長引く取引先の不振にコロナ禍が直撃。
「自分たちが変わらなければ先はない」そんな危機感から、アルバイト採用にあたって、ある大決断をした2代目社長がいます。
ユニークな求人を出し、若い従業員の確保に成功すると、他の社員の意識までもが180度変わったといいます。
店先に行列を作るまでになった小売店がとった戦略とはどのようなものでしょうか。
「京都特産ぽーく」の水森 猛社長にお話を聞きました。
(聞き手;清水沙矢香)
目次
危機だからこそ求めた「業界を知らない人材」
——アルバイトの積極採用を決めた理由を教えてください。
当社は長く百貨店やスーパーに商品を卸していたのですが、特に百貨店ではこの10年ほど、不況もあって売上は右肩下がりになってしまっていました。
やはり通販、特にオンラインショップに力を入れていかないと先はないだろうという思いは先代の頃からあったのですが、いざ自分が継いでいろんなことに挑戦するとなると私だけではおよそ時間が足りなくて。
そこで、ECの知識がある人を探していました。
——どのような募集を出したのですか?
インターネットの求人サービスを使って、肉ともハムともソーセージとも書かずに、「自由な発想で会社を良くしてくれる人」という条件だけを示して募集を始めました。
——ずいぶんと大胆ですね。
そうかもしれません。しかし会社の行き詰まりを感じていたので、とにかく自分にないものを持っている人、若い人や新しい知識を持っている人に来てもらいたいという一心です。
自分の中に疑問があったんですね。お客様に対して、自分が発信したいこととお客様のニーズがずれているのではないか?という。それもあって、自分ができないことをできる人を探し求めていました。
——すると若い人から応募があった、と。ご自身にないものを持っている若い人の第一印象はどんなものでしたか?
正直なところ、面接をしていて、何をしゃべっているのか分からないということもありました。私は若い人の間で流行っている言葉を知らないですから。「ケチャップは正義」と言われて「?」となりましたし。「何にでも通用する」という意味で「正義」という言葉を使うんですね。
住む世界が違うとまで思いました。
——それでも採用に踏み切ったのですね。
はい。Instagramが得意で1.5万人のフォロワーを持つという子や、絵が得意という子、こちらもInstagramでフォロワーが8000人くらいだったと思います。あとは趣味で映像の編集なんかをしている子、といった、自分では想像のつかない領域の特技を持つ人が来てくれましたので。
SNSも、私は個人で少し使う程度でその世界だとか存在感、重要性のようなものは全くわかっていませんでしたが、自分にないものを持っている、それが全てです。
勤務条件はひとつ。「自分の特技で会社に貢献すること」
——応募者のみなさんは、どんな動機で面接に来られたんでしょうか?
「自由そうだから」というのが大きな理由でした。
別にハムやウインナーに興味があるわけではないんです。でも、私としても素人であるほうが良いと思っていましたし、自由にやってくれることを望んでいましたので、特に問題はありませんでした。
——まずどんな仕事をお願いしたんですか?
お願いしたというか、指示をしたことは特にないんです。「会社に貢献すること」というのだけが条件ですから。
ただ彼女たちは自主的に、まず得意なInstagramでコンテンツ作成とアップロード、あとはYouTubeで工場見学の動画を公開してくれています。
通販サイトのデザインもきれいにしてくれました。
京都特産ぽーくの工場見学動画(YouTubeより)
https://www.youtube.com/watch?v=HC4yLKqdCRI
——文字通り、得意なことですね。SNSやYouTubeを得意とする若者の入社で、社内に何か変化は生まれましたか?
これが、180度変わったんです。
基本的にモノを作る会社ですから、モノづくり職人はたくさんいても彼らは売ることは知らないんです。営業は私ひとりでやっている状態で、工場の外の世界を知らないんですね。
それで、うちは店舗は持っていないんですが1年半位前から月に3~4日間だけ工場直販というのを始めていました。最初は鳴かず飛ばずでしたが、SNSの効果もあるんだと思います、お客さんが増え始めて。
偶然新聞に取り上げられた効果もあって5月には、4日間で700人ものお客さんが来られたんです。大行列になってしまいました。
すると店番が足りなくて、製造部門の職人も店頭に立たざるを得なくなったんです。職人はそこで始めて直にお客さんと接することになったんですよね。すると「おいしいねー」と声を掛けられるわけです。それがものすごいモチベーションになったようで。そこから変わりました。
——職人の皆さんにとってお客さんと接するのは初めての経験ということでしょうか?
そうなんです。例えば知り合いに自分が作った商品をあげて、「おいしいねえ」と言われるのは当たり前なんです。それが、店頭に来られるのはお金を払って商品をお求めのお客さんです。それは全く違いますからね。
——社内の空気も変わりましたか?
大変化です。それまで閉鎖的というか、売ることを全く知らなかった職人たちが、新商品や売り出し方のことについてもアイデアを出すようになりました。工場直売日の数日間は工場を止めて製造部員も店頭に立つことにもしました。
生産を数日間止める分、前後の期間の仕事量は増えてしまうのですが、お客さんと接することが喜びなんだと思います。ずいぶんな変化です。
アルバイトのモチベーション維持の仕掛けとは?
——新しく入ったアルバイトさんたちは、どんなことをモチベーションにしているんでしょうか。
自由であることだと思います。自主性に任せて、私は指示はしませんから。それでいて私が思っていることをいつも超えてくれる、まあ私の視野が狭くなってしまっている部分もあるのかもしれませんが。
私が主導してしまうと、ホームページだって肉だのミンチだの、そんな写真ばかりのものになっていたでしょうしね。
京都特産ぽーくのInstagram。商品を使った様々なレシピを紹介している
https://www.instagram.com/kyototokusanpork_2000/
——自由にやってもらって、実績にはどう繋がるんでしょう?
今は様々な個性を集める、「点」を集めている段階で、やがてそれが「線」になり「面」になればと考えている段階ではあるんですが、手応えは感じています。
LINEでのクーポン配布も積極的にやるようになってリピーターさんは非常に増えましたし、Instagramのフォロワーも開設から2か月ちょっとで200人を超えています。
SNSで十分集客できる見込みが出てきたので、以前は通販カタログに載せてもらう形で広告を出してたんですが、それはもうやめても良いと思う段階に来ました。実際、6月はやめました。
——人を入れていくからにはどのくらいの売上にしたい、という目標はありますか?
あります。2年後をひとつの目処にして、ECでの売上高目標を立てています。今の何十倍という数字ですけれど。
次世代につながる会社作りは経営者の責任
——すると、今は人材への先行投資の時期という意味合いもある段階でしょうか。
そうです。
もちろん、目標に達する見込みもないのに人件費だけ増えていくわけにはいきません。と言っても今まで通りのやり方では先はないというのは実感していますから、「人」に先行投資するというのはある程度必要だと思うんです。
自分にはないものを持っている、自分にはできない新しいことをやってくれる、今はそれが大きな価値です。社内を変えてくれたわけですし。
——手作り商品ですと生産量に限界がありますし、売り方が重要になりますね。
はい。頑張った量イコール金額、となる世界でもありません。相手がどのくらいの値段をつけてくれるかですから。
それに、会社を残していくために新しいものを取り入れていくのは必要だと思っています。後世に残る会社を作って、次の世代の子たちが継げるようにするのが私の責任だと思っていますので。
——ありがとうございました。
ありがとうございました。
とりあえず今のところは絵に描いたようなサクセスストーリーですね、とお伺いしたところ水森社長も「そうですね」と笑っておられました。しかし社長ご自身の勇気と決断力があってのことと思います。
募集方法も「楽しく生きるために働く」という若い世代にマッチしていたのかもしれません。
売上と整合性を取っていかなければならない、というこれからまた厳しい局面をむかえる可能性もあるでしょう。ただ、コロナ禍にあって、イノベーションというお金ではなかなか買えない大きな価値を手に入れたことは事実でしょう。
<清水 沙矢香>
2002年京都大学理学部卒業後、TBS報道記者として勤務。
社会部記者として事件・事故、科学・教育行政その後、経済部記者として主に世界情勢とマーケットの関係を研究。欧米、アジアなどでの取材にもあたる。
ライターに転向して以降は、各種統計の分析や各種ヒアリングを通じて、多岐に渡る分野を横断的に見渡す視点からの社会調査を行っている。
https://twitter.com/M6Sayaka
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