仕事でも私生活でも、パソコンやスマートフォン、インターネット、ゲーム機など、ほとんどの人がIT機器に囲まれて暮らしています。
しかし便利な一方で、こうしたIT機器によって生じる「テクノストレス症候群」が社会問題になっています。
パソコンやスマートフォンの画面ばかり見ていると目に良くない、という印象はあるかもしれませんが、それだけでなく心身に大きな影響をきたすようになるテクノストレス症候群とはどのようなものか、どのような対策ができるかをご紹介します。
テレワークの導入や運用にあたって注意が必要です。
目次
テクノストレス症候群は2種類
「テクノストレス症候群」とは、1984年にアメリカの臨床心理学者によって名付けられたものです。
相反する2種類の症状があり、「テクノ依存症」と「テクノ不安症」に分かれます。
それぞれの主な症状は以下のようなものです(図1)。
図1 テクノストレスの主な症状
(出所:「IT化とストレス」労働政策研究・研修機構)
https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2011/04/pdf/034-037.pdf p34
テクノ依存では、コンピューターだけでなくスマートフォン、タブレット、ゲーム機も同様です。依存症についてはよく耳にする人もいらっしゃることと思いますが、進行すると社会生活に支障をきたすまでになってしまいます。
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テクノ依存(ネット依存)の症状と傾向
まず、テクノ依存について詳細をみていきましょう。現代では、ネット依存と言ってよいでしょう。
なお、ゲーム依存に関しては、「ゲーム障害(症)」として国際的な診断分類である「ICD−11」に加わっています*1。
そして、新型コロナウイルス流行前よりも、患者の症状の悪化傾向が指摘されています*2。自宅で過ごす時間が長くなったことも影響していると考えられますので、知っておきましょう。
ネット依存・ゲーム障害の新規患者数は増加傾向
テクノ依存(ネット依存)とは、コンピュータやスマートフォンの情報機器に没頭してしまい、それがなければ心身に症状が出る状態を指します。オンラインゲームもネット依存の一部です。
SNSでどのような反応があるか気になって一日中スマートフォンを触っていないと精神的に不安定になってしまう、ゲームにのめり込み、やめなければいけない時でもやめられない、そのような症状です。
厚生労働省の資料によると、ネット依存、ゲーム障害と診断された新規患者数は急増しています(図2)。
図2 ネット依存患者とゲーム障害の新規患者数の推移
(出所:「ネット依存・ゲーム障害の治療の実態と課題」厚生労働省資料
https://www.mhlw.go.jp/content/12205250/000759248.pdf p7
ネット依存から職場での問題行動へ
ネット依存から休職に至ってしまった例が紹介されています*3。
32歳男性。大学2年目頃からインターネットゲームにのめり込み昼夜逆転、大学を3年留年。卒業後3年目に父親の会社の取引先に就職。しかし入社3か月目頃に父親の会社がうまく立ちゆかなくなったことから、今度は大事な情報を見逃すまいと週30時間以上会社のパソコンでネットにアクセス、会社に寝泊まりするように。
その頃より睡眠障害の状態に至ったと考えられる。職場で朝の点呼をサボり昼過ぎに報告に来るといったルーズさが目立つようになり、そのことを指摘された際にカッとなって同僚を突き飛ばし、全治1か月のケガを負わせた。
会社側は事情聴取の結果直ちに解雇を決定。男性は精神科を受診、「脅迫障害(ネット依存)、不安障害及び非24時間型睡眠障害」の診断を受けた。
<引用:「インターネット依存から睡眠障害、職場での問題行動を起こし、休職となった事例」厚生労働省 より筆者抜粋>
https://kokoro.mhlw.go.jp/case/673/
近年、「ゲーム=悪」と報じられる向きがあります。
この事例から読み取れる事実として、男性がゲームにのめり込み睡眠障害に至ったことはもちろん問題視すべきです。
ただ、その奥にある、あるいはそこから生じた「ネット依存」が物事の深刻さを増幅させています。
父親の会社の不振について何か情報を得る手段として真っ先にネットを選び、それ以外を思いつけなかったと推察される点です。また、自身の精神的安定をはかる唯一の方法だったのではないかと筆者は考えます。ネットに触れていないと、いてもたってもいられない「脅迫障害」「不安障害」という診断がそれを物語っているのではないでしょうか。
よって、ゲームに限らず、何かを知るにあたってネット以外の選択肢を持たないことの危険性は見逃せないと考えます。
スマホとネット依存の相性
また、ネット依存症はスマートフォンユーザーに多いこともわかっています(図3)。
図3 スマートフォン保有別のネット依存傾向
(出所:「平成26年版 情報通信白書」総務省) p286
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h26/pdf/n4300000.pdf
スマートフォン保有者で「ネット依存的傾向が高い」人の割合が多くなっていることがわかります。
SNSなどでのコミュニケーション、オンラインゲームの利用に依存傾向が高く見られます。
理由としては、スマートフォンはいつでも手軽に操作できるということがあるでしょう。手軽さゆえに、のめり込んでいることに気づきにくいのかもしれません。
在宅時間が増えている今の時期には注意が必要です。
ネット依存チェックリスト
アルコール依存症のスクリーニングテストでも知られる国立病院機構・久里浜医療センターは、インターネット依存度テストを公開しています*4。
20の質問に答え、度合いによって点数を足していく形式で、合計点数によって依存度合いをはかることができるというものです。
気になる方は是非試してみてください。
テクノストレスのもうひとつの側面「テクノ不安症」
テクノ依存とは逆に、「テクノ不安症」もまたテクノストレスのもうひとつの症状です。
中高年に多く見られ、コンピュータへの苦手意識から、パソコンの前に座っただけで不安になり、冷や汗、震えといった拒否反応を示すというものです。悪化するとイライラや絶望感、抑うつ状態に陥ることもあります。
パニック障害を発症することもあります。
また、スマートフォンにも慣れていないという場合、電話が鳴るたびにストレスを感じるということも考えられます。
この場合、経営者は、マイペースに仕事をできるよう配慮することや、場合によっては治療を促し、配置転換を検討する必要性も出てきます。ストレスチェックを欠かさないように気をつけることも重要です。
在宅ワークとITの関係に注意を
ここまで、テクノストレス症候群の2つの側面についてみてきました。
依存症にせよ不安症にせよ、生活や働く環境の変化が悪影響を与える可能性は拭いきれません。特に不安症の場合、在宅では周囲に聞ける人がいないことも不安を加速させることも考えられます。
経営側としてできる対策としては、以下のようなものが考えられます。
・定期的に面談をし、生活の変化や様子を把握する。
・自宅で空き時間をどのように過ごしているかをヒアリングする。
・パソコンに慣れない従業員に対してはその旨をヒアリングし、自分のペースで業務を進められるよう配慮する。
・テレワーク下こそストレスチェックを強化する。
姿が見えない環境で業務を進めていくには、これまでよりも細やかなチェックと配慮が必要です。
また、オフィスと違って十分な光量を確保しにくい自宅でのパソコン作業が続く場合、目の疲れからくる肩こりやストレスにも注意を促しましょう。
*1、2「ネット依存・ゲーム障害の治療の実態と課題」厚生労働省資料
https://www.mhlw.go.jp/content/12205250/000759248.pdf p2、p25
*3「インターネット依存から睡眠障害、職場での問題行動を起こし、休職となった事例」厚生労働省
https://kokoro.mhlw.go.jp/case/673/
*4「IAT:Internet Addiction Test(インターネット依存度テスト)」久里浜医療センター
https://kurihama.hosp.go.jp/hospital/screening/iat.html
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