アルバイト、特に学生の場合は期間や労働時間が限られているので気楽に採用しやすいと考えてしまいがちですが、労働基準法上の「雇用契約」であることに変わりはありません。
よって正式な手続きとして雇用契約書を結ぶ必要があり、甘く見るとトラブルに発展することもあります。
そして雇用契約という考え方については、学生側も認識が甘い傾向があります。
ある日突然「ブラックバイト」として拡散されることが無いように、正しい手続きについて再確認しておきましょう。
目次
「ブラックバイト」の定義
短時間、短期雇用者の場合、「アルバイト」「パート」というふたつの呼び方があります。
なんとなく前者は学生、後者は主婦(夫)、という印象がありますが、これらは「なんとなく」呼び方が違うだけで法律的には同じ立場です。
そして、雰囲気として「パートさんは主婦(夫)だから無理を言えない」「アルバイトは学生だから多少無理を頼んでもいいだろう」という意識があったとすれば、それは正しくありません。
その中で、「アルバイト」について学生が抱く疑問と、それについての厚生労働省の回答の一部を紹介すると以下のようなものです。
引用:「学生アルバイトのトラブルQ&A」厚生労働省)
https://www.check-roudou.mhlw.go.jp/pdf/parttime_qa.pdf より抜粋
ノルマを課す、休憩時間を与えないなどの働かせ方はもってのほかです。
そして「ブラックバイト」という言葉はどこかインターネットで生まれたスラングかと思われがちですが、厚生労働省は一定の定義を示しています。このようなものです。
・採用時に合意した以上のシフトを入れる
・一方的に急なシフト変更を命じる
・試験の準備期間や試験期間にシフトを入れる
・「人手が足りない」といった理由で学生を休ませない
・退職を申し出た学生に対し、「ノルマ」や「罰金」を理由に辞めさせない
といったものです。
特に学生の場合は、「学業に専念できず留年や退学に追い込まれるような事態」を引き起こすのは「ブラックバイト」です。
雇用契約書と禁止行為、賃金・有給休暇についての注意点
さて、アルバイトの採用もれっきとした「労働契約」ですから、採用にあたっては雇用契約書を取り交わすか労働条件通知書を渡すなど、勤務時間などをあらかじめ明示しなければなりません。
なお、明示しなければならないのはこのような項目です(図1)。
図1 労働契約書または労働条件通知書の内容(出典:「しっかりマスター 労働基準法」東京労働局)
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/library/tokyo-roudoukyoku/seido/kijunhou/shikkari-master/pdf/part.pdf
アルバイトの労働条件通知書の書式はこちらのリンクにあります。
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/keiyaku/kaisei/dl/youshiki_02.pdf
また、18歳未満のアルバイトについては以下の注意が必要です。
<原則として禁止>
・深夜(午後10時~午前5時)に働かせること
・1日8時間を超えて働かせること
<禁止>
・重量物を取り扱う作業に就かせること
16歳以上18歳未満の男性では継続作業の場合20kg以上、断続作業の場合30kg以上は禁止。16歳以上18歳未満の女性では継続作業の場合15kg以上、断続作業の場合25kg以上の重量物を取り扱わせることは禁止されています。
・高さ5m以上の場所で墜落のおそれがある場所で行う作業に就かせること
・その他、危険・有害な業務に従事すること
次に、残業や深夜勤務などの時間外労働については、割増賃金が適用されます。
・1日8時間または週40時間を超えた分については、通常の賃金の25%以上の割増賃金
・1か月に60時間を超える時間外労働については割増率は50%
・午後10時から午前5時までに働いた分は、25%以上の割増賃金(深夜手当)
有給休暇については、採用6か月を経過すると以下の日数を与えなければなりません(図2)。
図2 アルバイト・パートの有給休暇(出典:(出典:「しっかりマスター 労働基準法」東京労働局)
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/library/tokyo-roudoukyoku/seido/kijunhou/shikkari-master/pdf/part.pdf p3
「アルバイトは雇用契約である」という部分については、学生側の認識が甘い傾向があります。そうであっても、労働契約書や労働条件通知書の必要性を教えることが必要です。紛失しないように指導してください。
のちにトラブルを起こし、双方にとって嫌な思いをする状況にならないようにしましょう。
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以下、トラブルの多い「賃金」と「退職」について説明します。
賞与をめぐる訴訟事例
学生アルバイトに対する賞与支払いの義務について、最高裁まで争われた案件があります。
同一労働同一賃金についても参考になる判例です。
大阪の医療機関で働いていたアルバイト職員が、正社員には支給されている賞与を自分にも同様に支払うべきと訴えたものです。
結果としては、正社員の60%の額の賞与を支払うべき、というのが最高裁の判断です。
最高裁がアルバイトの賞与について初めて具体的な見解を示したものであり、かつその金額まで示しています。
60%という金額が示された根拠はこのようなものです。
(参照:裁判所HP https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/455/088455_hanrei.pdf )
職務内容や就労期間が違うので、正社員との間にある程度の差があることは仕方ないが、「ゼロ」は不合理だということです。
このアルバイト職員がフルタイムであったという事情も反映されています。その中でどちらかの言い分を全面的に肯定するわけではなく、柔軟な対応の必要性を示す判例と言えます。
また、「賞与」に対する会社側の認識もきちんと定められている必要があり、その認識にてらした「正当性」が求められています。
この場合、賞与が年齢や業績を反映するものであったなら、また判断も違ったでしょう。しかしこの医療機関での賞与は、年齢や業績を反映したものではなかったという事実も重要視されています。
年齢や業績に関わらず支給するという賞与の制度ならば、アルバイトにも支払われて然るべき、という判断です。
個別の事情があったとしても、「アルバイトに賞与は必要ない」という思い込みを改めさせる判例でもあります。
退職について
退職についても、またトラブルの多いところです。
「辞めさせてくれない」「勝手に辞められた」と労使双方が衝突しがちです。
当然、一方的な賃下げや解雇は違法です。しかし同時に、アルバイトが即退職する権利を持っている場合もあります。
アルバイトの解雇が認められるのは、事業が立ち行かなくなった、など企業の経済的な理由がある場合です。
ただしこの場合も、必要な手続きを踏まなければなりません。労働局に相談する必要があります。
また逆に、アルバイトが一方的に突然辞めても責任を問えない場合もあります。勝手なシフト変更など雇用者の配慮不足があった場合です。
事前に示された労働条件と違う、試験があるのにシフトを入れられる、残業手当などを支払っていないなど、企業側に落ち度がある場合はある日突然来なくなってもそれはアルバイト側の権利ですから、何ら責められる要素はありません。
まとめ
アルバイトはしっかりと労働基準法で守られている存在であり、「ちょっとだけ残業」「ちょっとこの日だけ休むように頼みたい」というように気軽に扱ってはいけません。
また、経営側の都合だけで一方的に解雇をするような、雇用の調整弁のような扱いも認められません。
繰り返しになりますが、雇用契約だという学生側の認識も、十分ではない場合も少なくありません。
そのため雇用側から、れっきとした契約であること、契約書の必要性について指導するくらいの方が良いでしょう。そして彼らの権利についても伝えましょう。
そうすることで、学生側も「他ではこんなことは教えてくれなかった」と信頼を寄せ、「働く」ことについての意識も高まることでしょう。
<清水 沙矢香>
2002年京都大学理学部卒業後、TBS報道記者として勤務。
社会部記者として事件・事故、科学・教育行政を担当、その後、経済部記者として主に世界情勢とマーケットの関係を研究。海外でも欧米、アジアなどでの取材にあたる。
ライターに転向して以降は、各種統計の分析、業界関係者へのヒアリングを通じて、多岐に渡る分野を横断的に見渡す視点からの社会調査を行っている。
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