マネジメント・育成
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「それって、やりがい搾取ですよ」と言われない(言わせない)ために、会社側が知っておきたいこと

いつからでしょうか、相手のためを思い、良かれと思って起こしたアクションが「ありがた迷惑」などと、拒絶されることが多く感じられるようになったのは。
10年ほど前から職場において「やりがい搾取」という言葉が聞かれるようになりました。これは、教育社会学者で東京大学教授の本田由紀氏によって名付けられた言葉です*1。
この言葉を聞いた当初は、絶妙な皮肉と嫌味でできたストレートな造語だ、と感心したものです。「やりがい」と「報酬」はトレードオフの関係ではないことが、はっきりと認識できるからです。

さて、最近の職場における「やりがい搾取」と言えば、アルバイトやパートといった非正規雇用労働者の、特に若者の間で使われることの多い言葉(行為)です。
先日、ピッツェリアを経営する顧問先からこのような相談を受けました。
「20代のアルバイトの子に、仕事が終わった後で、まかないのピッツァを焼いてみないか?と、気を利かせて声をかけてあげたんですよ。この大きな窯でピッツァを焼くなんて、普段できない経験だし、せっかくバイトで頑張ってくれてるので、時給以上の経験をさせてあげたいと思って。そしたら、『店長、それってやりがい搾取ですよ』って、言われちゃったんですよ」と、ため息まじりで話してくれました。なんとも、返す言葉に困窮しました。

「若者が「仕事」に求めるものとは

では実際に、若者が仕事に求めるものとは何でしょうか。図1は、内閣府が全国の16歳から29歳までの男女を対象に調査した「仕事を選択する際に重要視する観点」の結果です。「安定して長く続けられること」88.8%、「収入が多いこと」88.7%、「自分のやりたいことができること」88.5%が、上位3位を占めています。つまり、安定した収入確保を望みつつも、自分のやりたいことをしたいという、若者ならではの就業に対する意識が窺えます。

図1:内閣府/平成30年版 子供・若者白書(概要版)就労等に関する若者の意識(図表6)
https://www8.cao.go.jp/youth/whitepaper/h30gaiyou/s0.html

さらに、パート・アルバイトといった非正規雇用の形態を選ぶ理由は何でしょうか。
図2の「希望する雇用形態別選択理由」を見てみると、33.9%が「自由な時間が多いから」と答えています。これは正規雇用の実に10倍に当たる数字です。
次いで「子育て、介護等の両立がしやすいから」が28%で、この2つの理由で60%を超えます。
プライベートや家庭での時間を大切にしたいと考える若者が、パート・アルバイトの雇用形態での就業を選んでいることが分かります。

図2:内閣府/平成30年版 子供・若者白書(概要版)就労等に関する若者の意識(図表2)
https://www8.cao.go.jp/youth/whitepaper/h30gaiyou/s0.html

それでは、そもそも若者はなぜ仕事をするのでしょうか。当たり前と言えばそれまでですが、「収入を得るため」が84.6%と断トツのトップです(図3)。
「仕事を通して達成感や生きがいを得るため」は2番目に多い回答ではありますが、15.8%と仕事をする目的のモチベーションとしては高くないことが分かります。

図3:内閣府/平成30年版 子供・若者白書(概要版)就労等に関する若者の意識(図表9)
https://www8.cao.go.jp/youth/whitepaper/h30honpen/s0_0.html

つまり、若者は、収入を得るためにアルバイトをし、自分の時間も大切にしたいと考えているのです。
職業体験を通して何かを得ることはもちろん大切ですが、どちらかと言うと、仕事は仕事として決められた時間と範囲内で完結させたいという考えなのかもしれません。先ほどの顧問先のように、「せっかくだからあれもこれも」という気持ちは、若者にとっては「ありがた迷惑」=「やりがい搾取」と取られてしまう可能性を秘めているのです。

では逆に、離職の理由としてはどのようなものがあるのでしょうか。図4は「最初の就職先を離職した理由」についての結果です。
「仕事が合わなかったため」がトップの理由ですが、2位は「人間関係がよくなかったため」となっています。賃金や労働時間、ノルマ達成といった定量的な部分ではなく、「仕事が合わない」や「人間関係」という定性的な部分が上位に来ています。この事実は、会社がすべき若者への対応のヒントになるのではないでしょうか。

図4:内閣府/平成30年版 子供・若者白書(概要版)就労等に関する若者の意識(図表7)
https://www8.cao.go.jp/youth/whitepaper/h30honpen/s0_0.html

 

やりたいことを求めて仕事に就いた場合の「やりがい搾取」

ここまでの話しは、本当の意味でのやりがい搾取ではなく、「そう取られてしまう行動を慎みましょう」というレベルの話しでしたが、ここからは少し深い闇の話しをしていきます。
「自分のやりたいことが仕事になれば」という熱い期待と夢を抱いて、社会に飛び込む若者にとって、「やりがい搾取」という落とし穴が待ち構えているケースがあります。
人間の脳は、美味しい料理を食べた時に「感覚的報酬」や、金銭を手に入れた時の「物理的報酬」の他に、誰かに認められるといった「社会的報酬」によってもドーパミンが放出され、快感を覚える仕組みになっています。つまり、お金を払わなくても、貢献を強調したり、夢の実現を匂わせたりすることによって、「これをすると気持ちいい。次も頑張ろう」と脳に思わせることが可能なのです。長時間労働を「やる気がある」と称賛することや、低賃金で働くことを美徳とすることなどは、やりがい搾取にうってつけの文化といえるでしょう。*2

実際に、2014年に起きたアニメーターの自殺が、長時間労働による過労が原因のうつ病によるものとして、労災認定された事件がありました。被災者は当時28歳で、アニメが好きで熱心に働いていたそうで、通院先の医療施設のカルテには「月600時間労働」という記載もあったそうです。
アニメの仕事に関われて嬉しい反面、信じられないほどの長時間労働を強いられていたことについて、これこそが「やりがい搾取」という言葉の本質であり、会社として決しておこなってはいけない行為です。

法律上、労働者の健康を確保する義務が会社(使用者)にあります(労働安全衛生法第3条)*3。同時に、労働者の安全を確保する義務もあります(労働契約法第5条)*4。これらの義務を無視し、利益優先で労働者の労働意欲を貪るような行為は、言うまでもなく違法です。先ほどの労災認定された事件ほどの長時間労働でないにせよ、契約外の労働時間に労働をさせることは、労働者の心身を疲弊させることになり、良い職場環境とは言えません。良かれと思ってしたことが仇となっては元も子もありません。世知辛い意見になりますが、労働者に対して、決められた業務の遂行(労働時間含む)を徹底させることこそが、会社の責務なのです。

それでも成長願望はある若者たち

それでは、アルバイトの若者たちと交流することなく、淡々と職務を全うすることが良いのか、というとそれはNO!です。
図5をご覧ください。「あなたは、より良い仕事につくために、就職後、学校や専門の機関、各種スクールなどで学びを続けられるのであれば希望しますか」という質問に対する回答です。
実に77.5%の若者が「希望する、または、条件が整えば希望する」と答えています。自分の時間が大切で自由に過ごしたい、と思う反面、より良い仕事に就けるように自分を磨きたい、という成長願望を持っていることが伺えます。アルバイトを通じて、彼らにとって有益な情報や仕事を学べるのであれば、どんどん吸収してくれるのではないでしょうか。

図5:内閣府就労等に関する若者の意識(図表15)
https://www8.cao.go.jp/youth/whitepaper/h30honpen/s0_0.html

先ほど、若者の離職理由として定性的な理由が上位にきていることに触れましたが、「職場生活に対する満足度」を海外の若者と比較してみると、日本の若者が持つ職場に対する不満(やや不満も含む)の割合は約25%で、韓国を抜いてトップです(図6)。さらに、職場生活に「満足している」と、より積極的に評価している割合でみると、アメリカ、ドイツ、スウェーデンと比べて半分程度と、日本の若者が持つ職場に対する不満が、高い水準にあることが窺えます。


図6:厚生労働省/働く人の意識と就業行動p99
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/08/dl/02_0001.pdf

特に、学校を卒業したばかりの若者にとっては、「仕事」というもののイメージがつかず、社内でのコミュニケーションが不足した結果、理想と現実のギャップに悩み離職してしまう可能性があります。
必要なことは、労働時間外のコミュニケーションではなく、
「労働時間内に的確な指示をすること」
「業務の方向性を説明し理解を得ること」
です。

その結果、相互の信頼関係が築ければ「やりがい搾取ですよ」などと言われることもなくなるでしょう。
さらに、職場で頼れる上司・仕事仲間ができると、アルバイトの若者(若者に限った話ではありませんが)にとって、単なる「収入を得るための場所」ではなく「居心地のよい空間」として、より積極的に職務に励むことができるのではないでしょうか。

 

*1、*2引用:マイナビニュース/やりがい搾取とは?「成長できる仕事」に要注意の理由
https://news.mynavi.jp/article/20190614-841397/
*3参照:e-Gov/労働安全衛生法第3条
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=347AC0000000057#13
*4参照:e-Gov/労働契約法第5条
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=419AC0000000128#20

 

 

【筆者】
特定社会保険労務士
浦辺里香 (うらべりか)

早稲田大学卒業後、日本財団、東京中日スポーツ新聞で勤務。社労士試験に合格後、事務所を開業し独立。その翌年、紛争解決手続代理業務試験に合格し、特定付記。

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