人間だれしもが、「若気の至り」を経験したことがあるだろう。
酔っぱらって終電で寝過ごしたとか、恋人に別れ話をされて喫茶店で大泣きしたとか、趣味にのめりこんで大学で単位を落としたとか……。
うんうん、あるよねぇ。わかります。
わたしが「若気の至り」と言われて思い出すのは、やたらと大人に反抗していた学生アルバイト時代のことだ。
あのころは「大人の言う通りにするのはカッコ悪い」「大人の言いなりにならない自分カッコいい」という典型的なティーンエイジャー思考をしていて、今どきの表現をすれば、かなりイキっていた。
というわけで、あの頃の自分を思い出しつつ、今日は「学生アルバイトの叱り方」について考えていきたい。
マネージャーに怒られて、謝るよりまずさきにムカついた理由
わたしが高校2年生のとき、とある焼肉全国チェーン店で働いていた。
学校が休みで、はじめて平日の昼間にシフトを入れたときのこと。夜の仕込みはもう終わっているし、掃除するところももうなさそう……。あまりにも暇で、ずっとみんなでおしゃべりしていた。
すると事務所にいたマネージャーがやってきて、「みんなしゃべりすぎ。給料払ってるんだからちゃんと手も動かして」と一言。
わたしを含めアルバイトたちは気まずそうに謝って、それぞれ仕事を探す。
が、本当になにもやることがない。メニューを改めて拭いたり、棚の小物をすべて出して掃除したりと、時間つぶしの作業しかないのだ。
早々に仕事が見つからなくなったわたしは、他の人に話しかけ、またおしゃべりをしはじめた。
いやだって、本当にやることがなにもなかったんだよ! ほかの人に聞いても「やることないから適当に掃除とか片付けしてる~」って返事だったし。
そしてシフトが終わりの時間になってタイムカードを切り、さて家に帰ろう……というところで、マネージャーに呼び止められ、キッチンの目の前の空いている席に座らされた。
そして「お前、ぺちゃくちゃしゃべるだけじゃねぇか。ちゃんと仕事しろよ。多少の雑談はいいけど、お前の場合ほかの人に話しかけて仕事の邪魔になってんだよ」と怒られてしまった。
そう言われたわたしがまず思ったのは、「すみません」ではなく、「なんだこのオジサン」だった。
仕事しろっていうなら仕事ちょうだいよ、やることなくて暇だったんだもん。
もうタイムカード切ってるのに呼び止めるとか超ダルイ、勘弁してよ。
っていうかなんでわざわざみんなに聞こえる場所で言うの? めっちゃ無神経。
高校生で初めてバイトした当時のわたしの頭の中は、こんな反抗心が占めていた。
その反抗心から、ぶっきらぼうに「はいはい、すんませんでしたー」と言ったところ、「はいはいじゃねぇだろ、お前ふざけてんのか」とさらに怒られる。
そこでわたしもイラっとして、「他人の言葉遣いを注意するより、自分の言葉遣い見直したほうがいいんじゃないですか?」と反論。
いま思えば原因は100%自分だとわかるし、うまいこと聞き流しておけばいいと思うのだが、それができないのが「若気の至り」でして……。
いやぁ、イキってたなぁ、うん。
学生バイトは「我慢してでも続けよう」とはならない
コロナ禍で減ったとはいえ、バイトしている高校生は、5人にひとり。バイトする理由は、「貯金」が63.5%で一番多く、「趣味のため」が61.7%と続く。*1
大学生になると、5人のうち3人はアルバイトしているらしい。*2
これだけ学生バイトが多いとなると、彼・彼女たちをどう扱うか、どのようにいい関係を築いていくかで、職場の空気や働きやすさは大きく変わるはずだ。
しかしまだ学生、それもアルバイトとなると、社員と同じような働き・責任感を求めるわけにもいかない。
「仕事をする」こと自体が初めての人も多いだろうから、社員としては時折ヤキモキして、叱りたくなることもあるだろう。
とはいえ大前提として、学生アルバイトは「生計を立てるためには我慢してでも働かないといけない」という意識をもってはいない。
多くの学生は、親に養ってもらっていたり、奨学金を受給していたりするから(生計を支えながら学校に通っている人もいるけども)。
そんな学生バイトからすれば、大人から偉そうに叱られるなんて、最も嫌で避けたいシチュエーションである。
つまり少しでも叱り方をまちがえれば、相手はすぐに「んじゃ辞めまーす」とエプロンを置いて帰ってしまうかもしれないのだ。その場では引き留められても、後日連絡がつかなくなりバックレ……なんてことも珍しくない。
たとえば、年末超満員の居酒屋で洗い場を回せなくなった大学生アルバイトに店長が「役立たず!」と怒鳴り、その人がパニックで泣き出してしまったり。
バイト初日に社員から「もうちょっとキビキビ動きなよ、それくらいだれにでもできるよ」と言われて、次の日からその子が来なくなったり。
そんなバイト仲間を、わたし自身も何回か見たことがある。
というわけで、わたし自身叱られるのが大嫌いだったからこそ、学生バイトを叱るときはこういうふうにすればいいんじゃないかな?という提案をしたい。
叱るときは個別+勤務時間内+フラットに話すこと
まず、他の人がいる場では強く注意しない。これは本当に大事。
一旦「それはよくないからやめてね」とだけ言って、それでなおらなければ、改めて呼び出してちゃんと話すほうがいい。
叱られ慣れていない自意識のカタマリみたいな若者は、恥をかくことをとにかく嫌う。とくに大人相手だと、以前のわたしのような反抗心をもつ人も多い。
心の中で悪いと思っていても素直に謝れなかったり、他の人の手前でわざと反抗して相手を言い負かそうとしたりすることもあるだろう。
だから、人前では軽く「注意」するにとどめて、それでもよくならなければその後個人的に「叱る」ほうがいいと思う。
そして、あくまで勤務時間内に話すこと。
バイトは基本的に自給で働いているので、勤務時間外に拘束するのはよくない。
「もう上がりなんで」と話し合い自体を拒否する人がいるかもしれないし、たとえ話を聞いてくれたとしても、「ムダな時間をとらされた」といういらだちが勝って反省につながらない可能性もある。
さらに、偉そうにしないこと。学生バイトより社員や店長のほうが立場が上なのは事実だが、だからといって偉そうにすると「マウントを取られた」といわれるのが、いまのご時世である。
そもそも学生バイトは、店長や社員を「上司」だと思っていないことも多いしね。
「お前」と呼んだり「ふざけんなよ」と暴言を吐いたりするのは、完全に論外だ。
実際、「やる気ないなら帰れ」という鉄板の売り言葉に対し、「こっちから辞めてやるわ!」と運ぼうとしていた料理をその場に置いてそのまま辞めたアルバイトを見たことがある。
「ガツンと言ってやろう」より「味方アピール」が効く
というわけで、結論として、「学生バイトを叱るときは親切にしろ」。
……なんだかおかしなことを言っているような気もするが、大事なのは相手に「自分は敵ではない」と理解してもらったうえで、話を聞いてもらうことだ。
学生バイトの多くは、大人に叱られることに慣れていない。
大人がやりがちな、「こらしめるためにガツンと言ってやろう」なんてのは最悪の手段である。
だから、
「普段ちゃんとやってるのはわかってるから、ああいう場合、次はこうしてほしい」
「人手不足ですごい大変だったよね。でももう少しこうするともっと楽になるから、次から頼めるかな」
という表現でまず自分は味方であると伝えてから、注意をするほうがいいと思う。
へりくだっているように聞こえるかもしれないが、頭ごなしに自分を否定されていい気になる人はいない。それがまだ社会人として働いていない学生バイトであれば、なおさらだ。
だからまず相手への労いや共感を示し「味方アピール」したうえで、「でもこれは困る」と言う。
自分は敵ではないよ、という前提で話さないと、なにを言ってもきっと、相手は受け入れてくれない。10年前のわたしがそうだったから……。
たとえば冒頭で紹介した、おしゃべりばかりして叱られたわたしの例でいえば、そもそも仕事がなくて暇だったから雑談していたわけだ。
頭ごなしに「口ばっかり動かさず手を動かせ」と言うくらいなら、ちゃんと仕事を与えたうえで「おしゃべりはほどほどにして、こっちやってね」と言えばいいだけ。
それでも雑談ばかりしていたなら、改めて呼び出して、「この作業お願いしたけど、雑談ばっかりで進んでないよね。ほかの人の仕事も遅くなるから、ちょっとちがう場所で作業するとかしてほしい」と言えば、あのころのわたしでも少しは受け入れられたと思う。
少なくとも、「お前いい加減にしろよ」と言われるよりは、何百倍もマシだ。
いい関係を築けば学生バイトは長く働いてくれる
……なんていうと、「若者は無責任ですぐバイトを辞めるから丁寧に扱え」と主張しているように聞こえるかもしれないが、そんなつもりはない。
大学生バイトの勤務期間を調べてみると、「1番長く続いた勤務期間は25か月以上」が31.8%と最多。大学生バイトの3割は、2年以上同じ場所で働いた経験があるのだ。平均しても、1年半程度は同じ職場で働いているらしい。*3
つまり、学生バイトといい関係を築けば、学生バイトは長く働いてくれるというワケだ。
それなら、一時の感情で𠮟りつけて辞められてしまうより、うまいこと手のひらの上で転がす……というと言葉は悪いが、相手をその気にさせて長く働いてもらったほうがいいんじゃないか?と思う。
いや本当、若者の自尊心をなめてるとすぐ辞めるからね。しかもこのご時世、SNSでパワハラだのなんだの書かれたり、googleで低評価をつけられたりするかもしれないし。
そうならないように、叱るときはだれもいないところで、勤務時間中に、フラットな話し方で伝えることをおすすめしたい。
そうすれば学生バイトは、進級や進学で事情が変わるまで、きっと楽しく働き続けてくれるだろうから。
*1 マイナビ「2020年高校生のアルバイト調査」
https://www.mynavi.jp/news/2020/10/post_28736.html
*2 マイナビ「大学生のアルバイト実態調査(2021年)」
https://career-research.mynavi.jp/reserch/20210428_8699/
*3 マイナビ「学生アルバイトに定着してもらうためのポイントとは?」
https://nalevi.mynavi.jp/legal-data/data/6231/
雨宮紫苑
ドイツ在住フリーライター。Yahoo!ニュースや東洋経済オンライン、現代ビジネス、ハフィントンポストなどに寄稿。著書に『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)がある。twitter→@amamiya9901