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ジョブ型雇用に熱意は不要?必要なのは職歴と知識での説得

「ジョブ型雇用」という言葉が広く使われるようになって、もうどれくらい経つのだろう。

ジョブ型雇用とは、職務内容を明確にし、それに基づいて契約することだ(あくまでざっくりとした説明だけども)。

それに対し、新卒一括採用、年功序列、終身雇用などに特徴づけられる日本の働き方は「メンバーシップ型」と呼ばれ、「ほかの国では見られない日本独特の制度」と言われる。

しかしその日本独特の制度も時代にそぐわなくなり、最近ではジョブ型雇用への移行が注目されている。とくに転職市場では、ジョブ型の採用に近いことも多い。

さてさて、ではジョブ型の仕事に応募したければ、なにが必要なのだろう?
メンバーシップ型の求職と、なにがちがうのだろう?

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新卒採用と中途採用では求められるものがまったくちがう

日本は、職歴も専門知識もない学生たちを、ポテンシャルや人柄で採用する新卒一括採用が主流だ。

新卒で採用したい学生の人物像は、「コミュニケーション能力が高い」の78.6%がトップで、「協調性がある」の72.4%、「誠実である」の63.4%が続く。それに対し、「専門分野の知識・技術等が高い」はたったの21.7%。*1

新卒一括採用で職歴や専門知識を求められることは少ないから、人間性とポテンシャル勝負。だからこそ、学生たちは就活で必死に「熱意」を伝える。

どれだけその企業に就職したいか、いかにまじめに生きてきたか、部活やサークル、社会に貢献してきたか……。

しかし転職となると、さすがの日本でも職歴と専門知識を求められるのが一般的だ。
「この仕事ができる人はいませんか? 給料はこれくらい払います。経験豊富であればさらに上乗せアリ」という採用方法は、メンバーシップ型というよりはジョブ型雇用に近い。

事実、中途採用を実施する主な理由は、「専門分野の高度な知識やスキルを持つ人が欲しいから」が約53.9%とトップで、中途採用者に求める人物像も「専門分野の一定度の知識・スキルがある人」が5割を超えて1番多い。*2

新卒採用と中途採用では、求められるものがまったくちがうのだ。

多くの人がはじめて経験する「就活」は、新卒一括採用だろう。メンバーシップ型に合わせ、熱意を伝える就活ノウハウを身に着けたはずだ。

しかし転職では、「ジョブ型」の採用に適応しなくてはいけない(働き方自体はメンバーシップ型であっても、募集の際に仕事内容が明確でスキルや経験を求められるという点で、本記事では便宜的に「ジョブ型採用」と表現する)。

ではジョブ型に近い転職にはなにが必要なのか。
それは、説得力だ。

 

職歴と知識で給料が決まるジョブ型の仕組み

ジョブ型における説得力とは、「職歴と知識」である。

たとえばジョブ型雇用が一般的なドイツでは、たとえ学生であっても、職歴を積み、専門知識を身に着けないといけない。

「学生なのに職歴?」と思うかもしれないが、多くの大学、専攻において「専門分野に関連した分野でのインターンシップ」が卒業要件に含まれているくらい、経歴は重視されるのだ。

インターンシップとはいっても、日本のように1日〜数日のお試し社会見学ではなく、フルタイムで4週間~6週間、だいたい夏休みを丸ごと使って働くものが多い。

わたしの夫は不動産関係の専攻だったので、不動産系の会社で6週間インターンシップをした。そのときの企業からの評価は就活に直接影響するので、時折「こういうことを学びたい」「いまのままじゃスキルが身につかない」など上司に相談し、就活に備えていた記憶がある。

もちろん、大学の成績も重要。
募集要項で、「関連の専攻(経営や情報技術)において優秀な成績で卒業している」などの条件が多いからだ。

テスト前の準備が足らなければ、テストを来期に持ち越して卒業を伸ばし、より良い成績を狙う人もいる(夫はその方法で、時間はかかったが好成績で卒業した)。

経験と知識を得るために、みんな必死で実績づくり。ドイツでは社内育成なんてたかが知れているから、最初から即戦力にならないといけないのだ。

「年功序列では能力のある若者が買いたたかれる」なんて批判をよく聞くが、ジョブ型ならそうではないかというと、そういうわけじゃない。

むしろジョブ型は知識も経験もない若者は圧倒的に不利なので、ただ働きでもなんでもして「履歴書」をつくる必要がある。

ちなみに、そういう仕組みだからこそ、たとえば30歳になって改めて学位を取得するだとか、一度退職して上級職業教育を受けてから再就職したりだとか、社外でのキャリアアップの方法は豊富だ。

しかしだからこそ、そういった努力をしない人、つまり職歴も専門知識もない人は、仕事を選べないのである。

 

ジョブ型の面接で「給料はいくらほしいか」は必須項目

さてさて、そんなジョブ型の採用面接では、いったいどんなことを聞かれるのだろうか。

わたしはドイツでいくつか面接を受けたが、日本の新卒採用のときとはだいぶ勝手がちがった。

志望動機や長所・短所、将来の展望などの質問は非常にあっさりしていて、本番はそのあと。

「大学で何を学びましたか?」
「インターンシップでどんな仕事をしました? 上司からの評価はどうでした?」
「今後、キャリアアップのためにする予定のことはありますか?」
「たとえばこういう仕事を任せたい、といわれたら受けますか?」
「この職場ではこういう能力が求められるのですが、それを学ぶつもりはありますか?」
「この成績が悪いのはなぜですか?」

こういった質問がどんどん飛んでくる。

む、むずかしい……!!

なんて答えるのが正解なんだ!? とりあえず全部イエスでいいのか!?と焦りまくったが、ドイツにおいて安易なイエスは危険だ。

できない仕事を「できる」と言えば、将来困るのは自分。日本とちがって丁寧な研修などはないから、現状できるもの・できないものは嘘をついてはいけない。だってこれは、契約だから。

そして、日本のメンバーシップ型ではまず聞かれない質問もされた。
「給料はいくらを望みますか?」だ。

それぞれの能力、仕事内容に応じて給料が決まるので、ドイツには初任給という概念がない。だからこの質問は、必須項目である。とりあえず、外国人なので平均よりちょっと低めに答えておいた。

そうそう、印象的だったのは、「留学でなにを学んだか」という質問だ。

日本の新卒採用の面接を受けたときは、異文化交流の大切さや言葉が伝わらないなかでの努力などのエピソードトークをした。しかしドイツでは、留学先の大学でどんなコースを受け、どんな成績を取ったかをアピールするのが正解。

メンバーシップ型とジョブ型では、求められている答えがちがうのだ。

こういった質問を通じて、採用担当者は「この人はこの仕事に対して必要な経験と知識があるかどうか」を見定めていく。

つまり求職者がすべきは、「自分には十分な経験と知識があるから任せてくれ」という説得である。

 

ジョブ型採用の対策をしてから転職しよう

一例として、幹部職員にジョブ型人事制度を導入した、富士通のサイトを見てみよう。

2020年4月より、幹部社員については、ジョブ型人事制度を導入しました。新しい制度では、「人」ではなく、グローバルに統一された基準により「ジョブ」(職責)の大きさや重要性を格付けし、報酬に反映します。より大きな職責にチャレンジすることを促し、そこで成果を挙げた人にタイムリーに報いることを目的としています。

「ジョブ」(職責)は、売上などの定量的な規模の観点に加えて、レポートライン、難易度、影響力、専門性、多様性等の観点から、職責の大きさ/重要性の観点から格付けされます。これをFUJITSU Levelと呼んでいます。報酬についてはこのFUJITSU Levelに基づいた金額で支給する仕組みで統一されます。*3

日本でもジョブ型の採用は進んでいて、職歴や知識によって給料が決まる仕組みはどんどん広がっている。

ジョブ型というのは、ざっくりと表現すると「職歴+専門知識=給料」だ。
仕事にはすでに一定の値段がついており、どの仕事ができるかは職歴と知識である程度決まり、それが給料に直結する。

そう考えると、キャリアアップ転職のためにアピールすべきは、当然「職歴」と「専門知識」ということになる。

だからドイツでは、インターンシップをはじめとした職歴づくりがさかんだし、職業教育を受けて「受講証明書(卒業証明書)」やその成績をアピールするのだ。

日本は社内研修がメインではあるものの、社外で資格を取ったり、各都道府県や自治体が開催している講座を受講したりして、アピール材料を増やすことはできる。

職歴も、どんな仕事をどの程度の権限で行ったのか、どんなスキルを身に着けどういう状況でどう対処できるか、現状どの程度知識があって今後はどういうことを学んでいきたいか、など具体的に説明することは可能なはずだ。

専門的なノウハウが求められる転職では、苦労話や成長話などのエピソードトークより、客観的に「これをしたからこれができる」と伝えるほうがいいだろう。

新卒であれば、「熱意」があればいい。
しかしジョブ型の側面が強い転職市場では、豊富な経験がありますよ、専門的なことを学びましたよ、と伝えることで、いかに自分が「適材」かをアピールすることが大切になる。

職歴や専門知識を材料に、「どうやったら相手に、自分はその職責をこなすのに適した人材だと説得できるか」を考えることが、ジョブ型雇用で採用されるコツなのだ。

まぁ、わたしは職歴も知識もなくドイツで就活したから、見事に失敗したんだけどね!

 

*1 内閣府「企業の採用活動に関する実態調査」p2
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/shushoku_katsudou/kanji_dai2/siryou7.pdf

*2 労働政策研究・研修機構「企業の多様な採用に関する調査」p16-17
https://www.jil.go.jp/press/documents/20171226b.pdf

*3 富士通「評価・処遇と職場環境整備」
https://www.fujitsu.com/jp/about/csr/employees/system/

 

 


雨宮紫苑

ドイツ在住フリーライター。Yahoo!ニュースや東洋経済オンライン、現代ビジネス、ハフィントンポストなどに寄稿。著書に『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)がある。twitter→@amamiya9901

 

 

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