働き方改革、ダイバーシティ、女性活躍社会・・・
令和の時代はまさに、人事部や人事担当者がなすべき新しい仕事と、取り組むべき価値観が山積みです。
働き方を問わず優秀な人材の採用が極めて難しい昨今、魅力的な職場づくりの為に、人事や教育担当者が貢献できる領域はますます広がってきていると言えるでしょう。
その一方で、中小企業はどうでしょうか。
短期的な利益として評価が難しい人事・教育部門に対しては、どうしても重要度が下がってしまう傾向があるようです。
そのような事実を示す、一つのデータがあります。
少し古いデータにはなりますが、平成19年度版中小企業白書「雇用環境及び人材の育成・採用に関する実態調査」によると、会社の「キーパーソン」が担う役割は、業種別に以下のような分布でした。
なおここでいうキーパーソンとは、
“「企業において役職などに関わらず、企業競争上、他社との差別化を図る上でも不可欠となるコアとなる業務を担う、他の社員・職員では代替の効かない人物で、原則、代表者以外の者」”*1
と定義されています。
図1 中小企業白書(平成19年度)「第3節 中小企業を支えるキーパーソン」より
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/h19/h19_hakusho/html/j3330000.html
早い話が、会社のNo.2は主としてどのポジションにいるのかという統計値ですが、全産業計で見れば
1.営業
2.財務・経理
3.生産・製造
4.人事・教育
5.情報システム
という順番になっています。
これに業種別の濃淡があり、製造業では「生産・製造」が圧倒的に多く、非製造業では「人事・教育」が存在感を増して3番手につけている事が多いという構図になっています。
しかし言い換えればこれは、中小企業にあっては業種を問わず「人事・教育」の重要性は常に3番手以下ということです。
全業種を通じ中小企業では、「人事・教育」を担当する人物がNo.2、すなわち経営トップの実務職にあることは、実は珍しいことであると言って良いでしょう。
定量的に把握しづらいその役割とも相まって、中小企業においては「人事・教育」は常に、もっとも重視すべきことではないと考える経営者が多いと言うことです。
しかしこの判断は妥当なのでしょうか。
中小企業経営において、「人事・教育」の果たすべき役割とは常に3番手以下であるべきなのでしょうか。
なかなか集まらない応募。その理由とは
「部長、今週の応募者も10名だけでした・・・申し訳ありません」
話は、私がある製造業で経営企画部長をしていた時のことです。
管理部で採用担当にあたっている女性が、大手の情報媒体だけでなく地域のフリーペーパーに求人を出しても、応募してくるアルバイト・パート希望者がほとんどいないことを悩み尽くしていました。
その募集は、会社の命運を託しているといっても過言ではない工場で、主力にあるパート・アルバイトの採用を目的にしたものです。
当時、日本で唯一であった先進的な事業を期待され、多くのVC(ベンチャーキャピタル)などからの出資も受け、稼働を開始させたばかりでした。
既存の施設を大きく上回る床面積と生産能力を揃えていたために初期投資も重く、もしこのまま稼働率が上がらない場合、ただちに経営危機に繋がるほどの状況です。
肝心の労働力が集まらないという想定外の事態は、そんな時に発生しました。
「これまでの応募者の年齢や住所は、どうなっていますか?」
とにもかくにも、数少ない応募者の分布の状況を見て、どの辺りからどんな人が応募してきてくれているのかを、把握しないわけにはいきません。
あるいは、地域的な特徴があるのであれば求人広告の出し方を変えれば、うまくいく可能性があります。
そう考えた私は、採用が決まった人だけではなく、応募者の地域分布や年齢を分析して報告するよう担当者にお願いしました。
するとその結果は、明らかに想定外のものでした。
当初私がその地域に工場を新設した時に想定していた労働力は、最寄りの駅周辺に広がる住宅地の主婦層でした。
比較的人口も多く、また世代的にも30~50代くらいの女性の労働力を期待できる地域と考えていたのですが、実際の応募者は少し離れた駅周辺からの電車・バス通勤を希望する、大学生や若いフリーターが中心です。
つまり、一番応募を見込んでいた地域と年齢層からの応募が、ほぼ無いという結果になっていたのです。
「何かを外している・・・」
異変に気がついて情報媒体の担当者に相談をしても、「短期的な結果だけを見ても、広告効果は評価できません」という答えが返ってくるばかりで、解決策は見えません。
やむを得ず、取引先の銀行担当者に地域の支店長を紹介してもらい、地域特性を探ろうと面談に行くことにしました。
すると、意外な事実が判明します。
「支店長、この地域から主婦層の労働力を採用できるとアテにしていたのですが、ほとんど応募がなく弱っています。相談に乗って下さい。」
「条件はどんな感じで出されていますか?例えば時給はどれくらいでしょうか。」
「県内の相場だとアドバイスを受けた、900円で出しています。」
「そりゃあ無理ですよ、集まるわけがないじゃないですか・・・」
「どういうことでしょう。」
「域外の人にはわからないかも知れませんが、この駅周辺は比較的所得の高い人が多く住むエリアです。そもそも、主婦のパート労働力をアテにできる地域ではありません。」
「・・・」
「それでも、相場を大きく上回る時給を出せばある程度の人は集まると思います。ただ御社の場合、キツイ仕事というイメージが避けられませんので、人件費は高く付くことを覚悟したほうが良いでしょう。」
この事実に打ちのめされて会社に戻った私は、すぐに経営トップに報告すると善後策を協議しましたが、つまるところは「高く付く人件費」の提示以外に方策はありません。
そのため、他の工場で支払っているパート・アルバイトの募集金額よりも200円高い時給を条件にして、やっと少しずつ人が集まり始めました。
そして、
・立ち上がりの大幅な遅れ
・高く付くランニングコスト
という高い勉強料を支払うことになってしまいました。
人事とは経営そのもの。その役割と重要性
この経験を振り返った時、新工場をその地域に新設することを最終的に決心したのは、もちろん経営トップです。
しかしその決断のために、具体的な立地計画や収益計画など、定量的な数字に落としこみ意見を上げる中心になったのは、No.2であり経営企画部長である私でした。
その際にもっとも参考にしたのは営業部長の意見で、
「この地域なら、1年で損益分岐点を超える数字を出せると思う」
という自信でした。
つまり、株主の意見や財務的な観点、ロジ(=ロジスティックス:物流)、営業の観点を根拠に会社の命運を託す工場を新設した結果、人事(採用)の視点を明らかに欠いた計画になってしまったと言うことです。
いわば、冒頭にご紹介した統計値のままに、製造業における優先順位を
1.生産・製造(ロジおよび周辺環境)
2.営業
3.財務・経理
——(ほぼ考慮しなかった)
4.人事・教育
としてしまった結果でした。
そしてその結果として、容易に回復できない手痛いダメージを負うことになったのです。
ここでもう一つ、冒頭に紹介した、「中小企業のキーパーソンに求められる役割」に関するグラフをご覧下さい。
図2 中小企業白書平成19年度版「第3節 中小企業を支えるキーパーソン」より
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/h19/h19_hakusho/html/j3330000.html
この図を見て、人事や教育の果たす役割は、あまりないと思われるでしょうか。
先の経験のような手痛い失敗をやらかした元No.2としては、この全てを最大公約数的に充足できるのは、中小企業においても人事に精通している人物であると、しみじみ思います。
すべての項目に、「人事・教育の視点が必要ない」ものが存在しないからです。
少なくとも、人事や教育に責任を持つ人が、中小企業経営において3番手や4番手の重要度であるはずがありません。
工場の建設計画が立ち上がった時、
「その地域の採用の容易さ/難しさは、どこまで調査されたのでしょうか」
「局所的な平均労働単価は考慮しましたか?」
と直言する人事担当者がいて、定量的なエビデンスを示してくれていれば、根本的に計画が変わっていたと思います。
少なくとも、人事・採用の目が入れば
「この都道府県の相場で募集を出せば、いつも通り人が集まるだろう」
などという発想にならなかったでしょう。
平時における人事の役割とは、ルーチン業務が中心かもしれません。
すなわち前例踏襲的な採用であり、評価制度の改善であり、その運用というPDCAサイクルの管理です。
しかし、中小企業やベンチャー企業における人事の役割とは、そんな簡単なものではありません。
成長著しい中小ベンチャーにとって、人事とは経営そのものです。
会社の成長は、人なくしてはありえないので当たり前です。
もしかしたら、中小ベンチャーにおいて人事・教育の役割が軽視されがちなのは、その職責にある人が「もう一歩前に」出ないからかも知れません。
しかしその役割と重要性は、疑うべくもなく明らかです。
ぜひ人事担当者は、リスクを恐れずに「よく考えて、もう一歩前に」出る冒険をしてみてはいかがでしょうか。
経営トップも、きっとそれを待っています。
*1
中小企業白書(平成19年度)「第3節 中小企業を支えるキーパーソン」
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/h19/h19_hakusho/html/j3330000.html
【著者】
桃野泰徳(ももの・やすのり)
1973年滋賀県生まれ。
大和証券を経て、いくつかのベンチャー企業でCFOを歴任し独立。
個人ブログでは月間80万PVの読者を持つなど、経営者層を中心に人気を集める。
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