2020年6月1日から施行されているパワハラ防止法※では、事業主に対して、パワハラを防止する雇用管理上の措置を義務付けています。
※労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律30条の2~30条の8
雇用管理上の措置を講じる義務は、これまで中小企業に対しては適用が猶予されていましたが、2022年4月1日から中小企業にも適用されます。
中小企業には、これまで以上にきちんとしたパワハラ対策を実施することが求められるので、自社として講ずべき対策を早急にご検討ください。
今回は、パワハラに該当する行為や使用者が講ずべき措置、パワハラ対策が不十分な場合のリスクなどについてまとめました。
目次
パワハラの定義・具体例
パワハラ防止法30条の2第1項では、いわゆる「パワハラ(パワーハラスメント)」に該当する行為の定義が定められています。
また、同条2項に基づき厚生労働大臣が定めた指針では、パワハラに当たる典型的な行為を6つの類型に分類しています。
参考:
事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000605661.pdf
●パワハラ防止法に基づくパワハラの定義
パワハラ防止法30条の2第1項では、以下の要件をすべて満たす行為をパワハラと位置づけています。
①職場において行われる言動であること →会社のオフィス、作業現場に加えて、出張先なども「職場」に当たります。 ②優越的な関係を背景とした言動であること ③業務上必要かつ相当な範囲を超えていること ④労働者の就業環境が害されること |
●パワハラの6類型・該当する行為の具体例
前掲の厚生労働大臣指針では、パワハラに当たる典型的な行為が、以下の6つの類型に分類されています。
①身体的な攻撃 (該当する例) ・殴打 ・足蹴り ・物を投げつけること (該当しない例) ②精神的な攻撃 (該当しない例) ③人間関係からの切り離し (該当しない例) ④過大な要求 (該当しない例) ⑤過小な要求 (該当しない例) ⑥個の侵害 (該当しない例) |
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パワハラ防止法に基づき、事業主が講ずべき雇用管理上の措置
パワハラ防止法30条の2第1項に基づき、事業主が講ずべき雇用管理上の措置は、前掲の厚生労働大臣指針で以下のとおり具体化されています。
①パワハラ防止に関する方針等の明確化・周知・啓発 ②パワハラ被害に関する相談・対応体制の整備 ③パワハラ被害に関する迅速・適切な事後対応 ④その他 |
パワハラ対策が不十分な場合、会社に生じるリスク
パワハラ対策が不十分な状況で、実際にパワハラ被害が発生した場合、会社は以下のリスクを抱えることになってしまいます。
このようなリスクが顕在化することを防ぐためにも、パワハラ対策が不十分な会社は、早急に検討へと着手しましょう。
●従業員から使用者責任や安全配慮義務違反を追及される
職場でパワハラが発生した場合、行為者本人だけでなく、会社も被害者に対して、以下の根拠により損害賠償責任を負う可能性があります。
①使用者責任(民法715条1項) 従業員(被用者)による業務上の不法行為については、使用者も連帯的に損害賠償責任を負うことがあります。 ②安全配慮義務違反(労働契約法5条) |
●厚生労働大臣による行政指導等の対象になる
法律上義務付けられるパワハラ防止措置を講じていない事業主に対しては、厚生労働大臣による助言・指導・勧告が行われる可能性があります(労働施策総合推進法33条1項)。
勧告に違反した事業主については、その旨が公表されることもあるので要注意です(同条2項)。
●レピュテーションが低下し、売上や人材採用などに悪影響が生じる
「パワハラが横行している会社」という評判が広がってしまうと、企業イメージが大きく低下してしまいます。
その結果、取引先から契約を打ち切られたり、求人に応募する就職・転職希望者が減ったりする事態になりかねません。
コンプライアンスの重要性が高まっている昨今では、パワハラ防止法に沿ったパワハラ対策を講ずることの重要度はいっそう高いと言えるでしょう。
まとめ
従業員からの損害賠償請求・厚生労働大臣による行政指導等・企業イメージの低下等を防ぐためにも、適切なパワハラ対策を講じることが大切です。
パワハラ防止法や厚生労働大臣指針の内容を踏まえて、自社の実態に合ったパワハラ対策のあり方を検討し、早急にパワハラ防止の体制を整えましょう。
【著者プロフィール】
阿部 由羅
ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。
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https://twitter.com/abeyuralaw
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