長引くコロナ禍の中で、さらに飲食店や小売など中小企業にとって大きな逆風が吹いています。
その中で、政府の最低賃金審議会が2021年度の最低賃金を引き上げる方針を決定し、10月から多くの都道府県で新しい最低賃金が適用される見通しです。
特に営業に大きな制約が続く飲食店の場合は、従業員に休業手当を支払い続けるだけで精一杯というところは多いでしょう。
しかしコロナ禍に終わりが見えないうえ、生活者の行動様式も変化しています。みずからのアイデアで新しい道を探るしかありません。そのうちのひとつが、業態転換です。
過去最大の最低賃金引き上げ
厚生労働省は8月、2021年度の最低賃金引き上げを発表しました。
引き上げ幅は都道府県によって28円〜30円です。また、全国加重平均で28円引き上げられるのは、最低賃金の目安制度が始まって以降、過去最大額です*1。
10月1日から順次発効しますが、コロナ禍にある中小企業、特に飲食店にとっては売上が回復しない中での賃上げとなる事業者は多いとみられ、大きな打撃になる可能性があります。
■助成金での負担軽減策
一方で政府は激変緩和措置を公表しています。
そのうちのひとつは、従業員の休業手当を補う雇用調整助成金の要件緩和です。
対象になる中小企業が事業場内最低賃金を一定以上引き上げる場合は、休業日数の要件を問わずに助成金を支給するというもので、10月から12月までの3か月の時限措置です*2。
ただ、3か月の時限措置を経た後に状況が好転しているという保証はありません。
そこでもうひとつ注目したいのが、業態転換を支援する「事業再構築補助金」です。
事業再構築補助金とは
事業再構築補助金とは、コロナ時代の経済・社会の変化に対応するための企業の事業再構築を支援するものです。
売上が大幅に減少しているという条件のもと、新分野の展開、事業転換、業態転換、事業再編に係る費用の一部が、中小企業の場合3分の2まで補助されます*3。
設備投資、リース費用、ECシステム構築などに係る費用が対象です。
ここに「最低賃金枠」が新設され、最低賃金引き上げの負担を軽減しようという手が打たれています。
賃上げに対応しながら、あるいは対応するために新しい事業の方向性を探る。
そのような考え方もいま必要とされています。
■コロナで変わったもの、変わらないもの〜消費者意識
かといって、どのような事業転換をすれば良いのか。
まず、今ある消費者心理についてご紹介します。
コロナをきっかけに人の行動様式が変わったとよく言われます。確かに、テレワークや通販の利用が増えているといった傾向は全体としてはありますが、これをもう少し詳細にみていきましょう。
まず、飲食店についてです。
8月下旬に日経新聞が東京都内で個人経営の500店舗について調査したところ、6割の飲食店が午後8時以降の営業、大半が酒類を提供していたということです*4。調査地点は新宿、渋谷、池袋、新橋、上野といった主要繁華街です。
時短営業を続けていられないという経営側の懐事情に加え、実際に訪れるお客さんが増えたということもあるでしょう。「やはりお店で飲食したい」というニーズは変わらぬままのようです。
そして、小売りを見てみましょう。
「巣ごもり」「自粛」と言われた2020年度でも、消費活動については一括りにできないという実情があります。
消費者白書では、インターネットで購入したいもの、店頭で購入したいものはそれぞれ何かを調査した結果が紹介されています(図1)。
図1 店頭またはインターネットで購入・体験したいもの
(出所:「令和3年度消費者白書」消費者庁)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_research/white_paper/assets/2021_whitepaper_all.pdf p80
生鮮食品、調理済み食品、衣類・履物についてはやはり店頭でという意向は強く残っています。映画鑑賞も劇場を望む人の方が多くなっています。
一方で、衛生用品、化粧品、家具・家電、書籍等についてはインターネットでの購入を望む人の方が多くなっています。
■コロナで変わる大企業の動向
とはいえ、先行きの読めない現在の状況の中で、同じ対応で消費者の意向が全て実現できるわけではありません。
大企業では、大手外食チェーンが相次いで非接触やテイクアウトしやすいハンバーガー店を展開したり*5*6、大手スーパーもオンラインストアを強化したりという動きがあります*7。
事業再構築補助金の利用事例
さて、賃上げ対策と同時に業態転換などによる中小企業の利益率改善を目的とした事業再構築補助金ですが、いくつか利用事例が紹介されていますので見ていきましょう。いずれも飲食店の事例を紹介します。
■25年続いた一号店を改装
埼玉県内で8店舗のイタリアンレストランを展開する事業者のケースです*8。
コロナ禍で売上7割減という状況にまで追い込まれたこの事業者は、テイクアウト/宅配形式での小売への業態転換のために補助金を利用しています。
もともと地産地消にこだわった料理で好評を得ていた事業者ですが、新たな収入源として小売りに進出すると決め、開業25年の一号店を地元産食材のセレクトショップに改装しました。
同時に地元産の食材ブランド商品の開発・販売に乗り出しています。惣菜への調理法などの開発は、職人として勤めてきたシェフの技術やモチベーションを維持しながら継続できる業態です。
既存設備を除却し、一部をセントラルキッチンに集約し、販売用製品の加工と既存店用の仕込みを一か所で行うという業務効率化も補助によって実現しました。
これらの補助事業終了後には5年目に新規事業の売上比率2割強、従業員ひとりあたりの付加価値額としては24.1%増を計画しているということです。
テイクアウトや宅配といった新たなビジネスに対応しつつも、レストラン業務はダウンサイズで維持していくという、まさに「ハイブリッド型」への業態転換と言えるでしょう。
そして注目すべきは、これらの取り組みが地域への貢献にもなっているということです。
筆者もよく近くのスーパーで目にしますが、「レストランに行けなかった野菜たちをこの機会に楽しんでみてください」というものです。
25年が過ぎた店舗を改装するのには勇気が必要だったことと思いますが、地域への貢献という新しい付加価値を生み出しています。
■カフェの名物プリンでOEMへ進出
そしてもう一例は、青森県のプリン製造・カフェ経営事業者です*9。
この企業はコンクール受賞の実績を持ち、そして独自の密閉製法で、無添加でありながら長い賞味期限を実現した商品を展開していました。しかし、コロナ禍の影響は免れることができず、40%の売上減という状況にありました。
こちらも県産の高品質食材というこだわりを持っていましたが、そのこだわりを維持したままOEM、レトルト食品事業への進出を新たな事業の柱とすることを決め、補助金を申請しました。
オリジナル商品を開発・販売している飲食店として、OEMという選択に抵抗を感じる飲食店は少なくないことと思います。
しかしこの事業者は、50個という極小ロットから受託するという覚悟を決め、設備投資を実施しています。
「食のトータル企業を目指す」「県産品の高付加価値化を目指す」ために事業者間連携という形を選びました。
OEMに関しては、筆者個人としては悪いことばかりではないと考えています。
実際、コンビニなどのプライベートブランドを購入して質が高いと感じるとパッケージを裏返し、「さすがこのメーカーが作っているのか」と思うことはしばしばあります。
もちろんこの事業者の場合は、理念を優先したと考えられます。また、提携先との綿密な関係を築いたことも大きいでしょう。
さらに多様化した社会の中で
現代はよく「多様性の時代」と言われます。
今回のコロナ禍では、コロナウイルスそのものや生活のあり方などについて、さらに多様な意見を発信する人が増えました。
外食をする人、やはり控える人、テレワークができる人、できない人。デリバリーを多用するようになった人、そうでない人。
専門家からも様々な見解や見通しが発信されています。
しかし、唯一の事実としてあるのは、誰も経験したことのない状況に遭遇しているということです。
消費者が自分の生活のあり方を模索し、これまでと全く異なる価値観を持つ人も増えてきた中で、企業はそれ以上の思考錯誤を繰り返さなければならない、時代の大きな転換点を迎えています。
*1「全ての都道府県で地域別最低賃金の答申がなされました」厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_20421.html
*2「最低賃金を引き上げた中小企業における雇用調整助成金等の要件緩和について」厚生労働省リーフレット
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000814592.pdf
*3「令和二年度第三次補正 事業再構築補助金公募要領」事業再構築補助金事務局
https://jigyou-saikouchiku.go.jp/pdf/koubo003.pdf
*4「飲食店6割 時短応じず」日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO75469720V00C21A9EA2000/
*5「牛角創業者の西山氏、『接客しない』ハンバーガー店に照準」日経ビジネス
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00100/122300026/
*6「鳥貴族グループ 新業態 チキンバーガー専門店『TORIKI BURGER』8月23 日グランドオープンが決定!」鳥貴族ホールディングス
https://ssl4.eir-parts.net/doc/3193/tdnet/2009966/00.pdf
*7「イオン、ネット通販で翌日配送 小売り各社がDX加速」日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODZ190B00Z10C21A2000000/
*8、9「事業再構築補助金 事例紹介」事業再構築補助金事務局
https://jigyou-saikouchiku.go.jp/pdf/cases/01_jireishiryou.pdf
<清水 沙矢香>
2002年京都大学理学部卒業後、TBS報道記者として勤務。
社会部記者として事件・事故、科学・教育行政その後、経済部記者として主に世界情勢とマーケットの関係を研究。欧米、アジアなどでの取材にもあたる。
ライターに転向して以降は、各種統計の分析や各種ヒアリングを通じて、多岐に渡る分野を横断的に見渡す視点からの社会調査を行っている。
https://twitter.com/M6Sayaka
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