近年、受動喫煙防止の流れが全国的に主流となっており、喫煙をめぐる環境は2、30年前と比較するとずいぶんと様変わりしました。その間、喫煙の規制に関する法改正が次々と行われ、屋外・屋内を問わず禁煙・分煙化が厳格に求められるようになってきています。
こうした流れの中で、特に飲食店などの店舗を経営する事業者にとっては、受動喫煙防止は大きなテーマとなっていることでしょう。当然、受動喫煙を規制する法律についても理解を深めておく必要があります。
受動喫煙防止について定めた法律として「健康増進法」があります。健康増進法は、これまで段階的に改正法が施行されてきましたが、2020年4月1日に改正法が全面施行され、その中には飲食店などの店舗経営者にとって大きなインパクトを与える内容も含まれています。
この記事では、健康増進法の内容について、2020年4月1日全面施行の改正内容も踏まえて解説します。
※なお、下記で解説した内容は国の定めた法令に関するものですが、自治体によっては、法令よりも厳しい基準を定めた条例を制定しているケースもあります。そのため、法令と併せて、自分のいる地域の条例についても必ず確認するようにしてください。
目次
受動喫煙防止のために管理者が講じなければならない措置 店舗形態の転換を含む経営判断が求められる
健康増進法とは?
まず、健康増進法の目的と内容について解説します。健康増進法の目的は、第1条に規定されています。
第1条(目的)
この法律は、我が国における急速な高齢化の進展及び疾病構造の変化に伴い、国民の健康の増進の重要性が著しく増大していることにかんがみ、国民の健康の増進の総合的な推進に関し基本的な事項を定めるとともに、国民の栄養の改善その他の国民の健康の増進を図るための措置を講じ、もって国民保健の向上を図ることを目的とする。
健康増進法は、国民保健の向上を目的としていることが読み取れます。健康増進法の内容として主要なものは、2018年に公布された改正法によって盛り込まれた受動喫煙防止についての規定になります。受動喫煙防止の規定内容については、次の項目で詳細に解説します。
■ 改正法施行の経緯について
健康増進法には、2018年に公布された改正法によりはじめて受動喫煙防止に関する規定が盛り込まれました。それ以降、受動喫煙防止のための設備を準備する期間などを考慮し、段階的に改正法が施行されてきました。その経緯について説明します。
①2019年1月24日施行
受動喫煙の防止が、国および地方公共団体の責務として規定されました。この段階では、それ以外の組織・機関・店舗等については、受動喫煙の防止に関して積極的な義務を負うものとはされていませんでした。
②2019年7月1日施行
受動喫煙の防止が、学校、病院、児童福祉施設などや、行政機関にとっての義務として規定されました。依然として店舗等にとっては受動喫煙を防止するための積極的な措置を講ずべきものとはされませんでしたが、受動喫煙防止義務を負う主体が大きく拡大されました。
③2020年4月1日施行
2020年4月1日に施行された改正法によって、「多数の者が利用する全ての施設」に受動喫煙防止義務が課されることになりました。
「多数の者が利用する施設」とは、2人以上の者が同時に、又は、入れ替わり利用する施設を言いますので、すべての飲食店がこれに該当します。したがって、今後は飲食店等についても全面的に受動喫煙防止義務を負うものと考えられ、違反した場合には、最終的に過料の制裁が科される可能性があります。
受動喫煙防止のために管理者が講じなければならない措置
2020年4月1日施行の改正健康増進法に従い、飲食店等の管理者が講じなければならない措置について解説します。
<原則>
飲食店等の管理者は、店舗内での喫煙に関して、原則として以下の3つのパターンから1つを選択することになります。
出典:厚生労働省「なくそう!望まない受動喫煙。」
https://jyudokitsuen.mhlw.go.jp/sign/
①屋内全面禁煙
一つ目は、屋内全面禁煙とするパターンです。この場合、店舗内のすべてのスペースで飲食が可能となり、また立ち入りについての年齢制限もありませんが、店舗内では一切喫煙ができなくなります。
②加熱式たばこ専用喫煙室を設置
二つ目は、加熱式たばこ専用喫煙室を設置するパターンです。この場合、加熱式たばこ専用喫煙室内でのみ、加熱式たばこの喫煙が可能となり、店舗内のそのほかの場所については、全面禁煙となります。なお、加熱式たばこ専用喫煙室内は20歳未満入室が不可となりますが、加熱式たばこ専用喫煙室内で飲食をすることは可能です。
③喫煙専用室を設置
三つめは、喫煙専用室を設置するパターンです。この場合、喫煙専用室内でのみ、加熱式たばこを含むたばこ全般の喫煙が可能となり、店舗内のそのほかの場所については、全面禁煙となります。なお、喫煙専用室内は20歳未満入室不可、かつ飲食も不可となります。
<例外1:既存特定飲食提供施設>
上記にかかわらず、以下の要件を満たす場合には、小規模な店舗に対する経過措置として、店内の一部または全部を喫煙可能とすることができます。この場合、喫煙可能なスペースにおける飲食も認められますが、同スペースにおいては20歳未満の入室が不可となります。
(a)2020年4月1日時点で営業している(既存の飲食店)
(b)資本金または出資の総額が5000万円以下
(c)客席面積100平方メートル以下
出典:厚生労働省「なくそう!望まない受動喫煙。」
https://jyudokitsuen.mhlw.go.jp/sign/
<例外2:喫煙目的施設>
2つ目の例外として、喫煙をサービスの目的とする施設については、受動喫煙防止の構造設備基準に適合した室内空間に限り、喫煙目的室を設けることができます。喫煙目的室内では、飲食等のサービスを提供することが可能です。
出典:厚生労働省「なくそう!望まない受動喫煙。」
https://jyudokitsuen.mhlw.go.jp/sign/
店舗形態の転換を含む経営判断が求められる
健康増進法上の受動喫煙防止義務に違反した場合、行政上の過料の制裁を受けるだけではなく、コンプライアンスの観点から、社会的な評判に悪影響を及ぼすことが想定されます。したがって、管理者としては法律に則って適切に店舗の営業形態を選択する必要があります。
今回の法改正によって、従前の営業形態を維持できず、転換を迫られるケースもあるかもしれません。たとえば、喫煙可能スペースには20歳未満の客が立ち入れなくなりますし、喫煙目的施設を除いては(加熱式たばこを除き)、喫煙しながらの飲食が不可となります。
また、今回の法改正によっては、大きく店舗形態を変更することが必須ではなかった管理者にとっても、店舗形態の見直しを検討するのは有用と思われます。その理由として、近年の喫煙をめぐる状況の変化を見る限り、今後も受動喫煙の防止を含めて、喫煙に関する規制がより厳格な方向に改正されていく可能性が高いことが挙げられます。
したがって、管理者としては、将来の法改正リスクまでを見据えた経営判断により、店舗形態の転換を含めた抜本的な検討をするべき段階に来ていると言えるのではないでしょうか。
たとえば、現状の店舗形態は長持ちしない可能性があるので、今のうちから非喫煙の方向に舵を切り、早めに顧客層の入れ替え・拡大を図るなどの判断も必要になってくるでしょう。
管理者の皆さんにおいては、健康増進法について、今後の法改正の動向も含めて深く理解していただき、経営判断の一材料として生かしていただきたいと思います。
【著者】
弁護士YA
大手法律事務所にて企業法務、金融法務に従事。
退職後、現役弁護士としての活動と並行して、ライター活動を開始。
法律・金融分野を中心として、幅広いジャンルの記事を企業のオウンドメディア等へ寄稿している。
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