雇用主がアルバイトに対して課しているルールの中には、理不尽なものが含まれていることもあります。
理不尽なルールを定めた場合、アルバイトとの間でトラブルになってしまうおそれがあるため、自社のルールに問題がないかを再確認しておきましょう。
今回は、労働法の規定に照らして違法となるバイト先の理不尽なルールを3つピックアップして、それぞれの問題点をまとめました。
目次
いわゆる「自爆営業」の強要は違法
商品の販売ノルマを課し、未達分を従業員が買い取ることを強制されることを、俗に「自爆営業」と呼びます。
クリスマスケーキや年賀状など、季節性のある商品について自爆営業を強要するケースが多いようです。
●「自爆営業」の違法性
自爆営業の強要は、労働基準法に照らして違法となります。
自爆営業によって従業員が支払う商品代金は、実質的に労働基準法で禁止されている「損害賠償の予定」に当たるからです。
(賠償予定の禁止)
第十六条 使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
(労働基準法16条)
また、自爆営業の商品代金を毎月の給料から天引きした場合、「賃金全額払いの原則」にも違反します。
(賃金の支払)
第二十四条 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。(略)
(労働基準法24条1項)
アルバイトが退職する際「代わり」を用意する義務はない
アルバイトが退職した申し出た際、
「代わり(後任者)を自分で探してくるまでは辞めさせられない」
と雇用主から言われるケースもあるようです。
しかし、アルバイトが退職する際、後任者を自分で用意する義務はありません。
●退職の条件は「事前通知」のみ
期間の定めのない雇用契約は、2週間前に事前通知をすることにより、従業員側から解約することが認められています。
(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
第六百二十七条 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
(民法627条1項)
2週間前の事前通知以外に、期間の定めのない雇用契約を、従業員側から解約するための条件は存在しません。
よって、従業員が退職する際、自らの「代わり」(後任者)を用意する必要はないのです。
なお、就業規則などによって事前通知期間を延長したり、別の解約(退職)条件を追加したりするケースがあります。
しかし、職業選択の自由の観点から、労働者を不当に拘束することを防止するため、民法627条1項は強行規定と解する説が多数となっています(東京地裁昭和51年10月29日判決等参照)。
したがって、上記のような就業規則等の定めは無効となる可能性が高いのです。
バイト先でミスをしても、全額の賠償は不要
アルバイトが仕事中にミスをした場合に、給料から弁償金を天引きする例が時々見受けられます。
しかし、仮にミスをしたとしても、アルバイト本人に損害全額の賠償を求めることは、法的には困難です。
●アルバイトのミスによる損害は、雇用主も負担すべき
雇用主は、アルバイトを雇用することにより、利益を得ている立場です。
その反面、アルバイトの行為によって損失が発生するならば、その損失も引き受けるべき立場にあると言えます。
最高裁昭和51年7月8日判決では、タンクローリーを運転していた従業員が起こした自動車事故により損害を被った会社が、従業員に対して損害賠償を請求した事案が問題となりました。
本件において最高裁は、使用者が従業員に対する損害賠償請求を行い得るのは、「損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度」に限られると判示したうえで、賠償額を損害額の4分の1に限定しました。
つまり、従業員のミスによって生じた損害を、従業員本人が雇用主に対して全額賠償する必要はないケースがほとんどと考えられます。
特に、従業員の過失が軽微なケースや、損害額が僅少であるケースについては、従業員が全く損害賠償責任を負わない結論になることもあり得るでしょう。
●弁償金を給料から天引きすることは違法
仮にアルバイトが雇用主に対して損害賠償責任を負うとしても、弁償金を給料から天引きすることは違法となります。
弁償金の給料天引きは、前述の労働基準法24条1項に定められる「賃金全額払いの原則」に違反するからです。
雇用主としては、アルバイトに対していったん賃金全額を支払ったうえで、弁償金の支払いについては別途精算とする必要があります。
●アルバイトに対する弁償の請求は、事前に費用対効果の検討を
アルバイトのミスに係る弁償金を給料から天引きしたり、後日従業員に支払いを求めたりすると、アルバイトとの間でトラブルに発展する可能性があります。
アルバイトに対する弁償の請求を行う際には、トラブルに対応するためのコストや、他の従業員に与える印象なども考慮しなければなりません。。
ミスの重大さや損害額などにもよりますが、トラブルになった場合のデメリットを考えると、アルバイトに対して強硬に弁償を請求するのが得策でないこともあるでしょう。
いずれにしても、全額の弁償を求めるのは難しいという前提を踏まえたうえで、本当にアルバイトに対して弁償を請求すべきなのか、よく検討してから対応することをお勧めいたします。
まとめ
アルバイトの就業に関して、法的な観点から問題のあるルールを定めてしまうと、アルバイトとの間でトラブルになった際、会社にとって不利益な結果となるおそれがあります。
雇用環境の悪さが口コミなどで広まる可能性もあり、そうなると人材確保に支障が生じかねません。
雇用主としては、労働法に関する正しい知識を身に着け、アルバイトを含めた従業員が働きやすい環境を整えることが大切です。
労働法に関するチェックポイントや、アルバイト雇用に関する注意点等については、お近くの弁護士などへご相談ください。
【著者プロフィール】
阿部 由羅
ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。
https://abeyura.com/
https://twitter.com/abeyuralaw
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