雇用者、採用担当者にとって採用したスタッフの定着は、どの業界でも課題として挙げられることが多いと思います。さらに、2020年から新型コロナウイルス感染症の拡大が始まり、就労者の離職が社会的にも顕著な問題となっています。
目次
離職が進むコロナ禍 離職者が入職者を上回る状況に
離職者の推移は日本国内ではどのように変化しているのでしょうか。新型コロナウイルス感染症が日本国内で流行し始めた2020年からどのような変化をしたのかみてみましょう。
厚生労働省が公表しているデータでは、平成25年から令和元年までは入職者数が離職者数よりも多い状態が約7年間続いていましたが、令和2年上半期は年初の常用労働者数に対する割合である入職率、離職率をみると入職超過率は0.0ポイントとなりました。日本国内の就労者状況に新型コロナウイルス感染症の拡大がいかに大きな影響を与えているかがわかります。
厚生労働省「令和2年上半期雇用動向調査結果の概要」図1-1入職・離職率の推移
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/21-1/dl/kekka_gaiyo-01.pdf
コロナ禍において、有効求人倍率が下がり、採用市場は売り手市場から買い手市場に変化(※1)しつつありますが、入職超過率が減少している現状では人手不足の課題は解決していない企業・店舗が多いと考えられます。そのため、採用した人材の雇用維持、定着への取り組みが重要なポイントとなってくるでしょう。
では、具体的にどのようなことに留意して従業員に接すればよいのでしょうか。今回は都内のとあるイタリアンバルにお伺いした話を紹介します。
イタリアンバルが語るコロナ禍で変わったこと、変わらないこと
東京都中央区の八丁堀駅からほど近いイタリアンバル「beer & wine厨房 tamaya八丁堀店」マネージャーの珊瑚(さんご)氏にお話を伺いしました。
ー新型コロナウイルス感染症の拡大で飲食業界自体が大きな影響を受けていますが、貴社での影響はいかがでしょうか。
珊瑚氏「まず、昨年4月の緊急事態宣言発出時はかなり来客数は減少しました。八丁堀というエリアなので、企業のお客様が減りましたね。領収書で経費精算される方々なので、会社から外食自粛の指示があると来店できないためです。宣言の解除後は、近くにお住まいの方がご来店いただいたり、一組ごとの単価が上がったりという変化がありました。外食自体がコロナ禍前より特別な機会として見られた影響だと思います。」
時短・休業要請で営業時間が限られる中、来客数が減るという飲食店にとってはピンチの状況ではあるものの、店舗周辺にお住まいのお客様がご来店されるという良い変化もあったようです。お客様側にとってもコロナ禍は外食をするエリアやお店が変わるきっかけになっているのでしょう。
ー今まで通りの営業だけでは難しいこともあると思いますが、新しい取り組みや企画検討などはありましたか。
珊瑚氏「テイクアウトは最初の緊急事態宣言時(2020年4月)から割とすぐ開始しましたね。また、去年の夏ごろからは常連のお客様に定額でお好みのワインをお送りするサブスクリプションサービスも提供を始めました。現在はEC事業を準備中です。もともと自社で酒屋を運営していることもあり、EC事業自体は企画案としては投げていましたが、コロナ禍で時短要請や来客数が減ったこともあり時間ができたので年末から取り組み始めています。IT補助金も活用していますよ。また、よりデータや売上実績をもとに店舗の予測を立てることも増えました。」
日々感染状況が変わる中で、飲食業界の在り方も変化し、自社でできる取り組みを試行錯誤していくことがコロナ禍ならではの戦い方といえるでしょう。また、データや実績という材料をもとに今後の予測をしていくことも例年とは異なる世情の流れだからこそ重要なポイントと考えられます。
ーコロナ禍で変化が多い中、逆に変わらなかったことはありますか。
珊瑚氏「従業員との関係性は変わらないですね。もともと店舗としてもボトムアップの意見がウェルカムな雰囲気なので、アイデアマンの人はコロナ禍以前からも意見を出してくれていました。コロナ禍での不安などの意見もキャッチしています。また、お客様に関しても、団体としてはこれなくてもお一人でのご来店や少人数で来店される常連の方もいらっしゃるので、形は違えど、関係性は維持できていると思います。」
店舗の営業時間やサービス提供方法などを変えざるを得ない中で、スタッフとの信頼関係はコロナ禍でもしっかり維持されていることがわかります。では、日頃のスタッフとの関係構築においてはどのようなポイントに留意すればよいのでしょうか。
マネジメントするために知るべきはスタッフのパーソナルな部分
ー現在、スタッフとのコミュニケーションで心掛けていることはありますか。
珊瑚氏「弊社は正社員の割合が高くアルバイトの方は少ないのですが、雇用形態を問わずその人を観察することを心掛けています。その人の性格や、どういう業務がやりやすいんだろうというパーソナルな部分を知ることで、適材適所な人員配置ができると考えています。また、指導する上でも、どのように伝えれば受け取ってもらいやすいのかが見えてきます。例えば私の場合、面と向かって怒られるのが苦手なタイプなので、私と近しいと思うタイプの人は指摘するときも間接的に伝えるようにしています。」
正規・非正規という雇用形態だけでなく、人柄や過去の経歴、過ごしてきた環境も多様な方がいるのが職場です。その中で一律のやり方ではなく、まずはスタッフのパーソナルな部分をしっかり知るということが信頼関係の構築につながるポイントなのでしょう。
ー離職防止の観点では気を付けていることはありますか。
珊瑚氏「コミュニケーションのとり方はもちろん、アルバイトでも1戦力として、正社員と同様に接するようにしています。アルバイトの方からもヒアリングすればちゃんとアイデアを出してくれるので、勤務日数が限られるアルバイト視点での意見は有り難いです。また、採用前にもできる限り人柄をみてから入社いただくことでミスマッチは防げているのかなと思います。結果としてアルバイトの方は現在4年間勤続いただいています。」
「また、若い方が今後は業界としては必要だと思っているので、飲食業界へ興味をもってくれる方が増えたらいいなと思っています。私自身が今の店舗にアルバイトで入社し、ワインの奥深さに興味をもって正社員になった経緯があります。他の店舗のマネージャーでもアルバイト出身の方がいます。業界を盛り上げていくという点ではこの仕事の良いところを伝えていきたいですね。」
信頼関係を築くために、まずは雇用側からスタッフへの信頼の姿勢を見せるということですね。アルバイトでも正社員と同様に店舗作りに参画してもらうことでよりチームとしての一体感も生まれると思われます。また離職防止の観点では、面接時にシフトやスキルだけでなく人柄をしっかりみて、現在のチームの雰囲気に合うのかを判断することで、入社後のミスマッチ防止につながるのでしょう。
まとめ
コロナ禍によって離職が加速し人手不足がさらに顕著になっている昨今、既存スタッフの定着は多くの企業・店舗での課題かと思います。今回はtamaya様の事例にて、スタッフとの信頼関係の構築方法、コミュニケーションをとる中でのポイントをご紹介しました。働くスタッフ一人ひとりのパーソナルな部分をよく観察することで、一律ではなく相手にあった指導方法が見えてくるのでしょう。
<参考>
※1:厚生労働省「一般職業紹介状況(令和3年3月分及び令和2年度分)について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_18223.html
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