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フードロス削減のために 生産者と飲食店はコロナ禍の中、どのように変わりつつあるのか

「フードロス」という言葉を、誰もが一度は聞いたことがあると思います。
そして、できることから実践しようと考えている人もいるかも知れません。

特にコロナ禍においては、平時を想定した食材のサプライチェーンが大きく乱れ、高級食材を中心に値崩れする事例がたびたび報道されるに至りました。

そこで今回は、飲食店と、農家を中心とした生産者サイド、それぞれの視点からみたフードロスについていくつかの対策と取り組みを中心にご紹介して参ります。

目次

「需要側」からみたフードロス対策

フードロスの核心を突く、「供給側」の変化

「需要側」からみたフードロス対策

「Oppla’da Gtalia(オップラ!ダ ジターリア)」(以下、オップラ!)は、西武新宿線武蔵関駅から数分の場所にある、ナポリピッツァのお店です。同じ練馬区にあるピッツェリア「PIZZERIA GTALIA DA FILIPPO(ピッツェリア ジターリア ダ フィリッポ)」の姉妹店として、2年前にオープンしました。

「オップラ!」はイタリア語で「よっこいしょ!」という意味で、重いものを持ちあげるときの掛け声のようなもの。
「むかし一緒に働いていたイタリア人が、よく『オップラ!』と言ってました」
と笑顔で話してくれるのは、店長の野間裕介さんです。

(ピッツァを作る野間さん)

野間さんは、2015年にナポリピッツァの世界大会で2位に輝いた経歴を持ちます。
さらに練馬育ちの野間さんは、練馬へのこだわりも人一倍あります。

「地元・練馬でとれた野菜のピッツァです!と名乗れるのは、練馬区のお店だけです。その感謝とプライドを持って、美味しい料理を提供していこうと思っています。」

言葉のとおり、オップラ!で使われている食材の大部分は、地元・練馬の野菜や果物です。
練馬育ちの野間さんも、この地でお店を開くまでは、ここまで広大な農地が練馬区にあるとは知らなかったそうです。

「練馬区の農家へ足を運び、栽培方法や農作物への想いを聞き、実際に食べてみてどの料理に合うかを考え続けました」

そしてこの地道な行動が、農家とオップラ!の信頼関係を深めました。

普段から新鮮な野菜を提供してくれる農家に対して、彼らがピンチのときはオップラ!が助けます。
市場に出せない、いわゆる「規格外」があれば、野間さんは率先して買い取ります

「たとえば規格外の小ぶりなジャガイモを買い取ったら、スープにします。小さいので皮むきや下処理に手間はかかりますが、安く仕入れてた分、お客さまに還元できます。農家さんの助けにもなるし、お客さまもよろこんでくれて、一石二鳥です」

行き場を失った野菜たちも、プロの手にかかれば美味しい料理に大変身。
農家が育てた大切な野菜を、見た目ではなく味を生かして使い切る。
当たり前ですが、最高の役割分担であり、これこそ最強のフードロス対策だといえるでしょう。

またフードロスは、調理段階だけで発生するものではありません。
接客、つまり食べ残しに関するフードロス対策として、どのような取り組みをしているのかも今回尋ねました。

「ピッツァは大きいので、食べきれない方も多くいらっしゃいます。そこで、お客さまの手が止まったら『お包みしましょうか?』と、こちらから発信しています。テーブルに運んだ時点で不安そうな方へも、『食べきれなかったらお包みするのでご安心ください』と先に伝えます。お帰りの際に、包んだピッツァと一緒に“自宅でも美味しく食べられるレシピ”をお渡ししています」

顧客は、飲食店で食事を残すことに罪悪感を覚えます。
しかし、店側から「持ち帰りができる」と伝えてもらえれば、安心して食べることができます。
顧客目線に立ってこそのホスピタリティであると言えるでしょう。

箇条書きにまとめると、

「規格外や未利用の農林水産物の有効活用」
「可食部をギリギリまで使って調理をする」
「廃棄の近い食材を優先的に使ったメニューの提案」
「残してしまった料理をドギーバッグで持ち帰れるようにする」

といった対策を実践していることになります。

なおこれは、消費者や飲食店といった「需要側」からみたフードロス対策ですが、次に「供給側」である農家サイドの変化についても見ていきましょう。

フードロスの核心を突く、「供給側」の変化

東京都港区にあるカフェの軒先で、月に2回ほど開かれる「軒下マルシェ」があります。

このマルシェは、全国の旬で美味しい野菜や果物、調味料や和菓子などを集め、
「美味しいということ、もう一度食べたくなること」
というコンセプトを掲げ、2015年からオープンしました。

軒下マルシェを運営する皆川泰隆さんは、農家と小売店、飲食店をつなぐ橋渡しをしています。

(軒下マルシェの皆川さん)

大手文具メーカーに勤務していた皆川さんは、そこで出会った「漆の万年筆」に魅せられ、漆職人の元を訪れました。
漆について学ぶうちにその興味の範囲は自然全体へと派生し、農業の世界へとたどり着いたのだそうです。

「どんなに美味しい農作物でも、売れなければ消滅してしまう」

そう危惧した皆川さんは、自らが持つ小売業への流通販路を活かして、紳士衣料品ブースの一角で、野菜を販売する企画を提案しました。

異業種だからこそできるこのアイデアの根幹は、言うまでもなく「フードロスの削減」にあります。

農林水産省が公表する「令和元年産野菜(41品目)の年間計」によると、きゅうり、なす、トマト、ピーマン及びたまねぎを含めた全調査品目(41品目)の年間収穫量と出荷量は、

・収穫量1,339万4,000トン
・出荷量1,156万1,000トン

となっています*1。

じつに183万トン、割合にして約14%の野菜が出荷されず、農家で自家用として処理されています。
現実的には、そのほとんどが廃棄処分となっている可能性があります。

出荷されなかった野菜の多くは「規格外」と呼ばれるものです。
野菜の出荷規格は、流通の合理化や消費者の利便性を高める目的で定められており、大きさや形、色などによって分類されます。

この「規格外」について、皆川さんはこう言います。

「土作りや肥料の選び方、品種改良で野菜は変わります。
そうすることで、出荷時点ですでに発生していたロスを減らすことができるんです」

たとえば、ダイコンで二股に分岐している状態のものを「股根」と呼びます。
股根の原因は、土中にある石や土の塊、未分解の肥料などが障害物となり、ダイコンの根とぶつかるために起こります。

股根を防ぐには、「土を深くまでしっかりと耕すこと」だそう。
そうすることで、障害物も取り除かれ、肥料や堆肥の分解も促進されます。
つまり、良い土作りができれば規格外を生みだす可能性も減るのです。

美味しい野菜や果物を探しに、全国を飛び回る皆川さん。
とある青森の農家が自信満々に出してきた“キクラゲ”に対して、
「北海道では、もっとすごいキクラゲを作ってますよ」
と、後日、北海道のキクラゲを送りました。

すると驚いた青森の農家は、すぐさま栽培方法の改善に取り組みました。
それから2年、厚みといいプリプリ感といい、文句のつけどころのない最高のキクラゲを誕生させてくれたそうです。

消費者はより美味しい野菜を求めます。
それに対して、農家の研究と挑戦が野菜のクオリティを格段に上げます。
その結果、バイヤーも消費者も飛びつく魅力的な野菜が生まれ、必然的にフードロス削減に繋がると言って良さそうです。

先述のオップラ!でも、似たような事例があります。
野間さんが出会った農家は、日本で栽培は難しいといわれる“ラディッキオ・タルティーボ”を見事に作り上げました。

「日本では馴染みの薄い、変わった野菜を作ることは農家にとってリスクといえます。
販売先も限定されるので、このチャレンジには勇気がいります」
と、野間さんは言います。

農家が“ラディッキオ・タルティーボ”を育て始めた当初は、本場のそれと比べると差のあるものでした。
これはある意味当然で、想像以上に手間のかかる野菜のため、最初から完璧に作ることは不可能に近いのです。

そこで野間さんは、

「普段つかってるイタリア産と比べて、ここが違う」
「こんな味がほしいと思ってる」
「サラダでつかうには、もう少し色や大きさを変えたい」

など、改善点をフィードバックし続けました。

それから3年、農家の努力と研究心も相まって、今では見事にテーブルを飾る出来栄えとなりました。

さらに、この事実を知った同業のイタリアンレストランから、練馬の農家が作る「イタリア野菜」への注文が入り始めました。

フードロスは、現状発生している「ロス」を少なくすることだけにとどまりません。
いかに「ロスにつながらない野菜や果物を作るか」という、一次産業の変革からもアプローチができるのです。

話を戻しますが、皆川さんはこのように考えています。

「語弊を恐れずに言うと、消費者が求める野菜を作ることが農業の未来につながると思います」

農作物に対する「需要と供給」がここに見えます。
消費者から必要とされる農作物を作ることができれば、必然的に購入されます。
その手がかりとして飲食店やバイヤーからのフィードバックは、これからの農業が変わるためのきっかけであり、フードロス削減の一端を担う可能性を秘めています。

「僕は農家さんに嫌われてもいいので、ハッキリ言います。
日本の農業のために、フードロス削減のために、農家さんの協力が必要だということを伝えていきたいんです」

フードロスをきっかけに、日本の社会、とくに農業が大きく変わろうとしています。
農家や飲食店に任せきりではなく、消費者である私たちも、今できる行動に加えて正しい知識の涵養に励まなければなりません。

美味しい食事とフードロス問題は表裏一体です。
少しでも多くの農作物が収穫量=摂取量(私たちの口に入れる量)となるために、一人ひとりが考えて行動をする時代の到来です。

*1参考:農林水産省/農林水産統計p3令和元年産野菜(41品目)の年間系
https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/sakumotu/sakkyou_yasai/attach/pdf/index-41.pdf

浦辺里香(うらべりか)
特定社会保険労務士、ブラジリアン柔術紫帯。
2020ヨーロピアン柔術選手権青帯フェザー級、無差別級優勝。
ショートコラムを毎日公開中
https://uraberica.com

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