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わたしが塾講師を1日で辞めた理由…「いい先生」の条件とは

学生に人気のバイトといえば、なんといっても「塾講師」だ。

時給が高く就活でもアピールしやすいため、わたしのまわりでも大人気だった。わたし自身も学生時代、塾講師に申し込んだことがある。

しかし残念ながら、わたしは致命的に塾講師に向いていなかった。
どれだけ向いていなかったかというと、お試し授業ですぐに辞めたレベルである。

なぜわたしが塾講師に向いていなかったのか。
それは単純に、「教えるのがヘタだったから」。

目次

高時給で就活ウケもいい人気バイト、塾講師に応募

たった1回の授業で塾講師を辞めることを決意

「わからない人の気持ちがわからない」は先生として致命的

「いい先生」の条件を教えてくれた教員志望のバイト仲間

「教える」経験は人生の糧になる

高時給で就活ウケもいい人気バイト、塾講師に応募

塾講師に応募したのは、たしか大学2年生のころだ。いや、1年生のときだったかもしれない。とにかく、大学の春休みだった。

個別授業の講師募集が多いなか、その塾は珍しく、15人ほどの集団授業を担当する塾講師を探していた。4月からスタートする講座を担当してほしいそうだ。

未経験歓迎のうえ、集団授業なので授業時間はきっちり決まっているし、いろんな学年の授業を受け持つ個別授業よりはやりやすそうだから、さっそく応募してみた。

実際に授業をする前に、同じくバイトに応募した同年代5人くらいと、交代で模擬授業する研修があった。みんな同じ範囲を担当し、それぞれの授業を見て感想を言い合うらしい。

自分でいうのもアレだが、わたしはプレゼンが得意だし、むずかしいことを簡単な言葉で説明するのも上手だと自負していた。

模擬授業でも、「内容が整理されていてわかりやすい」「板書も工夫されていてノートに写しやすい」など、かなり高評価をもらっている。

模擬授業を監督していた室長も、「とてもよかったよ。即戦力だ」と褒めてくれたので、わたしは塾講師にかなり乗り気だった。

そして、4月。
わたしは慣れないスーツに身を包み、仮担当となったクラスの初授業へと向かった。

たった1回の授業で塾講師を辞めることを決意

入念に準備してきただけあって、初授業でも、結構うまいこと説明できたと思う。

これでもか!と書き込んだ自分用授業ノートを見ながら解説し、板書する。いい感じだ。

……と、思ったのだが。

模擬授業では、生徒役の塾講師候補生たちはマジメに話を聞いてくれていたが、実際の生徒となると、そうはいかない。

仲良し同士となりに座り、小声でおしゃべりする子。
ノートを取っているそぶりをしながら、よくわからないキャラクターを落書きしている子。
つまらなそうに壁を見ながら、口を抑えることもせずにあくびをする子。

そう、みんながみんな「集中して授業を聞いている生徒」ではないのだ。

わたしは「担当範囲をわかりやすく説明すればいい」としか思っていなかったから、そんな子たちの注意を引き、自分の授業に引き込む方法がさっぱりわからず、途方にくれてしまった。

寝てる子って起こしていいの……? そもそもこのクラス、半分くらいの生徒が宿題やってないんだけど……?

授業が終わったあと、宿題をやっていなかった男の子3人ほどに声をかけ、「わからないところがあった?」とやんわり聞いてみた。今後も宿題をしないのは困るけど、初対面で強くいうのも気が引けたから。

すると、少年たちは気まずそうに、「全部わかんない」と言う。

「えっ全部?」
「全部っていうか……まぁ、なにやってるかよくわかんないし」
「教科書にやり方は書いてあるから、それどおりにやればできると思うよ」
「あーハイハイ、じゃあ読んどきます。すんませんでした」

わたしは正式に授業がはじまる前に、塾講師を辞めることを決めた。

 

「わからない人の気持ちがわからない」は先生として致命的

たった1度の授業で塾講師を辞めたのは、授業に集中しない生徒がいて落ち込んだからでも、宿題をやろうとしない生徒に腹を立てたからでもない。

わたしが、「いい先生」になれないと悟ったからだ。

というのも、わたしは「わからない人の気持ちがわからない」のである。

……なんて書くとちょっと偉そうに聞こえてしまうかもしれないが、実際そうなのだからしかたない。

わたしはもともと「知らないことを知る」ことが大好きで、好奇心旺盛な子どもだった。

毎週末いろんな博物館や歴史資料館に行きたいと親にせがみ、夏休みは開館と同時に図書館に入り浸る毎日。

宿題もきっちりすべてやったし、成績もわりとよかった。中・高の6年間で、5段階評価の4と5しかとったことがなかったと思う。

受験前の面談で、担任に「君は放っておいても勉強するからなんの心配もしていない」と言われるくらいだ。

とまぁこんな感じの学生時代を送っていたから、「勉強をしたくない・できない子たち」の気持ちが、さっぱりわからない(めちゃくちゃ頭がいいわけでもなかったけどね)。

「わたしがこんなに丁寧に説明したんだからわかるでしょ。なにがわからないの? なんで? わたし説明したじゃん」と思ってしまう時点で、先生には向いてないのだと思う。

早々にそれを悟ったから、わたしは塾講師をすぐに辞退した。

 

「いい先生」の条件を教えてくれた教員志望のバイト仲間

「わたし先生向いてないわ〜。宿題しないとか意味わかんないし、わかんないところすらわかんないって教えようがないじゃん。もう辞める〜」

塾講師の模擬授業でいっしょになり、そのまま正式に塾講師になることを決めたバイト仲間にこう言ったら、彼は苦笑いしてこう言った。

「自分も勉強嫌いでテストはいつも赤点だったから、生徒たちの気持ちがわかるんだよね。親に怒られるから一応塾には行くけど、正直勉強するより友だちと遊んでたいし、テストなんてどうでもいいと思ってたし。

勉強しようって気持ちがないわけじゃないけど、まわりに置いていかれないようにとりあえず答えを写しちゃう。なにがわからないかわからない。それをうまく言葉にして伝えられない。すごくわかるんだよ。

わからないと、つまらない。つまらないと、やりたくない。そうやって勉強しなくなるとどんどんついていけなくなって……。

俺は大学進学する生徒がほとんどいないような高校から、一浪して大学に行って、いま教員免許取得を目指してるんだよね。勉強って楽しいなって思えたから。

勉強をしたくないならそれでもいいけど、なにかのきっかけで『勉強は嫌なもの』って思っちゃった子がいたら、『そうじゃないよ』って言ってあげたくて」

ああ、いい先生になるのって、きっとこういう人なんだろうな。
素直にそう思った。

「先生って、勉強ができる頭のいい人がなるものだと思ってたけど、逆かもね。勉強が苦手な子の気持ちがわかる人のほうが、向いてるのかも」

わたしがそう答えたら、「そうかもね!」と、彼はケラケラと笑っていた。

 

「教える」経験は人生の糧になる

もちろん、頭が良くて、説明するのが上手で、人に教えるのが得意な人もいるだろう。
そういう意味で、「いい先生」もいると思う。

でもこのご時世、YouTubeで二次方程式を丁寧に解説している動画なんていくらでも見つかるし、本屋にいけば「これでもか!」ってくらい参考書が並んでいる。解説自体は、ヨソで補うことができるのだ。

だから、本人の偏差値が高い、説明上手である、というのはあくまで+αであって、最優先事項ではない。

勉強が嫌い・苦手な子にも、根気強く向き合って、寄り添う。「理解させる」ではなく、なにがわからないのか、なぜ困っているのか、なぜやりたくないのかを「理解してあげる」。

それができる人こそが、「先生」になるべきなのだと思う。

とはいえ実際にやってみないと、自分が教えるのに向いているかどうかはわからない。わたし自身、とくに根拠もなく「自分は教えるのがうまいはず!」って思い込んでたしね……。

だから、気になる人はぜひ一度、塾講師への挑戦をおすすめしたい。

塾講師はだいたい模擬授業や研修が充実しているから、向いていなければ、その時点で考え直せばいいし。

わたしは塾講師に向いていなかったけど、教えることを経験できたのはよかったと思っている。教えることを通じて、自分自身とも向き合えるから。

もし幸いにも先生適性が高ければ、塾講師の経験はきっと、今後社会に出るうえでとても貴重な財産になるだろう。

 

 


雨宮紫苑

ドイツ在住フリーライター。Yahoo!ニュースや東洋経済オンライン、現代ビジネス、ハフィントンポストなどに寄稿。著書に『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)がある。twitter→@amamiya9901

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