人材育成・マネジメント
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【入門編】アルバイト雇用に不可欠なメンタルヘルス対策、基礎知識と方法について解説

「メンタルの不調」で心身のバランスを崩し、業務に支障が出たり休みがちになったりしてしまう労働者がいることはご存じかと思います。
今は若い世代でも職場での出来事や環境を理由に精神状態が悪化し、自殺に至る人も少なくありません。

人材確保が必要ないま、改めてメンタルヘルス対策について知識を得て、最悪の事態を防ぎたいものです。

目次

メンタルヘルス対策実施事業所は6割止まり

うつ病とはどんなものなのか

「自分ごと」としての理解を促す必要

意識改革が最大の予防策に

メンタルヘルス対策実施事業所は6割止まり

厚生労働省の調査によると、メンタルヘルス対策に取り組んでいるという事業所の割合は増えつつあるものの、全体の6割弱に止まっている現状があります(図1)。


図1 メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所(出典:平成30年「労働安全衛生調査」厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/h30-46-50_gaikyo.pdf p4

また、同じ調査によれば、企業規模が小さい会社ほどメンタルヘルス対策に取り組んでいる企業の数は少なくなっている傾向にあります。

アルバイトの精神疾患での労災請求が増加
若い人やアルバイトのメンタルヘルス対策に関するデータも存在しています。

まず図2は「勤務問題を原因・動機の1つとする自殺者数の推移」です。


図2 勤務問題を原因・動機の1つとする自殺者数
(出典:「我が国における過労死等の概要及び政府が過労死等の防止のために講じた施作の状況」
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/karoushi/18/dl/18-1.pdf p31

全体としては減少傾向にありますが、20代の人数は大幅に減少している様子はありません。むしろ自殺者全体の人数が減ったことで、20代の自殺人数は、全体に占める割合としては増えてしまっています。
社会全体の人口からしても、若い働き手の絶対数が少ないことを考えると、若い人が仕事絡みの理由で自殺する数は、割合としては増えている、と捉えることもできます。

また、精神障害での労災請求件数は大幅な増加傾向にあります(図3)。


図3 精神障害での労災請求件数
(出典:「我が国における過労死等の概要及び政府が過労死等の防止のために講じた施作の状況」
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/karoushi/18/dl/18-1.pdf p45

うつ病など、精神疾患になった理由は会社でのストレスにあるとして労災請求手続きを取る人の数が増えているという状況です。これは、労働者側で職場のメンタルヘルス対策への意識が高まっていることの表れでもあります。

そして注目したいのは、雇用形態別にみた労災請求の状況です(図4)。


図4 精神障害の就労形態別労災支給決定件数
(出典:「我が国における過労死等の概要及び政府が過労死等の防止のために講じた施作の状況」
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/karoushi/18/dl/18-1.pdf p53

いわゆる「非正規雇用」では、アルバイト・パートの労災認定がもっとも多くなっています。

対策の難しさの理由
メンタルヘルス対策の必要性は、以前から厚生労働省を中心にその呼びかけはあったものの、対策を始めるにあたって大きな壁になっているのが「何から始めていいかわからない」といったところではないでしょうか。

また、精神疾患についての理解のしづらさも根底にあることでしょう。症状が「目に見えない」ものであり、かつ「何かの数字で表すことも難しい」病気であるためにとっかかりにくいという部分もあるでしょう。

ただ大きいのはやはり「こころの病気」という言葉から生まれる差別的意識を拭い去ることができていないことだと考えます。

それゆえ「落ち込んだり眠れなくなったりすることは自分にだってある」「怠けているのではないか」という意識が、口にせずとも周囲の共通認識としてあるケースも考えられます。しかし、病気と診断されるには明確な理由があるのです。意識を変えなければ、当該従業員をさらに苦しめ、悪循環に陥ることが避けられなくなってしまいます。

うつ病とはどんなものなのか

まず、うつ病について正しく知っておきたいところです。

重症でなければ満たされない診断基準の存在
厚生労働省が紹介しているうつ病の症状や診断基準は、このようなものです。
まず、一般に見られる症状をまとめたものが図5です。


図5 うつ状態の症状(出典;「知ることからはじめよう みんなのメンタルヘルス」厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/detail_depressive.html

周囲からの見た目や、体にも症状が出ています。

そして、診断基準が図6です。
「ほとんど一日中、ほとんど毎日の」
「すべて、またはほとんどすべての活動における」
「同じ2週間の間に存在」
のようにかなり厳しい(うつ状態がかなり重症でなければ満たさないような)基準であることに注意が必要です。


図6 大うつ病の診断基準(出典;「知ることからはじめよう みんなのメンタルヘルス」厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/detail_depressive.html

また、このような特徴もあります。

“うつ病性挿話は環境のストレスなどが引き金になる場合もありますが、何も原因となることがないまま起こる場合もあります。このようなタイプのうつ病では、セロトニンやノルアドレナリンなどの脳内の神経伝達物質の働きが悪くなっていると推測されています。”
(引用:「知ることからはじめよう みんなのメンタルヘルス」厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/detail_depressive.html

治療は投薬などで行われます。

難しく捉えることが相手をより苦しめる
重いうつ状態で心療内科・精神科に通いながら、しかし無理をして出社を続けた結果、休職や退職を余儀なくされる人の話は、筆者もよく聞くところです。
重いうつ状態にある人は、症状だけでなく「特別扱い」にも苦しんでいます。

多くのうつ病患者が症状を自覚する瞬間は、「外を歩いていて、道路や交差点に突っ込んでしまいたくなっている自分に気づいた時」です。
多少の落ち込みや不眠を「誰にだってあること」と考えて放置した結果、うつを自覚した時は重症化しています。脳が通常通りの働きをしていないので落ち着いた判断ができなくなっているのですが、血液検査をすれば見つかるというものではないので本人も発見が遅れます。

そこで初めて専門医にかかるのですが、通院の事実を隠したまま仕事を続けてしまいます。心療内科や精神科への通院は、本人も認めたくない事実です。周囲に相談しづらい空気があるとなおさら心を閉ざしてしまい、悪循環はここから始まります。また、相談をしようにも、相手が上司の場合は「職場のネガティブな話」をしなければならないので抵抗が大きくなる、といった具合です。

うつの治療でもっとも大切なのは他の病気と同じように「休養」ですが、そのタイミングを逸してしまうことで治療の初期段階でつまづくこともあります。

 

「自分ごと」としての理解を促す必要

何か特殊なもののように考えられているうつ病などの精神疾患ですが、中小事業者の場合、「自分もうつ病になる可能性がある」という認識を共有することが大きな対策に繋がっているケースもあるようです。

「自分はかからない」「かかったら人には言えない」と無意識のうちに思い込んでいることも多く、こうした思い込みを排除し、どのような環境があれば自分は心身の健康を守れるだろうかと社員自らに考えさせる機会を持つのも良いでしょう。

普段から仲間の様子を気に掛ける、無理をしていそうであれば声をかける、また、自分がうつ病の可能性を感じた時はすぐに相談する、そのための窓口を設ける、といったことであれば始めやすいでしょう。

また、外部リソースを積極的に活用するのも良いでしょう。窓口の一つとして、各地に産業保健総合支援センターがあります。参考にしてみてください。

https://www.johas.go.jp/shisetsu/tabid/578/Default.aspx
そして、中には「ストレスチェック」を導入している企業もあります。
定期的なストレスチェックは、自分自身でも心身の変化を確認できるツールとして、政府としても推奨しているものです。

 

意識改革が最大の予防策に

ここまで、メンタルヘルス対策の重要性や導入事例について見てきました。

まず「正しい理解」が必要不可欠です。そして正しく理解するためには、思い込みや苦手意識を排除しなければなりません。

この時、「特殊な病気」「わからないもの」と考えず、体内で伝達物質がうまく働かないという「体の病気」の一種であると捉えることが大切です。「なる人、ならない人」「なりやすい人、なりにくい人」は存在しますが、それは他の病気のように「性格」という「体質」によるものだと考えると良いでしょう。

また、アルバイトの場合、勤務時間以外の生活が見えにくい一方で、プライベートに深入りするわけにはいかないというのが現実です。他の場所で抱えている悩みがうつ病を発症させる可能性もあります。しかしここは職場が異変に気づくきっかけになるというくらいの考えを持って接することが必要です。

どんな病気にも共通することですが、早期発見・早期治療が大切です。

<清水 沙矢香>

 

 

 

 

2002年京都大学理学部卒業後、TBS報道記者として勤務。
社会部記者として事件・事故、科学・教育行政その後、経済部記者として主に世界情勢とマーケットの関係を研究。欧米、アジアなどでの取材にもあたる。
ライターに転向して以降は、各種統計の分析や各種ヒアリングを通じて、多岐に渡る分野を横断的に見渡す視点からの社会調査を行っている。Twitter:@M6Sayaka

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