「働き方の多様性」という文字を目にする機会が増えました。働き方改革の目玉の一つである、副業・兼業の推進は、キャリアの複線化へもつながる重要なムーブメントとして期待されています。この流れを裏付けるように、副業者数も年々増加しています(図1)。
図1:副業・兼業に関するデータ〈副業・兼業の現状(働き手側①)-副業者数(雇用×雇用)の変化〉p1
https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/000558802.pdf
また、本業が「雇用」の場合の副業者の内訳をみると「パート・アルバイト」の雇用形態を選択する人が階段状に増えていることが分かります(図2)。
図2:副業・兼業の現状(働き手側③)p5
https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/000558802.pdf
そして、副業や兼業として「パート・アルバイト」を選んだ理由で最も多い回答は「自分の都合のよい時間に働けるから」が50%と最多で、本業や学業などの時間を優先するために「パート・アルバイト」という雇用形態を選択していることが窺えます(図3)。
図3:厚生労働省/平成26年就業形態の多様化に関する総合実態調査の概況(正社員以外の労働者の仕事に対する意識)p24
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/keitai/14/dl/02-02.pdf
一般的に「パート・アルバイト」とひとくくりにされがちな雇用形態ですが、企業側の実際の捉え方には若干の違いがあります。
「アルバイト」は、ドイツ語で「Arbeit(労働、業績)」に由来し、“本業や学業のかたわらで収入を得るために仕事をすること”が本来の意味です。そのため、学生が副業としてアルバイトをするなど、比較的短期的(1~2年程度)であることが多くなっています。
「パート」は、パートタイム労働者の略で、フルタイム労働者に比べ短い労働時間で働く人を指します。育児や介護といった日常的な対応を要する人が、その空き時間に就労する場合で、短時間ではあるものの継続的に勤務することが多い働き方です。
法律上、この2つの働き方に違いはなく、「短時間労働者」や「パートタイム労働者」という呼称で分類されます。
今回はこのような「アルバイト」と「プロ意識」について、実例を踏まえて紹介します。
目次
「仕事の本質」を知ること
一つ目は、イタリアンレストランでホールマネージャーを務めるKさんについてです。マネージャー歴15年のKさんは、飲食業界へ入る前は劇団で演者として活躍していました。物腰が柔らかく、アルバイトからも絶大な人気を誇る兄貴分的な存在です。
畑違いな業界からの参入にもかかわらず、当初からKさんには100人以上の顧客がついていました。その秘訣を聞こうとしたところ、「今からアルバイトに教えるので、見ていてください」と言われました。Kさんは、学生アルバイトのA君に、顧客からの予約を受けるよう指示をし、A君は電話に出ました。予約に必要な情報を一通り確認し、電話を切ったA君にKさんは尋ねました。
「いまのお客さまはどのくらいの年代の方だった?同伴のお客さまはどういう関係の方だと思った?どういう目的でいらっしゃると思った?」
Kさんの質問の内容は、食事の予約をする際に必要な情報ではないことは明らかでした。しかも、そこまで込み入ったことを聞くなど、行きすぎた行為と取られかねません。A君は当然、答えられませんでした。
「僕はね、電話という唯一の接点から、あらゆる情報を引き出したいと思ってるんだ。イメージでいいんだよ、お店に来てくださるお客さまが、どんな目的で来てくれるのか、会話のなかから引き出すんだ。」
呆気にとられるA君に、Kさんは、さらに大切なことを伝えました。
「ネットの予約では聞くことのできないお客さまの肉声を、電話でなら聞くことができ、その声を覚えられる。だから必ず、電話を受けたお客さまの来店時間は(自分の仕事を)空けておくんだ。お客さまの名前と、声を、絶対に忘れるな。」
これには筆者も鳥肌が立ちました。ここまでのプロ意識を持ったホールマネージャーなど、これまで会ったことがないからです。なぜそのような考えが持てるのか、聞いてみました。
「やっぱり、劇団での経験かな。お客さまの反応って、毎回違うんですよ。その反応をみながら、僕ら演者は少しずつ演技をアジャストさせていく。そのクセが身についているのかも。」
――たかが電話予約、されど、そこから拾える情報はいくつもある。単なる作業として捉えていれば見落としがちな、本質的な部分を教わった瞬間でした。指導を受けたA君は、来店時間前からしっかりと準備をし、笑顔でドアを開けお客さまを迎え入れました。
二つ目は、アルバイトから「プロ意識」を学んだ店長の話です。コンビニエンスストアでアルバイトをするB君は、俳優業が本業の好青年です。昨今の新型コロナウイルスの影響で、本業のキャンセルが相次ぎ、生活費を稼ぐためにもコンビニでのアルバイトに精を出していました。
とある女性が切手を購入し封筒に貼っていたとき、レジを打ちながらB君は、「コンビニを出て右へ曲がると、すぐポストがありますよ。駅と反対ですが、そこが一番近いポストです。」と案内をしました。それを見ていた店長は「聞かれてもいないのに、なんでポストの案内なんかしたの?」と質問しました。B君は「先日も、切手を購入された方に聞かれたんですよ。たしかに、切手を貼ってポストに入れないわけがないので、だったら先に教えてあげようと思って。」と答えました。
店長は筆者に「私は、仕事を単なるルーティンとしてこなしていました。アルバイトへの指導も、店内の仕事だけを教えていました。来店された人が何の目的で来たのか、その後の行動でお手伝いできることがないのか、そんなこと考えたこともありませんでした。私は店長として、この業界ではプロのつもりでいましたが、B君こそがプロでしたね。」と恥ずかしそうに話してくれました。
先述のKさんも、コンビニのアルバイトのB君も、いずれもお客さま相手に「演じる」仕事をしています。この「演じる」という行為が、接客業では特に重要なファクターになると感じました。単に作業として仕事をこなすのではなく、そこに絶対的な価値が付加されるからこそ、顧客の満足度も上がり、接客というサービスの差別化が図れるのです。理想の接客業者を演じることができれば、それはすなわち「プロの仕事」です。
本業とアルバイトとのシナジー効果
雇用形態が「アルバイト・パート」での副業が多いことは前出の図2のとおりですが、なぜ副業を選択したのか、という理由を調査した結果が図4です。「十分な収入」がトップの理由であることから、本業の収入を補うためや、学生が親からの仕送り以外に自由に使えるお金を稼ぐ目的で、副業を選択しています。
図4:副業・兼業に関するデータ(副業・兼業の現状④)p6
https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/000558802.pdf
アルバイトのメリットは、勤務シフトの調整がしやすい点にあります。そのため、労働時間内での社員教育が不足しがちです。しかし、単に仕事を作業として教えるだけでなく、Kさんのように貪欲に情報収集をする姿勢や、B君のように顧客が必要とする情報を提供する気配りは、OJTというより、アルバイト労働者との人間関係が影響を与えるものです。
図5は、副業・兼業をする人が「今後の働き方の希望」としてどのように考えているかを調査した結果です。
図5:副業・兼業に関するデータ(副業・兼業の現状④)p6
https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/000558802.pdf
「今後も兼業・副業を続けたい」と回答した人の割合が群を抜いて多いということは、これからアルバイトとして入社してくる人のなかに、一定数の「本業や学業を持つ人」が存在することを意味します。そのようなアルバイト労働者と接する機会があれば、ぜひ、その人の価値観や目指すものを探ってみましょう。それらを補完できる要素を「仕事」を通じて与えることができれば、アルバイト労働者の「本業」への相乗効果をもたらすことも可能でしょう。
副業としてのアルバイトとは趣旨が異なりますが、広義的には「パラレルキャリア」についても言及できます。一つの仕事からでは得られない知識や経験を、他の活動(セカンドキャリア)から習得することで、メインのキャリアへフィードバックすることを目的としているのがパラレルキャリアの概念です。ここでいう「セカンドキャリア」は、必ずしも報酬を得ることを目的としておらず、自己実現、社会貢献、趣味やスキルアップなどから得られる経験、リフレッシュが、ものの見方や考え方の幅を広げ、メインのキャリアにシナジー効果をもたらすとされます。
夢や目標を持った人がアルバイトとして働いてくれるならば、その夢を後押しするような仕事の仕方・方法をレクチャーできるマネージャー(アルバイト指導者)でありたいものです。「アルバイトでの経験が本業(学業)へもつながる」ということは、その逆もしかりです。
本業(学業)での能力やスキルをアルバイト先で発揮してくれたならば、企業の生産性の向上にもつながります。これらの相乗効果こそ、アルバイト労働者が感じる「プロ意識への第一歩」と言えるでしょう。
~プロフィール~
特定社会保険労務士
浦辺里香 (うらべりか)
早稲田大学卒業後、日本財団、東京中日スポーツ新聞で勤務。社労士試験に合格後、事務所を開業し独立。その翌年、紛争解決手続代理業務試験に合格し、特定付記。
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