副業(ダブルワーク)推進の流れが加速していますが、2か所の職場と雇用契約を締結する場合、労働基準法の時間外労働に関するルールがネックになります。
そこで活用を検討すべきなのが「業務委託」です。
業務委託による副業は、事業主・ダブルワーカーの双方にとってメリットがあるので、ダブルワークに関する選択肢の一つに加えておきましょう。
この記事では、業務委託によるダブルワークについて、事業主・ダブルワーカーのそれぞれの視点から、メリット・デメリットを解説します。
目次
二重雇用によるダブルワークの問題点とは?時間外労働のルール
労働基準法上、労働時間の上限は原則として「1日8時間、1週間40時間」と定められています(同法32条1項、2項)。
2か所の職場と雇用契約を締結してダブルワークを行う場合(二重雇用)、この時間外労働に関するルールがネックになってしまいます。
●2か所での労働時間が通算されてしまう
二重雇用の場合、時間外労働に関するルールとの関係では、2か所での労働時間が通算して考慮されます。
たとえばA会社で6時間勤務した後、同じ日にB会社で4時間勤務したとします。
この場合、1日の通算労働時間は10時間ですので、2時間分の時間外労働が発生したものとして扱われてしまうのです。
●二重雇用は36協定と割増賃金が障害になりやすい
「1日8時間、1週間40時間」という労働時間の上限は、使用者と労働組合などが「36協定」を締結することにより、延長が可能になります。
しかし36協定では、延長後の上限時間を定めなければなりません。
二重雇用の場合、36協定で延長された上限時間をも超過してしまうリスクが高いといえます。
また、時間外労働をした労働者に対しては、使用者は25%以上の割増賃金を支給する義務を負います。
二重雇用の場合、割増賃金の支払い義務は、基本的に後から雇用した事業主が負担します。
これでは、事業主がダブルワーカーを雇用する意欲が削がれてしまうでしょう。
割増賃金なしで自由に働いてもらうための「業務委託」
労働基準法上のルールによるダブルワークの障害を解決するには、「業務委託」が有効です。
●業務委託には労働基準法上のルールが適用されない
業務委託とは、仕事を発注する側と受注する側が、対等な形で業務の受委託を行う契約をいいます。
業務委託の場合、当事者は使用者と労働者の関係にはなく、あくまでも対等な立場で取引を行うことから、労働基準法のルールは適用されません。
したがって、業務委託の形式によれば、労働基準法上のルールを気にすることなく、仕事を発注したり受注したりすることができるのです。
●業務委託は「指揮命令関係」がないことがポイント
業務委託が雇用と異なるのは、当事者の間に「指揮命令関係」が存在しないことです。
具体的には、「仕事を受けるか受けないか」の自由が、受注側(ダブルワーカー)に対して実質的に保障されていなければなりません。
もし受注側に仕事を断る自由が認められていない場合、業務委託という名目だったとしても、実質的には雇用と判断されてしまうリスクがあるので注意しましょう。
事業主が業務委託で仕事を発注するメリット・デメリット
事業主にとっては、ダブルワーカーと業務委託を締結することには、フレキシブルな労働力を確保できるメリットがあります。
その反面、指揮命令関係を前提としていないことから、ダブルワーカーに対するコントロールが弱いことが難点です。
●事業主のメリット①:社会保険料の負担がない
雇用契約によって従業員を雇う場合、事業主は厚生年金保険料・健康保険料・雇用保険料を労使折半で支払わなければなりません。
この社会保険料は、従業員に対して支払う賃金の何割かに及ぶため、事業主にとっては大きな負担になります。
業務委託の場合、事業主に社会保険料の支払い義務はありませんので、相対的に安価で労働力を確保できるのが特長です。
●事業主のメリット②:完全成果報酬制が可能
雇用の場合、完全成果報酬制は認められず、事業主は従業員に対して一定の時間給を保障しなければなりません(労働基準法27条)。
これに対して業務委託であれば、完全成果報酬制によって業務を発注することが可能です。
事業主としては、完全成果報酬制による業務委託により、費用対効果を強く意識した人事・業務管理ができるメリットがあります。
●事業主のメリット③:契約を打ち切りやすい
雇用の場合、労働契約法上の「解雇権濫用の法理」によって、事業主が一方的な解雇をすることのハードルは非常に高い難点があります。
一方業務委託の場合は、「解雇権濫用の法理」が適用されません。
したがって、契約満了に伴って業務委託契約を終了することも比較的容易であり、労働力の流動性を確保できる利点があります。
●事業主のデメリット:業務ごとに個別の承諾を得る必要がある
業務委託では、事業主が受注側(ダブルワーカー)に対して指揮命令権限を有していません。
そのため、業務を頼む際には「命令する」のではなく、あくまでも「お願いする」形になります。
ダブルワーカーには、業務を受注するかしないかを選択する権利が業務ごとに発生しますので、事業主としては個別の承諾を得る手間がかかる点がデメリットといえるでしょう。
ダブルワーカーが業務委託で働くことのメリット・デメリット
ダブルワーカーにとっては、働き方によっては、業務委託の方が雇用よりも収入が増えるメリットがあります。
その一方で、雇用の場合と異なり労働基準法の保護が及ばない分、リスクが高い働き方ともいえます。
●ダブルワーカーのメリット:働きぶりに応じて収入が増える
業務委託でダブルワークをすれば、労働基準法上の時間外労働に関するルールが適用されないので、ダブルワーカーとしては「働きたいだけ働く」ことができます。
業務委託の場合、報酬体系も完全成果報酬制が多いため、自分の働きに応じて収入が比例的に増えていくことがモチベーションに繋がることも多いでしょう。
●ダブルワーカーのデメリット①:仕事を受注できるとは限らない
業務委託は雇用と異なり、月々の賃金(基本給)が保障されているわけではありません。
そのため、ダブルワーカーの収入は受注内容によって大きく変動します。
業務委託の契約内容にもよりますが、発注側(事業主)には仕事を発注する義務はなく、発注の量・内容ともに発注側の裁量に委ねられているのが通常です。
したがって業務委託の場合、ダブルワーカーが仕事を安定して受注できるとは限らず、収入が安定しないリスクがあります。
●ダブルワーカーのデメリット②:契約を打ち切られることがある
事業主側からの解雇が難しい雇用と異なり、業務委託契約が期間満了などにより終了することはよくあります。ダブルワーカー側としては、複数の事業主から業務を受託するなどして、契約打ち切りのリスクを分散しておく必要があるでしょう。
まとめ
業務委託は、雇用よりもフレキシブルに事業主・ダブルワーカーのニーズを満たせる点で、副業時代にマッチした働き方といえます。
雇用と比較した際の特徴を理解したうえで、業務委託という選択肢を持っておくことは、事業主・ダブルワーカー双方にとって、働き方の可能性を広げることに繋がるでしょう。
ただし、業務委託は収入が不安定になる、契約打ち切りのリスクがあるなど、ダブルワーカーにとって注意すべき点が多いことも事実です。
ダブルワーカーとしては、事業主との間でトラブルを生じないように、業務委託の性質を正しく理解したうえで、契約内容をきちんと確認するよう努めましょう。
阿部 由羅
ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。専門は不動産・金融法務。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連の記事執筆にも注力している。
https://abeyura.com/
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