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ブラック企業とはどんな会社?公表された特徴や事例を確認し十分な対策を取ろう

ビジネスパーソンを悩ませる「ブラック企業」。
2015年5月、厚生労働省はブラック企業の社名公表制度を発表し大きな反響を呼びましたが、逆に言えばそれほどまでに、ブラック企業は深刻な社会問題であったと言えるでしょう。
その前年である2014年11月には、
「違法な長時間労働が疑われる4561事業所に立ち入り調査を実施し、半数の事業所に是正を勧告した」
ほどでした。*1

言うまでもなく、ブラック企業で働きたいと考える労働者や就活生など存在しません。
同様に、ブラック企業というレッテルを貼られてしまうことを望む経営者など存在しないでしょう。
にも関わらず、根強く続くブラック企業問題。
その実態をデータからおさらいし、この問題に対する労使双方にとってのリスクと対策を再確認していきましょう。

目次

ブラック企業の悲惨な実態

誰もが働きたくなるホワイト企業の実例

結論

ブラック企業の悲惨な実態

まず始めに、ブラック企業とはどういう会社を指すのでしょうか。
厚生労働省では、ブラック企業について定まった定義をしていません。
しかし、「一般的な特徴として」以下のような企業を指すとしています。*2

1.労働者に対し極端な長時間労働やノルマを課す
2.賃金不払残業やパワーハラスメントが横行するなど企業全体のコンプライアンス意識が低い
3.このような状況下で労働者に対し過度の選別を行う

政府主導による働き方改革の徹底もあり、近年ではこのような会社を積極的に調べ、避けようとする労働者や就活生が大半となってきました。
三菱UFJリサーチ&コンサルティングの調査によれば、就職活動の際にブラック企業であるかどうか「気にした」「少しは気にした」新入社員は8割を超えています。

図1:三菱UFJリサーチ&コンサルティング
「2017年(平成29)年度 新入社員意識調査アンケート結果」
https://www.murc.jp/wp-content/uploads/2017/05/press_170509.pdf

このような世相にあっては、一度でも「ブラック企業」とみなされてしまい、SNSやネット上で風評が立ってしまうと、企業にとっては致命傷になりかねません。
優秀な学生の応募は望めなくなり、またそれ以上に優秀なビジネスパーソンの中途採用など望むべくもなくなるでしょう。
では実際のところ、ビジネスパーソンはどのような処遇をされることで、自社を「ブラック企業」と感じるのでしょうか。


図2:日本労働組合総連合会「ブラック企業に関する調査」
https://www.jtuc-rengo.or.jp/info/chousa/data/20141128.pdf

厚生労働省の見解と一致していると言って良いでしょう。多い順に、

・長時間労働
・低賃金
・有給休暇が取得できない
・賃金不払い(サービス残業)
・コンプライアンス意識の低さ

となっています。
これらの項目に関して、労働者は特に強い不満を感じていることがわかります。

また同調査では、このようなブラック企業のグレー行為を助長していると考える原因についても、触れています。


図3:日本労働組合総連合会「ブラック企業に関する調査」
https://www.jtuc-rengo.or.jp/info/chousa/data/20141128.pdf

・裁量労働制や年俸制を悪用し残業代の支払いなどを免れる
・求人広告で嘘をつき社員を雇う
など、余りにも非常識な項目が上位に並びます。また、
・同調圧力を感じ定時で帰れない
などは、典型的な日本的ブラック企業の特徴と言えるでしょう。

これらアンケートの調査結果は労働組合によるものですので、あるいは労働者寄りの意見が集約されていると思われるかも知れません。
しかし労働基準監督署が調査に入り、「労働基準関係法令違反に係る公表事案」として発表している内容を確認すると、実際に摘発した事例として、以下のようなものがあります。

「約2か月半連続就労させて、1週1回の法定休日を与えなかったもの」
「移動式クレーンにより、労働者を地上から6.4mの箇所に運搬したもの」
「労働者に食肉加工作業を行わせるにあたり、ミンチ機の食肉投入口に安全ガード等の囲いを設けていなかったもの」
「労働者4名に、4か月間の定期賃金合計約300万円を支払わなかったもの 」
*3_p4、p16、p25、p47

これらはほんの一部であり、まだまだ目を覆うような信じがたい事例が公表されています。
これらの多くは、経営者が給与支払いを免れようと企図し、あるいは必要な設備投資を怠り、またはコンプライアンス意識が欠如していたために発生した事例がほとんどでしょう。
経営状況が厳しく、「やむを得ずやってしまった」ことであるのかも知れません。
しかし、だからといって、人の命に関わることで必要な措置を講じなかった言い訳になるものではありません。
従業員への給与未払いも、モノを盗み換金することと同等に非難されるべき行為です。
他社の製品を盗むことはできなくても、自社の従業員の給料なら手を付けても許されるような気がするのであれば、立派なブラック企業経営者です。

2015年から始まった厚生労働省の「ブラック企業の社名公表制度」は、大企業だけが対象です。*1
そのため、中小企業であれば多少のことは大丈夫と思われるかも知れませんが、「労働基準関係法令違反に係る公表事案」では、中小企業でも容赦なく所在地と社名が公表されます。
それ以前に、会社がこのような経営姿勢で労働者を扱う限り、SNSや口コミサイトでその噂はたちまち広がることでしょう。
そうなれば、採用活動に支障が出るだけでなく、金融機関や仕入先との取引にも大きな影響が出て、会社経営が早晩立ち行かなくなることは明白です。
必ず従業員と十分なコミュニケーションを取り、労使双方にとってwin-winとなるような会社運営を心がけて下さい。

では、そのような会社運営に成功している会社では、どのような取り組みをしているのでしょうか。
最後に、その成功事例についてもご紹介しておきます。

誰もが働きたくなるホワイト企業の実例

労働環境に対する違和感は、やはり若者のほうが敏感です。
転職しリスタートすることも容易な世代が定着している職場こそが、ブラック企業とはもっとも遠いところにある企業であると考えて良いでしょう。
そのためここでは、厚生労働省が発表している「若者が定着する職場づくり」の取組事例集から抜粋してご紹介します。

最初にご紹介するのは、横浜にあるIT系のサービス企業です。*4_p6
同社では、システムエンジニアの約半分が顧客企業に常駐してシステム開発などの業務を担うことになり、その就労状況や健康管理に課題感を抱えていました。
そこで、従業員満足度調査やストレスチェックを毎年実施することで、職場環境などの問題の早期発見に努める取り組みをはじめます。

従業員満足度やストレスチェックは、定量的でわかりやすい結果として可視化されてしまいます。
可視化されてしまった明らかな結果から、経営者は逃げることなどできません。
大切な従業員から、「このままでは働き続けることができない」というSOSが発信されているのに何もできないのであれば、それこそ経営者失格というものです。
いわば経営陣が自分自身を追い込み、従業員から定期的にキッチリと宿題を貰う取り組みと言えるでしょう。
そして明らかになった課題の解決策として、法定時間外の労働時間が月30時間を超えた社員に対しては看護師が訪問し職場環境や健康状態について聞き取りを実施するなど、対策も徹底しています。
これら施策の結果として若者の定着率が上がれば、当然のことながらスキルも蓄積され、会社の大きな資産となっていくでしょう。
労働環境の改善と従業員満足の向上は、他ならぬ会社自身のためであるという典型的な事例と言えそうです。

次にご紹介するのは、大阪心斎橋で美容室を経営する会社の事例です。*4_p36
同社では、求人広告を通して募集をしても、ほとんど応募がないことに悩んでいました。
またせっかく採用した社員も、美容師として独立できるめどが立つと2年ほどで退職してしまい、育成費用ばかりがかさむ状況に陥っていたそうです。

そのような状況では、社員に長時間労働を求め、休日も我慢してもらい、フル稼働をさせることでなんとか売上を維持しようと考えるのが凡人経営者の発想でしょう。
しかし、同社の発想は全く逆でした。
始業時間、終業時間、休憩時間といった所定労働時間を明文化し、また業界としては大変珍しいと言えるでしょう。完全週休二日制を導入したのです。
さらに女性が多い職場であったため、妊娠や子育てに配慮し、

1.短時間正社員制度
2.本人の希望がある場合には雇用形態を変更し一旦パートタイマーに変更できる仕組み
3.フレックスタイム制

といった多様な働き方に対応する就業規則まで整備したのです。

想像すれば容易に理解できることですが、このような職場を求職者が求人広告で見かけたら、どのように思うでしょうか。
劣悪な労働環境に悩み、美容師を辞めざるを得なかった人でも、先を争って応募の問い合わせをする様子が、目に浮かぶようです。
実際に同社ではその後、順調に採用が進み、切れ目のない人材のローテーションが機能し始めているようです。
これこそが、会社も従業員もともにwin-winといえる、経営者冥利に尽きる理想的な結果と言えるでしょう。

 

結論

今回は、ブラック企業に悩む従業員の立場から問題を検証し、またその解決策を、若者が定着している企業経営の事例に求めました。
厚生労働省の同事例集には他にもたくさんの参考になる取り組みが掲載されていますが、共通していることは、

・問題から逃げないこと
・経営失敗のツケを従業員にとらせないこと
・問題を根本から解決する勇気を持つこと

であると言えます。

目先の問題から安易に逃げ、ブラック企業と化してしまうのか。
従業員と顧客の幸せに貢献し、尊敬される経営者になるのか。
それはひとえに、経営者の決断と心構えにかかっています。

*1
日経新聞2015年5月15日版
「ブラック企業、社名公表18日から 厚労省が対策発表」
https://www.nikkei.com/article/DGXLASFS15H4V_V10C15A5PP8000

*2
厚生労働省:「ブラック企業」ってどんな会社なの?」
https://www.check-roudou.mhlw.go.jp/qa/roudousya/zenpan/q4.html

*3
厚生労働省:「労働基準関係法令違反に係る公表事案」
https://www.mhlw.go.jp/content/000534084.pdf

*4
厚生労働省:「若者が定着する職場づくり」取組事例集
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/jireisyuu29_1.pdf

【著者プロフィール】
桃野泰徳(ももの・やすのり)                                
1973年滋賀県生まれ。
大和証券を経て、いくつかのベンチャー企業でCFOを歴任し独立。
個人ブログでは月間80万PVの読者を持つなど、経営者層を中心に人気を集める。

 

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