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アルバイトと仲良しでもいい?「友達社員」の功罪とは

「ゆとり世代」や「さとり世代」と呼ばれる若者が社会に出たことで、これまで当たり前だった職場の人間関係は大きく変化した。

先輩絶対主義はいまや「パワハラ」と言われ、上司が部下の機嫌をうかがうことすらある。
いままでとはちがうつながりのなかで生きる若者たちに、ときに戸惑いつつ、それでもうまくやろうと努力している人は多いだろう。

たとえば、「若いアルバイトたちに積極的に声をかけ、友達のように仲のいい関係になろう」というように。

しかしアルバイトと馴れ合った「友達社員」は、予期せぬトラブルを起こすこともあるのだ。

 

アルバイトたちと仲良くなろう!と意気込む社員

そもそも、職場やアルバイトの人たちとの関係性とは、どういうものなのだろうか。

さっそく調べてみたところ、職場の人間関係において「楽しく話せる時がある」と「困ったときは助けてくれる」が50%を超えており、「何でも悩みを相談できる人がいる」「他の人には言えない本音を話せることがある」の約30%よりも圧倒的に多いことがわかった。*1

どうやら、「わいわい雑談できる」「ピンチのとき頼りになる」というのが、職場の人間関係におけるキーワードらしい。とくにいまは「ブラックバイト」なんて言葉もあるから、アルバイトの労働環境に敏感になっている企業も多いだろう。

気楽におしゃべりしたり頼ってもらったりするために、アルバイトたちと良好な関係を築くことは重要だ。

しかしアルバイトと友達のように接する「友達社員」は、少しまちがえると思わぬトラブルに発展する。実際わたしは、そんな場面に何度か出くわした。

 

アルバイトのバックレが続き、ついに店長も音信不通に…

わたしがアルバイトしていた居酒屋は、店長と古参アルバイトの仲がよかった。

店長はフリーターから社員になった23歳で、付き合いが長い同年代のフリーターたちも多く、古参アルバイトたちは店長を「Tくん」と呼んでプライベートでも遊んでいたくらいだ。

しかし古参アルバイトと店長の仲がいいぶん、新人はなかなかその空気に馴染めない。

「Tくん」だなんて呼ばれているものだから、店長としての威厳はゼロ。マニュアルなんてものはなく、古参が気分で仕切る。ちゃんとした教育制度なんてものもなければ、研修としてなにかを教えるわけでもない。

結果、新人アルバイトが入っても数回出勤したあと出勤しなくなり、電話もつながらなくなりバックレ……ということが多発していた。

そしてある日、古参アルバイトのひとりもバックレた。バイト仲間全員を着信拒否し、シフトを全部すっぽかしたのだ。理由がよくわからず、みんな首をかしげていた。

そしてその後、あろうことか「Tくん」と呼ばれていた、若き店長すらも音信不通に……!

聞いた話では、「もうやる気がないし辞めたい」「深夜毎日働くのはしんどい」「退職届の書き方がわからない」と古参アルバイトたちに相談したところ、「いーじゃん、バックレちゃいなよ〜」と言われ、本当に無断で仕事を辞めたとのこと。

アルバイトと仲良くなりすぎると、店長ですらアルバイト感覚になってしまうことがあるらしい。さすがにびっくり仰天した。

 

フリーターに恋してシフトを調整した男性社員

次の「友達社員」は、レストランで一緒に働いていた20歳くらいの男性社員である。

男性社員Kさんは気さくで、年齢が近いわたしたちアルバイトと仲が良かった。格好良くておしゃれだったし、店長に怒られたらフォローしてくれたし、まさに「頼れるお兄ちゃん」だ。

あるとき、高校を卒業してフリーターになったAちゃんが、何気なく「Kさんからメールで聞いたんだけど~」と言った。

おや? わたしはKさんの個人的な連絡先を知らないぞ? ほかのバイト仲間も個人的に連絡は取っていないって言うし……。

その後Kさんから、「Aちゃんを好きになった」という相談を受けた。あぁ、そういうことね。

よく考えると、職場飲み会(未成年はもちろんお茶)のとき、Kさんは車でみんなを順番に家まで送ってくれたけど、そのときAちゃんはいつも最後だった。車内でふたりっきりになるためにそういうルートにしていたらしい。

ちょっと面倒くさいと思いつつ翌月のシフトを確認しているとき、ふと気づいてしまった。

AちゃんとKさんの休みが、毎回同じだということに。

できるだけ同じ日に出勤できるよう、シフトを担当しているKさんが、Aちゃんの予定に合わせて自分の休みをかぶせたのだろう。

アルバイト同士の恋愛ならなんとも思わないけど、「社員」が「アルバイト」に恋していろいろと手を回すのは、職権乱用ではないだろうか。そもそもAちゃんは、Kさんのことを意識していなかったし。

わたし自身Kさんのことを慕ってはいたとはいえ、公私混同するのはちょっと勘弁してほしいなぁ、というのが正直なところだ。

 

履歴書を失くしても許してもらえるのが当然だと思う店長

さてさて、これまた別のアルバイトでのこと。
大学の授業中、珍しく店長から電話がかかってきた。

「採用のとき履歴書を提出してもらったじゃん? あれ失くしちゃってさぁ。本部にバレたら怒られるから、悪いけどもう1回書いてもらってもいい?」と。

いや、全然よくない。
個人情報がカネになるこのご時世、履歴書紛失なんて大問題である。しかし店長は、それがどれほど重いことなのかがわかっていないようだった。

店長と仲がいいアルバイトたちはそれを受け、「ちょっとしっかりしてよ~」「志望動機適当でいい?」と、その場で適当に履歴書を書き直していた。いやいやいや、ダメでしょう、さすがにそれは。

実は以前から、「みんな個人情報の取り扱いが雑だなー」とは思っていた。

たとえばお客様から電話が来て、折り返すために電話番号とお名前を控えていたとする。そのメモを、ほかのお客様からも見えてしまう場所にはっつけるのだ。

「やめたほうがいいのでは」と店長に言っても、「みんなに言ってはいるんだけどなかなかなおんないよね〜」と適当に流されるだけ。きっと、強く指導してアルバイトに嫌われたくないのだろう。

……という経緯からの、「履歴書なくしたからもう1回書いて」事件。
あまりにも無責任すぎる!

さすがに呆れてエリアマネージャーに履歴書紛失の件を伝えたところ、即時謝罪、勤め先や緊急連絡先として電話番号が書かれていたわたしの親へも謝罪をしてくれた。うん、ふつうはそうなるよね。

仲がいいアルバイトたちが許してくれるから、店長はどんどん適当になってしまったのかもしれない。

 

「仲良し」と「適当」は全然ちがうと教えてくれた副店長

アルバイトと仲良くなりすぎて自分自身がアルバイト感覚になってしまった「友達社員」がいる一方で、その線引きを忘れずにアルバイトに接した「友達社員」もいた。

とあるバイト先のN副店長は40代だったが若者のはやりに興味津々で、お店のSNS運用をアルバイトたちに相談するような「かわいいおじさん」だった。

親子ほど年の離れた男性社員、それも副店長ともなるとなかなかしゃべりづらいものだが、Nさんとはふたりっきりでも緊張せずに話すことができた。

だからわたしがバイトを辞めることを伝えるときも、まずはNさんに言った。
というより、休憩中に今後の話が出て、そのついでに「実はドイツに行くので辞めようかと思っている」と話したのだ。

バイト仲間の数人にはもう伝えていたので深い意味はなかったが、Nさんはちょっと険しい顔で「店長にはもう言ったの?」と聞いてくる。「まだです」と言えば、「俺じゃなくてまずちゃんと店長に話さないと。休憩中にさらっと言う話ではないよ」という答えが返ってきた。

たしかに、Nさんは正しい。
いくら仲が良くともNさんは副店長であり、辞めるのであればちゃんとした場で話すべきで、順番としては店長が先だ。

アルバイト仲間に話したときは、「まじでー。さみしいわ~」くらいの反応だったので、そのノリでNさんにも話してしまった。仲がいいのと適当になるのはまったくちがうのに。

「友達社員」がアルバイトとの距離感をまちがえることがあるように、アルバイト自身が「友達社員」との距離感をまちがえることもあるのだ。

 

バイトと仲良くなるのと、バイト感覚で仕事をするのはちがう

アルバイトと社員の仲は、悪いよりいいほうがいいに決まっている。

しかし「アルバイト」と「社員」は、あくまでちがう立場。求められるもの、担うべき責任は大きくちがう。「アルバイトと仲良くなる」ことと、「アルバイトと同じ感覚で仕事をする」のは、似て非なるものなのだ。

そうはいいつつも、友達のように接することでその境界線があいまいになり、社員自身がアルバイトのような感覚になってしまうこともある。Nさんのようにそこをしっかり区別できる人もいれば、そうじゃない人もいるのだ。

今回の例で言えば、責任感なくバックレたり、恋愛のためにシフトをいじったり、個人情報を適当に扱ったり……。

アルバイトと仲が良く職場をいい雰囲気にしてくれる「友達社員」は貴重だけど、仲の良さをはき違えてはいけない。それは、社員にも、アルバイトにもいえることだ。

目指すのであれば、ただ「アルバイトたちと仲がいい社員」ではなく、「線引きをしっかりしたうえでいい関係性を築ける社員」。

そんな「友達社員」がいれば、「ノリのいい頼れる先輩」として多くのアルバイトに慕われ、アルバイトたちがより働きやすい環境になるんじゃないかと思う。

*1 内閣府「平成29年版 子供・若者白書」
https://www8.cao.go.jp/youth/whitepaper/h29honpen/s0_0.html

 

 


雨宮紫苑

ドイツ在住フリーライター。Yahoo!ニュースや東洋経済オンライン、現代ビジネス、ハフィントンポストなどに寄稿。著書に『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)がある。twitter→@amamiya9901

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