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【薬剤師が解説】職場における感染症対策 感染力の強い変異株に経営者はどう対処すればいい?

新型コロナウイルス感染症の流行は、いつまで続くのでしょうか。最近は、感染力が強いとされる変異株の症例数も増えてきているため、対応に苦慮している企業も多いことでしょう。

報告日別新規変異株症例届出数(株確定のみ)
(2020年12月20日~2021年6月27日)n=12,225(1例確認中)

筆者注:
ベータ株:南アフリカで確認された株、ガンマ株:ブラジルで確認された株、シータ株:フィリピンで確認された株、デルタ株:インドで確認された株、アルファ株:イギリスで確認された株

引用)厚生労働省「政策について>分野別の政策一覧>健康・医療>健康>感染症情報>新型コロナウイルス感染症について>新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードの資料等(第31回~)>第41回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和3年6月30日)>資料3-2 鈴木先生提出資料」P.41*1
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00256.html
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000800000.pdf P.41

ワクチンに希望をつなぎたいところですが、ワクチン先進国といわれるイスラエルですら、変異株の流行にともない一旦解除したマスク着用義務を再度義務化しています*2。
このようなことから、ワクチン接種終了後もそれなりの感染症対策が企業に求められることは明白です。

そこで今回は、感染力が強いとされる新型コロナウイルスの変異株と従来型ウイルスの違いに迫り、変異株の流行を防ぐために企業が行うべき感染症対策について解説します。

 

目次

変異株と従来型ウイルスの違い

変異株の流行を防ぐために求められる感染症対策

ワクチン接種が終了しても感染症対策は念入りに

 

変異株と従来型ウイルスの違い

新型コロナウイルスに限らず、そもそもウイルスは増殖や感染の過程で少しずつ変異するものです。そして、新型コロナウイルスも、2週間に1か所程度のペースで変異を続けている*3といわれています。

筆者注:
RNA:遺伝情報、スパイクタンパク質:新型コロナウイルスがヒトの細胞へ侵入する際に重要な役割を果たすタンパク質

引用)厚生労働省「政策について>分野別の政策一覧>健康・医療>健康>感染症情報>新型コロナウイルス感染症について>新型コロナワクチンについて> Q&A>一覧>ワクチンの効果>変異株の新型コロナウイルスにも効果はありますか。」*4
https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/0012.html

もっとも、変異はランダムに発生するため、ウイルスがどのように変化するかは予測できません。しかし、変異にともない、ワクチンが効きにくくなったり、症状が重くなったり、感染力が強くなったりする事例が実際に発生しています。

以下に、国立感染症研究所が2021年6月末時点で「新型コロナウイルスの懸念される変異株」に分類している4つの変異株についてまとめます。これらのほかにもワクチンや治療薬への影響が懸念される変異株が次々と報告されているため、企業は今後も積極的に感染症対策を行わなければなりません。

新型コロナウイルスの懸念される変異株

変異株の種類 最初の検出時期および地域 感染力
(従来株比)
重篤度
(従来株比)
ワクチンの効果など
(従来株比)
アルファ株 2020年9月
(イギリス)
1.32倍と推定 入院・死亡リスクが高い可能性 効果に影響がある証拠なし
ベータ株 2020年5月
(南アフリカ)
5割程度高い可能性 入院時死亡リスクが高い可能性 効果を弱める可能性
ガンマ株 2020年11月
(ブラジル)
1.4~2.2倍高い可能性 入院リスクが高い可能性 効果を弱める可能性
従来株感染者の再感染事例の報告あり
デルタ株 2020年10月
(インド)
高い可能性 入院リスクが高い可能性 ワクチンと治療薬の効果を弱める可能性

参考)厚生労働省「政策について>分野別の政策一覧>健康・医療>健康>感染症情報>新型コロナウイルス感染症について>新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードの資料等(第31回~)>第41回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和3年6月30日)>資料4 新型コロナウイルス感染症(変異株)への対応等」P.2*5を参考に筆者作成
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00256.html
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000801065.pdf P.2

 

変異株の流行を防ぐために求められる感染症対策

感染力の強い変異株の流行を防ぐためには、今まで以上に厳しい感染症対策が必要です。3密(密集、密接、密閉)がそろう場面ではもちろんのこと、1つの密でも感染リスクが高まることを意識して、手洗いの徹底・マスクの正しい装着など基本的な感染症対策を徹底しましょう。

ここからは、2021年6月16日に新型コロナウイルス感染症対策分科会が発表した「変異株が出現した今、求められる行動様式に関する提言」をもとに、企業が取るべき対策を具体的に紹介していきます。

引用)内閣官房「各種本部・会議等の活動情報>新型インフルエンザ等対策推進会議>新型コロナウイルス感染症対策分科会>開催状況>第4回令和3年6月16日 変異株が出現した今、求められる行動様式に関する提言」*6
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/taisakusuisin.html
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/taisakusuisin/bunkakai/dai4/henikabu_teigen.pdf

・求められる行動様式(1)に基づく対応
従業員に、マスクの着用を励行しましょう。可能であれば、職場に不織布マスクを常備することをおすすめします。また、提言には書かれていませんが、手指消毒・洗浄も励行すべきです。消毒用アルコールやハンドソープを設置して、従業員だけでなく顧客にも感染症対策をうながしてください。

密を避けるのが難しい場合は、パーテーションなどを設置して飛沫感染を防止しましょう。スペースに余裕がある場合は、対面での会話を避けるレイアウトに変更するのも方法の一つです。

・求められる行動様式(2)に基づく対応
室内で会話する時間を短くするために、各従業員の休憩時間をずらすようにしましょう。ロッカールームで話し込むのを防ぐために、出社時刻・退社時刻をずらすのも有効です。

・求められる行動様式(3)に基づく対応
定期的に室内の換気を行いましょう。休憩室やロッカールームの換気も必要です。窓がない場合は、換気扇やサーキュレーターなどを活用して空気の流れを作りましょう。CO2モニターを設置して、換気状態を可視化するのも有効な手段です。

・求められる行動様式(4)に基づく対応
可能であれば、テレワークやローテーション勤務を導入しましょう。テレワークの導入が難しい場合でも、不要不急の出張は避けるべきです。必要に応じて、web会議アプリなどの利用も視野に入れましょう。

・求められる行動様式(5)に基づく対応
体調不良時に出勤するかどうかの判断を従業員に任せるべきではありません。出勤を控えるべき場合の社内基準(例:体温37.5度以上、咳など風邪症状や倦怠感の有無、味覚障害の有無、家族の健康状態など)を作成し、周知徹底させましょう。

同時に、欠勤時の取り扱いについても定め(例:有給休暇の利用、特別休暇の導入など)、従業員が安心して休める体制づくりにも取り組んでください。

・求められる行動様式(6)に基づく対応
ワクチンの感染予防効果は100%ではありません。また、従来型の新型コロナウイルスに感染したあとでも、変異株に再感染するリスクは残っています。ワクチン接種歴に関係なく、従業員にはマスクの着用を続けるように伝えましょう。

・求められる行動様式(7)に基づく対応
これまでに得られた知見から、新型コロナウイルス感染症は「飲食を伴う懇親会」や「大人数・長時間におよぶ飲食」などで感染リスクが高まることが明らかになっています*7。感染力の強い変異株の流行を防ぐためには、ワクチン接種後も大人数の飲食は避けるべきでしょう。

業務終了後の行動を制限するのは難しいですが、クラスターが発生すれば企業も責任を問われることになります。顧客からの信頼を維持するためにも、当面は大人数での飲食は避けるよう従業員に求めましょう。

 

ワクチン接種が終了しても感染症対策は念入りに

日本では急ピッチで新型コロナウイルスワクチンの接種が進んでいますが、今後ワクチンが効きにくい変異株があらわれる可能性は否定できません。また、感染力が強い変異株や症状が重症化しやすい変異株も生まれるかもしれません。

くり返しになりますが、ワクチンの感染予防効果は100%ではありません。そのため、国民の多くがワクチン接種を終了した後も、感染症対策を積極的に行って従業員が安心して働ける環境を整えることが企業の責務となってくるでしょう。もちろん、それは結果として顧客からの信頼を得ることにもつながります。

今後も続くwithコロナの時代に向けて、今一度基本から感染症対策を見直しましょう。

 

参考文献・参考サイト
*1
引用)厚生労働省「政策について>分野別の政策一覧>健康・医療>健康>感染症情報>新型コロナウイルス感染症について>新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードの資料等(第31回~)>第41回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和3年6月30日)>資料3-2 鈴木先生提出資料」P.41
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00256.html
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000800000.pdf P.41
*2
参考)在イスラエル日本国大使館「新型コロナウイルス関連情報>現地大使館からの新型コロナウイルス関連最新情報>イスラエル当局による新型コロナウイルスへの対応等に関する情報提供 6/25」
https://www.israel.emb-japan.go.jp/itpr_ja/corona_jouhou.html
https://www.israel.emb-japan.go.jp/files/100204616.pdf
*3
参考)厚生労働省「政策について>分野別の政策一覧>健康・医療>健康>感染症情報>新型コロナウイルス感染症について>新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードの資料等(第31回~)>第41回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和3年6月30日)>資料4 新型コロナウイルス感染症(変異株)への対応等」P.1
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00256.html
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000801065.pdf P.1
*4
引用)厚生労働省「政策について>分野別の政策一覧>健康・医療>健康>感染症情報>新型コロナウイルス感染症について>新型コロナワクチンについて> Q&A>一覧>ワクチンの効果>変異株の新型コロナウイルスにも効果はありますか。」
https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/0012.html
*5
参考)厚生労働省「政策について>分野別の政策一覧>健康・医療>健康>感染症情報>新型コロナウイルス感染症について>新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードの資料等(第31回~)>第41回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和3年6月30日)>資料4 新型コロナウイルス感染症(変異株)への対応等」P.2
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00256.html
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000801065.pdf P.2
*6
引用)内閣官房「各種本部・会議等の活動情報>新型インフルエンザ等対策推進会議>新型コロナウイルス感染症対策分科会>開催状況>第4回令和3年6月16日 変異株が出現した今、求められる行動様式に関する提言」
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/taisakusuisin.html
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/taisakusuisin/bunkakai/dai4/henikabu_teigen.pdf
*7
参考)内閣官房「新型コロナウイルス感染症対策>感染リスクが高まる「5つの場面」感染拡大防止特設サイト」
https://corona.go.jp/proposal/


著者
中西 真理

プロフィール:公立大学薬学部卒。薬剤師。薬学修士。医薬品卸にて一般の方や医療従事者向けの情報作成に従事。その後、調剤薬局に勤務。現在は、フリーライターとして主に病気や薬に関する記事を執筆。

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