見えたのだと言います。
その結果、売上げは前年同月を超えました。

 

食べ物も人も、真価が問われるとき

オープンから今までの7年間、とことん素材にこだわり、とことん地域にこだわり抜いてきた岩澤さん。
これからの時代、飲食店にとって必要なことは何かを尋ねてみました。

「みなさんに、本当の意味での『おいしさ』を知ってもらいたいです。
一般的においしいとされてきた、脂がのった柔らかい肉ではなく、健康な牛だからこそとれる、筋肉質でしまった赤身肉の価値などを、知ってもらいたいです。
噛めば噛むほど味が出る、それは健康な牛だからこそ味わえる食感なんです。
食材についての正しい知識や情報を提供することも、僕たち飲食店の役割だと思っています」

新型コロナの影響で外食産業が冷え込むなか、本当に必要なことは、「食べ物の真の価値」を伝えていくことなのかもしれません。
ただ単に食事を提供するだけでなく、その食事が意味すること、そして健康の意味を考えてもらうきっかけを与えることこそ、これからの時代に必要な教育=食育といえます。

健康な体をつくることは、すなわち免疫力も高めます。
――ウイルスに負けない体づくりを、食べ物から始めてほしい。
フィリッポの料理には、そんな願いが込められているのです。


著者:浦辺里香

 

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