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KDDIの「社内副業制度」とは?|その特徴と報酬制度が産み出すポテンシャルはどのように参考にすべきか

副業を認める企業が増えつつあります。最近では2020年6月にKDDIが「社内副業」を認めて話題になりましたが、KDDI以外の大手キャリアは、それに先行して副業を解禁しています。
では、KDDIの「社内副業制度」は他社の副業とどこが違うのでしょうか。その特徴とポテンシャルを探ってみましょう。

 

通信業界の動向

マイナビの「働き方、副業・兼業に関するレポート(2020年)」によると、2020年1月から7月までの間に中途採用業務を行った企業の49.6%が副業を導入しており、将来的に認める・拡充する予定の企業は計57.0%に上っています *1。

このうち、IT・通信・インターネット業界に絞ると、現在、副業を認めている企業は55.6%、将来的に拡充する予定の企業は60.8%と、いずれも全業界の平均を上回っていることから、この業界の副業導入は進んでいる方だといえます。

3大キャリアと呼ばれる大手キャリアのうち、ソフトバンクは2017年、NTTドコモは2019年と、KDDIより早い時期に副業を解禁しています。
KDDIの「社内副業」をみる前に、ここでは、ソフトバンクにおける副業にフォーカスし、それがどのようなものか概観します。

~ソフトバンクにおける副業とは~ 
3大キャリアの中で副業解禁の先陣を切ったのはソフトバンクです *2。
同社は、「Smart & Fun!」を社内スローガンに掲げ、「スマートワークスタイル」と称した働き方改革に取り組んでいますが、副業もその一環と位置づけています(図1、 *3)。

図1 ソフトバンクの「スマートワークスタイル」における副業の位置づけ
出典:*3 ソフトバンク「スマートワークスタイルの推進『Smart & Fun!』で働き方改革を推進」
https://www.softbank.jp/corp/hr/personnel/workstyle/

スマートワークスタイルでは、ITやAIを活用したり、テレワークやスーパー・フレックスタイム制を推進して、時間の有効活用を図ります。
そうやって創出された時間を使って、新しいことに取り組んだり自己成長に投資したりしますが、副業は、ここに位置づけられています。
目指すのは、副業で得た知見やノウハウを、これまで培ってきた経験や知見と組み合わせることによって、将来の新規事業や既存事業の活性化など、イノベーティブ・クリエーティブな仕事に結びつけていくことです。

ソフトバンクのこうした副業には、以下のような条件があります。

本業に影響がない範囲で行うこと
社員のスキルアップや成長につながること
会社の許可を得ること

~取り組み事例~
次に、ソフトバンクの社員による取り組み事例をみてみましょう。
DX事業本部に所属するある社員は、副業として、ユニバーサルデザインに関する商品開発、企業のリサーチ補助、セミナーや教育、Webプロモーションのコンサルティング、企画書などの資料作成、分析など多岐にわたる業務を行っています *4。

こうした本業と副業は、相乗効果を産みます。
本業では新規事業開発で培った高い専門性と知見、経験という強みがあります。一方、副業では、小規模ながら自己責任で完結する商売の経験を得ています。
これらがお互いに補い合ってプラスの作用を産み出し、それが本業に反映されていると彼はいいます。

 

KDDIの「社内副業制度」の概要と実施状況

ここでは、この制度の概要を押さえておきたいと思います。

~実施概要~
KDDIの副業解禁日は2020年6月1日でした。
この制度の特徴は、なんといっても副業を「社内」で「就業時間中」に行うということです *5。
就業時間の約2割を目安として自部署以外での業務を経験するというもので、組織を超えた活動を推奨する「人事制度改革」の一環と位置づけられています。

実施手順は以下のとおりです。

イノベーション創出の観点で募集業務を各部署で精査・公表
社員が自らの成長の加速につながる業務へ応募
社員、所属部署、社内副業先部署の3者が合意
最大6か月間社内副業を行う

なお、社内副業先での業務も人事評価の対象となります。
応募条件は、以下のとおりです。

対象:KDDI本体勤務の正社員約11,000名
勤務地:現在の勤務地に関係なく応募可能(テレワークを積極的に活用することを推奨)

~背景と目的~
KDDIには、世界で204社のグループ会社が存在し、多種多様な業種、業務が存在しています *5。
「通信とライフデザインの融合」を推進しているKDDIグループは、通信を核として、決済・物販・エネルギー・金融サービスなどのライフデザイン領域に事業を拡大しています。

こうした特徴をもつ同社のグループは、今後はこの取り組みをグループ全体、さらには社外にも拡大することを検討しています。

その目的は、社員が、自部署とは異なる組織や違った環境の業務に携わることで、自身の専門性を探ったり、その習得を加速させたりすることです。
また、企業側は、そうした取り組みによって、組織の壁を超えてシナジーが生まれ、それがイノベーションの創出につながることを目指しています(図2)。
こうした目的が達成されれば、その効果はKDDIグループ全体の成長につながります。

図2 KDDIの「社内副業制度」のイメージ出典:*5 KDDI株式会社(2020)「ニュースリリース:イノベーション創出を加速する『社内副業制度』を開始」
https://news.kddi.com/kddi/corporate/newsrelease/2020/06/26/4521.html

~実施状況(2020年上半期)~
2020年4月1日に全86業務で募集を開始したこの制度では、選考を経て63名が2020年6月1日以降、順次、社内副業を始めています *5。
応募者は20代が最多で、約20%が東京以外からの応募でした。

主な社内副業業務は、以下のとおりです。

au PAY アプリのスーパーアプリ化に向けた企画業務
ICT/IoTを用いて地域の課題解決に取り組む「地域ICT化応援部隊」
業務を自動化・効率化するツールを開発する「アジャイル開発エンジニア」

 

KDDI「社内副業制度]の影響とポテンシャル

最後に、KDDIの社内副業制度の影響とポテンシャルを考えてみたいと思います。
その際、一般的な副業のメリットとデメリットに基づき *6:pp.3-4、先ほどみたソフトバンクの社外副業とも比較しながら検討していきます。

~就業時間と収入~
一般的に副業で懸念されるのは、就業時間が長くなる可能性があり、労働者自身が就業時間や健康管理をする必要があるということです。
その点、KDDIの社内副業制度は、先ほどみたように就業時間中に副業に取り組むため、就業時間が増加し、健康管理が難しくなるおそれはありません。

所得はそれとは逆です。社外副業には本業の収入以外に副収入を得られるという魅力がありますが、社内副業は就業時間中に行うため、少なくとも大幅な収入増にはつながらないでしょう。

~職務専念義務、秘密保持義務、競業避止義務~
企業にとって、副業に伴う大きな懸念事項は、必要な就業時間の把握や管理が難しいこと、健康管理への対応、職務専念義務、秘密保持義務、競業避止義務をどう確保するかということです。

これらはどれもシビアな事態を招きかねない問題ですが、その点、KDDIの社内副業はこうしたリスクを伴いません。
これは、社内副業の大きなメリットです。

~社員の能力・スキルアップと企業成長~
社員は副業によって、本業とは別のスキル習得や経験を得て、主体的にキャリアを形成することができます。

それは、企業側からみてもメリットです。
労働者が社内、あるいは自部署では得られない知識やスキルを獲得することができれば、それが企業活動にも反映され、企業の強みや成長につながります。
それは、先ほどみたソフトバンク、KDDI、双方に共通する副業推進の目的でもありました。

ただ、それは社員にとって、本業を続けつつ、リスクの小さい形で将来の起業・転職に向けた準備や試行錯誤が可能になるということでもあります。
それは、企業側からみると、副業によって能力やスキルが向上した社員が離職するというリスクを意味します。

こうした観点からすると、社外での副業に比べ、社内副業は、他社への転職に関してはやや低リスクかもしれませんが、逆に、社外に広く人脈を作りそれを生かすという点では、社外副業の方にアドバンテージがあるでしょう。
また、KDDIの社内副業制度では、最大6か月という制限があり、その限られた期間で成果を得るためには、なんらかの仕掛や工夫が必要かもしれません。

~社員の自己実現追求と新キャラクタの獲得~
最後に、副業には、社員が本業の所得を活かして、自分がやりたいことに挑戦でき、自己実現を追求することができるというメリットがあります。

この点に関しては、ソフトバンクの事例でみたような広範な活動に比べ、KDDIの社内副業は会社が募集する業務に限られるため、その範囲がやや狭まってしまうというきらいがあります。

ただ、自己実現という側面においては、社内副業には社外副業では得られないメリットがあると筆者は考えます。
社内副業は、自部署を離れ他部署で副業します。その際に、社員が自部署とは別の「キャラクタ」で働けるのは大きな魅力ではないでしょうか。

ここでいう「キャラクタ」とは、人が状況や相手によってみせるさまざまな“顔”、あるいは“ロール”というような意味です。
誰でもある場所でのキャラクタとは異なる側面を持っていますが、ある固定化された場所で見せるキャラクタはそう簡単に変えることができません。

でも、自分の殻を破りたい、別のキャラクタとして仕事に取り組みたいと思っている社員は案外、多いのではないでしょうか。
例えば、自部署では真面目人間で通っているけれど、もう少しくだけたキャラクタとしてリラックスして働きたい。
あるいは、石橋を叩くような慎重なキャラクタとして仕事に取り組んできたけれど、思い切ってもっと大胆なキャラクタとして、豊かな発想が生かされる業務に就いてみたい、など。

部署を変えて働くのは、これまでと違う新たなキャラクタを獲得し、その新キャラクタで働くチャンスを得ることでもあります。
副業しながら、新・旧どちらのキャラクタが自分らしいものなのか精査しどちらかを選択することもできますし、部署によってキャラクタを使い分けることも、それらを統合したキャラクタを形成することもできるでしょう。
さらに、そのことによって、社員はそれまでとは異なる能力を獲得することができるかもしれません。それは企業にとっても有益です。

もちろん、社外副業でも新たなキャラクタで働くことは可能ですが、その場合、本業と副業のキャラクタは分離した別個のキャラクタです。
KDDIの社内副業では、副業先部署での業務も人事評価の対象になりますから、複数のキャラクタ、あるいはこれまでとは異なるキャラクタが評価されることになり、そこからビジネス・パーソンとしての新たなポテンシャルが生まれる可能性もあります。

こう考えると、社内副業という働き方には、他の働き方にはないポテンシャルが潜んでいるといえるでしょう。

 

 おわりに

以上みてきたように、KDDIの「社内副業制度」には、他企業による社外副業とは異なる特徴があり、それらは社員に対しても企業に対してもさまざまなメリットをもたらします。
副業を認める企業が増加するなか、それぞれの企業に相応しい副業のあり方を模索することは有益です。
KDDIの同制度は、その際の検討事例としても貴重な取り組みだといえるのではないでしょうか。

エビデンス
【以下、すべて2021年1月3日閲覧】
*1
マイナビ(2020)「ニースリリース:働き方、副業・兼業に関するレポート(2020年)」(2020年10月22日)
https://www.mynavi.jp/news/2020/10/post_28795.html
*2
ソフトバンク「プレスリリース:働き方改革推進第2弾として、オフィス改革や副業の許可など新たな取り組みを開始」(2017年10月11日)
https://www.softbank.jp/corp/group/sbm/news/press/2017/20171011_01/
*3
ソフトバンク「スマートワークスタイルの推進『Smart & Fun!』で働き方改革を推進」
https://www.softbank.jp/corp/hr/personnel/workstyle/
*4
ソフトバンク(2020)「ソフトバンクニュース:副業でグッドデザイン賞を受賞! ユニバーサルデザインを手掛け、下肢障がいを強みに」(2020年12月3日)
https://www.softbank.jp/sbnews/entry/20201203_01
https://www.softbank.jp/sbnews/entry/20201203_01?page=02#page-02
*5
KDDI株式会社(2020)「ニュースリリース:イノベーション創出を加速する『社内副業制度』を開始~正社員約11,000を対象、就業時間の約2割で実施~」(2020年6月26日)
https://news.kddi.com/kddi/corporate/newsrelease/2020/06/26/4521.html
*6
厚生労働省(2020)「副業・兼業の促進に関するガイドライン」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000192844.pdf

プロフィール
横内美保子(よこうち みほこ)
博士(文学)。元大学教授。大学における「ビジネス・ジャパニーズ」クラス、厚生労働省「外国人就労・定着支援研修」、文化庁「『生活者としての外国人』のための日本語教育事業」、セイコーエプソンにおける外国人社員研修、ボランティア日本語教室での活動などを通じ、外国人労働者への支援に取り組む。
Webライターとしては、各種統計資料の分析などに基づき、主にエコロジー、ビジネス、社会問題に関連したテーマで執筆、関連企業に寄稿している。

Twitetr:https://twitter.com/mibogon

 

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