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ウィズコロナはいつまで?アフターコロナも見据えて考えたい「ウェル・ビーイング」という経営の考え方

コロナ禍はビジネスにさまざまな変化をもたらしました。

テレワークをはじめとする働き方の変化は人々の意識やライフスタイルに影響を与え、それが今後の働き方に反映されるとみていいでしょう。
雇用状況が悪化し、失業者が増加しているという気になるデータもあります。
こうした状況下、アフターコロナも見据えて、今こそ新たな経営のあり方を探るべきときではないでしょうか。
その際に有益な視点をもたらすのが「ウェル・ビーイング」です。

 

ウェル・ビーイングとは

「ウェル・ビーイング(well-being)」という言葉をご存知でしょうか。
この言葉は、1951年に日本で公布された、WHO(世界保健機構)「世界保健機関憲章前文」で使われたことから知られるようになりました *1。

Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.
健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。 (日本WHO協会仮訳)

この仮訳では、「満たされた状態」と訳されていますが、「幸福度」という訳語も頻繁に用いられています。

ただ、「well-beingとは何か」と問われても、その定義は難しいですね。
誰にでも共通する定義があるというより、人生観や価値観によって、1人ひとりに独自の解釈や意味づけがあると考えた方がいいかもしれません。
そこで、本稿では敢えて日本語訳をせずに、「ウェル・ビーイング」という語をそのまま用います。

~ウェル・ビーイングという視点~
現在は特に、ウェル・ビーイングという視点が重要な意味をもつと筆者は考えます。
それは、コロナ禍の影響による非常に厳しい状況があるからです。

まず、そうした状況をいくつかのグラフで確認しておきましょう。

図1 有効求人倍率の推移
出所:*2-1 独立行政法人 労働政策研究・研修機構(2020)「新型コロナウイルス感染症関連情報:有効求人倍率」
https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/covid-19/c07.html

有効求人倍率は2020年に入ってから急激に低下し、2020年9月には、パートタイマーが1.12、新規学卒者を除きパートタイマーを含んだ倍率が1.03、新規学卒者とパートタイマーを除いた倍率が0.98となっています(図1)。

次に完全失業者数をみてみましょう(図2)。

図2 完全失業者数の推移
出所:*2-2 独立行政法人 労働政策研究・研修機構(2020)「新型コロナウイルス感染症関連情報:完全失業者数」
https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/covid-19/c03.html

完全失業者数も2020年に入ってから増加し、2020年9月には206万人にまで増加しています。

さらに、自殺者も増加しています(図3)。

図3 月別自殺者数の推移(総数)
出所:*3 厚生労働省(2020)自殺対策推進室「警察庁の自殺統計に基づく自殺者数の推移等」https://www.mhlw.go.jp/content/202010-sokuhou.pdf

2020年は、図中の赤い折れ線です。
2020年の自殺者は、2月から6月まではそれまでの年より低水準にありましたが、7月から急上昇し、10月は前月を325人上回る2,153人に上っています。
この人数は前年同月に比べて614人、約39.9%の増加です *3。

こうした自殺者の増加がコロナ禍の影響であるかどうかは詳しい分析を待たなければなりませんが、図1・図2と突き合わせてみると、これらのデータが連動しているという印象はぬぐえません。

以上のように、現在はコロナ禍の影響で雇用状況が悪化し、それとの関連の有無は別として、自殺者も増加しているという厳しい状況にあります。

少なくとも雇用状況の悪化はcovid-19という未知の感染症から生じているため、この感染症に対する抜本的な対策が効果をもたらすまで、解決は難しいと思われます。
こうしたデータをみて、無力感を覚え、不安やストレスを感じている人も多いのではないでしょうか。

では、このような状況にあって、ウェル・ビーイングという視点は何をもたらすのでしょうか。

過去は変えられず、今ある状況を容易に変えることも難しい。
それどころか、事態はさらに悪化し、その弊害も累積的に増加していく。

そうであっても、できることはあります。
それは、こうした状況から今後に役立つことを学びとり、それを今後に生かしていくことではないでしょうか。
そのとき、あるべき状況を指し示し、目標の拠り所になるのが、ウェル・ビーイングです。

ウェル・ビーイングから考える経営のあり方

~ウェル・ビーイングがビジネスにもたらすメリット~
これまで、ウェル・ビーイングの向上は、以下のような文脈で語られてきました *4:p.13。

個々の労働者が、自身が望む健康的で充実した職業人生を送ることがウェル・ビーイングを向上させる。それによって、労働者の創造力が高まり、生産性もアップする。
それが企業の効率化・競争力につながり、企業価値を高める。
そのことがさらに、労働者のウェル・ビーイング向上のための原資をもたらすという好循環を産み出す *4。

このように、ウェル・ビーイングは労働者と企業との関係性を対立的なものとしてではなく、共存共栄的なものであると捉える視点を提供します。

そこで、本稿では、コロナ禍がもたらした変化と現在の状況にフォーカスしつつ、ウェル・ビーイングに関与するさまざまな要素のうち、今後の経営のあり方を考える上で重要だと思われる要素を3点に絞って、そのポイントを示したいと思います。

~危機管理~
コロナ禍は経営の悪化を招き、雇用状況に深刻な打撃を与えています。
しかし、考えてみると、新しい感染症の危機に晒されたのはこれが初めてではありませんし、コロナが収束したとしても、今後、また別の新しい感染症が生じることもあるでしょう。

したがって、日頃から感染症に備えておくことは、企業の危機管理上、非常に重要な意味をもちます。
万全な危機管理は、感染症そのものに対する有益な予防策として機能するばかりでなく、感染症が拡大した際にも、スピーディーな対処によって経営ダメージを軽減することができ、それが従業員の雇用を守ることにもつながります。

感染症を対象にした危機管理に関しては、以下のサイトが有益です。

厚生労働省:新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け) *5

厚生労働省:事業者・職場における新型インフルエンザ対策 ガイドライン *6

中小企業庁:新型インフルエンザ対策のための 中小企業 BCP策定指針 *7

~健康経営~
先ほどみたように、ウェル・ビーイングはもともと健康の定義で使われた用語であることからもわかるように、健康との関連性が強いコンセプトです。
最近、ウェル・ビーイングの向上をもたらす「健康経営」に注目が集まっています。

経済産業省は、健康経営を以下のように定義しています *9:p.20。

従業員の健康保持・増進の取組が、将来的に収益性等を高める投資であるとの考えの下、 健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践すること。

健康経営では、従業員の健康保持・増進が結果的に企業に大きな利益をもたらすことから、そのための費用をコストとは考えず、「健康投資」と捉えています(図4)。

図4 健康経営における健康投資のイメージ
出所:*9 経済産業省(2020)ヘルスケア産業課「健康経営の推進について」 p.20
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/180710kenkoukeiei-gaiyou.pdf

健康経営の取組みはヘルスケア全般ですが、ウィズコロナの現在、最大の課題とされているのが、メンタルヘルスです(図5)。


図5 企業が認識している健康経営上の課題:コロナ影響下での従業員の働き方による課題
出所:*9 経済産業省(2020)ヘルスケア産業課「健康経営の推進について」 p.9
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/180710kenkoukeiei-gaiyou.pdf

現在、健康経営上の課題として従業員のメンタルヘルスを挙げている企業は80%に上っています。

実は、コロナ禍以前から、メンタルヘルスは大きな課題になっていました。
次にみるのは、精神障害の労災申請状況です(図6)。

図6 精神障害の請求、決定及び支給決定件数の推移
出所:*10 厚生労働省(2020)「精神障害の労災補償状況」
https://www.mhlw.go.jp/content/11402000/000521999.pdf

精神障害の労災請求件数は2015年度(平成27年度)から2019年度(令和元年度)にいたるまで増加の一途をたどり、2019年度では前年より一挙に240件増加し、2,060件に上っています。

このように、もともと課題だったメンタルヘルスは、コロナ禍の影響が加わり、さらに深刻化しています。
この問題においては、従業員に限らず、管理職や経営者も対象に含め早急な対策を講じる必要があります。

~多様な働き方~
コロナ禍によって、働き方に関する意識に変化が生じています。
まず、ワークライフバランス(以下、「WLB」)に関する意識変化をみたいと思います(図7)。

図7 WLBに関する意識の変化
出所:*11 内閣府(2020)「新型コロナウイルス感染症の影響下における 生活意識・行動の変化に関する調査」 p.10
https://www5.cao.go.jp/keizai2/manzoku/pdf/shiryo2.pdf

図7は2020年5月から6月にかけて約1万人を対象に行われたインターネット調査の結果で、コロナ感染症拡大前に比べたWLBに関する意識変化を表しています。

20代を中心に若い年齢層では「生活を重視するように変化した」と答えた人の割合が50%を超えています。

次に、職業選択、副業などの希望に関する変化をみましょう(図8)。

図8 職業選択、副業などの希望に関する変化
出所:*11 内閣府(2020)「新型コロナウイルス感染症の影響下における 生活意識・行動の変化に関する調査」 p.11
https://www5.cao.go.jp/keizai2/manzoku/pdf/shiryo2.pdf

職業選択や副業などの希望に関する変化も若い年齢層では50%前後ですが、その理由で高い割合を占めているのは、収入の減少やWLBに関する意識変化でした *11:p.11。

WLBはウェル・ビーイングに深くかかわる要素です。
こうした意識を尊重した雇用形態を実現することが、今後の安定した雇用確保や定着につながると考えていいでしょう。

 

 おわりに

コロナ禍は雇用状態に甚大な悪影響をもたらし、多くの人々に苦痛をもたらしています。
でも、その反面、これまでの「当たり前」を改めて問い直す貴重な契機ともなっています。
今こそ、ウェル・ビーイングという視点を生かし、経営のあり方を見直してみたらいかがでしょうか。

*1
公益社団法人 日本WHO協会「世界保健機構(WHO)憲章とは」
https://japan-who.or.jp/about/who-what/charter/
*2-1
独立行政法人 労働政策研究・研修機構(2020)「新型コロナウイルス感染症関連情報: 新型コロナが雇用・就業・失業に与える影響>国内統計:有効求人倍率」
(2020年10月30日)
https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/covid-19/c07.html
*2-2
独立行政法人 労働政策研究・研修機構(2020)「新型コロナウイルス感染症関連情報: 新型コロナが雇用・就業・失業に与える影響>国内統計:完全失業率」(2020年10月30日)
https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/covid-19/c06.html
*3
厚生労働省(2020)自殺対策推進室「警察庁の自殺統計に基づく自殺者数の推移等」(2020年11月10日)
https://www.mhlw.go.jp/content/202010-sokuhou.pdf
*4
厚生労働省(2019)雇用政策研究会「雇用政策研究会報告書 人口減少・社会構造の変化の中で、ウェル・ビーイングの向上と生産性向上の好循環、多様な活躍に向けて」(2019年7月)
https://www.mhlw.go.jp/content/11601000/000532355.pdf
*5
厚生労働省(2020)「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html#Q1
*6
厚生労働省「事業者・職場における新型インフルエンザ対策 ガイドライン 」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/pdf/09-11.pdf
*7
経済産業省中小企業庁 (2009)経営安定対策室「中小企業 BCP 策定運用指針を用いた 新型インフルエンザ対策のための 中小企業 BCP(事業継続計画)策定指針」
https://www.chusho.meti.go.jp/bcp/influenza/download/bcpshingatainful_all.pdf
*8
ILO(2015)「中小企業における 新型インフルエンザ対策アクションマニュアル」
https://www.ilo.org/wcmsp5/groups/public/—asia/—ro-bangkok/documents/publication/wcms_113722.pdf
*9
経済産業省(2020)ヘルスケア産業課「健康経営の推進について」(令和2年9月) https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/180710kenkoukeiei-gaiyou.pdf
*10
厚生労働省(2020)「精神障害の労災補償状況」
https://www.mhlw.go.jp/content/11402000/000521999.pdf
*11
内閣府(2020)政策統括官(経済社会システム担当)「新型コロナウイルス感染症の影響下における 生活意識・行動の変化に関する調査」(2020年6月21日)
https://www5.cao.go.jp/keizai2/manzoku/pdf/shiryo2.pdf

プロフィール
横内美保子(よこうち みほこ)
博士(文学)。元大学教授。大学における「ビジネス・ジャパニーズ」クラス、厚生労働省「外国人就労・定着支援研修」、文化庁「『生活者としての外国人』のための日本語教育事業」、セイコーエプソンにおける外国人社員研修、ボランティア日本語教室での活動などを通じ、外国人労働者への支援に取り組む。
Webライターとしては、各種統計資料の分析などに基づき、主にエコロジー、ビジネス、社会問題に関連したテーマで執筆、関連企業に寄稿している。

Twitter:https://twitter.com/mibogon

 

 

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