人材定着
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経営理念の浸透により人材の定着を図ろう

やっとの思いでアルバイトを採用できたと思ったら、すぐに辞めてしまい、教育コストがかさむばかり。
このような、人材の定着に課題を抱える企業は少なくないのではないでしょうか。

目次

なぜ辞めてしまうのか

退職者急増の危機

経営理念を再認識し、共有する

日々の業務の価値を示す

なぜ辞めてしまうのか

中小企業庁による、ある調査では、職場を辞めた理由として「人間関係への不満」に次いで「業務への不満」が挙げられています。

引用)中小企業庁
「中小企業・小規模事業者における人手不足対応研究会とりまとめ~中小企業・小規模事業者人手不足対応ガイドライン~」P19
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/koyou/2017/170703hitodebusokuGL.pdf

これは、私の勤務先においても直面した問題でした。
そこは、都内にある中規模の法律事務所でした。事務所内の、債務整理に関する業務を行うセクションで、総勢約40名のうち、弁護士数名の他、正社員のパラリーガルチーム約30名、そして、主に20~30代で構成される約10名のアルバイトチームを組織していました。

主に、正社員チームが破産手続等の書類のドラフト作成を行い、アルバイトチームが顧客情報の登録や電話の取り次ぎ、郵便の封入・発送、書類のファイリング等を行っていました。

しかし、私が正社員として入所したとき、アルバイトスタッフが毎月のように辞めていき、受電対応や届いた郵便の開封などの基本的なオペレーションが満足に回らなくなっている状態でした。

辞めていくアルバイトスタッフに退職理由を聞くと、数人はスキルアップ目的等の前向きな理由でしたが、それ以外の退職理由はやはり上述の2つでした。(「人間関係への不満」「業務への不満」)

また、残っているアルバイトスタッフ達と積極的に雑談をしてみると、「人間関係への不満」の大部分は「業務への不満」に起因して生じているように見えました。

毎日、淡々と事務作業をこなすのみでモチベーションが上がらない。
そんな時、蓄積されていた鬱屈とした気持ちが、些細なことをきっかけに、同僚アルバイト同士の陰口や対立という形で噴出する。
こうして、チーム内の雰囲気が悪くなっていっていると言う状況でした。

このような場合、共通の目的(または共通の敵)が存在していればチームは一致団結し、同じ方向に向けてエネルギーを昇華させるものです。しかし、それが存在しなかったために、負のエネルギーがチーム内部に生まれ、衝突し合っていたのです。

この状況の根本原因は、「業務への不満」すなわち、「本来共有されるべき、業務の価値を感じられないこと」にあるのだろうと考えられました。

 

退職者急増の危機

このような状況下で、さらなる試練がやってきます。
ある事情で、事務所と顧客との間の契約内容を一部変更することが決まり、約4,000人の既存顧客から、期日までに個別同意を得る必要が生じたのです。

通常のオペレーションに加えて、郵便や電話対応が大幅に増えることとなります。
臨時アルバイトの募集もかけましたが、思うように集まりません。
このままでは、ただでさえ不満が溜まっているアルバイトチームの負担が増え、退職者が急増してしまうおそれがあります。

そこで私は経営陣に対して、正社員チームも受電対応等を行うよう分担するとともに、アルバイトチームにビジョンの共有を行う必要があると提案しました。しかし、そもそも、その事務所には経営理念というものが存在していませんでした。
そこで、トップに確認の上、次のような考えをアルバイトチームに伝える機会を作りました。

「この組織は、お客様の生活再建を支援するために存在しています。決して楽でない生活をしているお客様に手続き費用を支払ってもらい、私たちはそこから給料を得ています。

今回の契約変更は事務所の都合によるものであり、日々不安を抱えているお客様の手続きを遅延させる理由にはできません。
この場を乗り切るため、全員で取り組む必要があり、皆さんの協力が不可欠です。」

その後、約4,000通に及ぶ新たな契約書の封入、返信された郵便の開封・不備対応、そして、朝から晩まで止むことのない電話への対応を行う日々が始まりました。

当初は、メンバーの温度感はまちまちでした。
しかし、毎日、全メンバーの受電数一覧を共有し、受電数の少ないメンバーに対しては、特段の事情がないか確認した上で、状況の説明と、上述の目的のために協力してほしい旨を再度伝えることで、徐々に理解を得ていくことができました。

そして、日々、数字の向上にあわせてフィードバックを行いました。
まず、アルバイトチームの効率的な受電対応により、正社員チームの業務が滞留せず、顧客の問題の早期解決につながったことへの感謝を伝えました。

あわせて、次のような、顧客からの感謝の言葉を共有しました。
「心機一転、生まれ変わったと思って仕事に励みます。」
「おかげで子どもを学校に入れられます。」
「あのとき心中しなくて本当によかった。」

これらを伝えて、アルバイトスタッフ達から
「私の仕事にこんな意味があるとは思わなかった。」
「人のためになっていることがわかった。」
といった言葉をもらったときは、感慨深いものがありました。

このようにしてアルバイトスタッフ達に、自身の業務がどのようにエンドユーザーの価値につながっているかを実感してもらうことで、責任感を持って業務にあたってもらえるようになりました。

その結果、怒涛の2ヵ月間を経て、無事、期日までに契約の顧客同意を集めることができました。
さらに、その後約1年間、アルバイトチームから退職者が出ることはありませんでした。

経営理念を再認識し、共有する

中小企業庁の調査から、人材を確保できている企業の特徴として、「仕事のやりがい」を感じていると回答する従業員が多いことがわかっています。

引用)中小企業庁
「中小企業・小規模事業者における人手不足対応研究会とりまとめ~中小企業・小規模事業者人手不足対応ガイドライン~」P19
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/koyou/2017/170703hitodebusokuGL.pdf

「やりがい」の源は様々ありますが、社会貢献の実感や使命感を感じられることも大きな要素であるでしょう。

中小企業庁のガイドラインにおいても、人手不足への対応には、まず、「経営課題に遡り、経営理念や事業戦略の方向性を再認識する。」ことの必要性が説かれています。*1
また、同ガイドラインには、ある企業の取り組み事例として、次のようなエピソードが掲載されています。

「会社説明会の時点から、自社の理念や業務を社長自ら明示。ラジオDJ研修など社長自ら考案した人材育成を実施。思いを共有できる人材を恒常的に採用できており、定着率も向上。」*2

経営理念を再認識し、それをわかりやすく伝えて浸透させることで、人材確保、定着率向上につながった事例です。

経営理念が額に飾られているものの、従業員に浸透していない企業や、そもそも経営理念が明確になっていない企業にとって、取り組む意味は大きいのではないかと考えます。

日々の業務の価値を示す

イソップ寓話にあるとされている「3人のレンガ職人」の話において、同じレンガ積みをしている3人であっても、その目的意識は大きく異なっていました。
単調な業務であっても、単にレンガを積んでいるだけではなく、大聖堂を作っているのだと、その価値をわかりやすく示すことで、より生産性高く、より長く仕事を続けてもらえるのではないでしょうか。

 

*1
出所)中小企業庁「中小企業・小規模事業者における人手不足対応研究会とりまとめ~中小企業・小規模事業者人手不足対応ガイドライン~」P21
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/koyou/2017/170703hitodebusokuGL.pdf

*2
出所)同上 P31

 

【著者】
竹内 志帆
新卒で官公庁に入庁。土木や社会保障に携わる。
その後、法律事務所にて、借金を抱えた個人の破産・再生手続に従事。
現在は、お金の問題を未然に防げるよう、金融機関にて新商品・新規事業開発などを行う。

 

 

 

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