新型コロナウイルス感染症のワクチンが登場して以降、ワクチン接種に関してさまざまな議論がなされてきました。
同じ職場の中でも、ワクチン接種に関する考え方は人によって異なります。
その中で、ワクチン反対派の方が差別を受ける「ワクハラ(ワクチンハラスメント)」が発生してしまうケースがあることも、残念ながら事実です。
ワクハラは法律的にも大いに問題がある行為ですので、事業者は職場からワクハラを撲滅するように努めなければなりません。
今回は、ワクハラに当たる行為の具体例や、ワクハラへの対処法・予防策などを解説します。
目次
ワクチン非接種者に対する差別はNG!職場における差別の具体例
ワクハラ(ワクチンハラスメント)とは?
「ハラスメント」(Harassment)とは、一般的に「嫌がらせ」「いじめ」といった意味を有します。
近年では、セクシャルハラスメント(セクハラ)・パワーハラスメント(パワハラ)・モラルハラスメント(モラハラ)など、さまざまな場面でハラスメントの問題性が指摘されるようになりました。
新型コロナウイルス感染症のワクチンに関しても、接種する・しないの考え方の違いから、「ワクチンハラスメント」(ワクハラ)と呼ばれる事態が発生してきています。
すなわち、ワクチンを接種しない人に対して嫌がらせをしたり、露骨に嫌悪感を示したりといった言動に出る人が増加しているのです。
特に、職場におけるワクハラについては、モラルの問題に加えて、法律的にも大いに問題がありますので、事業主はワクハラの予防・対処に努める必要があります。
ワクチン接種は義務ではなく「努力義務」
新型コロナウイルス感染症のワクチンは、予防接種法に基づいて接種が行われています。
予防接種法9条1項では、接種対象者に対して、ワクチン接種を受けることの努力義務を課しています。
(予防接種を受ける努力義務)
第九条 第五条第一項の規定による予防接種であってA類疾病に係るもの又は第六条第一項の規定による予防接種の対象者は、定期の予防接種であってA類疾病に係るもの又は臨時の予防接種(同条第三項に係るものを除く。)を受けるよう努めなければならない。
(予防接種法9条1項)
「努力義務」とは「できるだけ受けるようにしなさい」という意味であって、単なる「義務」とは異なります。
つまり、ワクチン接種は強制ではなく、あくまでも接種対象者が受けるかどうかを任意で判断すべき事柄なのです。
厚生労働省も、新型コロナウイルス感染症のワクチン接種に関して、
「接種は強制ではなく、最終的には、あくまでも、ご本人が納得した上で接種をご判断いただくことになります。」
とアナウンスしています。
参考:
今回のワクチン接種の「努力義務」とは何ですか。|厚生労働省 新型コロナワクチンQ&A
https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/0067.html
ワクチン非接種者に対する差別はNG!職場における差別の具体例
職場において、ワクチンを接種しない人に対して差別的な言動を行うことは、法律上のトラブルの原因になりかねません。
以下では、職場におけるワクハラの代表例と、それぞれに含まれる法律上の問題点について解説します。
①他の従業員から隔離する
ワクチンを接種していない人を「汚らわしい存在である」などとして、他の従業員から遠ざける(隔離する)ケースが考えられます。
しかしワクチン非接種者のほとんどは、新型コロナウイルスの感染者ではなく、他の従業員の感染リスクを大きく高めるとは考えられません。
したがって、このような隔離には正当性がなく、違法なパワハラに該当する可能性があります。
②接種の指示に従わないことを理由に減給・降格させる
会社が従業員に対してワクチン接種を指示し、従業員が従わない場合に減給・降格などの処分を行うケースもあるようです。
従業員の同意なく減給や降格などを行うには、懲戒処分を行う客観的・合理的な理由が必要です(労働契約法15条)。
しかし前述のとおり、ワクチン接種は従業員個人が任意で判断して受けるものであって、会社が従業員に対して接種を指示する権限はありません。
したがって、ワクチン接種を受けないことを理由として懲戒処分を行うことは、会社の懲戒権の濫用として違法・無効になる可能性が高いといえます。
③協調性のなさを理由に解雇する
「ワクチンを接種しないなんて、他の従業員のことを全く考えない、協調性のない奴だ」
このような理由を付けて、ワクチンを接種しない従業員を解雇する会社も一部に存在します。
しかし、会社が従業員に対してワクチン接種を指示する権限がない以上、このような理由による解雇に正当性がないことは明らかです。
この場合、解雇権濫用の法理(労働契約法16条)などによって、解雇が違法・無効となる可能性がきわめて高いでしょう。
職場でワクハラが発生した場合の対処法
職場においてワクハラが発生した場合、速やかに事態を収拾することが大切です。
具体的には、以下のステップを踏みつつ、状況に応じて必要な措置をとるようにしてください。
①加害者と被害者を引き離す
ワクハラによる被害が継続・拡大することを防ぐため、部署や座席の移動などを行い、加害者と被害者を引き離しましょう。
②加害者・被害者双方から事情を聴取する
ワクハラの実態を把握するため、加害者・被害者の双方から公平に事情を聴取します。
特に加害者から事情を聴取する際には、詰問・非難するのではなく、フラットな質問を行うことがポイントです。
③加害者に対する懲戒処分を検討する
ワクハラの加害者に対しては、戒告などの軽いものから、悪質な場合は減給などの重いものまで、事情に応じた懲戒処分を検討しましょう。
懲戒処分の適法性について不安がある場合には、弁護士に相談することをお勧めいたします。
④被害者のケア・フォローも忘れずに
ワクハラの被害者は精神的に傷ついている可能性があるので、会社主導で適切にケア・フォローを行いましょう。
被害者ケアを担当するのは、加害者との関係性が薄い人事部の担当者や、産業医・カウンセラーなどが適任です。
職場におけるワクハラを予防するための対策
職場におけるワクハラを未然に防ぐには、従業員研修の実施やテレワークの拡大が有効な対策になり得ます。
特に、一度ワクハラが問題になった職場では、再発防止の観点から、従業員研修の実施やテレワークの拡大を検討してみましょう。
●ワクチン接種の正しい知識について従業員研修を行う
ワクチン接種に関する正しい知識は、まだまだ世間に十分広まっていないのが実情です。
・ワクチン接種は任意であること
・ワクチン接種に対してはさまざまな考え方があること
・職場におけるワクハラは違法の可能性が高いこと
などにつき、従業員研修を通じて啓蒙することで、職場全体のワクハラ防止に関する意識向上が期待できます。
●相談窓口を設置する
セクハラ・パワハラなどと同様に、ワクハラについても相談できる社内窓口を設けることも考えられます。
相談窓口があることによって、ワクハラの被害を初期段階で食い止められる可能性が高まります。
また、加害者に対しても、相談窓口の存在は一定の抑止力となるでしょう。
●テレワークを拡大する
ワクチン非接種者に対する嫌悪感を、どうしてもぬぐい切れない従業員がいることも考慮しなければなりません。
たとえば、テレワークをいっそう推進し、従業員同士の接触の機会を物理的に減らしてしまうことも有効です。
同じ場所で働いていなければ、ワクハラが発生する機会も減ると考えられます。
まとめ
会社では、パワハラ・セクハラをはじめとするハラスメントが発生しないように、社内で相談窓口を設置し、従業員研修を実施するなど、必要な措置を講じなければなりません。
ワクハラについても、ハラスメントの新しい類型として、パワハラ・セクハラと同様に対策を講じていくことが大切です。
事業者の方は、新型コロナウイルスワクチンに関する正しい理解の下、ワクハラの防止に努めてください。
【著者プロフィール】
阿部 由羅
ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。
https://abeyura.com/
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