新型コロナウイルスの影響は、第一波が去ったと見られる現在でも未だに色濃く残っています。
顧客の好みや行動の傾向が、コロナ前後で大きく様変わりしてしまったという業界も少なくありません。
そのような中で廃業を余儀なくされてしまう事業主の方もいらっしゃるでしょう。
その場合、事業主の方としては、
・どのような手続きを踏む必要があるのか
・借金が残った場合はどうなるのか
・従業員の給料が払えない場合はどうなるのか
といったことが気になるのではないでしょうか。
上記のような、廃業をする際に知っておいた方が良いことについて、弁護士が専門的な視点から解説します。
目次
個人事業主が廃業するには役所への届出を行う
個人事業主の方が廃業をする場合には、特に複雑な手続きは必要なく、基本的には各役所に対して届出を行うことで足ります。
ただし、青色申告をしているかどうか、消費税の課税事業者かどうか、給与を支払っているかどうかなどによって、提出する書類が増える場合があるため注意しましょう。
具体的に必要となる届出は以下のとおりです。
①個人事業の開業・廃業等届出書
廃業した日から1か月以内に、所轄の税務署に提出します。
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/04.htm②事業開始(廃止)等申請書
都道府県税事務所に提出します。
提出期限は都道府県ごとに異なるため、詳しくは都道府県税事務所に確認しましょう。③青色申告の取りやめ届出書(青色申告を行っていた場合)
事業を廃止した年の翌年3月15日までに、所轄の税務署に提出します。
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/23200008.htm④事業廃止届出書(消費税の課税事業者であった場合)
廃業届と同じタイミングで、所轄の税務署に対して提出します。
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shohi/annai/1461_06.htm⑤給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出書(給与を支払っていた場合)
廃業届と同じタイミングで、所轄の税務署に対して提出します。
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/gensen/annai/1648_11.htm⑥所得税及び復興所得税の予定納税額の減額申請書(予定納税額が多すぎる場合)
所轄税務署に提出します。
提出時期が非常に短いため、時期を逃さないように注意しましょう。
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/02.htm
会社を廃業するには解散・清算の手続きが必要
一方、会社を廃業するためには、会社法上の「解散」「清算」の手続きを取る必要があります。
会社の解散は、株式会社であれば株主総会の特別決議(3分の2以上)、合同会社であれば総社員の同意によって決定されます。
また、後で解説する破産手続開始の決定がなされると、会社は強制的に解散となります。
会社が解散すると、その時点で営業ができなくなり、債権者に対して残った財産を分配する清算手続きに入ります。
清算手続きでは、清算人が主導して会社財産の処分と債権者への分配が行われます。
そのうえで残った財産があれば、株主・社員に対して分配されることになります。
清算手続きが完了すると、会社は消滅します。
会社の廃業については、法的に複雑な手続きが必要となります。
そのため、弁護士に相談をしながら手続きを進めた方が良いでしょう。
借金を返しきれない場合には債務整理
事業主の方が廃業を余儀なくされるケースでは、事業上の借金が膨らんでしまい、返しきれなくなっている場合も多々見られます。
その場合には、債務整理を検討しましょう。
債務整理は、所定の手続きを踏むことによって適法に借金を減額・免除してもらったり、返済スケジュールを猶予してもらったりすることをいいます。
個人事業主と会社で債務整理の方法が異なりますので、それぞれについて見ていきましょう。
■個人事業主の場合は任意整理・個人再生・自己破産から選択
個人事業主の方が債務整理をする場合、主に任意整理・個人再生・自己破産の3つの方法から選択することができます。
それぞれの内容の概略は以下のとおりです。
①任意整理
債権者と個別に交渉をして、借金の減額や返済スケジュールの延長を認めてもらう方法です。
手続きが簡単・柔軟な解決を図れるというメリットの反面、大きな債務の減額は見込みにくいデメリットがあります。②個人再生
裁判所での個人再生手続により、全債権者との間で借金の減額や返済スケジュールの延長を認めてもらう方法です。
任意整理よりも債務の減額が大きく認められ、かつマイホームを手元に残しておくことができるメリットがあります。
その反面、手続きが複雑・安定した収入がなければ利用できないなどのデメリットがあります。③自己破産
裁判所での破産手続により、債務を全額免除してもらう方法です。
借金の減額(免除)幅という意味では、個人事業主の方にもっとも有利です。
一方、一部を除いて所有する財産が処分されてしまうことが最大の難点となります。
このように、各債務整理の方法にはメリット・デメリットがあり、どの方法が最適かは状況によって異なります。
必要に応じて弁護士のアドバイスを受けながら、最適な方法を模索しましょう。
■会社の場合は法人破産、代表者も連鎖破産の場合が多い
会社が廃業に伴って債務整理をする場合には、基本的には法人破産の手続きによる必要があります。
法人破産は、個人事業主の場合と同様、裁判所での破産手続によって行われます。
ただし法人破産の場合、個人事業主が自己破産するケースと比較して、以下の点が異なります。
・会社の財産は例外なくすべて処分され、債権者に分配される
・破産手続き終了後、会社の法人格は消滅する
なお、株式会社および合同会社は有限責任会社なので、会社が債務を支払えなくなったとしても、それを株主や社員が支払う必要はないのが原則です。
しかし、日本では会社が借り入れなどを行う際に、代表者を連帯保証人とするケースが多く見られます。
その場合、会社が法人破産によって債務を支払えなくなると、代表者が代わりにその債務を履行しなければなりません。
会社の債務が巨額の場合には、代表者個人でこれを支払うことは事実上不可能なので、会社と同時に自己破産をするケースが多くなっています。
従業員に給料が払えない場合は?|未払賃金立替払制度を活用
残念ながら事業が立ち行かなくなり、雇用している従業員に給料が払えないまま廃業に追い込まれてしまうケースも存在します。
たとえ廃業したとしても、できる限り従業員を路頭に迷わせたくないという思いをお持ちの事業主の方は多いのではないでしょうか。
従業員の給与債権は、破産手続の中である程度優遇されて支払われることになっていますが、会社や事業主にお金がない場合は、十分な配当をすることができません。
その場合は、従業員に「未払賃金立替払制度」の利用を勧めましょう。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/shinsai_rousaihoshouseido/tatekae/index.html
未払賃金立替払制度では、1年以上事業活動を行っていた使用者が倒産した場合、労働者に対して未払いとなっている賃金の8割(ただし、退職時の年齢に応じて88万円~296万円の範囲で上限あり)が、独立行政法人労働者健康安全機構より支払われます。
どうしても給料が払えないという場合には、従業員に対して利用可能な補償制度を紹介することも、事業主としての最後の責務の一つといえるのではないでしょうか。
まとめ
売り上げ・収入減に直面した事業主の方にとって、廃業するかどうかについては非常に難しい決断を迫られます。
もし廃業すると決めた場合には、廃業に関する正しい知識を持って円滑に手続きを処理し、スムーズに人生の再スタートを切りましょう。
弁護士YA
大手法律事務所にて企業法務、金融法務に従事。
退職後、現役弁護士としての活動と並行して、ライター活動を開始。
法律・金融分野を中心として、幅広いジャンルの記事を企業のオウンドメディア等へ寄稿している。
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