新型コロナウイルスが世間を騒がすようになり、約半年が経過しました。
一時、事態は収束に向かうかと思われましたが2020年7月現在、感染者数の急激な増加が報告され、感染拡大防止に予断を許さない状況が続きます。
この新型コロナウイルスの影響では、雇用維持の観点から、既存の働き方を根本的に変える動きが見られました。
とくに知名度を上げたのは、「テレワーク」の実施です。
しかし、テレワークで業務の継続を図るも、売上げが戻らず、やむなく人件費の見直しを迫られる企業は少なくないのが実情です。
その事実を裏付けるように、2020年5月時点の完全失業者数は198万人に昇りました。
この数字は前年同月に比べ33万人の増加、かつ、4か月連続の上昇です*1。
完全失業率も2.9%と、こちらも4か月連続(2020年1月と2月は同率)で上昇となっています。(図1)
図1:総務省統計局/労働力調査(基本集計)2020年(令和2年)5月分結果
http://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/tsuki/index.html
同時点での就業者の動向をみると、就業者数は6,656万人で、前年同月に比べ76万人(1.1%)の減少となり、新型コロナウイルスによる離職者が増えていることがうかがえます(図2)。
図2:総務省統計局/労働力調査(基本集計)2020年(令和2年)5月分p2
http://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/tsuki/pdf/gaiyou.pdf
では、実際に新型コロナウイルスにより離職を決めた人は、どのような理由で離職をしたのでしょうか。
「2種類の離職理由」を元に検討してみます。
目次
自己都合の離職
新型コロナウイルスに関係なく、離職理由として最も多く挙がるのが「自己都合」です。
離職理由の7割を超えており、「事業所側の理由」と比べると約9.4倍の割合を占めます(図3)。
図3:厚生労働省/令和元年上半期雇用動向調査結果の概要(付属統計表P4)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/20-1/dl/kekka_gaiyo-06.pdf
今回、新型コロナウイルスの影響を受けて、「自発的に離職」を選択した労働者もいます。
しかし、原因が「新型コロナウイルスにより、勤務シフトに入れないため、他の仕事を探すしかない」というアルバイトも多く、これを「自己都合による離職」とすることが正しいかどうかは疑問です。
なかでも、雇用調整助成金により、ある程度安定した所得補償を受けられるフルタイム労働者(正社員)に比べ、アルバイトやパートタイム労働者の離職が目立つ印象です(図4)。
図4:総務省統計局/労働力調査(基本集計)2020年(令和2年)5月分p2
http://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/tsuki/pdf/gaiyou.pdf
労働者が「自ら離職を選択した」場合は問題ありませんが、会社によっては、「自発的に離職を希望していない」ケースもありました。
以下は、筆者が関与した実際の事例です。
「私は、お店が再開するまで待ちます、と言いました。
しかし『君のためにも、新たなバイト先を探したほうがいい』と説得されました。
それで、自己都合で辞める内容の退職届を提出しました」
これは、離職後、ハローワークで失業等給付(基本手当)の手続きの際に、「自己都合離職」のため、3か月間の給付制限があることを知った、元アルバイトの女性からの相談です。
新型コロナウイルスに関係なく、「あなた(労働者)のため」という言い方で、労働者へ離職を勧奨するケースは後を絶ちません。
「会社からの勧奨退職」を「自己都合離職」とすることで、会社は何を守れるのでしょう。
最大の目的は「助成金の確保」です。
雇用・労働分野の助成金は、事業主が過去に不正受給に関与した後に一定期間が経過していない場合や、暴力団と関わりのある場合、受給できません*2。
同時に、助成金によっては
「対象労働者の雇入れの日の前後6か月間に、事業主の都合による従業員の解雇(勧奨退職を含む)をしていないこと*3」
など、会社都合の離職者を出すことで、受給要件から外れてしまう場合があります。
そのため、「何が何でも自己都合離職にしたい」と考える事業主は、残念ながら実在します。
離職理由を強制させること自体、違法性を含みます。
仮に、助成金を受給し、事後調査でこの事実が発覚した場合、「不正受給」とみなされる可能性が高いので、大きなリスクともなるでしょう。
コンプライアンスを徹底している事業主だからこそ、助成金が受給できます。
労働者の離職の際は、正確な離職理由で手続きを行いましょう。
会社都合の離職
顧問先から、新型コロナウイルスに起因する離職について、2パターンの相談を受けました。
①売上げの減少による整理解雇
②勤務シフトに入れない、給与が大幅に下がる等の理由で、労働者から離職の申し出
①の整理解雇に関して、法律上明文化された規定はありません。
しかし、整理解雇の有効性の基準として、以下の4要件が示されています(図5)。
つまり、これらすべてを網羅したうえで整理解雇を行えば、問題はありません。
図5:厚生労働省/労度契約の終了に関するルール(3 整理解雇)
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudouseisaku/chushoukigyou/keiyakushuryo_rule.html
そして、②に関して、「特定受給資格者」の取り扱いを検討するよう、事業主へ助言しました。
特定受給資格者とは、
「倒産・解雇等の理由により、再就職の準備をする時間的余裕なく離職を余儀なくされた者*4」
を指します。
これは、いわゆる「会社都合離職」となり、失業等給付(基本手当)の受給の際に、通常の受給資格者と比べて基準が緩和され、給付日数が増える場合があります。
特定受給資格者の範囲は、
・「倒産」等により離職した者
・「解雇」等により離職した者
の2つの離職理由に分かれます。
そして「解雇」等により離職した者のうち、
「賃金が、当該労働者に支払われていた賃金に比べて85%未満に低下した(又は低下することとなった)ため離職した者(当該労働者が低下の事実について予見し得なかった場合に限る。)*4」
という条件があり、今回の②はこれに該当します。
新型コロナウイルスによる売上げの減少は、事業主の責任とは言い切れません。
しかし、収入源を失う労働者の生活を考えると、「自己都合」ではなく「会社都合」とすることで、失業等給付(基本手当)を早期に受給できる「安心感」を与えられます。
①は会社都合で異論はありませんが、②に関して、労働者からの離職の申し出であったとしても、離職の原因が「予見し得なかった賃金の低下」であれば、会社都合離職として検討の余地はあります。
「自己都合」の離職でも、「会社都合」の離職となる特例
前述した「自己都合の離職」のなかで、
・同居の家族が新型コロナウイルス感染症に感染したことなどにより、看護または介護が必要となったことから自己都合離職した場合
・本人の職場で感染者が発生したこと、または、本人もしくは同居の家族が基礎疾患を有すること、妊娠中であること、もしくは高齢であることを理由に、感染拡大防止や重症化防止の観点から、自己都合離職した場合
・新型コロナウイルス感染症の影響で、子(小学校、義務教育学校、特別支援学校、放課後児童クラブ、幼稚園、保育所、認定こども園などに通学、通園するものに限る)の養育が必要となったことから、自己都合離職した場合
これらの理由で離職をした場合、自己都合の離職であっても、「正当な理由のある自己都合離職」として「特定理由離職者」となる特例措置が発表されました*5。
これにより、失業等給付(基本手当)を受給する際、給付制限が適用されずに早期の受給が可能となりました。
なお、この特例措置は、2020年2月25日以降に上記理由で離職した場合に限ります。
離職理由は正確に
事業主にとって、会社都合による離職者は「ゼロ」であることが望ましいでしょう。
しかし、実際に会社都合で離職に至ってしまった場合、それは正確に処理を行わなければなりません。
労働者にとっては、生活を支える収入源を失うこととなる離職。
離職者が一日でも早く再就職できるよう、そして、失業等給付(基本手当)の受給が早期に行われるよう、事業主は、適正かつ迅速に離職手続きを進める必要があります。
「労働者から退職届が出されたので、自己都合離職だ」という形式的な判断ではなく、離職までの経緯を含めた「離職理由」を、実質的に判断することが重要です。
新型コロナウイルスによる離職は、「特定受給資格者」または「特定理由離職者」となり得る可能性があります。
社会経済が混沌とする今だからこそ、労使双方で協力し合い、適切な雇用維持や離職に関する手続きを行うよう心がけましょう。
*1 総務省統計局/労働力調査(基本集計)2020年(令和2年)5月分
http://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/tsuki/pdf/gaiyou.pdf
*2 参考:厚生労働省/各雇用関係助成金に共通の要件等p9(受給できない事業主)
https://www.mhlw.go.jp/content/000497181.pdf
*3 参考:厚生労働省/特定求職者雇用開発助成金(p2対象となる事業主④)
https://www.mhlw.go.jp/content/000553237.pdf
*4 参考:厚生労働省/特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000147318.pdf
*5 参考:厚生労働省/新型コロナウイルス感染症に伴う雇用保険求職者給付の特例のお知らせ
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000632360.pdf
特定社会保険労務士
浦辺里香 (うらべりか)
早稲田大学卒業後、日本財団、東京中日スポーツ新聞で勤務。社労士試験に合格後、事務所を開業し独立。その翌年、紛争解決手続代理業務試験に合格し、特定付記。
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