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大事な従業員を守るために 理不尽な要求をするカスハラ顧客への対処法は?

新型コロナウイルス騒動の最中には、ドラッグストアなどで品薄になるマスクなどについて、無理難題を要求する顧客が全国で相次ぎました。

店舗にとって顧客が大切なのは言うまでもないことですが、一方で店舗のために働いてくれる従業員も、顧客に勝るとも劣らないほど大切な存在です。

この機会に、理不尽な要求をする顧客から従業員を守るために、事業主の方が取るべき対処法について考えてみましょう。

目次

クレーム対応のポイント|顧客の要求が正当か、それともカスハラかを見極める

従業員をカスハラ顧客から守るには?事業主が取れる対策について

カスハラ顧客への対応例

従業員を守ることは会社にとって法律上の義務

クレーム対応のポイント|顧客の要求が正当か、それともカスハラかを見極める

顧客は店舗に対して理不尽な要求をすることは、ハラスメントの一種として近年「カスハラ」(カスタマー・ハラスメントの略)と呼ばれるようになっています。

店舗が顧客からクレームを受けた場合、その顧客は正当な要求をしているのか、それとも単なるカスハラ顧客なのかを正確に見極めた上で対応することが重要です。

特にクレーム対応に当たっては、その顧客がすでに商品・サービスを購入済みなのか、それとも未購入なのかによって、対応に要求される慎重さが変わってきます。

以下では、それぞれのケースにおけるクレーム対応の目安となる指針を示しますが、個別の事案の性質を見定めた上で、店舗・従業員にとって最善の対応を心がけてください。

指針①:購入済み商品・サービスへのクレームには真摯に対応|穏便な解決を
商品やサービスを購入した顧客と店舗の間には、すでに契約関係が存在しています。

仮に顧客が購入した商品やサービスに欠陥が存在した場合には、店舗が顧客に対して何らかの補償をしなければならない可能性があります。
そのため、商品やサービスを購入した顧客のクレームに対しては、事実関係を確認するため、また穏便な解決を図るためにも真摯に対応しましょう。

もし店舗に責任があるにもかかわらず、それを認めずに顧客と対立してしまうと、SNSで店舗の対応が拡散されて評判を落としたり、顧客から訴訟を提起されたりするリスクがあります。

指針②:未購入の顧客に対してはある程度割り切った対応を
逆に、商品やサービスをまだ購入していない顧客については、店舗との間に未だ契約関係はありません。
商品やサービスを未購入の顧客に対して店舗が責任を負うのは、従業員が顧客に対して差別的な発言や暴行を行ったなど、きわめて例外的な場合に限られます。

そのため、商品やサービスを未購入の顧客からのクレームが理不尽に感じられた場合には、店舗としてはある程度強い態度で対応することもできるでしょう。

店舗経営者の方の中には、「きつい対応をしたら、見込み顧客を失ってしまうのではないか」と考える方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、理不尽なクレームを寄せてくる人が本来的に顧客候補であったのかは疑問が残るところです。
またカスハラ顧客に対して毅然とした態度を示すことによって、かえって店舗のイメージが向上する例もあります。

従業員を守るためにも、商品やサービス未購入の顧客に対しては、ある程度割り切った対応が必要になる場合もあるでしょう。

指針③:度の過ぎた要求はいかなる場合もNG|厳正な対応を
たとえ顧客の主張する内容が正しいとしても、従業員に対して土下座を求めるなどの度を超えた要求をしたり、暴言や暴行を働いたりする行為が見られた場合は、店舗は全力で従業員を守らなければなりません。

このような顧客については店舗出入り禁止処分とし、悪質さの程度によっては警察に通報して厳正に対処しましょう。

従業員をカスハラ顧客から守るには?事業主が取れる対策について

不特定多数の顧客を相手に商品・サービスを提供している以上、カスハラ顧客の被害に遭ってしまう可能性はどうしても残ってしまいます。

店舗としては、カスハラ顧客に対する対応方針を確立して、いざカスハラ顧客が登場した際に従業員を守ることができるようにしておく必要があります。
具体的にどのような対策を取るべきかについて解説します。

クレーム対応のマニュアルを整備する
従業員が現場でカスハラ顧客と対峙した際に、どのように対応して良いかわからず混乱してしまうようだと、従業員のストレスは非常に大きくなってしまいます。

真面目な従業員であればあるほど、「自分が勝手な行動をして店舗に迷惑をかける訳にはいかない」と考え、一人で抱え込んでしまう傾向にあります。
そこで、クレーム対応のマニュアルを整備して、以下のような内容を取り決めておきましょう。

・クレームを受けた際、誰に連絡するか
・顧客対応をするのは誰か
・顧客から事情を聞く際に何を質問するか
・どこまで顧客の言い分を聞き入れるか
・クレームの内容を内部でフィードバックする仕組み

現場の従業員としても、マニュアルがあれば対応に迷うことが少なくなり、ストレスの軽減に繋がります。
また、店舗として一貫した顧客対応を行えることもメリットでしょう。

現場責任者にカスハラ顧客を追い返す権限を明確に与える
カスハラ顧客への対応には、現場での臨機応変な判断が求められます。

店舗で問題が発生した場合は、その都度現場責任者がどのような対応を取るべきか判断する必要があります。
しかし、現場責任者も一人の従業員であるため、どこまで自分の判断で顧客を追い返して良いかの判断に迷ってしまうケースも多いでしょう。

そこで、現場責任者が顧客に対して毅然とした対応を行えるように、カスハラ顧客への対応に関して現場責任者に広い裁量を与えることが有効です。
状況によっては顧客の出入り禁止なども含めて、現場責任者が逐一本部の判断を仰ぐことなく顧客対応ができるようにしておけば、従業員も無理に顧客の顔色を窺ってその場を収めようとする必要はなくなるでしょう。

悪質なケースは自社のホームページで公表する
会社全体として、「悪質なカスハラ顧客に対しては毅然とした対応を取る」というメッセージを世間に発信することも重要なポイントです。

カスハラ顧客自身も「ゴリ押しすれば要求が通るかもしれない」と考えているからこそ無理難題を主張してくるのです。
それならば逆に「この会社(店舗)には無理を言っても通らない」と世間に思わせることができれば、カスハラ被害は減少するでしょう。

世間に対する発信の方法としては、悪質なカスハラ事例を自社のホームページで公表することが有効です。
もちろん、カスハラ顧客の特定に繋がるような情報は伏せますが、

・カスハラ顧客のクレームの内容
・クレームに対する店舗の対応
・カスハラ顧客に対する処分内容(出入り禁止など)

などを具体的に記載した上で、このようなカスハラ顧客の要求には会社(店舗)として一切応じないということを明確に打ち出しましょう。

 

カスハラ顧客への対応例

弁護士として筆者が経験・見聞してきた、実際に企業がカスハラ顧客に対してとった対応の例を紹介します。

ケース①:A百貨店における商品の欠陥に関するクレーム事案
A百貨店で販売している商品を購入した顧客Xが、フロア従業員に対して商品の欠陥を厳しい口調で訴えました。
実際にはXの主張する欠陥は商品の仕様の範囲内のものだったのですが、慎重を期して商品の責任者を中心に丁重な対応を行いました。

しかしXの怒りは収まらず、フロア従業員に対して土下座を強要するなどの行き過ぎた行動が見られました。
そこで、店舗支配人の判断により警察への通報を行い、Xは強要罪で逮捕されました。

この事例は、商品のクレームに対しては誠実に対応しつつ、たとえ顧客であっても行き過ぎた行動は許さない毅然とした態度を見せた好例といえるでしょう。

ケース②:B飲食店における長時間居座り顧客
B飲食店に最近頻繁に訪れるようになった顧客Yは、ドリンク一杯の注文で長時間居座る傾向があり、B飲食店としても以前から対応に困る部分がありました。
そして次第にYは、自分が購入もしないメニューについての文句にスタッフを長々と付き合わせたり、スタッフに対してセクハラ・モラハラに該当するような言動を行ったりするなどの問題行動が見られるようになりました。

最初は静観していたB飲食店でしたが、Yの行動がエスカレートしていることを受け、店長を中心として対策会議を行い、Yを出入り禁止処分としました。
出入り禁止処分の理由としては、以下のような点が挙げられました。

①長時間居座るにもかかわらずほとんど商品を購入しないため、店にとって顧客としてつなぎとめておくメリットがなかった
②Yに対応する従業員の精神的負担が大きく、対策会議の中でもYに対する嫌悪感を表明する意見が多かった
③店舗として横柄・横暴な顧客を相手にしないという態度を示す必要があった

このケースは、店舗としての利害得失を店長を中心に冷静に検討し、顧客に対して適切に対応したという点において高く評価できます。

 

従業員を守ることは会社にとって法律上の義務

労働契約法5条には、使用者の従業員に対する安全配慮義務が定められています。

(労働者の安全への配慮)
第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
(労働契約法5条)

つまり、従業員をカスハラなどの被害による精神的苦痛から守ることは、会社に対して課された法律上の義務です。

事業主に比べて消費者の立場が強くなっている昨今だからこそ、事業主の方はカスハラ顧客から従業員を守るための適切な対策を講じておきましょう。

 

 

弁護士YA
大手法律事務所にて企業法務、金融法務に従事。
退職後、現役弁護士としての活動と並行して、ライター活動を開始。
法律・金融分野を中心として、幅広いジャンルの記事を企業のオウンドメディア等へ寄稿している。

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