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退職後の「生きがい」提供も シニアの雇用がもたらす「繋がり創出」の意外な効果

日本ではいよいよ高齢化が本格化しています。
人生100年時代と言われる中、定年は60歳から65歳に延長され、70歳まで働くケースも増えて行きそうです。

一方、コロナ禍がひと段落した中で、人手不足で困っている企業が多いと報道されています(*1)。
そんな中で、政府の側でも、働きたいシニア層を雇用する動きが活発です。実際に、街を歩けば、タクシードライバーから、コンビニのスタッフ、交通警備に至るまで、日本ではシニアが働いている姿を多く見ます。

実際に今のシニアはどのような意識で働いているのでしょうか。調査を元に見てみましょう。

目次

政府は高齢者を安定的に雇用する方向へ法律改正

実は5割以上の人が65歳を超えても働きたいと思っていた

年齢が高くなると、多くの人が「年収、給与」を妥協する

70代になると「生活の充実」「つながりをもつ」ために働く層が増えてくる

政府は高齢者を安定的に雇用する方向へ法律改正

日本政府は、「70歳までの就業機会」を確保することを提言し、2021年4月より高齢者雇用安定法を改正しました。これにより、企業には「65歳までの雇用確保の義務」に加えて、「70歳までの就業確保の努力義務」が追加されたのです。(*2)
なぜ政府がここまで高齢者の労働にこだわるのか。それは「高齢者が働くことで、経済活性化や健康予防・維持に貢献する(*3)」からです。
ではこれからシニアになると思われる人々が、どんな条件を望み、何を考えて働こうとしているのか。マイナビキャリアリサーチLabが2021年に出した「ミドルシニア/シニア層の就労者実態調査」(2021年)を見てみましょう。現在就労している40代~70代男女を対象にした調査です。(*4)

実は5割以上の人が65歳を超えても働きたいと思っていた

実際のところ、現在ミドルシニア/シニアの人々は何歳まで働きたいと思っているのでしょうか?

現在正社員・非正社員で働く40~64歳に、自身のキャリアとして何歳まで働き続けたいかと聞いたところ、非常に興味深い調査結果が出ています。5割を超える人が、「65歳を超えても働きたい」と回答しているのです。

60~64歳において、「65歳を超えても働きたい」(「~70歳まで働きたい」+「~75歳まで働きたい」+「~80歳まで働きたい」+「80歳を超えても働きたい」の合計)と回答した割合は50.8%で5割を超えた。40代、50代においても、65歳を超えても働きたい割合は3~4割程度となり、年齢を重ねても就労を続けたい意欲がうかがえた【図1】。(*5)

なお、60-64歳の回答者の調査をさらに細かく見ると、合計で、約14%もの人が「75歳を超えても働きたい」と言っていることがわかります。
さらには、80歳を超えても働きたい人が3.%いるのです。

 

年齢が高くなると、多くの人が「年収、給与」を妥協する

では彼らはどんな条件を望んでいるのでしょうか。

まず、正社員と非正社員で違いがみられます。正社員は勤務時間や自宅からの距離を気にしない傾向がわかります。
年齢が70代になると、8割以上の人が年収や給与を妥協することもわかりました。

新しく仕事を始める際に妥協できる条件を聞いたところ、正社員では「自宅からの距離」「勤務時間」が妥協可能な条件として当てはまる割合が高く、「年収、給与」「職種、仕事内容」が低くなった。一方非正社員では「勤務曜日」が高く、「職種、仕事内容」が低い結果となった。
年代別に見ると、「年収、給与」は年代が上がるほど妥協できる条件として割合が高くなり、70代では84.4%となっている。(*6)

一方で「仕事内容」には年齢が上がっても、妥協しにくい傾向がみられます。

「職種、仕事内容」も年代が上がるほど妥協できる割合は高まるものの、50代・60代・70代においては最も割合が低く、年齢や雇用形態に関係なく妥協したくない条件であるようだ【図2】。(*7)

もう一つ見逃せない点があります。
それは、「コミュニティ」としての職場の役割です。

 

70代になると「生活の充実」「つながりをもつ」ために働く層が増えてくる

調査結果の「なぜ働くのか?」の理由には「生活費のため」が多いことがわかります。年金や貯金の不足などによる切実な事情も窺えます。

ただし、70年代の人々には、健康維持や生活の充実のために働く姿も見えてきます。人生100年時代ともなれば、60歳で引退し、残りの40年間をただ何もしないで過ごすのは、確かに少し退屈してしまうかもしれません。仕事をすることは、健康維持、時間活用の他に、所属するコミュニティを与えてくれるからです。

また年代別で見ると、70代は特に健康維持や時間の有効活用、人との交流や充実感を得るためなど“生活の充実”のために働いている傾向が強く、雇用形態や年代によって働く目的が大きく異なるようだ【図4】。(*8)

この高齢者が「生きがいのために働く」図式は、実は海外でもみられます。
例えば、アメリカで働く高齢者の実態を追ったジェシカ・ブルーダーさんの「ノマドーー漂流する高齢労働者たち」 では、高齢者が労働を通してつながりを保とうとする姿が描かれています。
本書によれば、アメリカでは2016年には65歳の雇用者が900万人に上っており、これは10年で6割増加しているそうです。(*9) もはや、「高齢者に休息はない」というわけです。

例えば、アメリカでは、ネコの手も借りたいアマゾンが高齢者たちを「キャンパーフォース」と名付けた勤務形態で、積極的に集めていることがよく知られています。実際に高齢者たちは真面目で非常によく働くということで、賞賛されているのです。

そんなわけで、同社が高齢者を雇うのに使っている1つのテクニックが、職場で働くもの同士の「つながり」を創出することです。「キャンパーフォース」の求人では、仲間に囲まれて、楽しみながら友達を作る「見えない報酬」が強調されるのです。アマゾンの倉庫での仕事は重労働であり、実際にはさまざまな批判もありますが、家を持たない(車で生活する)高齢者たちが、キャンプ場に車をとめて「村」を作りつつ、交流を楽しみ、繋がっているさまが描かれます。

日本でも、高齢化社会は、一人暮らしの人が多い「ソロ社会」になっていく可能性があるでしょう。
特に会社に「居場所」を作ってきた人にとっては、高齢になったときの繋がりがあることは重要なポイントかもしれません。

働きたい高齢者と、働いてほしい企業、働いてほしい政府の思惑が重なった今、「引退」「隠居」は少なくなっていくでしょう。少子化が進む先進国諸国ではこういった姿が当たり前になっていくかもしれません。

(*1)Yahooニュース 飲食店の人手不足は“後遺症”、コロナ禍で痛めつけられた非正規社員は戻らない
https://news.yahoo.co.jp/articles/67119c65d0fdc5d2cc672f3f2da547b87cdf6da6

(*2)厚生労働省 高年齢者雇用安定法の改正~70歳までの就業機会確保~https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/koureisha/topics/tp120903-1_00001.html

(*3)高齢者雇用促進及び 中途採用拡大・新卒一括採用見直し ② 疾病・介護予防  に関する資料集 平成30年10月22日 内閣官房日本経済再生総合事務局
13,14ページ
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/miraitoshikaigi/dai20/siryou2.pdf

(*4)-(*8)マイナビキャリアリサーチLab「ミドルシニア/シニア層の就労者実態調査」(2021年)
https://career-research.mynavi.jp/reserch/20210922_15814/

(*9)
「ノマドーー漂流する高齢労働者たち」ジェシカ・ブルーダー


【著者プロフィール】

のもときょうこ 

早稲田大学法学部卒業。損保会社を経て95年アスキー入社。雑誌「MacPower」「ASAhIパソコン」「アサヒカメラ」編集者、「マレーシアマガジン」編集長などを歴任。著書に「日本人には『やめる練習』が足りていない」(集英社)「いいね!フェイスブック」(朝日新聞出版)ほか。編集に松井博氏「僕がアップルで学んだこと」ほか。

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