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英語は万能? 外国人労働者への言語対応と言語教育で考えるべきこととは

「じゃ、英語がペラペラなんですね」

日本語教育に携わっていると言うと、よくこういう言葉が返ってきます。
外国人といえば英語、英語は世界の共通語、という認識でしょうか。

「いいえ、ペラペラではありません。英語を使うこともありますが、使わないことの方がずっと多いんですよ」これが筆者の答えです。

今回は外国人労働者と言葉の問題について考えてみましょう。

 

共通語としての英語とは

英語は数ある言語の中でも最も影響力の強い言語だといわれています。
では、英語は万能なのでしょうか。

以下の表1は、アジア諸国における英語の位置づけを表しています。


参考: *1 外務省(2015)KIDS外務省「世界の国々 アジア」を参考にして筆者作成
https://www.mofa.go.jp/mofaj/kids/ichiran/i_asia.html

表1の一番上の国々では、英語は母語です。
母語というのは子どもの頃にまっ先に自然に身につけた言語です。
自然に覚えたので、「どうやって話せるようになったんですか」ときかれても答えようがありません。
「いつから話せるようになったのですか」ときかれても、それにも答えようがありません。
なぜかいつの間にか話せるようになっていて、自由に無理なく当たり前に話せる言語が母語です。

つぎにその下の薄いブルー、G2のアジア諸国では、英語は第二言語です。
第二言語というのは、母語の次に覚えた、あるいは学んで身につけた言語です。

その中にあるフィリピンを例にとって考えてみましょう。
フィリピンにはおおよそ80の言語があり、それらを母語にしている人々がいます。
国語はフィリピノ語で、公用語はフィリピノ語と英語です *2。
フィリピノ語というのは、約80の言語のうち最も母語人口が多いタガログ語から作られた言語です。

日本では母語と国語が同じ日本語であるため、よく「母語」と「母国語」を混同し、間違って使われることが多いのですが、国語は文字通り、国家の言語ガバナンスが背後にある言葉で、母語とは根本的に異なるコンセプトです。

次に、公用語とは、国が公式に制定した言語で、公式な場や公文書などでは公用語を使わなければなりません。
フィリピンのような多言語国家では、国語や公用語を設けなければガバナンスが難しいのです。

フィリピンでは、人々はまず母語を自然に覚え、国語であり公用語でもあるフィリピノ語を習得するのと同時に、もうひとつの公用語である英語も学んでいきます。
したがって、英語は第二言語という位置づけになるのです。

こうした言語事情は、日本とは大分、違いますね。
日本は母語と国語、そして実質的な公用語がすべて日本語です。
「実質的な」というのは、日本には公用語がないからです。

日本で生まれ育った日本人にとっては、母語である日本語で教育を受けられることも、日本語でさまざまな情報が得られることも、日本中どこに行っても日本語が通じることも当たり前になっていて、そのことを意識する人は少ないでしょう。
こうした事情から、日本においては公式な場や公文書では元々日本語が使われていて、他の言葉がそれにとってかわるということはこれまで想定しにくかったため、公用語は必要なかったのです。

でも、実は日本のようにひとつの言語が絶対優位にあるような言語事情は、世界的にみればむしろ珍しいことです。
日本で暮らす外国人の言語事情を理解し、それについて考えようとするとき、こうした事実を認識することが重要です。

表1にもどりましょう。
最後に、一番下のG3の国々にとって英語は国際語です。
国際語というのは、母語の違う人々の間で共通語として用いられる言語です。

以上のことから、アジアでは、英語を母語とする英語ネイティブより母語としないノンネイティブの方が、ずっと多いことがわかります。

したがって、アジア諸国の人々が英語を共通語として使うとしたら、ノンネイティブ同士が英語でコミュニケーションをとる場合が多いことになります。

こうした状況は、対象をアジアから世界に拡げても同様です。
現在、英語を公用語または準公用語とする国は世界中で54ヵ国、その人口は約21億730万人に上ります *3。
一方、英語の母語人口は4億人です *4。
したがって、世界的にみても、英語を母語としないノンネイティブの方が英語のネイティブよりずっと多く、英語を共通語として使う場合、ノンネイティブ同士が英語でコミュニケーションをとる場合が多いのです。

 

◆ 「英語は万能」は幻想

では、日本で働いている外国人労働者はどの国から来た人たちでしょうか。


図2 国籍別外国人労働者数と割合
出典:*5 厚生労働省(2020)「外国人雇用状況」の届出状況まとめ【本文】 (令和元年10月末現在) 図3: p.3、
https://www.mhlw.go.jp/content/11655000/000590310.pdf

この図をみると、アジア諸国からの労働者が全体の約73%を占めています。
また、アジア以外の国も、英語を母語としないブラジルとペルーが合わせて10%で、アジアの国とこれらの2国を合わせると、英語を母語としない国の人々は全体の83%を占めます。

このことから、日本で働いている外国人と英語を共通語としてコミュニケーションをとるのはなかなか厳しいのではないかと推測できます。

筆者の経験もそれを裏付けるものです。
特に多国籍クラスでは英語ができない人がいる頻度が高く、英語を共通語として使えないことの方が普通です。
例えば、英語のALT(外国語指導助手)のような英語ネイティブだけのクラスやフィリピン人社員だけを対象とした企業内研修などでは共通語として英語を使うことができますが、そうしたクラスは決して多くはありません。
また、英語ができるといっても、英語ノンネイティブの英語力は国や個人によってかなりばらつきがあるというのが実感です。
また、現実問題として、英語を共通語としてコミュニケーションがとれる日本人も少ないのではないでしょうか。

以上のことから、日本で働いている外国人全般を念頭においたとき、英語が万能だというのは幻想だといってもいいでしょう。

 

外国人労働者への言語の影響

言語は外国人労働者に大きな影響を与えています。
ここでは、その影響を、職場における外国人労働者の意識と就労定着、賃金に分けて考えてみたいと思います。

まず、以下の図3は外国人アルバイトが、仕事をする前と実際にしてから不安に感じた要素を表しています。

図3 日本で働き始める前と実際に働き始めてからの不安要素
出典(図3・図4):*6 株式会社マイナビ(2019)社長室 リサーチ&マーケティング部 アルバイトリサーチチーム「在日外国人へのアルバイト意識調査」( 2019年4月) 図4:p.20、図5:p.25
https://www.mynavi.jp/wp-content/uploads/2019/04/%E3%80%90%E3%83%AC%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%83%88%E3%80%91%E5%9C%A8%E6%97%A5%E5%A4%96%E5%9B%BD%E4%BA%BA%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%90%E3%82%A4%E3%83%88%E8%AA%BF%E6%9F%BB.pdf

この図から、仕事を始める前も実際に働き始めてからも、「自分の日本語能力」が不安要素だと回答した人の割合が最も多いことがわかります。
次に、以下の図4は、仕事をしていてストレスを感じるときを表しています。


図4 仕事をしていてストレスを感じるとき(3つまで選択)

一番多かったのは、「職場の人とコミュニケーションがうまくとれないとき」です。
4番目にも「お客様とコミュニケーションがうまくとれないとき」が挙げられていて、これらを合わせると50%になります。
以上のことから、外国人アルバイトは、職場で日本語に関して不安やストレスを感じていることがわかります。

次に、就労定着と言葉の関係についてみてみたいと思います。
以下の図5は外国人材(高度人材と新卒留学生)の定着率に影響を与えている要因です。


図5 外国人材に影響を与えている要素 左図:高度外国人材、右図:新卒留学生
出典(図5・図6):*7 内閣府(2019)政策統括官(経済財政分析担当)「 政策課題分析シリ-ズ 18 企業の外国人雇用に関する分析 ―取組と課題について― 」(2019年9月) 図5:要旨4、図6:要旨3
https://www5.cao.go.jp/keizai3/2019/09seisakukadai18-6.pdf

この図をみると、外国労働者とのコミュニケーションが容易な企業ほど定着率が高い傾向がみられます。
また、新卒留学生については日本語教育等の取り組みが必要だということもみてとれます。
以上のことから、外国人労働者の定着にも言葉が影響していることがわかります。

最後に、外国人労働者の賃金と言葉の関係をみてみましょう(以下の図6)

 


図6 外国人正社員の賃金に与える要因 

この図から、日本語能力は外国人労働者の賃金を高める要素のひとつだということがわかります。

以上、職場における外国人労働者の意識、定着、賃金に対する言葉の影響をみてきましたが、いずれにも言葉が影響を与えています。
したがって、外国人労働者への言語対応は、外国人労働者だけでなく、雇用する側にとっても、彼らと職場を共にする人にとっても大きな意味をもつといえるでしょう。

 

外国人労働者への言語対応

では、外国人労働者への言語対応はどうしたらいいのでしょうか。
筆者は、以下のようなアプローチが大切だと考えます。

母語保障
多言語サービス
翻訳アプリの使用
「やさしい日本語」の推進
日本語学習支援

まず、母語保障から考えてみましょう。
ここでご紹介したいのが、ヨーロッパにおける言語政策です。
ヨーロッパにはさまざまな国があり、言語も多様ですが、ヨーロッパは言語政策について非常に問題意識が高い地域です。
その背景には長年にわたる民族間、国家間の関係がありますが、現在、ヨーロッパで主流の考え方は「使われているすべての言語は同等の価値をもつ」というものです。
したがって、EU諸国では、少なくとも法律的には、それらの言語を使う権利が保障されています。

もちろん、ヨーロッパと日本では事情が異なりますが、母語はアイデンティティ―との結びつきが強く、誰にとっても大切な言語ですから、極力、尊重すべきだと考えます。
ただ、外国人労働者の母語は多様ですから、日本社会がそれらすべての言語に対応することは現実問題として難しいでしょう。
でも、職場においてもできるだけ多言語対応するという姿勢が大切ではないでしょうか。
例えば、採用に関する情報発信には多言語対応が効果的です。
また、安全に関わる標語などもできるだけ外国人労働者の母語に対応させるのが望ましいと考えます。

現在、災害時の放送や災害に関する情報提供については、14言語対応がスタンダードになりつつあります *8・*9。
14言語とは、日本語、英語、中国語(簡体字・繁体字)、韓国語、スペイン語、ポルトガル語、インドネシア語、ベトナム語、タガログ語、タイ語、ネパール語、クメール語、ビルマ語、モンゴル語です。

多言語対応に役立つアプリもあります。
総務省と国立研究開発法人情報通信研究機構が連携して開発した、多言語音声翻訳アプリ‘VoiceTra(ボイストラ)’です *10・*11。
このアプリは31言語に対応していますので、日本語能力が低い外国人とのコミュニケーションに大変、役立ち、筆者も日常的に使っています。

少し日本語が話せる外国人労働者であれば、「やさしい日本語」を使うことも有益です。
やさしい日本語とは、「日本語初学者にもわかりやすいように語彙や文法を調整した日本語」 *12 です。
はっきり話す、短い文にする、難しい語句や敬語は使わないなど、相手が理解できるように、相手の反応をみながら、日本語を調整します。
相手の理解度を意識しながら日常的に外国人とコミュニケーションをはかっていけば、外国人・日本人双方のコミュニケーション能力が高まるといわれています。

最後に、日本語学習に対する支援も大切です。
これまでみてきた資料から、外国人労働者は日本語能力や日本語によるコミュニケーションに対して不安とストレスを抱えていることが明らかです。

2019年6月に「日本語教育の推進に関する法律」が公布・施行されました。
この法律に基づいてまとめられた「日本語教育の推進に関する基本方針」(案)には、事業主の責務として、雇用する外国人とその家族に対し、日本語学習の支援に努めるよう明記されています *13:pp.1-2。
外国人労働者の日本語学習を支援し、彼らの不安やストレスを軽減することが大切です。

 

おわりに

これまでみてきたように、外国人労働者にとってもその雇用者にとっても、また外国人労働者とともに働く人にとっても、言葉は大きな意味をもちます。
外国人労働者は貴重な労働力を提供しています。
彼らが安全に暮らし、安心して働けるように、またその力を十分に発揮できるように、彼らへの言語対応をもう一度、見直してみたらいかがでしょうか。

エビデンス
以下、すべて2020年4月22日閲覧

*1
外務省(2015)KIDS外務省「世界の国々 アジア」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/kids/ichiran/i_asia.html
*2
外務省「フィリピン共和国基礎データ」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/philippines/data.html
*3
文部科学省「(3)英語を公用語・準公用語等とする国」
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/004/siryo/attach/1379959.htm
*4
文部科学省「(1)世界の母語人口(上位20言語)」
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/004/siryo/attach/1379956.htm
*5
厚生労働省(2020)「外国人雇用状況」の届出状況まとめ【本文】 (令和元年10月末現在)
https://www.mhlw.go.jp/content/11655000/000590310.pdf
*6
株式会社マイナビ(2019)社長室 リサーチ&マーケティング部 アルバイトリサーチチーム
「在日外国人へのアルバイト意識調査」( 2019年4月) https://www.mynavi.jp/wp-content/uploads/2019/04/%E3%80%90%E3%83%AC%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%83%88%E3%80%91%E5%9C%A8%E6%97%A5%E5%A4%96%E5%9B%BD%E4%BA%BA%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%90%E3%82%A4%E3%83%88%E8%AA%BF%E6%9F%BB.pdf
*7
内閣府(2019)政策統括官(経済財政分析担当)「 政策課題分析シリ-ズ 18 企業の外国人雇用に関する分析 ―取組と課題について― 」(2019年9月)
https://www5.cao.go.jp/keizai3/2019/09seisakukadai18-6.pdf
*8
国土交通省(2020)気象庁「防災気象情報を14カ国で提供開始します~気象庁における多言語化に係る取組~」(令和2年4月16日)
http://www.jma.go.jp/jma/press/2004/16a/20200416_14languages.html
*9
内閣府「災害時に便利なアプリとWEBサイト(多言語)」
http://www.bousai.go.jp/kokusai/web/index.html
*10
総務省(2017)「『翻訳バンク』の運用開始」
https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01tsushin03_02000220.html
*11
内閣府(先進的音声翻訳研究開発推進センター)「NICTにおける多言語音声翻訳技術の研究開発と社会実装」
https://www8.cao.go.jp/cstp/stmain/nict_open.pdf
*12
総務省(2019)「やさしい日本語×多言語音声翻訳」(総務省主催 デジタル活用共生社会実現会議 ICT地域コミュニティ創造部会 2019年3月12日)
https://www.soumu.go.jp/main_content/000614961.pdf
*13
「日本語教育の推進に関する基本方針」(案)
w.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kondankaito/nihongo_suishin_r01/02/pdf/92115302_02.pdf

 

横内美保子(よこうち みほこ)

博士(文学)。元大学教授。大学における「ビジネス・ジャパニーズ」クラス、厚生労働省「外国人就労・定着支援研修」、文化庁「『生活者としての外国人』のための日本語教育事業」、セイコーエプソンにおける外国人社員研修、ボランティア日本語教室での活動などを通じ、外国人労働者への支援に取り組む。

 






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