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内部告発のリスクを低減!健全な組織づくりにも役立つ「公益通報者保護法」を知ろう!

企業の不祥事や社内の犯罪行為は、経営者がどれだけ気をつけていても完全に把握しきれるものではありません。
経営者が知る前に、「内部告発」によって社外の行政機関やマスコミなどに先に知られて明るみに出てしまうということもありますが、そうなれば一大事です。

不祥事に関する世の中の目は厳しくなっています。
そこで近年重要視されている「内部通報」制度について解説します。

目次

企業不祥事「内部告発」と「内部通報」の違い

内部通報制度の整備・運用方法

匿名通報と公益通報者保護制度

「自社にも起こり得る」「二次不祥事の防止」を念頭に

企業不祥事「内部告発」と「内部通報」の違い

従業員の不正が企業の内外に与える影響には、さまざまなものがあります。
イメージが湧きやすいのは食品偽装ではないでしょうか。
外国産の食材を国産と偽っていた、などの不正で、過去多くの事業者が営業停止・廃業に追い込まれてきました。

建設や製造業でのデータ偽装といったものもあるでしょう。
この場合は重大な事故につながりかねず、購入した消費者が危険に晒されるということもあります。
他にも着服、不正会計、文書改ざん、など、不祥事の種類は多岐に渡ります。

さて、従業員がこうした不祥事を社内で発見し、誰かに知らせようとする場合、取る行動は2つに分かれます。

まず「内部告発」です。
これは会社の外の監督官庁やマスコミ、インターネット掲示板などで自社の不正を告発するというものです。

この場合、経営者は、監督官庁やマスコミ、報道を見た取引先企業から問い合わせが来てはじめて不祥事を知るという形になってしまいます。
不祥事そのもの以上に「発見できていなかった」という会社の姿勢が問われ、さらには調査不足のまま不祥事について公表しなければならなくなるでしょう。
質問に答えられないと「隠蔽しているのではないか」とまで指摘される事態に発展します。

企業不祥事のニュースでは、突然メディアの前に立たされて質問攻めにあい、しどろもどろになっている経営者の姿を目にしたことのある人も多いことでしょう。
経営者にとってもそれだけ、青天の霹靂ということです。

もう一つは「内部通報」です。
これは社内に通報窓口が整っており、かつ機能している場合に限りますが、外に漏らす前にまず社内の担当窓口に通報し、事実を知らせるという行動です。

通報を受けた場合、すぐに内部調査を始めることが可能で、場合によっては監督官庁や取引先など関係する所にいち早く公表することができます。
点検能力、自浄作用を発揮するという意味では、企業の社会的信用が守られるのはこの形でしょう。

一方で、中小規模の事業者ではなかなか導入が進んでいません(図1)。

図1 内部通報制度の普及・整備状況(「内部通報制度の実効性向上の必要性」消費者庁)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_system/whisleblower_protection_system/pr/pdf/pr_191018_0003.pdf p18

その理由として多いのが、「どのような制度なのか分からない」「導入の方法が分からない」というものです(図2)。

図2 内部通報制度の未導入理由(「内部通報制度の実効性向上の必要性」消費者庁)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_system/whisleblower_protection_system/pr/pdf/pr_191018_0003.pdf p18

しかし、不正は発見が遅れれば遅れるほど深刻になり、賠償すべき金額や責任も一般的に大きくなると思われます。
また、経営者の知らぬところで「内部告発」が行われていたとなると、企業イメージを大きく損ないます。
最悪の場合、製品事故で人の命に関わるということもあります。

不祥事に関しては、「うちに限って・・・」と考えず、「必ず起きるもの」と構えておいたほうが良いでしょう。

そして「不祥事を防止することは100%不可能」との考えに立って内部通報制度を知っておきたいところです。

では何をすれば良いのか、以下に説明していきます。

内部通報制度の整備・運用方法

内部通報制度を整備する手順や、その考え方を簡単に紹介していきます。

まず、通報対象になる事象の設定です。
法令違反はもちろんのことですが、内部規定違反などを通報の対象にするのかどうかなどを決めておく必要があります。

また、通報権利をどこまで広げるかです。
社員だけでなく、パートやアルバイトに協力してもらうことは必須です。
さらには、取引先や退職者までを含むかどうか検討する必要があります。

そして電話やメールなどを受け付ける担当窓口を設置するのですが、消費者庁のガイドラインが参考になります。

誰が通報の受け手になるのかというのは重要な問題です。
日頃から従業員の指導・監督にあたる部門や担当者がいる場合、例えば社外取締役や監査役などをひとつの窓口にするのも有効です。
グループ会社であれば親会社、あるいは規模の小さい事業所の場合は外部の法律事務所に委託するという方法があります。

ここで気をつけたいのは、不祥事はどこで発生するか分からない、ということです。
経営陣の不祥事ということも過去には多くあります。
そのため、経営幹部から独立した通報ルートを整備する必要があります。
経営陣も監視下に置くということが、コンプライアンス徹底の基本でもあります。

次に、通報を受けた時の対応を徹底しなければなりません。
というのも、多くの従業員は、勤務先に通報しても改善が見られなかったり誠実な対応がなかった場合には、「外部に通報する」と考えるからです(図3)。


図3 内部通報に対する信頼度(出所:「内部通報制度の実効性向上の必要性」消費者庁)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_system/whisleblower_protection_system/pr/pdf/pr_191018_0003.pdf p23

実際、通報制度が十分に機能しなかったことが理由で早期に是正するチャンスを逃し、内部告発によって行政処分などを受けたケースは過去にいくつもあります。
「最悪の形」と言えるでしょう。
場合によっては、通報制度を機能させていなかったこと自体が「経営陣の責任」として問われることもあります。

よって通報を受けた際には、

・すぐに社内調査に着手すること
・可能な範囲で通報者にも進捗状況を知らせる

ということで従業員からの信頼を維持することができます。

なお、消費者庁のガイドラインでは通報者を特定しにくくしたり、何らかの通報があったことを関係者に認識させないように、

・定期監査と合わせて調査を行う
・抜き打ちの監査を行う
・該当部署以外の部署にもダミーの調査を行う
・核心部分ではなく周辺部分から調査を開始する
・組織内のコンプライアンスの状況に関する匿名アンケートを全従業員対象に、定期的に行う

などの調査方法が挙げられています。

と言っても、社内調査や是正勧告などについて具体的なスキルがあるという人は少ないでしょう。
そのためこれは、親会社や法律事務所に相談・依頼するのが現実的です。
同時に何らかの形で担当者を育成していかなければなりません。

内部通報の場合、まずその通報内容が事実であることの確認から始めなければならない上、通報者を守る必要があります。
なおかつ「泥棒が泥棒探しをする」ような状況にならないように気をつけなければなりません。

外部の専門家の力を借りるのが良いでしょう。

そしてもっとも大切なことは、内部通報制度を整備した時、従業員だけでなく経営陣にも徹底周知することです。
存在をアピールして「気軽に使える」制度にしなければなりません。

給与明細に通報窓口の連絡先を記載し、協力を呼びかけているという企業もあります。
また、通報者には多少なりとも精神的な負担がかかることを考慮して、メンタルヘルスの専門家を窓口に置いている企業もあります。

 

匿名通報と公益通報者保護制度

内部通報は、通報者からすれば勇気のいることで、多くの従業員は匿名での通報を望みます(図4)。

図4 内部通報に対する信頼度(出所:「内部通報制度の実効性向上の必要性」消費者庁)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_system/whisleblower_protection_system/pr/pdf/pr_191018_0003.pdf p24

通報者が特定されてしまうと、どこでどんな不利益を受けるかわかりませんので、通報者の個人情報などの取り扱いに注意し、また、通報者を保護しなければなりません。

「公益通報者保護法」は、内部通報は一般消費者にも利益のある行動だという、消費者保護の観点に立って制定されたものです。
そのため、どこへどのような通報を行えば保護されるのかというルールを明確化したものになっています。

公益通報者保護法でいう不正(通報対象事実)は刑法や食品衛生法など
「国民の生命、身体、財産、その他の利益の保護に関わる法律」
が対象です(図5)。
2019年7月1日時点で、対象法律は470本です*1。


図5 公益通報者保護法での通報対象になる法律(出所:「公益通報ハンドブック」消費者庁
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_system/whisleblower_protection_system/overview/pdf/overview_190628_0001.pdf p7

これらの不正に関しては、内部通報を理由とした解雇や不利益な取り扱い(降格、減給、訓告、自宅待機命令など)は許されないとするのがこの法律です。
派遣契約の解除も禁じられています。

一方、通報者にも一定の注意を呼びかけています。
まず、第三者の権利侵害にならないことや、他人を不当に傷つけることを目的とした通報は保護の対象にならないという点です。

そして、社内ではなく、外の行政機関に通報する場合は、不正の証拠や関係者の供述など相当の理由が保護の対象にはならない、としています。

しかし逆に言えば、行政機関に通報せざるを得ない、となった時、通報者はそれなりの証拠も同時に行政機関に提供してしまうということでもあります。
そうならないようにするためには、企業内での通報制度が「使える」レベルのものであることが必要です。

なお通報者として保護される対象は正社員、派遣社員、アルバイト、パート、公務員のほか、令和2年の法改正では退職者(退職後1年以内)、役員もその対象になりました。

 

「自社にも起こり得る」「二次不祥事の防止」を念頭に

いまや企業の不祥事は、外から指摘される前に自ら積極開示する、という姿勢がスタンダードになりつつあります。

また、近年では「二次不祥事」という考え方があります。
テレビニュースなどで、不祥事そのものよりも、企業側の「対応」が厳しく叩かれるようになるという現象を目にしたことのある人は多いでしょう。

起きてしまった不祥事はともかく、対応が遅れてしまったことで、不正を感知する能力、調査する能力、是正する能力がないこと自体を「不祥事」と捉えられてしまうのです。
企業へのダメージは、こちらの方が大きい場合もあります。内部で解決する自浄能力が求められているのです。

内部通報制度が機能し始めると、事業者が不正を発見するもっとも大きなツールになります(図6)。


図6 事業者が不正を発見する端緒(出所:政府広報オンライン」)
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201701/4.html#section4

「内部監査」「上司のチェック」を大きく上回り、6割近くの不正が内部通報によって見つかっているのです。

また、不正そのものの抑止効果を発揮しているという企業も多くあります(図7)。


図7 内部通報制度の導入効果(出所:政府広報オンライン)
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201701/4.html#section4

不正を通報しやすい、改善してくれる企業だという姿勢は、取引先だけでなく従業員に向けても大きくアピールできることでもあります。

「内部通報制度は内部統制制度の最後の砦」とも言われます。

性善説に立った対応や制度設計をしてしまうと、有事にはそれがまた「ぬるい」企業体質として非難されてしまいます。
徹底した制度設計でまずは従業員からの信頼を集めたいところです。
そして企業への信頼が従業員のコンプライアンス意識を向上させる、という好循環が生まれると良いでしょう。

*1 政府広報オンライン https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201701/4.html#column2

<清水 沙矢香>
2002年京都大学理学部卒業後、TBS報道記者として勤務。
社会部記者として事件・事故、科学・教育行政その後、経済部記者として主に世界情勢とマーケットの関係を研究。欧米、アジアなどでの取材にもあたる。
ライターに転向して以降は、各種統計の分析や各種ヒアリングを通じて、多岐に渡る分野を横断的に見渡す視点からの社会調査を行っている。
Twitter:@M6Sayaka

 

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