人材育成・マネジメント
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「ダイバーシティ経営企業100選」に学ぶ、人材マネジメント戦略

 

個性や違いを抑圧する人材マネジメント、していませんか?

年齢や性別、考え方や価値観。アルバイトに限らず、さまざまな個性をもった人々で構成される社会の中で、メンバー全員の力を伸ばすことは人事にとって苦労する仕事の一つです。

特に教育や人材マネジメントの時間とコストに制限がある場合、そういった個性を無視した画一的なマニュアル教育を施しがちですが、これはかえって各メンバーの仕事の質を下げてしまう場合があります。
過去、私がアルバイトの採用と教育を勤めていた職場でも、そのような『マニュアル化でかえって仕事の質が下がる』事例がありました。

私は製菓業のかたわら地域に複数の店舗をもつケーキ屋で、店のアルバイトの採用・教育を担当していました。
ただでさえ忙しい製菓業の合間を縫っておこなっていたアルバイト人材の管理は、私ひとりではなかなか時間をかけることが出来ておらず、他のベテラン販売スタッフに管理と教育を肩代わりしてもらっていました。
そのため「このままでは良くない」と、なんとか販売スタッフの手を煩わさないよう新人アルバイトの教育方法のマニュアル化を図り、実施しました。
「こういうときはこう対応をする」というケース別の対応方法を列挙し、それらについて繰り返しの練習をおこなう。画一的な方法を中心とした私のマニュアル教育は一見成功したように見えました。誰でも一定レベルの販売業務がこなせるようになり、これでスムーズに販売業務がまわると安心した私でしたが、このマニュアル形式の教育を続けてしばらくしたころ、経験の長い別店舗のスタッフから『アルバイトの仕事の質が低下した』という声が届くようになったのです。

「教育をマニュアル化してから、アルバイトの販売スタッフの仕事の仕方が雑になった」
「ある程度のレベルの仕事はしてくれているけれど、ただこなしているだけという印象が先行する接客になってしまっていて、お客様からの評判もあまり良くない」
「お客様への気遣いのない冷たい接客の新人が多い」

届いたのはこういった声でした。

個々人の『大切にしたいもの』を知ることで、一人ひとりの力を最大限に発揮した事例

なぜ仕事の質が下がったのか。各店舗のベテラン販売スタッフに協力してもらいながら新人アルバイトへの聞き取りを行なっていくと、見えてきたのは『マニュアル教育で、かえって自分の頭で「どうすればお客様に喜んでもらえるか」を考えることがなくなり、接客の質が下がった』ということでした。

マニュアルという会社が用意した型枠に新人アルバイトを当てはめることで、逆に人材一人ひとりが自由に模索して伸びる可能性を消していたのです。
ケーキ屋で働きたいというアルバイト志望の人は、性格から年齢層までさまざまです。
個性豊かなメンバーに、わざわざ一律で同じやり方の仕事をさせるよりも、それぞれの「個性」や「好み」「大切にしているもの」を制限せずに伸び伸びと発揮させながら仕事をしてもらう方が、結果的には良い接客となっていたのです。

しかし一方で、単なる放任ではなかなか仕事を覚えるまでに時間がかかるという問題がありました。そのため、ベテラン販売スタッフたちと考えた結果、各新人アルバイトの「仕事において大切にしたいもの」を聞き取り、それを大切にできる役割に集中できる仕事から始めてもらうことを計画します。
新人アルバイト全員に、幅広い接客業務の全てを一律で覚えてもらおうとしていたこと自体が非効率的だと気づいたからでした。各々の価値観にあった仕事に集中すれば、仕事への責任とモチベーションが生まれ、より高度なスキルを磨いていけるはずだと私たちは考えたのです。

実際、この新しい方針を新人アルバイトの仕事に取り入れたところ、以前より自発的にアルバイトが仕事にのめり込むようになり、よりレベルの高い仕事をこなすようになりました。

「お客様とのコミュニケーションを大切にしたい」というアルバイトには、お店に来たお客様へのおすすめ商品紹介を専門にやってもらい、「ケーキ屋としておしゃれな店内の雰囲気を大切にしたい」というアルバイトには季節ごとの内装のアレンジを担当してもらいました。他にも「接客そのものより、本当はケーキそのものに触れていたい」というアルバイトには、実際に接客ではなく製菓の仕事の手伝いに加わってもらったりもしました。
それぞれが自分の担当する仕事のプロフェッショナルになれるよう、自分の仕事と自分が「大切にしたい」と思えることへの誇りを持ちながら仕事をするよう、少しくどいと思われるほどに語りかけるようにしたのです。

結果、仕事の質は向上し店の雰囲気もよくなりました。
同じ「来てくれたお客様に喜んでもらえるように」という目的でも、各々の大切にしている価値観に従えばさまざまなアプローチがあります。それらの多様性を受け容れ、さらに活かすことでより大きな価値を生み出せるのだと気付いた出来事でした。

性別や年代、国籍、宗教。さらにはキャリアや価値観まで。多様性からイノベーションを生み出すダイバーシティ経営企業

上記の私の体験談は、地方のいちケーキ屋での小規模な話でした。しかしこれを企業という巨大な規模でありながら、さらに高度かつ複雑に多様性を生かして、新しい価値を生み出し続けている企業があります。

それが『ダイバーシティ経営企業』です。

ダイバーシティ経営とは、次のような経営を指します。

「多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営」*1

このダイバーシティ経営は、流動の激しいグローバル社会で絶えず変化する要請に応えるための戦略のひとつとしてアメリカで提唱され、日本国内でも経済産業省により推奨されている経営戦略です。

個性や違いを活かし、仕事の質の向上や新たな価値の創造を戦略的に図るダイバーシティ経営企業は以下のようなことを実現できます。 *2

■ 多様化する顧客ニーズを的確に捉え、新たな収益機会を取り込むためのイノベーションを生み出す
■ 急激な環境変化に柔軟かつ能動的に対応し、リスクをビジネス上の機会として捉え機動的に対処する
■ 国内外の投資家からも、「持続可能性」(サステナビリティー)のある投資先として信頼される


引用)経済産業省「ダイバーシティ100選目次」2P
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/kigyo100sen/entry/pdf/h27betten.pdf

経済産業省は「新・ダイバーシティ経営企業 100選プライム」で、上記成果を実現する優れたダイバーシティ経営企業を選出しています。

選出された企業のひとつである、SCSK株式会社では、経営理念に「人を大切にします。」を掲げ、年齢・性別・ライフステージの異なる多様な人材一人ひとりの能力を最大限に発揮できる取り組みと環境づくりをおこなうことで、中長期的な業績と株価の向上を実現しました。


引用)経済産業省「平成30年度 新・ダイバーシティ経営企業100選 ベストプラクティス集」5P [同社 100 選プライム企業となるまでのダイバーシティの道のり]
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/pdf/H30_diversity_bestpractice.pdf

上記の表にもある通り、同社は多様性を活かすことのできる組織づくりのために、実にさまざまな取り組みを継続的に進めていきました。

長時間労働の是正を図った「スマートワーク・チャレンジ 20」では、これまで過去の同社を含む多くのIT企業で問題となっていた離職率の高さを改善し、「働きやすい労働環境で生産性の高い仕事をしよう」という自発的なムーブメントを社内に広めました。

また、リモートワークや生産的な仕事をしやすいオフィス作りなどを通してより柔軟な働き方をできるようにした「どこでもWORK」、継続的なスキルアップのための研修・セミナー受講を会社が推進する「コツ活」などを通して、さまざまな立場の人が心身ともに健康に能力を発揮できる環境づくりをおこないました。

これらの取り組みを通して同社では、性別や年齢を問わず人材が自分の能力を最大限に発揮できる組織づくりをおこなったのです。

多様性を生かすには、まずは働きやすい環境づくりから

上述の会社と同様に、ダイバーシティ経営で業績を向上させたのが、小売業やファッションビルの経営で知られる株式会社丸井グループ です。

同社もまた「新・ダイバーシティ経営企業 100選プライム」に選出された企業です。2度の経営赤字を、多様性を活かしたダイバーシティ経営でV字回復させました。


引用)経済産業省「平成30年度 新・ダイバーシティ経営企業100選 ベストプラクティス集」13P [Mグループ 100 選プライム企業となるまでのダイバーシティの道のり]
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/pdf/H30_diversity_bestpractice.pdf

「お客さまのしあわせは、画一的なメンバーだけの残業で行き詰まった会議では生まれない」という考えのもと、重要な会議の際には若手社員や女性社員を加えることでフレキシブルな発想や計画を生み出している株式会社丸井グループ。先述のSCSK株式会社と同じく、同社でも多様性を活かすためにまずはじめに取り組んだのは、働き方改革でした。

「長時間労働を是正し、男女・年代を問わず誰もがチャレンジできる環境で仕事の生産性を高め、社員一人ひとりが輝ける環境をつくる。」それをダイバーシティ経営の第一手としたのです。

育児短時間勤務者でも柔軟に働ける制度の導入や、男性社員の育休取得の推進。さらには同性・異性を問わずパートナー婚にも配偶者向けの人事制度を適用するなど、さまざまな観点から、働きやすい環境づくりに取り組んでいきました。

その結果、株式会社丸井グループは「個人の中の多様性」「男女の多様性」「年代の多様性」の3つを活かしたダイバーシティ経営を実現し、業績をV字回復していくことに成功したのです。

これらの例と同じく、アルバイトの人材マネジメントにおいても、多様性を活かすためには、まず『働きやすい環境づくり』が必要です。

一部の限られた人間だけではなく、年齢や性別・価値観の異なるさまざまな人材が柔軟に自分の能力を発揮できる環境をつくることで初めて、多様性の中から新しい価値を生み出したり、より質の高い仕事で生産性を向上させていくことができるのです。

まとめ

経済産業省の「ダイバーシティ経営企業100選」に選出された企業では、さまざまな性別・年齢・価値観の人が生き生きと働けることで、仕事の質の向上を図れる他、人材の定着率も高まり、またそのことが社外からの好評価にも繋がることで、中長期的なビジネスの拡充を実現していました。

多様な人材を活かし、その能力を最大限発揮することでイノベーションを生み出し、価値創造につなげていけるのがダイバーシティ経営です。これはアルバイトの人材においても有効な戦略です。

ダイバーシティ経営で多様性を活かす方法は組織によりさまざまですが、どの組織にも共通するのが「働きやすい環境づくり」をまずはじめに重要視していることです。

どういった立場の人でも生き生きと働くことができる環境があって初めて、その多様性を活かすことができるのです。

さまざまな個性の人が集まるアルバイトの人材マネジメントにおいて、その多様性を戦略的に活かしていくダイバーシティ経営。まずはその多様性を受容できる環境づくりからはじめて、少しずつ多様性を活かせる組織づくりをしていくのはいかがでしょうか。

 

引用:参照
*1
経済産業省「平成30年度 新・ダイバーシティ経営企業100選 ベストプラクティス集」1P
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/pdf/H30_diversity_bestpractice.pdf

*2
経済産業省「ダイバーシティ100選目次」1P
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/kigyo100sen/entry/pdf/h27betten.pdf

 

【著者】
sig_Right
大学卒業後、パティシエを志しケーキ屋に就職。
焼き場を中心に製菓業に打ち込む傍ら、店舗全体のアルバイト採用や教育にも携わってきた。
その後、結婚を機にプログラマとして転職。現在は『なにかをつくる仕事』という大枠の中で、Webアプリ開発から文筆業まで幅広く携わっている。

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