コロナ感染者の数が落ち着いてきた現状でも、コロナ対策は依然として、各企業における喫緊の課題となっています。
企業によっては、採用面接時にコロナの陰性証明の提出を求めたり、ワクチンに関する考え方を質問したりして、自社の従業員を感染から守ろうとする動きがあります。
このような対応をとる気持ちはある程度わかりますが、法律やレピュテーションとの関係では、企業側がリスクを負う可能性があることも理解しておきましょう。
今回は、企業が採用面接時に、候補者に対してコロナの陰性証明を求めたり、コロナワクチンに関する考え方を質問したりすることの問題点を解説します。
目次
面接時の感染症対策を目的として、候補者に陰性証明の提出を求めてもよい?
企業が採用面接時に、コロナ関連の質問をする主な目的
企業が採用候補者に対して、面接などの段階でコロナ関連の質問をする背景には、主に以下の2つの目的があると考えられます。
■面接時の感染症対策を徹底するため
採用面接を対面で実施する企業は、面接会場からコロナ感染者を排除して、感染症対策を徹底したいと考えるのが一般的でしょう。
そのため、採用面接に来場する候補者に対して、陰性証明の提出を求める動きが一部企業において存在します。
■「反ワクチン派」の候補者を排除するため
単に採用面接の場面での感染症対策を徹底するにとどまらず、コロナワクチンに反対する思想を持つ候補者をそもそも採用しない方針を打ち出す企業も、稀に存在します。
ワクチンを接種していない方が、そうでない方よりもコロナ感染のリスクが高いことは、医学的・統計的にも真実の可能性が高いといえます。
そのため、自社の従業員を感染から守るという観点では、「反ワクチン派」の方を採用しないという考え方も一理あるかもしれません。
また、国民の大多数が受け入れているコロナワクチンの有効性を、あえて拒否するような思想を持つ方は、協調性がなく一緒に仕事をしづらいと考える企業もあるようです。
しかし、こうした考え方は、いわゆる「就職差別」に繋がるセンシティブな問題を含んでいます。
次の項目から、企業が採用面接時に、コロナ関連の質問等をすることの問題点を紹介しますので、本当にこのような対応を取るべきかどうかを再度ご検討ください。
面接時の感染症対策を目的として、候補者に陰性証明の提出を求めてもよい?
対面での面接を行う際、感染症対策を徹底するために、候補者に対して陰性証明の提出を求める場合、職業安定法上の規制に注意する必要があります。
■個人情報の収集には合理的な理由が必要|職業安定法違反に注意
職業安定法5条の4第1項では、求人者(事業者)が候補者の個人情報を収集してよいのは、「業務の目的の達成に必要な範囲内」に限ると定められています。
この点、感染症対策を徹底するという「目的」のために、コロナの陰性証明を求めることが「必要」であるかどうかは、考え方が分かれるところでしょう。
たとえば、現地で検温をするといった代替手段によっても、ある程度コロナ感染者を排除することはできます。
また、偽陰性の可能性もあるため、陰性証明が提出されたからといって、候補者が絶対にコロナに感染していないとは限りません。
このように、感染症対策を徹底する目的で、候補者に陰性証明を提出させる必要性・合理性には疑問が残り、職業安定法違反として、厚生労働大臣から指導などを受ける可能性があります。
■最初からオンライン面接を実施するのがベター
採用面接をオンラインで実施するのであれば、面接時の感染症対策の観点から、候補者に陰性証明の提出を求める必要はありません。
そのため、企業が面接時のコロナ感染を懸念するのであれば、対面ではなくオンライン面接を実施することが一つの解決策になるでしょう。
「反ワクチン派」であることを理由に、採用を拒否してもよい?
企業が「反ワクチン派」の候補者の採用を拒否することには、いわゆる「就職差別」との関係で、さらにセンシティブな問題が存在します。
■公務員採用の場合は憲法違反に当たる
公務員採用において、「反ワクチン派」の候補者の採用を拒否することは、憲法違反に当たります。
公務員採用では、「公」である国や自治体による採用という行為が問題になるため、日本国憲法が適用されます。
コロナワクチンに対する考え方は、候補者が公務員として働くための適性・能力とは合理的関連性がありません。
そのため、「反ワクチン」であることを理由に公務員としての採用を拒否することは、日本国憲法14条1項で定められる「法の下の平等」に違反する不合理な差別であると考えられます。
第十四条 すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
(日本国憲法14条1項)
■私企業による採用であれば問題ない?
これに対して、私企業による人材採用においては、日本国憲法の規定が直接適用されることはありません。
憲法はあくまでも、公権力を有する国や自治体などを規制する法規範だからです。
最高裁昭和48年12月12日判決(三菱樹脂事件)では、私企業による人材採用について憲法が直接適用されないことを前提として、以下のとおり判示しています。
「企業者は、…いかなる者を雇い入れるか、いかなる条件でこれを雇うかについて、法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由にこれを決定することができるのであって、企業者が特定の思想、信条を有する者をそのゆえをもって雇い入れることを拒んでも、それを当然に違法とすることはできないのである」
三菱樹脂事件の上記判示は、企業に「採用の自由」があることを述べています。
この判示をコロナワクチンに関する文脈に適用すると、いわゆる「反ワクチン派」の候補者を採用しないという判断をしても、それは企業側の自由ということになるでしょう。
ただし、「採用の自由」があるとしても、前述の職業安定法5条の4第1項との関係において、ワクチンに対する「思想、信条」についての個人情報を収集することが認められるかどうかについては、法的にグレーな領域といえます。
■不合理な採用基準はレピュテーションに悪影響を与えるおそれがある
法的には「反ワクチン派」候補者の採用拒否が認められる可能性があるとしても、不合理な採用基準を設けた場合、世間から批判の的となるおそれがある点に注意しなければなりません。
近年は多様性を認める社会への移行が著しく、コロナワクチンの接種有無を理由とした差別を行うべきではないとする論調が大多数です。
さらに厚生労働省も、応募者の適性や能力に関係がない事情に基づいて、採用選考を行うのは不公正であると問題提起しています。
参考:
厚生労働省|公正な採用選考の基本
https://www.mhlw.go.jp/www2/topics/topics/saiyo/saiyo1.htm
企業ごとに異なる考え方があるとは思いますが、「反ワクチン派」を採用選考から排除した場合に、こうした社会の潮流が、自社のレピュテーションにどのような影響を与えるかについては、慎重に検討を行うべきでしょう。
まとめ
どのような目的であっても、採用面接の場面でコロナ関連の質問をしたり、陰性証明の提出を求めたりした場合、法律・レピュテーションの観点から少なからずリスクを負うことになります。
コロナ禍での採用活動に臨む際には、本記事の内容を踏まえて、自社の方針を今一度見直してみてください。
阿部 由羅
ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。専門はベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。
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