新型コロナウイルスが発見されてから1年半以上が経過しましたが、状況は依然として日々刻々と変化しており、それに伴って感染症予防法の内容もめまぐるしく移り変わっています。
事業者としては、新型コロナウイルス感染症予防法の現状を把握したうえで、さまざまなリスクをコントロールしながら経営を行っていくことが大切です。
今回は、現時点における新型コロナウイルス感染症予防法の全体像と、それに関連して事業者が注意すべきポイントを解説します。
目次
新型コロナウイルス感染症に関する2つの予防法
新型コロナウイルス感染症に関しては、主に以下の2つの法律によって、予防のための規制が行われています。
①感染症予防法
正式名称:感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=410AC0000000114②特別措置法
正式名称:新型インフルエンザ等対策特別措置法
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=424AC0000000031
次の項目から、感染症予防法・特別措置法における、新型コロナウイルス感染症関連規制の内容を解説します。
感染症予防法上の新型コロナウイルス感染症の位置づけ
現行の感染症予防法では、新型コロナウイルス感染症は「新型インフルエンザ等感染症」として位置づけられ、各種の規制が適用されています。
●「指定感染症」から「新型インフルエンザ等感染症」へ
新型コロナウイルスは、発見されて間もない2020年2月7日より、感染症予防法上の「指定感染症」として、政令による指定を受けていました。
指定感染症の指定期間は原則1年以内、最大でも2年以内とされています(感染症予防法7条1項、2項)。
そのため、指定感染症としての指定は、感染症予防法を新型コロナウイルスに適用するための暫定的措置であったといえるでしょう。
しかし、新型コロナウイルス感染症の影響は長期化し、収束の見通しが立たないと判断されたため、2021年2月13日に施行された改正法により「新型インフルエンザ等感染症」にカテゴライズされました(同法6条7項3号)。
新型インフルエンザ等感染症として位置づけられたことで、今後長期的な視座に立って、新型コロナウイルスの抑え込みに法律レベルで取り組む体制が整ったといえます。
●新型コロナウイルス感染症に関して、感染症予防法上取り得る主な措置
現行の感染症予防法では、新型コロナウイルス感染症に関連して、都道府県知事や厚生労働大臣が、主に以下の措置をとることが可能となっています。
①質問・調査への協力命令
都道府県知事には、感染症の発生の状況・動向・原因を明らかにするため、患者や関係者に対する質問・調査を行う権限が認められています(感染症予防法15条1項)。
対象者が質問・調査を拒否した場合、都道府県知事または厚生労働大臣は、質問・調査への協力命令を行うことができます(同条8項)。
協力命令に違反した者は、「30万円以下の過料」に処されます(同法81条)。
②就業制限
医師によりコロナ感染の診断が行われ、コロナまん延防止のため必要と認められる場合、都道府県知事の通知により、ウイルスを保有しなくなるまでの期間、以下の業務に従事することが禁止されます(同法18条2項、同法施行規則11条2項3号)。
・飲食物の製造、販売、調製
・取扱いの際に飲食物に直接接触する業務
・接客業
・その他、多数の者に接触する業務
就業制限に違反した者は、「50万円以下の罰金」に処されます(同法77条4号)。
③入院措置
新型コロナウイルス感染症に感染し、かつ以下のいずれかに該当する者については、都道府県知事が入院勧告を行うことができます(同法26条2項、19条1項、同法施行規則23条の6)。
<新型コロナウイルス感染症による入院措置の対象者>
(a)65歳以上の者
(b)呼吸器疾患を有する者
(c)臓器等の機能が低下しているおそれがあると認められる者(腎臓疾患、心臓疾患、血管疾患、糖尿病、高血圧症、肥満など)
(d)免疫の機能が低下しているおそれがあると認められる者(臓器の移植、免疫抑制剤、抗がん剤等の使用など)
(e)妊婦
(f)感染症の症状が重度または中等度であるもの
(g)上記のほか、感染症の症状等を総合的に勘案してm医師が入院させる必要があると認める者
(h)上記のほか、都道府県知事が当該感染症のまん延を防止するため、入院させる必要があると認める者
入院勧告に従わない者については、強制的に入院措置をとることも可能です(同法19条3項)。
正当な理由がないのに入院を拒否した場合には、「50万円以下の過料」に処されます(同法80条)。
④外出自粛等の要請
都道府県知事は、コロナまん延防止を目的として、感染の疑いがある者に対し、健康状態の報告や外出自粛等の必要な協力を求めることができます(同法44条の3第1項)。
ただし、健康状態の報告は対象者の義務である一方で、その他の外出自粛などは努力義務にとどまります。
特別措置法上の「まん延防止等重点措置」と「緊急事態措置」
新型インフルエンザ等対策特別措置法では、「まん延防止等重点措置」と「緊急事態措置」の2つの措置が、新型コロナウイルス感染症を抑え込むための対策として認められています。
●まん延防止等重点措置の要件・効果
まん延防止等重点措置を実施するには、以下の2つの要件を満たす必要があります(特別措置法31条の4第1項、同法施行令5条の3第2項)。
①まん延防止等重点措置を集中的に実施しなければ、当該都道府県において新型コロナウイルスの感染が拡大するおそれが認められること
②当該都道府県の区域において、医療の提供に支障を生ずるおそれがあると認められること
まん延防止等重点措置は、6か月以内の期間を定めて実施されます(同法31条の4第2項)。
延長については、6か月単位で何度でも認められます(同条3項)。
まん延防止等重点措置によって可能となるのは、感染を防止するための協力要請などです(同法31条の6第1項)。
この「要請」には、時短要請・営業自粛要請などが含まれる場合があります(厚生労働大臣が定めて公示した場合)。
協力要請に従わない者に対しては、協力命令を発することも可能となっています(同条3項)。
協力命令に従わない場合、「20万円以下の過料」に処されます(同法80条)。
●緊急事態措置の要件・効果
緊急事態措置(緊急事態宣言)を実施するには、以下の2つの要件を満たしていることが必要です(特別措置法32条第1項、同法施行令6条)。
①一の都道府県の区域を越えて、新型コロナウイルスの感染が拡大し、またはまん延していると認められること
②感染の拡大またはまん延により、医療の提供に支障が生じている都道府県があると認められること
緊急事態措置は、2年以内の期間を定めて実施されます(同法32条2項)。
延長は1年以内で、認められるのは1回のみです(同条3項、4項)。
緊急事態措置が実施された場合、特別措置法に基づいて政府・都道府県・市町村間の対策連携が強化されます。
さらに、時短要請・営業自粛要請などを含む「協力要請」に加えて、学校・社会福祉施設・興行場などの施設に対する使用制限・停止を命ずることが可能になります(同法45条2項、3項)。
使用制限・停止の命令に違反した者は、「30万円以下の罰金」に処されます(同法79条)。
コロナ感染について、事業者が注意すべきポイント
事業者としては、新型コロナウイルスに関する各種法令の内容を踏まえて、事業に支障が生じないように対応しなければなりません。
具体的には、主に以下のポイントについて留意のうえ、必要な対応を行ってください。
●「要請」に留まる場合でも、レピュテーションリスクを考慮して対応する
新型コロナウイルス感染症に関して、都道府県知事や厚生労働大臣から行われる「要請」には、法的拘束力がないため、事業者は要請に従う義務はありません。
「命令」に発展した場合は、過料の制裁とともに法的拘束力が発生しますが、実際には「命令」が行われるケースは少ないのが実情です。
しかし法的拘束力がないとしても、「要請」に従わない事業者に対する、世間の風当たりは非常に強いものがあります。
すでに意識して取り組んでいる事業者の方も多いと思いますが、
「法的な義務があるかどうか」
という観点に加えて、
「世間に対してどのような印象を与えるか」
という観点からも、新型コロナウイルス感染症への対応を考える必要があるでしょう。
●コロナ感染は労働災害(労災)に該当し得る
もう1点事業者が注意すべきポイントとしては、業務中または通勤中のコロナ感染は、労働災害(労災)に当たり得るという点が挙げられます。
労災に該当する場合には、使用者に労働者死傷病報告の提出が義務付けられます(労働安全衛生規則97条1項)。
また、従業員の医療費・休業損害などをスムーズに補償する観点からも、使用者が労災保険給付の請求に協力することが大切です。
もし自社の従業員がコロナに感染した場合、労災への該当性を速やかに確認・検討したうえで、必要に応じて労災に関する手続きを迅速にとりましょう。
まとめ
新型コロナウイルスに関する法令の内容は多岐にわたるうえに、短期間で法令改正が行われるため、なかなか全体像を把握することは難しい状態です。
事業者の方は、必要に応じて厚生労働省に照会を行ったり、弁護士などの専門家にアドバイスを求めたりして、コロナ関連の非常事態にも対応できるような経営体制を整えてください。
阿部 由羅
ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。
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