新型コロナウイルス感染症の拡大開始以来、コロナ禍により打撃を受けた事業者を救済するため、国や自治体によって様々な助成金・給付金等が新設されました。
多くの事業者が、助成金等による救済の恩恵を受けた一方で、許し難い不正受給の事例も散見されています。
コロナ関連助成金・給付金の不正受給は犯罪であり、行政から重いペナルティが科される可能性もあります。
もし不正受給に手を染めてしまった場合には、速やかに自主返還等の対応をとりましょう。
今回は、コロナ関連助成金・給付金の不正受給パターンや、不正受給者に対して科されるペナルティなどをまとめました。
目次
コロナ関連助成金・給付金の不正受給が相次いで問題に
コロナ関連助成金・給付金は、事業者を迅速に救済するため、比較的簡易な審査によって支給決定が行われています。
それを逆手にとって、受給要件を満たしていないにもかかわらず、虚偽の申請を行って助成金を詐取する事例が、残念ながら散見されています。
参考:
コロナ給付金、不正受給は9億円超 返還拒めば名前や所在地の公表も
https://www.asahi.com/articles/ASPDP4JWSPDPUTIL00N.html
中には税理士等の専門家が、顧客に対して積極的に不正受給を教唆するという、にわかには信じがたい事例も報道されました。
参考:
給付金不正受給の手口は 国税OBの元税理士を追送検|朝日新聞デジタル
https://www.asahi.com/articles/ASP6J5225P63PTIL02Z.html
依然として続くコロナ禍の状況において、コロナ関連助成金・給付金の不正受給(給付金詐欺)は引き続き大きな社会問題となっています。
コロナ関連助成金・給付金の主な不正受給パターン
コロナ関連助成金・給付金に関する不正受給の手口は様々ですが、よく見られるものとしては、以下のパターンが挙げられます。
●事業を実施していないにもかかわらず申請する
コロナ関連助成金・給付金は、その多くが事業者を対象としています。
しかし、事業者ではないサラリーマンなどが、「副業をしていた」などと偽ったり、確定申告書を偽造したりして申請を行い、助成金・給付金を詐取する事例が見られました。
●各月の売上を偽る
コロナ関連助成金・給付金の中には、月次ベースでの売上減少を支給要件とするものが多く存在します。
この要件を逆手にとって、帳簿を改ざんするなどして各月の売上を調整し、支給要件を満たしているかのように偽る例が見られました。
●売上減少の理由を偽る
売上減少が支給要件となっている場合、その原因が「新型コロナウイルス感染症拡大の影響等」によるものであることが必要とされているケースが大半です。
したがって、コロナとは関係ない理由で事業を縮小した、個人事業を法人成りしたなどの理由で売上が減少しても、コロナ関連助成金・給付金の対象にはなりません。
しかし、本当はコロナ禍以外の理由で売上が減少したにもかかわらず、コロナ禍が理由であると偽って助成金・給付金を申請する例がしばしば見られます。
●時短営業を行っていないのに、行ったと偽る
各都道府県では、緊急事態宣言(緊急事態措置)やまん延防止等重点措置に伴う時短営業を要請する際、協力した事業者に対して協力金を支給している例があります。
時短営業に関する協力金は、当然ながら、実際に時短営業を行ったことが支給要件となります。
しかし、本当は深夜帯まで営業していたにもかかわらず、時短営業を行ったと偽って協力金を申請する例があるようです。
コロナ関連助成金・給付金の不正受給に対する行政の対応
コロナ関連助成金・給付金の不正受給について、国や自治体は、それぞれ厳正な姿勢で対処しています。
●自主返還の受付
コロナ関連助成金・給付金に関しては、潜在的な不正受給者が多数存在すると見られています。
不正受給者に反省を促し、できる限り多くの不正受給額を回収するため、国や自治体は、まずは自主返還を促す対応をとっています。
自主返還を行った不正受給者については、延滞金が減額されたり、刑事告訴(告発)が差し控えられたりするなど、違反に対するペナルティが軽減されるケースが多いようです。
不正受給に心当たりがある場合は、速やかに国や自治体の窓口に連絡をとり、自主返還の申出を行いましょう。
●延滞金・違約金等の請求
不正受給者は、不正受給した助成金・給付金を返還しなければならないうえに、所定の延滞金・違約金等を追加で納付しなければなりません。
たとえば、国の持続化給付金・家賃支援給付金の不正受給者は、下記1~3の金額を合算した額を返還する必要があります。
1.給付金全額 2.不正受給の日の翌日から返還の日まで、年3%の割合で算定した延滞金 3.1と2の合計額の2割に相当する加算金 |
参考:
不正受給及び自主返還について(持続化給付金・家賃支援給付金)|経済産業省
https://www.meti.go.jp/covid-19/kyufukin_fusei.html
また、東京都の時短営業に関する協力金の不正受給者は、協力金全額の返還とともに、協力金と同額の違約金を納付しなければなりません。
参考:
「営業時間短縮等に係る感染拡大防止協力金」の不正受給に関する都の対応について|東京都
https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2021/12/09/08.html
●氏名・住所等の公表措置
コロナ関連助成金・給付金の不正受給者は、申請要綱や規程などに基づき、氏名や住所等の公表措置の対象になる可能性があります。
たとえば国の持続化給付金では、認定された不正受給者のうち、延滞金・加算金を含めた全額の返還を済ませていない個人事業主・法人について、氏名(法人は名称と代表者氏名)および住所を公表しました。
参考:
持続化給付金の不正受給者の認定及び公表について|経済産業省
https://www.meti.go.jp/covid-19/jizokuka_fusei_nintei.html
公表措置の対象となった場合、社会的評判に傷がつくことが予想されます。
たとえば、不正受給を知った取引先から契約を打ち切られたりして、売上減少等に繋がるおそれもあるので要注意です。
不正受給は詐欺罪にも該当|10年以下の懲役
コロナ関連助成金・給付金の不正受給は、返還請求や公表などの行政上の措置を受けるだけでなく、「詐欺罪」(刑法246条1項)として刑事訴追される可能性もあります。
詐欺罪の法定刑は「10年以下の懲役」であり、きわめて重い犯罪です。
冒頭で紹介したとおり、給付金詐欺指南に関与した税理士等が、実際に逮捕された事例が報道されています。
不正受給者の1人(1社)に過ぎない個人事業主や法人が、どこまで刑事訴追の対象になり得るかは未知数です。
しかし、客観的に詐欺罪が成立することには変わりがありませんので、不正受給に手を染めては絶対にいけません。
まとめ
コロナ関連助成金・給付金を不正受給すると、延滞金や加算金等を足したうえで全額を返還しなければなりません。
返還に応じなければ、公表措置の対象となるおそれがあります。
また、不正受給者は詐欺罪で訴追・処罰される可能性があり、本人にとっても百害あって一利なしです。
コロナ関連助成金・給付金は、今後も募集がなされる機会があるでしょう。
その際、決して不正受給の誘惑に負けてはなりません。
もし不正受給に手を染めてしまった場合には、速やかに自主返還を行うことをお勧めいたします。
【著者プロフィール】
阿部 由羅
ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。