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副業社員を雇用する際の注意点 事業主が負う法律上のリスクとは?

ここ数年、副業により多様な働き方を模索する動きが加速しています。
特にアフターコロナの社会においては、副業社員の存在感はいっそう増してくることでしょう。

副業社員を雇い入れる事業主の方としては、通常の社員を雇用する場合とは異なる注意点・チェックポイントが発生しますので、実際に雇い入れる前に問題がないかを確認しておきましょう。

この記事では、副業社員を雇い入れる際に事業主の方が注意すべき点について、弁護士の視点から解説します。

目次

副業を巡る今後の展望

副業社員を雇用する場合の法律上の注意点

まとめ

副業を巡る今後の展望

副業推進の流れが盛んに強調されるようになったのは、ここ数年、かなり最近の話といってよいでしょう。
2020年には新型コロナウイルスの感染が拡大した影響もあり、副業推進の流れがさらに加速するものと考えられています。

●直近15年前後では横ばいから微増

 

出典:平成29年就業構造基本調査 結果の概要|総務省統計局 11頁
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2017/pdf/kgaiyou.pdf

上記のグラフは、総務省による就業構造に関する調査において得られた、副業者比率のデータを示しています。

このグラフによると、平成14年時点で3.9%だった副業者比率は、平成29年時点でも4.0%です。
また、実際には副業をしていない人も含めて、本業以外に仕事を持つことを希望している「追加就業希望者」比率も、平成14年時点で5.1%、平成29年時点で6.4%と、15年間でそれほど増えていません。

上記のデータからは、平成14年から平成29年までの15年間においては、副業に積極的な人の割合は、ほぼ横ばいであったことが分かります。

●新型コロナの影響は?
しかしながら、「日本型終身雇用の崩壊」「多様な働き方」といったワードが示すように、1社依存型の働き方が限界を迎えつつあることは、社会全体としての共通認識になりつつありました。

そこに追い打ちをかけるように発生した新型コロナウイルス感染症の影響により、

・整理解雇の増加、正社員の非正規化
・在宅勤務の普及
・企業の合理化、ワークシェアリングの拡大

など、従来正社員として働いていた人々を(進んで、あるいはやむを得ず)副業に駆り立てるような流れが広がっています。

実際のデータにどのように表れるかは今後の状況次第ですが、少なくとも現時点では、副業時代へと流れが確実に向かっているといえるでしょう。

副業社員を雇用する場合の法律上の注意点

事業主の方が副業社員を雇用する場合、法律・契約などの観点から、注意しなければならない点がいくつかあります。

特に、副業社員を初めて雇い入れる事業主の方は、後でトラブルが生じないように、以下のチェックポイントについて問題がないか確認しておきましょう。

●労働基準法上の時間外労働に関するルールに注意
事業主と雇用契約を締結する労働者について、労働基準法上の時間外労働に関するルールが適用されることは、事業主の方であればご存じかと思います。

主なルールは以下のとおりです。

①法定労働時間(1日8時間、1週間40時間)を超える労働は原則不可
②労使間で「36協定」を締結している場合、協定で定められた上限時間まで、例外的に労働者に時間外労働をさせることができる
③時間外労働に対しては、通常の賃金に対して25%以上の割増賃金を支払う必要がある

ここで、2つ以上の事業主に雇用されている労働者については、上記のルールは「全勤務先における労働時間の通算」に対して適用されることに注意が必要です。

たとえば、本業の勤務先で1日8時間働いたのと同じ日に、副業先で3時間働いたとすれば、3時間分は時間外労働の扱いになります。

この場合、3時間分の割増賃金の支払い義務を負うのは、「労働契約を時間的に後から締結した使用者」とされています。
参考:「副業・兼業の促進に関するガイドライン」Q&A|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000193040.pdf

つまり、副業社員として従業員を雇い入れた場合、その労働時間の大半に対して割増賃金を支払わなければならない可能性が高いのです。
事業主の方にとっては、思わぬコスト増に繋がりかねないので注意しましょう。

●ノウハウなどの営業秘密の漏えいに注意
従業員は、会社のノウハウなどの重要な営業秘密にアクセスしやすい立場にあります。
副業を認めている場合でも、従業員によって副業先で自社の営業秘密を利用されてしまうと、売り上げダウンや信用の悪化に繋がりかねません。

従業員にノウハウを勝手に持ち出されないように、

・データにアクセス権を設定して、業務上の利用が必要な従業員しかアクセスできないようにする
・従業員から守秘義務に関する誓約書を取得する
・就業規則において、副業・兼業先を含む外部への営業秘密の持ち出し禁止をし、違反した場合には懲戒事由に該当する旨を明記する

などの対策を事前に講じておきましょう。

●競合他社との兼職でないかを要チェック
営業秘密の流出の問題とも関連しますが、従業員に競合他社との兼職を許してしまうと、自社に関する情報が流出するリスクが高まってしまいます。

本業を別に持つ人を新規に雇い入れる場合はもちろんのこと、すでに雇用している従業員に副業を認める際にも、副業先がどのような会社か把握しておくことが重要です。

上記の観点からは、副業を許可制にしておくことが無難です。
また、副業を原則自由とする場合にも、競合他社との副業・兼業は禁止とし、副業先の届け出を義務付けておきましょう。

●社会保険料は副業・兼業先との間で按分負担となることがある
従業員が複数の事業主から雇用されている場合、両方の事業場において社会保険(健康保険・厚生年金)の加入対象となるケースがあります。

社会保険の加入要件は以下のとおりであり、自社の労働条件に照らして以下の①②いずれかの要件を満たしている場合には、従業員を社会保険に加入させなければなりません。

①週の所定労働時間が30時間以上の場合

②以下の要件をすべて満たす場合
・週の所定労働時間が20時間以上であること
・雇用期間が1年以上見込まれること
・賃金月額が88,000円以上であること
・学生でないこと
・会社の従業員数が501人以上であること、または社会保険に加入することについて労使で合意がなされていること

兼職している両方の事業場で社会保険に加入する従業員については、各事業場で支払われる給与の金額に応じて、保険料が按分比例で割り当てられることに留意しておきましょう。

 

まとめ

副業推進の流れが加速する中で、今後副業・兼業を前提とする就職を希望する人が増えることが見込まれます。

こうした労働力を有効に活用することは、事業主の方にとって今後の課題といえるでしょう。
時代の流れに対応するには、実際に副業社員を雇ってみて、どのような形が自社にとって望ましいのかを実験することも大切なプロセスです。

そうはいっても、一度副業社員を雇ってしまうと、簡単に解雇することはできません。
そのため、事前に経済的・法律的な観点からのシミュレーションを行ったうえで、小規模に副業社員の雇用をスタートすることをお勧めいたします。

 

 

 

 

阿部 由羅
ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。専門は不動産・金融法務。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連の記事執筆にも注力している。

https://abeyura.com/
https://twitter.com/abeyuralaw

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