令和2年4月7日に出された「新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言」が、同年5月25日に解除されました。
ここから新たな「コロナ局面」を迎えようとしている日本ですが、この間、多くの離職者が生まれたことも事実です。
総務省統計局発表の労働力調査によると、4月の完全失業者数は189万人で、3か月連続の増加となりました(図1)。
さらに、前年同月に比べ13万人(7.4%)の増加でした*1。
図1:総務省統計局/労働力調査(基本集計)2020年(令和2年)4月分結果
https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/tsuki/index.html
また、完全失業者のうち「勤め先や事業の都合による離職」は30万人と、前年同月に比べ9万人の増加、「自発的な離職(自己都合)」は71万人と、前年同月に比べ4万人の減少でした*1。
これらの結果から、少なからず、コロナの影響による離職者と完全失業率の増加が浮かび上がります。
緊急事態宣言解除に伴い、社会・経済活動の規制や自粛が緩和されます。
感染防止策を講じながらの「新しい生活様式」、そのうえでの新たな経営方針の展開と、雇用の創出に期待します。
目次
雇用のミスマッチ防止に助成金が活用できる?!
日本は、労働三法を始めとする「労働者に関する法律」が多く、徹底した労働者保護の姿勢を示しています。
例えば、最低賃金について「最低賃金法」により、都道府県ごとにその額が定められています。
また、解雇について「労働契約法」や「労働基準法」で細かく定められています。
事業主はこれらの法律を遵守したうで、労働者を雇用する必要があります。
では、これから新たに労働者を雇用する事業主にとって、スタート時点での不安要素はなんでしょう。
筆者の経験上、最も多い相談は「雇用のミスマッチ」に関することです。
過去にこのような相談を受けました。
――デイサービスを経営する顧問先へ、一人の男性が面接に訪れました。
これまでの仕事は続いて半年、介護未経験、直近の一年間は仕事をしておらず、自宅にこもる生活。このままではいけないと、家族にすすめられてハローワークで求職活動をし、デイサービスの仕事を見つけたとのこと。
手には「トライアル雇用」と記された紹介状を持っていました。
この男性は、ハローワークのアドバイスで
「3か月間のトライアル期間を設けて、その後も仕事を続けられるか考えてみましょう」
と言われました。
通常、3か月限定の就職は珍しく、企業側としても短期間限定で雇用することは、めったにありません。
しかし、「雇用のミスマッチを防ぐ目的」として、このトライアル雇用は有効です。
正式名称は「トライアル雇用助成金」。
ニートやフリーター等で55歳未満の人を、ハローワークからの紹介により雇用する際、3か月のトライアル期間を経て常用雇用へ移行させるというものです(図2)。
図2:厚生労働省/トライアル雇用助成金リーフレット(求職者向け)
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000497221.pdf
3か月のトライアル期間中に、労働者は、従事する仕事や当該企業について理解を深めることができます。
有期雇用期間であっても、賃金の支払いや保険関係の加入は、一般の労働者と同様に行われるため安心です。
実際、このトライアル期間終了後、約8割の人が常用雇用に移行しています*2。
トライアル雇用対象者の、具体的な要件は図3です。
図3:厚生労働省/トライアル雇用助成金リーフレット(事業主向け)
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000497220.pdf
図3からもわかるように、職業経験の不足などから、就職が困難な求職者が対象となっています。
その適性や能力を見極め、常用雇用への移行のきっかけとするため、3か月のトライアル期間を設定しています。
労働者の適性を確認したうえで、常用雇用へ移行することができるため、双方のミスマッチを防ぐことができます。
トライアル雇用助成金制度を活用した場合に、事業主が受給できる金額は、1か月で最大4万円です。
ただし、トライアル雇用期間途中での離職や、事業の継続が不可能となった場合などは、実際に就労した日数に基づく割合に応じた額となります(図4)。
原則、トライアルを3か月実施してからの助成金の請求となるので、合計で最大12万円が受給できます。
(図4)厚生労働省/トライアル雇用助成金(支給額)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/trial_koyou.html
ちなみに、このような「雇用機会の創出を図ることを目的」とした助成金の場合、シングルマザーは優遇される傾向にあります(シングルファーザーも同様)。
トライアル雇用の対象労働者が、母子家庭の母や父の場合、事業主が受給できる金額は、1か月で最大5万円となり、3か月で最大15万円になります(図5)。
(図5)厚生労働省/トライアル雇用助成金(支給額)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/trial_koyou.html
この金額が、多いか少ないかは個々の感じ方によると思います。
この点を筆者は、対象労働者にかかる「法定福利費が補助される」と受け取ると、しっくりくるのではないかと考えます。
3か月の有期雇用契約でフルタイム労働者を雇用した場合、雇用保険のみならず、社会保険(健康保険、厚生年金保険)の加入が必須となります。
仮に、月給20万円で雇用した場合、社会保険料と雇用保険料の事業主負担分が1か月でおよそ3万円。
つまり、3か月で9万円の法定福利費が発生します。
この費用をトライアル雇用助成金で補助されたと捉えると、労働者の適性判断期間を設けたうえで、費用負担まであることとなり、企業にとってマイナスとはならないでしょう。
なお、前出の面接に訪れた男性は、顧問先でのトライアル雇用期間を経て、常用雇用へと移行しました。
寡黙で真面目なタイプのため、人との交流は得意ではありませんでしたが、指示された仕事はきちんとこなすため、事業主も喜んでしました。
しかし、およそ1年後、退職願いを突如告げられ、翌日から男性の姿を見ることはありませんでした。
「職場環境に馴染めなかったことが最大の理由ではないか」
と、事業主は言います。
雇用を維持することは、労使双方の立場や環境、プライベートの状況などにも左右されるため、一筋縄ではいかないものですが、逆の視点でみれば、この男性は3か月の期間を経て、1年間働くことができた事例でもあります。
助成金に関する企業の注意点
厚生労働省が提供する助成金は、
「雇用の安定、職場環境の改善、仕事と家庭の両立支援、従業員の能力向上」
などに役立つものが多数あります。
そして、これら助成金の財源は「雇用保険料」によって賄われています。
よって、助成金を受給できる事業主は「雇用保険適用事業所の事業主」である必要があります。
また、助成金受給後には、法令に基づく立入検査等の実地調査が行われます。
その際に、労働保険・雇用保険関係の管理や処理が適正に行われているか、保険料の納付等が期限内に済んでいるかどうかなど、細かく調査されます。
そこで「不正」が発覚すると、不正受給による請求金として多額の請求を受けるほか、内容によっては事業主が告発されます(詐欺罪で懲役1年6か月の判決を受けたケースあり)*3。
つまり、助成金の活用を検討する場合、日ごろの労務管理や労務コンプライアンスの徹底が重要です。
労働関係法令の遵守がベースとなったうえで、助成金を受給する権利があるということを、企業は忘れてはなりません。
労働力の確保に向けて
本稿で紹介した「トライアル雇用助成金」は、職業経験、技能、知識等から安定的な就職が困難な求職者について、ハローワークや職業紹介事業者等の紹介により、一定期間試行雇用した場合に助成するもの*4です。
ほかにもたくさんの助成金が用意されています。
いずれも、労働者の職業の安定に資するために、失業の予防、雇用機会の増大、雇用状態の是正、労働者の能力開発等を図る目的でつくられた助成金制度です。
アフターコロナに近づいた今、「新しい生活様式」を前提とした“新たな経営方針”とともに、雇用機会の増大に期待が高まります。
雇用のミスマッチを防ぐためにも、トライアル雇用助成金を活用し、労使相互の理解促進に役立ててください。
*1参考:総務省統計局/労働力調査(基本集計)2020年(令和2年)4月分結果の概要p4
https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/tsuki/pdf/gaiyou.pdf
*2参考:厚生労働省/トライアル雇用助成金リーフレット(求職者向け)
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000497221.pdf
*3参考:厚生労働省/雇用関係助成金共通の要件(D不正受給の場合の措置4)
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000497219.pdf
*4引用:厚生労働省/トライアル助成金(概要)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/trial_koyou.html
特定社会保険労務士
浦辺里香 (うらべりか)
早稲田大学卒業後、日本財団、東京中日スポーツ新聞で勤務。社労士試験に合格後、事務所を開業し独立。その翌年、紛争解決手続代理業務試験に合格し、特定付記。
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