ドイツでのアルバイト経験を端的に表現すると、「大変だった」だ。
わたしひとりだけがみんなからズレていて、なにが正解なのかわからない。日本と同じように行動したら、変な目で見られる。そんな毎日に戸惑うばかりだった。
わたしがドイツで経験した困惑はきっと、いま現在日本で働いている外国人アルバイトの人たちも感じているだろう。
というわけで、日本でも外国人労働者が増えていることを踏まえ、外国人視点でのアルバイト経験を紹介していきたい。
目次
「当たり前」がちがう外国人アルバイトとともに働くために必要なこと
外国人アルバイトとして働いた感想は、「めっちゃ大変」!
コロナ禍になってからかれこれ2年半日本に帰国できていないが、前回帰国した際、外国人労働者が増えているのを肌で感じた。
コンビニや飲食店に行けば、必ずといっていいほどネームプレートがカタカナの人が働いているのだ。
国をまたいだ移動がしづらい現状でも、日本で働く外国人は約172万人。そのうち、資格外活動の人は37万人だ。資格外活動とは、「本来の在留目的である活動以外に就労活動を行うもの(原則週28時間以内)であり、留学生のアルバイト等が該当する」と定義されている。*1
どおりで、「いたるところで外国人アルバイトらしき人を見かけるなぁ」と思うわけだ。
とはいえ、少し前まで外国人労働者なんてほとんど見かけなかった日本。
「バイト先に外国人がいてちょっと緊張する……」「外国人と働いたことがなくてどうしたらいいかわからない……」と戸惑っている人も多いのではないかと思う。
だからこそ、今回は外国人アルバイト視点で「こうしてもらえると助かるよ!」ということをお伝えしたい。
「客は偉い」が通用しないドイツではペコペコする必要なし?
わたしがドイツでアルバイトをして一番驚いたのは、店員と客のパワーバランスだ。
ピークタイムのレストランでバイト中、「頼んだビールがなかなかこない」と言われたときのこと。
わたしは日本でやっていたとおりガバっと頭を下げ、「申し訳ございません、できるだけ急いでお持ちいたします」と言った。
するとお客さんはむしろ驚いて、「いや、注文が通ってるならいいよ。忙しいのは見ればわかるし」と言ってくれた。
ドイツでは、客がしつこく催促すると店員が「忙しいのわからない!?」とキレて、その後客を無視することすらある。だから客は催促せずにあくまで確認するだけで、あとは気長に待つ。それが、ドイツでの客と店員のパワーバランスなのだ。
店員の言い分は、「忙しいなか一生懸命働いてるのになんで謝らなきゃいけないの? できることはちゃんとしてるよ?」である。日本では絶対に無理……。
しかしドイツで働くならそれくらい図太くならないと、やっていけないのだ。
小見出し:各仕事には担当者が割り振られているのが当然
次に驚いたのは、「自分の仕事」という意識の強さである。
カフェのバイト中、キッチンでポテトを揚げていると、パン担当の女性から「あした焼く用のパンを用意しておいて」と言われた。「わかりました」と請け負うと、次から毎回頼まれるように。最終的に、コーヒーメーカーの掃除なども任されるようになった。
それを見ていたほかの人が、「それはあの人の仕事なのになんであなたが代わりにやってるの?」と怪訝な顔で聞いてきた。
「やってって言われたので」と返せば、「それは彼女がサボりたいだけ。自分の仕事は自分でやれって拒否しないとダメだよ」と教えてくれた。
なるほど、日本では「先輩から指示された仕事をする」のはふつうだけど、ドイツでは「自分の担当かどうか」が判断基準らしい。人の手伝いをするのは、あくまで自分の仕事が終わってから。
わたしはなめられていたから仕事を丸投げされたんだな……教えてもらえてよかった。
時短ワークでも1か月バカンスできるのがドイツのルール
また、労働環境への考え方も、国によって大きくちがう。
「ドイツ人は休暇のために働いている」と言っても過言ではないほど、みんなバカンスが大好きだ。
半年くらい前からそれぞれ長期休暇を申請し、年間休暇スケジュールを組んでちゃんと休む。
仕事の様子を見て休暇を取るのではなく、まずみんなの休暇をある程度決めて、それありきで仕事を調整するのだ。
家族みんなで休暇を合わせるので、「やっぱり出勤して」はありえない。そもそも休暇中、たいていの人は島か山にいるしね。
週3日の時短ワークのわたしですら、丸々1か月休んで日本に帰国が許されたくらいだ。それが「ふつう」のドイツ人の価値観は、日本人とはやっぱりちがうなぁ、と思う。
「当たり前」がちがう外国人アルバイトとともに働くために必要なこと
異国の地で働く大変さとしてよく言語の壁が挙げられるが、それは苦労の一面でしかない。大変なのはむしろ、「当たり前」がちがうことだ。
日本でアルバイトしたドイツ人の友人たちも、わたしがドイツで経験したように、「当たり前」がちがうことに戸惑っていた。
「『ガイジンじゃ話にならない』と客に差別発言をされても、こっちが謝らなきゃいけないなんて理解不能」
「責任の所在があいまいだから、なにが自分の仕事かよくわからない」
「タイムカードを切ったあとに残業を頼まれたんだけど、日本ではそれがふつうなのか?」
などなど、相談・愚痴は数知れず……。
「当たり前」がちがう外国人といっしょに楽しく働いていくために、まわりはどんなフォローができるのだろうか。
理由と対処法を全部説明しないと相手には伝わらない
外国人として働いてみて思ったのは、外国人労働者は「1から10まで説明しないとわからない」ということだ。
なにが、なぜダメで、どうすればいいかの答えをもっていない。
たとえば理不尽なクレームに対し、外国人アルバイトが言い返したとしよう。
それを店長が咎め、「日本ではとりあえず謝っときゃいいんだよ」と言っても、その人はきっと納得しない。
むしろ、「悪いことをしていないのになんで謝らなきゃいけないんだ、店長は自分をかばってはくれないのか」と失望する可能性すらある。
そうならないために、
「日本ではお客様のほうが立場が上だから、なにかあったらまず謝ってしまうほうがうまくいく。
クレームに対して自分で対応しようとはせず、『申し訳ございません、担当の者を呼んでまいります』とすぐにこっちに報告してほしい。クレーム対応は君の仕事ではなく、わたしの仕事だから」と教えてあげればいい。
たとえばドイツでは、クレームを受けてもそのテーブル担当者が対応することが多く、「ちょっとしたクレームもとりあえず上に報告」という発想がそもそもなかったりする。
だから、「日本はこういうシステムで機能しているから、こうしてほしい」と丁寧に伝えてあげることが大事だと思う。「いいから謝れ」では、不満につながるだけだから。
ポイントは相手を納得させられるかどうか
とはいえ、まったくちがう価値観で生まれ育った人たちに理解してもらうというのは、なかなかむずかしい。
相手の考えを頭から否定して「日本ではこうだ」と押し付けるのは楽だけど、それでは良い関係は築けない。
「長期休暇なんてだれも取らないよ」「休暇取ったらお土産買うのが当たり前でしょ」のように、「みんなそうやってるから」で片付けるのは、得策とはいえないだろう。
そう言われても、「なんだそれ」とやる気を失うだけだから。
そうならないように、あくまで「納得してもらう」ように説明することが大切なのだ。
「日本は短期休暇を取る人が多いから、休みは1か月前に申請でOKにしてる。でも帰国のために長期休暇したいのであれば、3か月前には相談してほしい」
「日本には、休暇を取ったらお土産を配る文化があるんだ。君もクッキーもらったでしょ? 君もなにか配るとみんなが喜ぶよ」
こんな感じで話せば、相手は「なるほど」と納得しやすいんじゃないだろうか。
親切な人がいるだけでプレッシャーが軽くなる
そしてもうひとつ大切なのは、「困っていることはないか」と定期的に声をかけてあげることだ。
わたしが横浜のとある居酒屋で飲んでいるとき、トイレに行く途中の通路で、メモを片手にハンディとにらめっこしている外国人アルバイトらしき人がいた。
それに気づいたほかの店員さんが「どうしたの?」と聞いたら、「梅酒の水割りが見つからない」と言う。「ああ、それはここだよ。水割りのときはまずこれを押して……」と説明すると、外国人アルバイトの人はほっとしたように「ありがとう」と笑った。
そしてその後、彼は別のノートを取り出してメモをはじめた。きっと、水割りのキーを忘れないように書き留めたのだろう。
日本人同士でもそうだが、困っているときSOS出すのは勇気が必要だ。
とくに外国人は、「こんなのもわからないの?」と言われないかつねに不安だし、「仕事ができないやつ」だと思われたくなくてためらってしまう人も多いと思う(わたしもそうだった)。
だから、困ってそうなら声をかけてあげる。当然だけど、それがあるかどうかで、外国人アルバイトの働きやすさはグッと変わる。
そしてできれば、「梅酒の水割りはここ」と教えて終わらせるのではなく、「水割りは全部ここにあるからね。ちなみにお湯割り、ソーダ割りはこっち」と、その後のためになるような教え方をしてあげるととても親切だ。
増加する外国人労働者と共存していくために必要なこと
とはいえわたしは、「外国人を特別扱いしろ」「ことさら丁寧に扱え」と言いたいわけではない。外国人だって、ほかの日本人と同じ労働者だしね。
ただ現実問題として、外国人は日本で生まれ育った人ならば共有している「当たり前」を共有していないから、働いているなかで困る場面が多い。
しかも文化的なすれ違いは、まわりのフォローがなければどうにもならない。
だから、チームワークとしてそのあたりがフォローできると相手は働きやすくなるし、相手がうまく馴染んで仕事を覚えれば、あなたの仕事もきっと楽になるだろう。
日本は2008年をピークに総人口が減り続けていて、2050年には総人口が1億人を下回る予想だそうだ。*2
労働力となる人が減れば当然「よそから来てもらう」という選択肢が当たり前になり、今後はさらに外国人労働者が増えていくだろう。
「外国人とともに働くこと」が一般的になっていくことを踏まえ、お互い助け合っていっしょに楽しく働いていけるといいなぁ、と思う。
*1 厚生労働省「「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和2年10月末現在)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_16279.html
*2 総務省「平成30年版 情報通信白書」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h30/html/nd101100.html
雨宮紫苑
ドイツ在住フリーライター。Yahoo!ニュースや東洋経済オンライン、現代ビジネス、ハフィントンポストなどに寄稿。著書に『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)がある。twitter→@amamiya9901
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