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意外なアプローチが支える外国人アルバイトの雇用

小売や飲食、サービスといった業界でも、外国人の従業員を多く見かけるようになりました。
さらに、近年は多国籍化の傾向にあります。
言葉も文化も多様な外国人の従業員を抱えながら、それでもサービスの質を下げずに経営していくにはどうすれば良いでしょうか。

 

変わる外国人労働者の国籍比率

厚生労働省によると、外国人労働者の数は年々増加していて、2018年では146万人にのぼっています。
ここ10年ほどで2.5倍以上に増えているのです(図1)。

図1 在留資格別外国人労働者の推移
(出所:「外国人労働者を巡る最近の動向と施策について」厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/11655000/000472892.pdf p2 

また、国籍をみると、中国(26.6%)、ベトナム(21.7%)、フィリピン(11.2%)が多い傾向にあります(図2)。

国籍も多様化しつつあり、ここ最近で大幅に増加しているのは、ベトナム、インドネシア、ネパールの労働者です。

図2 国籍別外国人労働者の割合
(出所:「外国人労働者を巡る最近の動向と施策について」厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/11655000/000472892.pdf p3

従業員が多国籍化していくと、言葉や文化、習慣の違いも様々になります。
しかし、国籍ごとに違う対応をするのは、なかなか難しいかも知れません。

 

多国籍になっていったコンビニエンスストア

筆者が以前よく利用していたコンビニエンスストアは大手のフランチャイズ店です。
自宅の目の前にあったため、ほぼ毎日通っていました。
最初の頃は、よく見かける店員は日本人が3人、中国人が3~4人といった具合で、もともと外国人の比率の高い店舗でした。

コンビニエンスストアの仕事は、やらなければならないこと、覚えなければならないことが非常に多いものです。
レジ周りだけでも、通常の接客に加え、宅配便の受付、公共料金の支払いへの対応、切手やハガキ、粗大ゴミ券の販売などが業務に含まれます。
さらに、決まった時間になると廃棄商品のチェック、ホットスナックの調理、ゴミ出しという仕事もあれば、キャンペーンの時期になるとくじ引きやクーポンの対応もあり、やらなければならないことは増えていきます。
また、深夜業務の場合は、明け方に届く弁当や新聞の振り分けといった仕事も伴います。

当初、この深夜帯に、中国語の流暢な日本人店員をよく見かけました。
この時間帯には、その日本人と中国人店員の2人ということがしばしばで、よく見ると中国語で仕事を教えたり指示を出しているのです。
この日本人店員の姿は日中も見かけることがありましたが、その大半は中国語で店員と会話をしています。
中国人店員の教育役だったのです。さながら外国人研修所のような店舗だなという印象を受けました。

それからしばらくして、日本人店員のシフトが減ると、今度はベトナム人、ネパール人と、違う国籍の店員を見かけるようになり、厚生労働省の統計をそのまま反映したような店になっていきました。
いずれも、言葉に関しては、接客に困らない基本的な日本語力といったところでしょうか。
深夜の電話対応もできるくらいです。

一度だけ困った様子を見かけ、私が手助けしたのは、免許証の落し物があった時で、名前の漢字の読み方が分からなかったという時です。
しかし読み方を教えると、電話の相手が落とした免許証だとわかり、事なきを得ました。
そもそも、人の名前となると、日本人でも正確に読めないものです。店としては致命的なことではないでしょう。
よほどのクレーマーでない限り、全時間帯、なんの不便もなく、テキパキとした雰囲気の良い店なのです。

 

後に知った店の仕組み

少ししてから分かったのですが、この店は中国人女性が経営していました。
黙々と棚を見て回り、商品の陳列をしているだけで、直接店員を指導することもなく、忙しくなると自らレジに入ってくる女性が、実はオーナーだったのです。

指導に当たっているのは、例の流暢な中国語を話す日本人の男性です。
時々、中国人店員も納得の行かないような顔で話を聞いていることもありますが、少し会話をかわせば納得し、理解する様子が度々見られました。大きな声を出すこともありません。
細部を中国語で説明できているから、店員もその場で納得するのでしょう。「話が早い」のです。

中国籍以外の店員へは、英語での指導でした。
また、休憩や勤務の交代時間に、よく一緒に外でタバコを吸いながら会話している様子をよく見かけました。
なるほど、こういう所でもコミュニケーションを取っているのだなあと感心したものです。
ただ、この「良い空気」を作っている最大の要因は他にありました。

 

自然と作られていたサポート体制

それは、平日の日勤帯にパートで勤務している女性の存在です。
「親しみやすい近所のおばさん」といった感じの人で、お客さんにもフレンドリーでよく喋る人でした。
世間話はもちろんのこと、タバコの銘柄を覚えてくれていたり、新しい外国人店員が入ると「先週から来たの。よろしくね」と紹介までしてくれるのです。
また、余裕のある時間帯に、とにかく外国人店員との会話が多いのが印象的でした。

「え、こういうのは中国にはないの?」
「これ、日本語でなんといいますか」

お互いの文化に興味津々なのです。
そして、通常の買い物だけでないサービスを求められて彼らが困っている様子を見ると、すぐさま、隣とレジを代わり、お客さんに「ごめんなさいね」と一言断りを入れます。
そして後に「あの仕事はこうやるのよ」と教えているのです。

とにかくコンビニは、やることが多いのですが、このように「瞬時のサポート」ができることで、お客さんが長く待たされることはありません。
かつ、外国人の店員にとっては、心強いはずです。

 

「歩み寄り」の必要性

厚生労働省の「外国人の活用好事例集」では、事業主や人事担当者にいくつかアドバイスを示しています。
その中に、以下のようなものも含まれています。

・職務上の意思疎通を円滑にするため、外国人社員を責任者に抜擢することも有用

・外国人社員だけでなく、日本人社員の語学力を向上させることで相互理解を図ることも重要

・外国人社員も気軽に悩み事などを相談できる職場環境を整備

 

(引用:「外国人の活用好事例集」厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/000541696.pdf p8、p10、p12


この店では、この3つのポイントが自然と揃っていたのです。
店長が中国人であることで、彼らとのコミュニケーションが円滑であることは想像に難くありません。
また、中国語、英語ともに堪能な日本人従業員が指導役に当たることで、仕事もわかりやすく伝わることでしょう。
母国語で指導を受けられるメリットは非常に大きいと言えます。

そして、パート女性の存在によって、精神的なサポートが存在しているのです。
勤務時間中でもすぐ声をかけられる安心感があるうえ、仕事を通じて自分の「居場所」を感じることにも大いに貢献してくれるでしょう。
「お母さん」のような存在があることで、職場で孤立することもありません。
パート女性個人の性格もあるのでしょうが、結果的に、彼女はこの職場での従業員皆のメンターなのです。

例えば自分が海外で一人で働いてこい、と言われた時を想像して下さい。
職場にこのような女性がいてくれれば、とても安心するのではないでしょうか。

 

一方通行を避けるために

仕事そのものについては、研修制度を設ける企業は多く存在します。
しかし、日本で暮らす彼らのメンタルの拠り所を作ることが、コミュニケーションを円滑にする何よりのベースになるのです。
安心できる場所でなければ、まず悩み事を相談する勇気すら出ない、となってしまうでしょう。
そして仕事に慣れてくると、むしろ長く働いてほしい人材に変わり、良い循環が生まれるのです。

一方的に教え込まれ、こなすだけではモチベーションは続きません。
これは外国人労働者に限ったことではないでしょう。

特に単身者の場合は、「海外で一人で暮らしている」彼らの不安を取り除くことが第一に必要なことと考えて、様々な価値観を持つ有能な人材を受け入れてみては、いかがでしょうか。

 

【著者】
清水 沙矢香                              

2002年京都大学理学部卒業後、TBS報道記者として勤務。
社会部記者として事件・事故、科学・教育行政を担当、その後、経済部記者として主に世界情勢とマーケットの関係を研究。海外でも欧米、アジアなどでの取材にあたる。
Webライターに転向して以降は、各種統計の分析、業界関係者へのヒアリングを通じて、多岐に渡る分野を横断的に見渡す視点からの社会分析を行なっている。

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