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会社の金品を盗むパートやアルバイトの存在 もしかしたら経営トップの問題かも知れません

会社のお金や資産を盗む行為は、言うまでもなく犯罪です。
そして、窃盗が「10年以下の懲役または50万円以下の罰金」(刑法235条)であるのに対し、会社のお金や資産を盗む業務上横領は「10年以下の懲役」(刑法253条)というのが刑法の規定です。
つまり、業務上横領には罰金がありません。
言い換えれば、会社の資産を盗む行為は非常に重く、罰金で済まされることはないということです。

にも関わらず、会社のお金や資産を盗む人はあとを絶ちません。

出典:経済産業省「中小企業のリスクマネジメントと信用力向上に関する調査」p35
https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2016fy/000521.pdf

中小企業が直面するコンプライアンス上のリスク調査結果によると、顕在化したリスクの上位は

・取引先の経営危機・倒産への対応(債務債権状況の確認、支援要請への対応等)(34.9%)
・労働問題(19.7%)、
・従業員による不正への対応(着服・横領等)(15.5%)

というもので、企業側でも従業員の着服や横領に悩んでいることが窺える結果となっています。
また大企業に至っては、従業員による不正への対応(着服・横領等)が実際に顕在化した率は実に32.8%にも昇ります。
3社に1社で着服や横領が実際に発生しているのであれば、もはやこれはレアケースではありません。
必ず備えなければならない、対処すべきリスクであると言って良いでしょう。

しかし冷静に考えて、会社の金品を着服・横領しても発覚しないことなど、ほぼありません。
そして確実に仕事を失い、更に懲役刑を課される可能性もあるなど、どう考えても割に合わない行為です。
ではなぜ、従業員は会社の金品を着服・横領してしまうのでしょうか。
そして会社は、このようなリスクにどのようにして備えるべきなのでしょうか。

目次

本当の問題はどこにあるのか

懲戒処分すら採れない

問題の本質を探ろう

本当の問題はどこにあるのか

一般に会社の金品を盗むような行為は、従業員の仕事に対する満足度が低い状態ほど発生しやすいと言えるでしょう。
仕事にやりがいがない、給与水準が低い、満足に休みが取れないなど理由は様々ですが、筆者がかつてTAM(ターンアラウンドマネージャー)を務めた会社は、まさにそのような状態でした。

そんなある日、一人の社員が言いにくそうに相談をしてきてくれたことがありました。

「部長、パートやアルバイトさんが食品在庫を頻繁に持って返ってしまうので困っています。」
「原料の在庫を持ち帰ってしまうのですか・・・?持ち帰れるようなものがあるんですか?」
「業務用の小麦や米とか、大きな袋のものはもちろん無くなりません。しかし小ロットで仕入れている加工食品は頻繁に無くなります。ひどい人だと、業務用の醤油ボトルなど大きなものも盗っています。」

さらに詳しく話を聞いてみると、そのようなことをする人は少数ではないようです。
そして一種の「役得」と考え、多くの人で習慣化していると思われるなどかなり悲惨なものでした。

「ちょっと酷いですね・・・。しかしそこまで盗る人がいるなら棚卸しが異常値になりそうなものですが、棚卸しはどのレベルまで記帳しているのですか?」
「付けていません」
「え?」
「部長、現場に棚卸しをするような人手の余裕なんかありません。仕入額に一定の割合を掛けて報告をしているだけです。ご存じなかったんですか?」
「・・・知りませんでした。」

現場のオペレーションがそんな事になっていると聞き、さっそく倉庫に向かいましたがそこには想像以上の惨状が広がっていました。
全く同じ原料でありながら、いくつもの箱や袋が開封状態のもの。
後から仕入れた食材が先に開封され、また既に使用期限が切れた食品が廃棄されていないなど、材料を盗む社員がいる問題など、まさに氷山の一角です。

この状況を工場の幹部にシェアし、さっそく対策を話し合いましたが、
「倉庫に防犯カメラを取り付けて出入りを監視しましょう」
「全ての物品を正確に棚卸しして、毎月記帳しましょう」
「横領は厳罰にすることを、社員やパート・アルバイトに周知徹底しましょう」
と、問題の一部だけにフォーカスした対策しか出てきません。

しかしここで発生している問題の本質は、

・発注のルールが存在せず常に過剰な在庫があること
・先入れ先出しのルールすら守られていないこと
・悪いことをしたほうが得だという文化が出来上がってしまっていること

です。
このような状態で監視カメラを取り付けるのは、汗臭いシャツを洗わずにニオイ消しを吹き付けるようなもので、全く意味がありません。

結局この際は、追加発注するタイミングを品目ごとにルール化し、また先入れ先出しを物理的に強制するよう倉庫を改装することで物の流れを管理しました。
また在庫には極力、納品書のコピーをそのまま備え付け、取り出した際に消し込んでいくという程度の、最低限の出庫管理だけをルール化するにとどめました。
しかしただそれでも、在庫の横領はほぼ解消されることになります。

懲戒処分すらとれない

しかし、問題はこれでは終わりません。
一度、「社員による金品の横領」という問題を潰しにかかると、
「他にもやっている人がいます!」
という訴えが筆者の元に次々に寄せられるようになります。
その多くが、管理が難しい安価な消耗品の横領でしたが、中には驚くようなものもありました。

社用車の給油に出掛けるたびに交際相手とガソリンスタンドで待ち合わせ、会社のプリペイドカードで半分だけ、交際相手の車に給油している正社員の女性。
切手の購入の際にシートを何枚か抜き取り、金券ショップで換金していた総務のパート女性。
いずれも、広い意味での在庫管理がなかなか緩くなるところばかりです。

色々な考え方があるとは思いますが、これらの問題について筆者は結局、事実関係を特定して社員やパート・アルバイトを懲戒処分にすることはありませんでした。
というよりも、「悪いことをしたほうが得だ」と考えている従業員が多すぎて、処分をしていたら大変なことになると考えたというのが、正直なところです。

そのため対症療法として、まずは「その行為そのものをできないルール」を定める。
その上で、「悪いことをしたほうが得だという文化」を、時間を掛けて潰していくことに注力するという現実路線をとらざるを得ませんでした。

 

問題の本質を探ろう

最終的にこれら金品の横領は、会社の業績が回復し給与水準も回復させることでそのほとんどが解消します。
パート・アルバイトの時給に特段の変化はありませんが、結局のところ社員のモラルが崩壊するとそれはパート・アルバイトの働き方、仕事への取り組み方にも大きく影響するということです。
正社員の立ち居振る舞いが模範的で品行方正であるのに、パート・アルバイトの素行だけが不良であることはありえません。
逆に言えば、パート・アルバイトの素行は、正社員、幹部社員の鏡であるということです。

会社の中に、「悪いことをしたほうが得だという文化」があるのであれば、それは経営トップ以外の全従業員が、多かれ少なかれそのような価値観に染まっている可能性があります。
さらに深刻なことは、一度そのような価値観が会社に浸透してしまうと、心ある従業員から会社を去ってしまうことです。

心ある従業員にとっては、悪いことをするような同僚、部下はアンモラルであり許せない存在です。
しかし会社がその存在を放置すれば、まじめに仕事をすることがただただバカバカしく、大きなストレスになるでしょう。
結果、自分まで同じような行為に走ってしまう人もいれば、バカバカしくなり会社を辞めることを選ぶ従業員も出てきます。
そして、「悪いことをしたほうが得だという文化」が、ますます濃縮されていきます。

冒頭で申し上げたように、業務上の横領とは、単純な窃盗と比べて重い犯罪です。
どう考えても割に合わない行為ですが、しかしそれでもそのような行為をしてしまう人が跡を絶たないことは、決して従業員だけの問題ではないということです。

もし自社で同様の行為が疑われるようなことがあった場合には、一度「問題の震源地」を探る努力をしてみてはいかがでしょうか。
顕在した問題だけを潰しても、それは汗臭いシャツにニオイ消しを吹き付けるだけの行為であるかも知れません。

 

【著者】
桃野泰徳(ももの・やすのり)                                
1973年滋賀県生まれ。
大和証券を経て、いくつかのベンチャー企業でCFOを歴任し独立。
個人ブログでは月間80万PVの読者を持つなど、経営者層を中心に人気を集める。

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