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みずほFGの副業解禁、狙いや条件は?雇用を考える上で参考になるポイントを解説

みずほフィナンシャルグループ(FG)は2019年10月から社員の副業・兼業を解禁しました。

メガバンクで初めての副業解禁は話題を呼びましたが、みずほFGはさらに、希望者には週休3~4日で働ける制度を導入することを明らかにしています。
多様な働き方を希望する動きがある中で、みずほFGは休日を副業やスキルアップに活用して欲しいとしています。

堅いというイメージのあるメガバンクが副業解禁に踏み切ったのにはどのような背景があり、また、今後どのような影響を及ぼすのでしょうか。

 

みずほFG副業解禁の背景

みずほFGが副業を解禁したのには、「柔軟な働き方を実現する」という以外にもいくつかの背景があります。

①人材戦略としての副業解禁
まず、副業を通じて、自社の中では得られないスキルや知識を身につけてほしいという考え方です。
みずほFGは採用情報サイトの中でも、「みずほらしくない人に会いたい。」というキャッチフレーズを掲げ、小冊子まで公開しています*1。

銀行業界では、業務や人材が硬直化する一方、社会や顧客のニーズは様々に変化し続けています。
そのような社会情勢の中、過去の成功体験にとらわれず、これまでの慣例を打ち破るような人材を求めているというのが理由のひとつです。

もう一点は、終身雇用を廃止するという流れの中での意図です。
銀行に限らず、多くの業種では終身雇用を維持することは難しいと考える経営者が増えてきました。
その一方で、人生100年と言われるほどに今の現役世代は、長く働き続けなければならない時代となっています。
そのような厳しい環境の中、従業員には、シニア以降になっても社会から求められる人材でいられるよう多様なスキルを身につけて欲しいという意向もあります。

②銀行業界を取り巻く環境
ただ、裏側には以下のような事情もあります。銀行業界を取り巻く環境です。
銀行業界は、ここ数年店舗数の減少が続いています。
全国銀行協会の統計によると、都市銀行(3メガバンク+りそな、埼玉りそな)の店舗数と従業員数は次のように推移しています(図1)。

図1 都市銀行の店舗数・職員数の推移 出所:「全国銀行財務諸表分析*2」全国銀行協会
https://www.zenginkyo.or.jp/stats/year2-02/

2016年3月末以降、都市銀行の店舗数(出張所含む)は減少傾向にあります。
また、従業員数を見ると2019年3月末、2020年3月末と2年連続で大きく減少しており、店舗の統廃合とそれに伴う人員削減が進んでいることがわかります。

超低金利が続いていることで、貸出利息による収益は下がったままの状態が続き、銀行業界にとっては苦しい経営環境が続いているのはメガバンクも例外ではありません(図2)。

図2 地銀・都市銀行の利ざや等の推移
出所「地域銀行の現状と課題」参議院財政金融委員会調査室
https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2018pdf/20180702050.pdf p55

さらにネットバンキングの利用が増えるなど業務のデジタル化・オンライン化が進み、人員に余剰感が生まれているのです。
実際、3メガバンクは大幅な人員削減を打ち出しています。
三菱UFJFGは2017年の段階で、2023年度までに6000人の人員減少(自然減)を見込んでいるほか*3、三井住友FGは店舗の小型化で、2020~2022年度の間に6000人が減少(自然減)する見通しを明らかにしています*4。
みずほFGは、2026年度までに、2017年度の水準に比べ約1万9000人を減らすことを公表しています*5。

 

みずほFGの副業・兼業制度

みずほFGの副業・兼業には3種類あります。
まずは社内兼業です。担当業務を継続しつつ、他に興味のある業務やプロジェクトにも従事する制度で、初年度の2019年度には120人を超える応募者があったということです*6。
また、スタートアップ企業等への出向ポストを社内公募の対象に加えています。

そして、みずほFG以外の企業でも仕事をする「社外兼業」、いわゆる副業については、すでに206件の申請を認めています*7。
条件としては自社と競合しないこと、他社では雇用契約ではなく業務委託の形で仕事をすること、があります。
雇用契約を禁止する理由としては、労働時間管理などの調整が生じるということもありますが、優秀な人材が社外に流出しにくくする工夫であることも考えられます。
さらにみずほFGの副業・兼業制度には、就業時間外での起業・自営業も含まれています。

 

コロナ禍で進むデジタル化、「週休3〜4日制」導入も

そしてコロナウイルスのパンデミックを受けて、銀行の現場ではデジタル化が加速しています。
みずほFGの坂井辰史社長が日経ビジネスのインタビューに答えたところでは、2020年4月のインターネットバンキング経由の新規口座開設数は1年前と比べて2.2倍になっています。
また、紙の契約書への記入や押印などが不要で融資契約を結べる「電子契約サービス」を導入した企業が前年の16倍、2020年に入ってから毎月1000社以上増えているということです*8。

デジタル化は元から銀行業界の急務ではありましたが、コロナ禍でそれが加速しています。
一部店舗を個人向けに特化し小型化し、業務量や店舗あたりの従業員数削減を計画しているのは三井住友FGも同じです。
法人取引のデジタルシフトが加速する中で、個人向けの「密にならない店舗づくり」を進めるというものです。
業務量削減が従来の計画よりも早いペースで進む可能性があります。

このような中、みずほFGはさらに、希望者を対象に「週休3〜4日制」を認める方針を打ち出しました*9。
副業を認めるというより、後押しする形でもあります。また、働き方が大きく変わるきっかけにもなりそうです。

ただ、その分給与が減ることになるため、賛否両論があります。

 

「新しい働き方」はコロナ禍でさらに求められるように

副業に関しては、このような調査結果があります。

中途採用者にとって、副業を認めている企業の方が満足度が高い、というものです(図3)。

図3 中途採用者の企業への満足度
出所「働き方、副業・兼業に関するレポート(2020年)」株式会社マイナビ
https://www.mynavi.jp/news/2020/10/post_28795.html

特にコロナウイルスのパンデミック以降、収入維持への不安やテレワーク・時短勤務で時間に余裕ができたという会社員も多く、空いた時間をさらなる収入確保に充てたいという人は増えています。

2021年に入って再び緊急事態宣言が出されるなど状況の見通しがますます不透明になる中で、副業を認める人事制度は社員の精神衛生上でも良い影響を与える要素になっています。

コロナを機に変わった働き方や働き方に対する意識は、パンデミックが終息しても元に戻りそうにはありません。

「ニューノーマル」として、働き方を大幅に変更することもまた、社員の流出を防ぐ手立てになっていきそうです。

 

 

*1「みずほらしくない人に会いたい。」みずほフィナンシャルグループ
https://www.mizuho-fg.co.jp/saiyou/special/ebook/index.html

*2「全国銀行財務諸表分析」全日本銀行協会
https://www.zenginkyo.or.jp/stats/year2-02/
より、各年度決算の「全国銀行資本金、店舗数、銀行代理業者数、役職員数一覧表」を参照

*3「2017年度決算説明会」三菱UFJフィナンシャルグループ
https://www.mufg.jp/dam/ir/p2017年度決算説明会resentation/2018/pdf/slides1803_ja.pdf p47

*4「2019年度決算 投資家説明会」三井住友フィナンシャルグループ
https://www.smfg.co.jp/investor/financial/latest_statement/2020_3/2020_fy_summary.pdf p36

*5「統合報告書2018」みずほフィナンシャルグループ
https://www.mizuho-fg.co.jp/investors/financial/disclosure/pdf/data18d_all.pdf p34

*6「人材の活躍促進」みずほフィナンシャルグループ
https://www.mizuho-fg.co.jp/company/structure/c_culture/index.html7

*7「みずほ、副業で武者修行 リスクと利点てんびんに」日本経済新聞電子版 2021年1月4日 
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGH1912N0Z11C20A2000000?unlock=1

*8 みずほFG社長「コロナ前に『戻れない』ではなく『戻さない』」 日経ビジネス 2020年6月10日 
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00152/060900037/?P=1

*9「みずほが週休3~4日制 希望者、自分磨く時間に」日本経済新聞電子版 2020年10月7日
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO64708340X01C20A0EE9000

<清水 沙矢香>
2002年京都大学理学部卒業後、TBS報道記者として勤務。
社会部記者として事件・事故、科学・教育行政その後、経済部記者として主に世界情勢とマーケットの関係を研究。欧米、アジアなどでの取材にもあたる。
ライターに転向して以降は、各種統計の分析や各種ヒアリングを通じて、多岐に渡る分野を横断的に見渡す視点からの社会調査を行っている。

 

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