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有給休暇は不要?残業代は?アルバイトやパートを雇う際に注意すべき誤解を弁護士が解説

アルバイトやパートにも、正社員同様に労働基準法のルールが適用されます。
そのため、事業主がアルバイトを雇用する際には、労働基準法などのルールを踏まえたうえで、どのように処遇するかを決めなければなりません。

今回は、アルバイトと労働基準法などの関係性につき、事業主の方が誤解しやすい6つのポイントを、ケーススタディの形式で解説します。

目次

アルバイト・パートと労働基準法等に関する6つのケーススタディ

まとめ

アルバイト・パートと労働基準法等に関する6つのケーススタディ

労働基準法その他の労働法令は、使用者(事業主)と労働者の間に力の差があることを考慮し、労働者を厚く保護する内容となっています。
事業主は、アルバイト・パートを雇用する際にも、労働法令との関係で正社員と同等のルールが適用されることを強く意識しなければなりません。

以下で紹介する6つのケーススタディを通じて、事業主が誤解しやすいポイントについての理解を深めましょう。

●アルバイトのミスで会社に損害が生じた際、給料の天引きは可能?
<ケース①>
皿洗いを担当するアルバイトAが、仕事中に高級な皿を割ってしまいました。
Aの給料から、弁償分の金額を天引きしてもよいでしょうか?

給料から皿代を天引きすることは、労働基準法24条1項の「全額払いの原則」に反し、違法です。
アルバイトのミスにより、会社に何らかの損害が生じたとしても、会社は給料の全額を支払わなければなりません。

なお労働者に対して、皿代を弁償するよう別途請求することは可能です。
ただし、会社が労働者を使用して利益を上げていることとのバランスを考慮し、全額の弁償は認められない可能性が高いでしょう。

●アルバイトがシフトに入る前の準備時間には、時給が発生する?
<ケース②>
レストランで接客を担当するアルバイトBは、午前11時からのシフトに入る際、15分前の午前10時45分に店舗入りして、着替えなどの準備作業をすることが義務付けられています。
この午前10時45分から午前11時までの準備時間については、シフト前なので、時給を支払う必要はないですよね?

シフト前の準備時間についても、アルバイトに時給が発生します。

アルバイトの時給は「労働時間」に対して発生するところ、労働時間とは「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」をいうと解されています(最高裁平成12年3月9日判決)。

アルバイトBは、店舗入りを義務付けられている午前10時45分の時点で、すでに使用者の指揮命令下に入っていると評価できます。
したがって、シフト前の15分間の準備時間についても、時給が発生すると考えられるのです。

●アルバイトのシフトが少し延びた場合、残業代はどう計算する?
<ケース③>
アルバイトCは、ガソリンスタンドにて時給1200円で勤務しています。

ある日、Cは午前10時から午後6時半まで、休憩1時間を除いて7時間半のシフトで勤務することを予定していました。
ところが、店舗で発生したトラブルに対応する必要が生じ、結果的にCの退勤時刻が午後7時半になってしまいました。
この場合、Cの残業代はどのように計算すべきでしょうか。

アルバイトのシフトが予定外に延びた場合、使用者はアルバイトに対して残業代を支払わなければなりません。

残業に対して支払うべき賃金は、1日の労働時間に注目して、「8時間以内の部分」と「8時間を超える部分」で以下のとおり計算方法が異なります。

8時間以内の部分:通常の賃金
8時間を超える部分:通常の賃金×1.25倍

Cはトラブル対応の結果、もともと7時間半の予定だったところ、1日に8時間半働きました。
つまり、残業時間はトータル「1時間」です。

この1時間を、8時間以内の部分が「30分」、8時間を超える部分が「30分」と振り分けて、Cの残業代を計算します。

Cの残業代
=1200円×0.5+1200円×0.5×1.25
=1350円

●アルバイトには有給休暇を付与しなくてもよい?
<ケース④>
アルバイトDは、学習塾のスタッフとして勤務を開始し、今月で8か月目になります。
Dは大学生で単位を取り終えているため、入社以来、会社の営業日である月曜から金曜まで、ほぼ毎日シフトを入れています。

Dは正社員並みに働いていると思いますが、アルバイトなので、有給休暇を付与する必要はないですよね?

雇入れの日から6か月間継続勤務し、かつ全労働日の8割以上出勤した労働者には、有給休暇を付与する必要があります(労働基準法39条1項)。
この取り扱いは、正社員でもアルバイトでも変わりません。

Dは学習塾にて6か月以上勤務しており、入社以来ほぼすべての営業日にシフトを入れています。
そのため、使用者はDに対して、10日間の有給休暇を付与する必要がある可能性が高いでしょう。

●アルバイトなんだから、正社員より待遇は低くてもよい?
<ケース⑤>
百貨店でパート勤務するEは、勤続年数の長さなどを買われ、正社員並みに重要な業務を任されています。
しかしEはパートなので、正社員よりも基本給は低く、賞与も支給していません。

パートが正社員よりも待遇が低いのは当たり前なので、問題ないですよね?

「パートだから」という理由だけで、労働者の待遇を低く抑えることは許されません。

パートタイム・有期雇用労働法※8条、9条により、アルバイトやパートなどの短時間労働者に対する不合理な待遇差別が禁止されているからです。
※正式名称:短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律

もっとも、アルバイトやパートの待遇を決定する際には、以下のポイントに関する正社員との比較を考慮する必要があります。

・業務の難易度
・責任の重さ
・配置転換の有無
など

そのため、上記の観点を踏まえ、Eが正社員並みの働きをしていると評価できるならば、Eの待遇を低く抑えていることは違法になり得ます。

●客入りが少ない場合、アルバイトのシフトをカットしてもよい?
<ケース⑥>
新型コロナウイルス感染症の影響で、経営する飲食店の売り上げがかなり下がってしまいました。

アルバイトFは盛んにシフト希望を出してきますが、給料を払う体力がなくなってきているので、事業主側の判断でほとんどのシフトを断っています。
アルバイトなので、シフトは相談次第で柔軟に決めてよいと思っていますが、問題ないでしょうか?

アルバイトのシフトは、雇用契約上、柔軟に調整可能な傾向にあることは事実です。
ただし、最低保障時間数などを雇用契約で定めている場合には、その範囲でのみシフトの調整が認められます。

もし使用者の都合により、雇用契約で許容される範囲を超えてアルバイトのシフトをカットする場合には、休業手当(労働基準法26条)などの支払い義務が発生する点に注意しましょう。

 

まとめ

事業主がアルバイト・パートを処遇する際、労働基準法を遵守しないと、後にアルバイト・パートとの間でトラブルに発展してしまうリスクが生じます。
また、万が一労働基準法違反が世間に知られてしまうと、事業主の評判を毀損する結果にもなりかねません。

事業主の方は、経営の足下を固めるためにも、労働基準法その他の法令に対する遵法意識を高く保ち、日々の経営に取り組んでください。

阿部 由羅
ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。専門はベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。

https://abeyura.com/
https://twitter.com/abeyuralaw

 

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