2019年12月にヒトへの感染が確認されたとされる新型コロナウイルス感染症*1は、急速に世界各国に拡大し、いまだ終息の兆しがみえない状況です。
新型コロナウイルスの流行に季節性があるかどうかは不明ですが、同種のヒトコロナウイルスは冬期に流行する*2ため、職場では新型コロナウイルスとインフルエンザの同時流行も視野に入れた対策をとらなければなりません。
一方で、新型コロナウイルスの感染者数は、緊急事態宣言が発出された4月上旬以降から徐々に減り始め、5月に緊急事態解除宣言がなされたあとも、しばらくの間は感染者数の増加はみられませんでした*3。
これは、外出の自粛やテレワークの導入、教育機関の休校措置、そして“3密”を避けた生活様式の浸透などが、それなりに功を奏した結果と考えられます。
PCR検査陽性者数(人)
引用)厚生労働省「政策について>分野別の政策一覧>健康・医療>健康>感染症情報>新型コロナウイルス感染症について>国内の発生状況など>国内の発生状況」
https://www.mhlw.go.jp/stf/covid-19/kokunainohasseijoukyou.html
しかし、社会的機能を維持して企業を存続させるためには、緊急事態宣言中のような働き方を続けるわけにはいきません。
また、人の流れも緊急事態宣言前の状態に少しずつ戻りつつある*4ため、より一層の感染予防対策が必要となっています。
そこでこの記事では、コロナ禍の中で働く従業員を守るために、さらには企業の存続を守るために、職場でおこなうべき感染予防対策について解説します。
目次
職場における新型コロナウイルス対策のポイント
厚生労働省では、職場での感染拡大を防ぐために、以下の4点につき特に注意するよう呼び掛けています*5。
それぞれの点につき、企業がとるべき対策をさらにくわしくみてみましょう。
引用)厚生労働省「報道・広報>報道発表資料>2020年8月>職場における新型コロナウイルス感染症への感染予防、健康管理の強化について、経済団体などに再度協力を依頼しました>別添8月7日付け職場における新型コロナウイルス感染症への感染予防、健康管理の強化について>別添3」*6
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_12865.html
https://www.mhlw.go.jp/content/11302000/000657471.pdf
・こまめな換気
人の出入りが多い店舗では、ドアの開け閉めで常に換気されている状態になりますが、出入り口付近以外の部分では空気の流れが悪くなっています。
可能であれば常時換気をおこない、ウイルスの滞留を防ぎましょう。
従業員の休憩室も、忘れずに換気をおこなってください。
・密を避ける
人が密集する状態を作らないようにしましょう。例えば、
・休憩時間をずらす
・休憩室の椅子の数を減らし、間隔をあける
・可能であればシフト調整し、出勤時間をずらす
・ロッカーを1つおきの配置にする
といった工夫で、密な状態を減らせます。
・備品の共用を避ける
手洗いをしっかりしても、備品が共用では接触感染は防げません。
備品の供用はできるだけ避け、共用が避けられない場合はこまめな消毒や手指洗浄を心がけましょう。
なお、備品ではありませんが、電気のスイッチやドアノブなどは多くの人がふれる部分なので、こちらもこまめな消毒が必要です。
・体調が悪い場合に休む基準を決めておく
体調が悪い場合は、万が一に備え早めに休んでもらいましょう。
ただし、人により判断基準が異なると、感染拡大を防ぐことはできません。
休む基準(体温が37.5度以上の場合・咳がある場合・家族に風邪症状の人がいる場合、など)を具体的に定め、周知徹底してください。
なお、コロナの疑いで欠勤・早退した場合に企業として何らかの補償が可能である場合は、その旨も従業員に伝えておきましょう。
これらに加え、
・ソーシャルディスタンスの確保(できれば2m、最低1m。)
・マスクの着用(鼻まで覆って勤務時間中ははずさない。はずしたら取り換える。)
・手洗いの励行(石けんを使い30秒以上。できれば二度洗い。タオルは共用しない。)
なども徹底する必要があります。
新型コロナウイルスもインフルエンザも、飛沫感染・接触感染で拡大するため、コロナ対策はインフルエンザ対策にもなります。
毎年職場でインフルエンザに感染する従業員がいる場合は、この機会に感染対策を見直しましょう。
ちなみに、著者自身は調剤薬局での勤務歴が10年以上ありますが、インフルエンザに罹患したことは一度もありません。
もちろんワクチンは接種していましたが、それ以上に
・勤務中にマスクをはずさないようにしていたこと
・マスクをはずした場合は新しいマスクに取り換えていたこと
・手洗いを頻繁に(おそらく1日10回以上)おこなっていたこと
・患者さんと接するのはカウンター越しで、ソーシャルディスタンスが確保されていたこと
などが、感染予防に役立っていたと考えられます。
しかしその一方で、ワクチン接種をしていても毎年インフルエンザに罹患する同僚がいました。
彼は職場で頻繁にうがいをしていたのですが、うがいをするときにマスクをあごまで下ろし、その後マスクを再装着していました。
マスクを下ろした際に口側にウイルスが付着し、それをそのまま再装着したことが原因でインフルエンザに罹っていた可能性があります。
このように、熱心に感染予防をしても、方法が間違っているとかえってリスクが高くなる場合もあります。
同じように、感染対策を掲げても、適切な方法までしっかり伝えなければ感染拡大を防ぐことはできません。
政府や各種業界団体が示すガイドラインなどをもとに、個々の職場に適した具体的な対策をとるようにしましょう。
外出時や移動時に注意すべきポイント
職場のみで感染対策を講じても、新型コロナウイルスの蔓延を防ぐには不十分です。
外出時や移動時にも、感染拡大を防ぐポイントがいくつもあります*5。
・マスクの着用
まず、マスクの着用をできるだけすすめましょう。
万が一、従業員が感染症に罹患していても、マスクの着用で感染拡大を防ぐことができます。
商談時は、クライアントを守るためにもマスクの着用が望ましいでしょう。
・移動時は密を避ける
公共交通機関を利用して移動する際はマスクを着用し、密になるラッシュ時をできるだけ避けるようにしましょう。
社用車などを使う場合であっても、可能な限り人と人との距離をあけ、マスクを着用するように指導してください。
換気をするのも良い方法です。
社用車を共用する場合は、使用前後にハンドルなど手でふれる部分の消毒をするようにしましょう。
キーの消毒も、忘れないように注意してください。
・外での食事は時間をずらす
社外で食事をする場合は、混んでいる時間帯を避けるようにしましょう。
複数人で食事をする場合は、対面での食事は避けなければなりません。
そして、食事の前には必ず手を洗い、ウイルスを体内に入れないよう注意します。
・外出先から戻ったら手洗いをする
外出先から戻ったら、まず手洗いをしっかりして社内にウイルスを持ち込まないようにします。
コートなどを脱いだら再度手洗いをおこない、手に付着したウイルスを洗い流します。
何度も手を洗うのは面倒ですが、1回目あるいは2回目の手洗いを省略してしまうと、ウイルスの侵入を許すことになります。
「物にふれたら手指は必ず汚れる」くらいの気持ちで、手洗いを励行しましょう。
・接触確認アプリの活用
外出中は無数の人と接する可能性があるため、接触確認アプリを活用して感染の早期発見に努めましょう。
接触確認アプリに登録しておくと、検査で陽性と診断された人と接触歴のある人に通知が送られ、検査受診方法などが表示されます*5。
新型コロナウイルス感染症は、感染しても自覚症状が乏しい場合があります。
潜在的な感染者から感染拡大を防ぐためにも、接触確認アプリの利用をすすめましょう。
引用)厚生労働省「報道・広報>報道発表資料>2020年8月>職場における新型コロナウイルス感染症への感染予防、健康管理の強化について、経済団体などに再度協力を依頼しました>別添8月7日付け職場における新型コロナウイルス感染症への感染予防、健康管理の強化について>別添1」*7
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_12865.html
https://www.mhlw.go.jp/content/11302000/000657471.pdf
従業員を守ることは企業を守ることにつながります
従業員が新型コロナウイルスなどの感染症に罹患すると、生産性が落ちて企業収益が悪化するおそれがあります。
また、従業員を介してクライアントに感染が拡大したら、企業の信用にも影響するかも知れません。
中小企業・事業所では、一人の従業員が感染しただけで風評被害が生じ、経営自体が危うくなる可能性も否定できません。
適切な感染予防対策を講じて従業員を守ることは、企業全体を守ることにもつながります。新型コロナウイルスの感染拡大を防ぎ、アフターコロナの時代を乗り切りましょう。
*1
参考)国立感染症研究所「感染症トピックス>新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連情報について>新型コロナウイルス(COVID-19)関連情報ページ 」
https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov.html
*2
参考)国立感染症研究所「>サーベイランス>IASR病原微生物検出情報>速報記事・ウイルス>ヒトコロナウイルス(HCoV)感染症の季節性について―病原微生物検出情報(2015~2019年)報告例から」
https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2488-idsc/iasr-news/9715-485p03.html
*3
引用)厚生労働省「政策について>分野別の政策一覧>健康・医療>健康>感染症情報>新型コロナウイルス感染症について>国内の発生状況など>国内の発生状況」
https://www.mhlw.go.jp/stf/covid-19/kokunainohasseijoukyou.html
*4
参考)内閣官「新型コロナウイルス感染症対策>各種データ>人流の減少率>都道府県間の人々の流動量とその変化~隣接地域や大都市圏からの流出・流入の動向に着目して~>都道府県毎の詳細なレポートはこちら」
https://corona.go.jp/dashboard/
https://corona.go.jp/dashboard/pdf/flow_20201005.pdf
*5
参考)厚生労働省「報道・広報>報道発表資料>2020年8月>職場における新型コロナウイルス感染症への感染予防、健康管理の強化について、経済団体などに再度協力を依頼しました>別添8月7日付け職場における新型コロナウイルス感染症への感染予防、健康管理の強化について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_12865.html
https://www.mhlw.go.jp/content/11302000/000657471.pdf
*6
引用)厚生労働省「報道・広報>報道発表資料>2020年8月>職場における新型コロナウイルス感染症への感染予防、健康管理の強化について、経済団体などに再度協力を依頼しました>別添8月7日付け職場における新型コロナウイルス感染症への感染予防、健康管理の強化について>別添3」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_12865.html
https://www.mhlw.go.jp/content/11302000/000657471.pdf P.20
*7
引用)厚生労働省「報道・広報>報道発表資料>2020年8月>職場における新型コロナウイルス感染症への感染予防、健康管理の強化について、経済団体などに再度協力を依頼しました>別添8月7日付け職場における新型コロナウイルス感染症への感染予防、健康管理の強化について>別添1」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_12865.html
https://www.mhlw.go.jp/content/11302000/000657471.pdf P.10
*厚生労働省「政策について>分野別の政策一覧>健康・医療>健康>感染症情報>新型コロナウイルス感染症について>国内の発生状況など」
https://www.mhlw.go.jp/stf/covid-19/kokunainohasseijoukyou.html
*厚生労働省「報道・広報>報道発表資料>2020年8月>職場における新型コロナウイルス感染症への感染予防、健康管理の強化について、経済団体などに再度協力を依頼しました>別添8月7日付け職場における新型コロナウイルス感染症への感染予防、健康管理の強化について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_12865.html
https://www.mhlw.go.jp/content/11302000/000657471.pdf
・名前:中西 真理
・プロフィール:公立大学薬学部卒。薬剤師。薬学修士。医薬品卸にて一般の方や医療従事者向けの情報作成に従事。その後、調剤薬局に勤務。現在は、フリーライターとして主に病気や薬に関する記事を執筆。