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職場環境を見直すチャンス! 外国人労働者を採用するにあたって考えておきたいこととは?

外国人労働者が増えています。
厚生労働省の発表によると、2018年10月末の外国人労働者数は1,460,463人でした。これは2007年にこの統計が始まって以降の過去最多です *1。
外国人労働者を採用するのは決して珍しくない時代になりました。

まず、実務的なことをおさえておきましょう。
「入管法」では、就労活動が認められる在留資格が定められています *2 ので、外国人を採用する際には、まず、「在留カード」などでその在留資格を確認する必要があります *3。
外国人を雇用することが決まったら、在留資格や氏名などをハローワークに届け出なければなりません。
また、保険の手続きなど、さまざまなルールや義務、企業としての責任があります。それらは「外国人雇用のルールに関するパンフレット」 *4 などにまとめられていますので、一度、目を通しておくと安心です。

では、次に、外国人労働者を採用するにあたって考えておきたいこととは何でしょうか。
まず、現在の日本社会における外国人労働者の位置づけを概観してみましょう。

下の図1は、日本の就業者数のシミュレーションです。

図1 日本の就業者数のシミュレーション
出典:厚生労働省HP(2018)職業安定局「雇用を取り巻く環境と諸課題について」p.8
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11601000-Shokugyouanteikyoku-Soumuka/0000062121_1.pdf

日本の労働人口は確実に減少しつつあります。
この図からわかるように、今後、経済成長と労働参加が進まない場合、2030年には2014年に比べて就業者が790万人も減少すると推計されているのです。

こうした状況の中、どのようにして労働力を確保するか、企業を成長させる人材をどうやって育てていくかが、日本の企業、特に中小企業にとっては大きな課題になっています。
そこで、将来の産業と経済を担う人材として注目されているのが、外国人労働者です *5:p.1-2。
それと同時に、現在は、企業に社会的責任が求められる時代です。したがって、外国人労働者の雇用のあり方や彼らに対する責任をきちんと果たすことが、企業としての評価を左右する時代になりつつあるのです *5:p.3。

以上のことをふまえた上で、どのような外国人労働者を採用したいのか、彼らに何を期待するのか、採用の目的を明確にしておくことが大切です。
そして、彼らを迎え入れるにあたって、彼らとどのような関係を構築し、彼らと一緒にどのような職場を作っていくのか、それらのビジョンをあらかじめ職場全体で共有しておくことも必要ではないでしょうか。

では、その際に、どのような方向性を目指したらいいのでしょうか。
これから、そのヒントになりそうなエピソードをご紹介したいと思います。

 

いきなり立ちはだかったハードル

「先生、この漢字、なんて読むの? 全然、読めない。教えてください!」
差し出された紙をみると、一番、上に大きく「理念」と書かれています。

一、お客様一人一人に安全で美味しい食品をお届けすること
一、お客様一人一人に笑顔で接し、敬意を表すこと
一、・・・・・・・・・・・・

「朝礼で読まなきゃいけないんだって。主任さんに言われたの。なんて読むの?」
ボランティア日本語教室で出会ったJさんは、日本在住30年。
老舗の食品会社にパートとして採用されたばかりです。

「ああ、これね。これは会社が大切にしていること。ここに書いてある通りに働きましょう、っていう意味なの」
「ふーん、そうなんだ。それで、なんて書いてあるんですか」
「長いから、全部、覚えるのは大変でしょう? どこからどこまで読むの?」
「全部!」
「全部?!」

彼女が勤め始めた会社では、理念やスタッフの心得を、毎日の朝礼で唱和することになっているようです。
そのとき、スタッフの「ひとり」がまず読み、残りのスタッフが復唱する ― 新人スタッフはその「ひとり」を担当する決まりだというのです。

でも、これって・・・・・・、漢字だらけじゃないの!
これを、彼女がひとりで読むのか、と軽い眩暈を覚えながら、
「ひらがなは読めるわね?」
「はい、読めます」
「じゃあ、こうしましょう。私がまず、これを全部、ひらがなで書き直します。その後、わからない言葉を説明するから、メモしてね。それから、読む練習をしましょう。後で私が読んで、Jさんのスマホに録音するのはどうかしら? そうすれば、家に帰ってからも、聴きながら練習できるでしょう?」

いきなり立ちはだかったハードルを、彼女は乗り越えることができるだろうか。
職場の先輩たちは彼女に手を差し延べてくれるだろうか。
主任さんは彼女の様子をみて、どう思うだろうか・・・・・・。
後ろ姿の彼女を見送りながら、さまざまな思いが溢れ出てきました。

ところが、この問題は、その後、私の思ってもみなかった展開をみせることになるのです。

 

外国人労働者はどうやって日本語を習得したのか

Jさんは口がよく回ります。接客業をしていた経験も長く、生活に密着した話題なら、ほぼネイティブ並みに話せて、しかも早口です。
一方、漢字はほとんど読めません。
週1回のボランティア教室で、「あ」から少しずつ覚えていったので、ひらがなは読めますし、ゆっくりならほぼ正確に書くこともできます。
でも、カタカナは苦手で、自分の名前が書ける程度です。
「日本に来て30年にもなるのに?」とお思いでしょうか。
でも、それには理由があるのです。

まず、以下の図2をご覧ください。
この図は属性別に日本語学習者の割合を表したものです。

図2 属性別日本語学習者の割合(2018年度)
出典(図2・表1):文化庁HP(2018)国語科「平成30年度国内の日本語教育の概要」p.12
http://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/nihongokyoiku_jittzi/h30/pdf/r1408679_01.pdf

 

次に、下の表1をご覧ください。
この表は図2の属性別に、日本語学習者数をまとめたものです。
2018年度の日本語学習者の総数は、259,711人でした *6:p.12。

表1 属性別日本語学習者数(2018年度)

これらの属性のうち、労働をしているであろう層は、研修生・技能実習生の17,027人とビジネス関係者が最大で11,701人、そして留学生です。
留学生には1週間に28時間以内の資格外活動が認められていますが、2018年10月末に実際に働いていた留学生は、298,461人いました *7:p.3。これらの留学生は、期間の長短に関わらず、大学や日本語学校で日本語教育を受けた経験があるとみていいでしょう。

この他に、外国人労働者や求職中の外国人が日本語教育を受けられる機会として、厚生労働省の「外国人就労・定着支援研修事業」があります。
この研修は、就労可能な在留資格をもつ外国人を対象に、日本語コミュニケーション能力の向上や就労に役立つ知識の習得を目標とした講義や実習を行うもので、2017年度は4,250名が同研修を受けました *8:p.4。

 

一方、冒頭でみたように、2018年10月末の外国人労働者数は約146万人でした。
これらを考え合わせると、外国人労働者のうち、日本語教育を受けた経験のある人は、ごく一部であることがわかります。

先ほどのエピソードに登場したJさんは、ボランティア教室で勉強を続けている、いわば少数派です。
ですから、「ひらがなしか書けない」のではなくて、「だから、ひらがなが書ける」のです。

では、日本語教育を受けたことがない外国人はどうやって日本語を学ぶのでしょうか。
彼らはそれぞれの生活の中で、サバイバル的に必要な日本語をランダムに覚えていきます。教育機関での学習のように、順を追い、段階を経て、体系的に学ぶわけではありません。
そして、日本語の場合、文字習得には大変な困難が伴います。

 

漢字は図形?

初めて漢字をみたときに、「入り組んだ図形みたいだ!」と思ったという外国人は案外、多いものです。
確かに、漢字は図形と同じように、右脳で処理されるというのが通説になっています *9:pp.88-89。
この、「絵のようなもの」をどこから書き始めるのか、どうやって書いていくのかさっぱりわからない、という人もいました。

そういえば、以前、アメリカ旅行でこんな経験をしました。
ショッピングモールでクレジットカード決済をしようとしたときのことです。
漢字で署名しようとしたら、
「ちょっと待ってください!」
と言いおいて、その店員さんは持ち場を離れ、どこかへ行ってしまいました。

そして、暫くすると・・・・・・、他の店員さんたちをぞろぞろ引き連れて戻ってくるではありませんか。
「漢字をどうやって書くのか、一度、見てみたいと思ってたんです。仲間たちにも見せてやりたいと思って」
まるで珍しい芸でも見るかのような彼らの反応が印象的でした。

もちろん、漢字圏の人々は読み方はともかく、漢字を見れば意味がわかります。
また、非漢字圏でも、漢字が得意でどんどん習得が進む人も中にはいます。
でも、一般的に、非漢字圏の人々にとって漢字習得は難しく、膨大な時間とエネルギーを必要とするのです。

 

外国人労働者の日本語力をどう測るか

さて、Jさんはその後、どうなったのでしょうか。
そのお話をする前に、どうして主任さんが、Jさんは漢字が読めると思い込んだのか、考えてみたいと思います。

原因は2つ考えられます。
ひとつめは、「聞く・話す」スキルと、「読む・書く」スキルの偏りです。

先ほどお話ししたように、Jさんは日常的な会話であれば不自由しませんが、漢字やカタカナはほとんど読み書きができません。非漢字圏の人は一般的に、「読む・書く」力より「聞く・話す」力の方を優先的に発達させるといわれています 10:p.2。コミュニケーションにはまず「聞く・話す」が必要ですし、先ほどみたように、漢字を含めた文字習得には困難が伴うからです。
でも、外国人に不慣れな人が、流暢に話せれば読み書きもできると思い込んでしまっても無理はありません。

2つめは、Jさんが提出した漢字かな交じりの履歴書です。
就活にあたっては履歴書が必要です。それをサポートしたのはボランティア教室のスタッフでした。スタッフがJさんから必要な情報を聞き取りながら、履歴書を書き、それをお手本にしてJさんが手書きしたのです。必要な漢字の書き方をスタッフに教わり、漢字アプリも使いながら、長い時間をかけて1字ずつ書いていき仕上げたのが、その履歴書でした。
Jさんは漢字が書けるということをアッピールしようとしたわけでは決してありません。「履歴書は手書きで」という慣習に従うしか、選択肢がなかったのです。
でも、それが主任さんの誤解を誘発することになってしまいました。

たった1回、それも短時間、会っただけで外国人の日本語力を総合的に判定するのは、専門家にとっても簡単なことではありません。
もし、日本語での読み書きが必要な職種であれば、募集時にその旨を明示した方がいいでしょう。
その際、よく目安とされるのが日本語能力試験(JLPT)のレベルです *11。5レベルある認定レベルのうち、業務に必要なレベルを指定するのもひとつの方法です。
ただし、この試験は選択式ですから、話す能力は測れません。
話す能力に関しては、面接などで判定することになるでしょう。

そして、一番、確かな方法は、必要なスキルが十分あるかどうか、実際にその場でやってもらい、確認することです。例えば、漢字で書かれたものを読む必要があるのなら、実際にそれを読んでもらってはいかがでしょう。

そうやって、ミスマッチのリスクを低減することは雇用者・労働者のどちらにとっても有益なはずです。

 

新たな視点で職場環境を見直してみると

さて、Jさんの話に戻ります。
Jさんは、ひらがなの「理念」を何回も練習し、なんとか読めるようになったそうです。
でも、Jさんの中で、ある気持ちが芽生え、それが次第に大きくなっていったといいます。

「もし、私がすらすら読んだら、みんな、私は漢字が読めると誤解するのではないか。でも、実際は読めないのだから、仕事で迷惑をかけてしまうかもしれない。漢字が読めないことを今のうちに伝えた方がいいのではないか」
意を決したJさんは、朝礼が始まる前に、思い切って主任さんにそのことを伝え、詫びました。

「すみません。私、漢字が読めません。紙をもらったときに、恥ずかしくて言えなかったんです。本当にすみません」
すると、主任さんは、まず丁寧に頭を下げ、こう言ったそうです。
「こちらこそ、申し訳なかったです。立派な履歴書を書いてきてくれたから、漢字が読めないなんて思わなかったんですよ。でも、Jさんの気持ちはよくわかります。Jさんにやってもらいたい仕事は、漢字が読めなくても大丈夫ですから、安心してください。仕事に慣れるまでは大変だと思いますが、がんばってくださいね」

主任さんの人間力はこれに留まるようなものではありませんでした。
すぐに職場を再点検し、漢字を使った表示や掲示物、書類などについて、ひとつずつ説明したり、ひらがなを振ったりするよう、先輩スタッフに指示してくれたというのです。

これは、身の安全に関わる大切な留意点です。
「危険!」、「立入禁止」など、漢字を使った標語はないでしょうか。
主任さんのように、漢字(文字)が読めない人の視線で職場を見直すことは、職場のすべての人の安全につながります。

Jさんはそれ以来、主任さんの期待に応えたいという気持ちも手伝い、懸命に仕事を覚え、力を尽くして働いています。
職場の先輩たちも彼女をあたたくサポートしてくれるそうです。
相手を思いやり尊重するという姿勢が、Jさんと主任さん、さらには職場全体の信頼関係の構築につながったのはないでしょうか。

私は、Jさんから相談を受けたとき、目先のことしか考えていなかった自分を恥じました。
そして、このことから多くの気づきを得ることができました。

このような信頼関係が構築できれば、異文化をもつJさんの言動にもし違和感を抱くようなことがあったとしても、周りの人は「Jさんがそういうことをするのには、きっと何か理由があるのだろう」と思ってくれるのではないか。
そして、これは、日本人同士でもいえることではないのか。
こういう職場環境が、スタッフのやる気を引き出し、離職を防ぐのにも役立つのではないか。

「マイナビ転職」掲載の「『仕事を辞めたい!』と思った理由ランキング」の2位には「職場の人間関係が良くない」が挙がっています *12。
でも、Jさんのいる職場では、きっと皆が思いやり尊重し合って、気持ちよく働ける職場環境が自然に成立しているのではないでしょうか。

そして、もしJさんより日本語ができない外国人が今後、職場に入ってきたとしても、その人を尊重し配慮して、誰ひとり取り残されることのない職場であり続けるのではないでしょうか。

外国人労働者の採用は、もう一度、新たな視点で職場環境を見直すチャンスになるかもしれません。

 

*1
参考)厚生労働省(2019)「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ」(平成30年10月末現在)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_03337.html

*2
参考)厚生労働省HP(2019)「日本で就労する外国人のカテゴリー(総数 約146.0万人の内訳)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/gaikokujin/gaikokujin16/category_j.htm

*3
参考)厚生労働省(2019)「外国人の雇用:雇用する上でのルール 1.就労可能な外国人の雇用」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/jigyounushi/page11.html

*4
参考)厚生労働省HP(2019)「外国人雇用のルールに関するパンフレット」(平成30年4月版)
https://www.mhlw.go.jp/content/000515319.pdf

*5
参考)経済産業省 中部経済産業局HP(2009)「国際的な人材活用~外国人労働者受け入れガイドブック~」
https://www.chubu.meti.go.jp/b32jinzai/data/gaikokujin-guidebook.pdf

*6
参考)文化庁HP(2018)国語科「平成30年度国内の日本語教育の概要」(平成30年11月1日現在)
http://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/nihongokyoiku_jittai/h30/pdf/r1408679_01.pdf

*7
参考)厚生労働省HP(2018)「外国人雇用状況」の届出状況まとめ【本文】 (平成30年10月末現在)
https://www.mhlw.go.jp/content/11655000/000472892.pdf

*8
参考)厚生労働省HP(2017)職業安定局外国人雇用対策課「厚生労働省の取組状況~ 外国人就労・定着支援研修事業の概要 ~」
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kondankaito/nihongo_suishin/08/pdf/1396843_r10.pdf

*9
参考)成城大学HP篠塚勝正・窪田三喜夫「日本語文字形態(漢字、ひらがな、カタカナ) による認知言語処理の差異」
https://www.seijo.ac.jp/pdf/falit/221/221-03.pdf

*10
参考)国立国語研究所HP(2015)松下達彦(東京大学)「日本語語彙習得に関わる普遍性と個別性 -漢字をめぐる問題を中心に-」
http://lsaj.ninjal.ac.jp/wp-content/uploads/2015/07/f5966738ab8bfdd24be5f01c5e0ca2db.pdf

*11
参考)日本語能力試験 JLPT HP「N1~N5:合格認定の目安」
https://www.jlpt.jp/about/levelsummary.html

*12
引用)転職マイナビHP(2018)「転職ノウハウ:本音と建前は必須? 退職理由ランキングと好印象な伝え方・例文」(更新日:2018/1/26)
https://tenshoku.mynavi.jp/knowhow/caripedia/03

 

【著者】
横内美保子(よこうち みほこ)                               
博士(文学)。元大学教授。専門は日本語学、日本語教育。大学における「ビジネス・ジャパニーズ」クラス、厚生労働省「外国人就労・定着支援研修」、文化庁「『生活者としての外国人』のための日本語教育事業」、セイコーエプソンにおける外国人社員研修、ボランティア日本語教室での活動などを通して、外国人労働者への支援に取り組む。






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